平成27年度岩手県水産試験研究成果等報告会

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1 開催日時及び場所

平成28年3月7日(月曜日)13:00~16:30
水産技術センター大会議室(釜石市平田3-75-3)

2 主催

岩手県水産技術センター、岩手県内水面水産技術センター

3 プログラム

平成27年度岩手県水産試験研究成果等報告会発表課題(各課題要旨)
成果発表
(1) ワカメ養殖作業効率化へ向けた研究
(2) 湯通し塩蔵ワカメ・コンブの品質安定化への取組について
(3) 栄養塩モニタリング結果に基づくワカメ本養成開始適期の予測
(4) 養殖漁場に影響を与える海況変動とその予測可能性
(5) サクラマスの増殖について
(6) サケの回帰状況について
(7) アワビの資源動向について

4 御礼

漁業者、漁業協同組合、漁業協同組合連合会等の系統団体、市町村、研究・教育機関の方等、95名の方に御参加いただきました。ありがとうございました。本報告会では、たくさんの貴重なご意見、ご要望をいただきました。今後も皆様のご協力をいただきながら、水産研究に反映できるよう努めて参ります。

平成27年度岩手県水産試験研究成果等報告会要旨

発表(1) ワカメ養殖作業効率化へ向けた研究

久慈康支・平嶋正則・田中一志(企画指導部)
【目的】
本県のワカメ養殖業者は、零細な個人経営体が大半を占めることに加え、高齢化や後継者不足が深刻な問題となっており、経営体数が年々減少傾向にある中で、手作業を中心としたワカメ養殖の生産システムは震災前と変わっていない。将来にわたって養殖生産を確保していくために、生産工程の効率化・省力化及び安全性・快適性が向上するシステムを開発し、経営体の養殖規模拡大や漁業就業者の安定確保を進めることが不可欠である。
このため、農林水産技術会議の先端技術展開事業を活用して、養殖作業の効率化につながる自動間引き装置や定置船搭載型刈取り装置などの開発に取り組んだ。
【方法】
間引き装置については釜石湾内のワカメ養殖漁場の養殖桁を使い、①装置間引き区、②手作業間引き区、③対照区(間引きしない区)を設定して、それぞれの作業時間を測定した。また、各試験区の養殖桁1m分のワカメを持ち帰り、その本数を計数し、大きさ等を測定した。
定置船搭載型刈取り装置については新おおつち漁協の定置船(14t)を用い、船越湾のワカメ養殖漁場の養殖桁を使い、作業員8人での刈取りにかかる作業時間を測定した。
【成果の概要】
1) 自動間引き装置
作業時間(養殖桁100m分を1人で刈取る場合に換算した時間)を比較すると、27年春に手作業間引きが131~200分かかったのに対し、自動間引き装置を利用すると41~104分かかり、この装置を使うことで作業時間が31~52%に削減された。また、28年春には手作業間引きの130~564分に対し、自動間引き装置では78~108分と、作業時間が19~60%に削減された。

収穫時のワカメ1本当たりの葉重を比較すると、装置間引き区のものは手作業間引き区に比べて小さいものの、対照区よりも大きい結果となった。装置間引き区では手作業間引き区に比べて小さいものが混じるが、対照区に比べて大きく育っていることから、間引き効果が認められた。
これらの結果から、丁寧な間引きはできないものの、厳冬期に短い時間で間引き作業を実施することが可能と考えられる。


2) 定置船搭載型刈取り装置
200mシングルの養殖桁を作業員8人で刈取るのに要した時間は3.7時間であった。単位時間当たりの刈取り量は123kg/人・時で船外機船0.6t)93kg/人・時に比べて25%程度多かった。また、この装置を使うと桁掃除と桁回収も同時に行える点でも作業の効率化が図ることができる。

【今後の対応】
自動間引き装置については、ダブルの養殖桁やコンブ併用施設では利用が困難なことや、丁寧な間引きはできないことから、装置に対応した施設の設計や整備を検討しながら、規模拡大を目指す漁業者に向けて普及を図る。また、先端展開事業で制作した装置を貸し出して、作業効率を実感してもらい普及を図る。
定置船搭載型刈取り装置については、大規模経営体の育成に合せて定置船等の大型船を使用できる事業者に向けて普及を図る。

発表(2) 湯通し塩蔵ワカメ・コンブの品質安定化への取組について

小野寺宗仲(利用加工部)

【目的】
当所では石村工業(釜石市)と共同開発した高速攪拌塩漬装置しおまる(県内導入数約300台、自家加工者の普及率約60%)の巡回指導を実施している。平成27年春に網目の細かい袋に湯通しワカメ25kgを詰めて塩漬すると、塩水の通りが悪いため攪拌力が足りず、塩分不足になる事例が見られた。また、塩漬中に飽和塩水濃度が低下している事例も見られた。そこで、最適な攪拌設定と飽和濃度を維持する手法を検証して品質の安定化を図る。
【方法】
1) 最適な攪拌設定と塩漬時間の把握
網目の細かい袋に湯通しワカメを25kg詰めて塩漬する場合の最適な攪拌設定と塩漬時間の確認試験を行った。
2) 最適な攪拌設定による湯通しワカメの連続塩漬試験
飽和食塩水を用いて湯通しワカメ500kg(網目の細かい袋を使用、25kg詰め×20袋)と食塩5袋(125kg)の追加塩を投入する塩漬(攪拌設定30.5Hz、1時間)を10~12回連続で行い、水分活性等の品質を確認した。
3) 飽和濃度を維持する浮き玉塩袋投入法の検証
粗い網目の袋で塩漬する複数の生産者から、海藻に食塩の付着が多くなり塩落としが困難であるとの相談を受けた。そこで、網目の細かい袋に食塩0.5袋(12.5kg)と浮き玉を詰め、ワカメやコンブの攪拌塩漬時に投入する手法の効果を検証した。
4) 平成27年産の湯通し塩蔵ワカメの品質調査
岩手漁連等が収集した湯通し塩蔵ワカメ(攪拌塩漬法:芯抜28、芯付18、芯1)の品質調査(水分、塩分、水分活性)を行い、葉の水分活性が0.78を超えた塩分不足の製品の割合を算出した。
【成果の概要】
1) 最適な攪拌設定と塩漬時間の把握
従来の攪拌設定(28~29Hz、28Hzで1分間に35回転)では、茎の太い部分で水分活性は0.77~0.79で、塩分不足気味であった。
一方、30~31Hz(31Hzで1分間に39回転)では、茎の水分活性も0.75以下で、塩分は十分浸透していた。
2) 最適な攪拌設定による湯通しワカメの連続塩漬試験
最適な攪拌設定(30~31Hz)で連続的に塩漬すると、葉と茎の水分活性は0.75~0.77(出荷レベル)を示し、塩分は十分であった(図2)。そこで、平成27年春より生産者に対して攪拌設定を上げるように指導した。


3) 飽和濃度を維持する浮き玉塩袋投入法の検証(図3)
本手法により、塩分を布越しに供給することから塩払い作業を省略できるほか、特別な道具を使わないでも袋内の食塩の有無を見て食塩の不足を確認して予防できるようになった。平成27年度は5名の漁業者に実施してもらい好評であったので、今後この方法を普及していきたいと考えている。
4) 平成27年産の湯通し塩蔵ワカメの品質調査
水分活性が0.78を超えた製品は4検体(8.7%)認められたが、塩分不足の製品の割合は10%未満となり、改善指導の効果は顕著であった(図4)。

【今後の課題】
従来塩漬法および攪拌塩漬法でも塩分不足の製品が見られるので、個々の生産者レベルでの品質確認と改善指導が必要である。
岩手県漁連、各漁協及び県が連携・協力しながら加工技術の底上げを図っており、高品質な湯通し塩蔵ワカメ・コンブの持続的な生産を目指している。

発表(3) 栄養塩モニタリング結果に基づくワカメ本養成開始適期の予測

内記公明・渡邊志穂・加賀新之助・加賀克昌・山口仁(漁場保全部)・児玉琢哉(漁業資源部)・筧茂穂(水産総合研究センター東北区水産研究所)・和川拓(水産総合研究センター日本海区水産研究所)

【目的】
本県のワカメ養殖業者は、各漁協が測定する栄養塩測定結果を参考としながら、経験則的に水温を目安としてワカメの本養成開始時期を決めてきた。しかし、秋季の栄養塩の増加は不安定であるため“芽落ち“の問題が起こる場合があった。このため、沖合栄養塩モニタリング結果を基にワカメ漁場における本養成開始期の栄養塩供給予測に取り組んだ。
【方法】
1) 船越湾吉里吉里地先のワカメ漁場調査
船越湾吉里吉里地先のワカメ漁場に設定した調査定点において、1975年から2015年まで本養成開始期前から9月に5~0回、10月に7~0回、11月に9~2回の頻度で、水深0・10・20・30mの海水を採水し水温と栄養塩を測定した(本報告では、栄養塩を硝酸態窒素NO3-Nと亜硝酸態窒素NO2-Nの合計値とする)。今回は、本養成開始期にあたる10月と11月の水深0mのデータを用いて、栄養塩と水温の関係を整理した。網目の細かい袋に湯通しワカメを25kg詰めて塩漬する場合の最適な攪拌設定と塩漬時間の確認試験を行った。
2) 沖合栄養塩のモニタリング
岩手丸が行う沿岸定線海洋観測において、2012年から2015年まで月1回の頻度で、黒埼・トドヶ埼・尾埼・椿島の4定線、沖出し0・10・30・50マイル地点、水深0・10・30・40・50・75・100mの各層から海水を採水し、栄養塩を測定した。得られた結果は、シミュレーションモデルによる栄養塩供給予測に用いた。
【成果の概要】
1) 船越湾吉里吉里地先のワカメ漁場調査結果
漁業者は経験則的に水温16~17℃を目安に本養成を開始しているが、水温17℃以下でもワカメの芽落ちの警戒値である栄養塩10μg/l以下の場合が見られ、水温だけに頼ることは危険を伴うことが明らかになった(図2)。


2) 沖合栄養塩のモニタリング結果
2015年のモニタリングにおいて、本養成開始期前の9月下旬から11月上旬にかけて、水深0mの栄養塩は増加した(図3)。これは、海水が海面から冷却されることにより混合層が深くなり、表層に栄養塩が供給されたことを示している(図4)。

3) 栄養塩供給予測
混合層が深くなることをシミュレーションモデルで予測することにより、沖出し10マイル地点において、観測日から50日先までの栄養塩供給予測(1日ごとの、混合層内の栄養塩が20μg/lを超える確率の算出)が可能となった。今年度の予測結果(図5)が船越湾吉里吉里地先のワカメ漁場で栄養塩が上昇するタイミングと概ね一致していたことから、来年度以降にワカメ養殖情報として情報提供することを検討している。
【今後の対応】
本養成開始適期の判断に用いる栄養塩供給予測の精度向上を図るため、ワカメ漁場に近接する「沖出し0マイル地点」における栄養塩供給予測に取り組んでいる。
さらに、ワカメ原藻の品質に影響を与える、刈取り時期の栄養塩枯渇の予測にも取り組んでいく予定である。
本研究は農林水産省「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」による成果です。

発表(4) 養殖漁場に影響を与える海況変動とその予測可能性

児玉琢哉・川島拓也・横澤祐司(岩手県水産技術センター)、和川拓(日本海区水産研究所)、黒田寛(北海道区水産研究所)、筧茂穂(東北区水産研究所)、伊藤進一(東京大学大気海洋研究所)

【背景と目的】
沿岸養殖の適切な生産管理のためには水温情報が重要である。養殖業者は漁場近辺の水温情報を参考にして一連の作業工程を調整している。しかし、急激な水温環境の変化(例えば、春先の異常冷水現象)により養殖ワカメの品質低下等に影響する場合があり、これまで水温予測技術の開発が求められてきた。
これらの課題に対して、平成24年度から農林水産省「食料生産地域再生のための先端技術展開事業(先端プロ事業)」において他の研究機関と共同で水温予測技術の開発に取り組んできたので、その成果の概要を紹介する。
【成果の概要】
1) 周期的な水温変動の予測
岩手丸による長期間の定線海洋観測資料を用いて統計的手法により5~50海里定点の100m深および0海里定点の10m深における1か月後の水温予測技術を開発した。この結果は毎月の定線海洋観測後に広報している。同様に、いわて大漁ナビの定地水温計資料を用いて湾内における1旬後の水温予測技術の開発も行っている。
これらの予測手法は周期的な水温変動は精度よく再現するものの、突発的な水温変動を予測することは不可能であり、予測誤差が大きくなる事例も見られた。特に、秋季の津軽暖流と冬季~春季の親潮および沿岸親潮は養殖生産に影響を与えることがあるため、以下のとおり突発的な水温変動を予測する手法について開発した。
2) 突発的な水温変動の予測
・津軽暖流の予測
8月前半の津軽海峡の沿岸水位差(深浦-函館)と9月後半の山田湾水温の経年変動が妥当な移流時間差で関連する(r=0.75)ことを明らかにし(図1a)、1.5カ月前の津軽海峡の沿岸水位差より秋季における沿岸水温予測の可能性を示した。これは養殖ホタテの高温被害軽減や養殖ワカメの芽出し時期調整等の応用が期待できる。この関係を用いて、平成27年8月前半の津軽海峡の沿岸水位差から予測された9月後半の山田湾水温は21.0℃であり、実測値の20.6℃との予測誤差は+0.4℃となり精度良く予測することができた。
・親潮の予測
1月前半の道東沖親潮流速と2月前半の山田湾水温の経年変動が妥当な移流時間差で関連する(r=-0.74)ことを明らかにし(図1b)、1カ月前の沖合域の流れにより冬季における沿岸水温予測の可能性を示した。これは、ワカメ養殖の刈り取り時期の調整等への活用が期待できる。この関係を用いて、平成28年1月前半の親潮流速から予測された2月前半の山田湾水温は8.0℃であり、実測値の8.1℃との予測誤差は-0.1℃と精度良く予測することができた。
・異常冷水現象の予測
異常冷水現象の発生には、沿岸親潮水の到来が関係していることを明らかにした。また、沿岸親潮水の起源はオホーツク海を南下する東樺太海流であり、オホーツク海の循環(海上風)が強化されると太平洋に大量流出し、約1カ月後に本県海域に接近(接岸)する傾向があることが分かった。
この関係を利用して、オホーツク海の海上風から北緯46度を南下する東樺太海流の流量を推定する手法を開発した。今年度から「異常冷水起源水の監視システム」により運用開始して経過をモニタリングしている。なお、平成28年のオホーツク海の循環は平年並みに推移しているころから(2月下旬)、3月下旬頃までは異常冷水現象が発生する可能性は低いと考えられた。
【今後の展開】
先端プロ事業により得られた成果を積極的に情報発信して、沿岸養殖の適切な生産管理の実現を目指していく。また、平成24年度から定線海洋観測時に栄養塩分析を行っている。これを利用して、現在ワカメ養殖の芽出し時期における栄養塩供給予測の高精度化に取り組んでいる。さらに、刈取り時期における栄養塩枯渇時期の予測にも取り組む予定である。


【研究成果】
(受賞)
和川拓:岩手県沖合域の水塊変動と沿岸域の表面水温の予測可能性,平成27年度岩手県三陸海域研究論文知事賞(平成27年12月17日)
(論文)
Wagawa,T.,Kuroda,H.,Ito,S.,Kakehi,S.,Yamanome,T.,Tanaka,K.,Endoh,Y.,Kaga,S.,2015.VariabilityinwaterpropertiesandpredictabilityofseasurfacetemperaturealongSanrikucoast,Japan,ContinentalShelfResearch103,12-22.(平成27年7月15日)

発表(5) サクラマスの増殖について

大野宣和・小林俊将・煙山彰(内水面水産技術センター)

【目的】
岩手県では、本県固有のサクラマスの資源造成を行うことにより、その資源を定置網等の沿岸漁業で利用するだけでなく、河川においても内水面漁業の振興を図るために利用することを目指しています。サクラマス資源は大きく年変動することから、資源造成を行うためには、河川内でどの程度自然再生産しているかを把握して効果的に稚魚放流を行う必要が有り、その第一歩として、今年度から安家川と豊沢川で産卵床の調査を始めました。
【方法】
現地からの事前の聞き取り調査により、調査時期を9月下旬から10月中旬とし、調査区域は、安家川では河口から約40km上流まで、豊沢川では高村橋上流の堰堤から下流の新淵橋まで約2.5kmとしました。
調査は、調査区域を移動しながら、産卵床を目視で確認し、位置をGPSロガーに記録し、一部の産卵床では床のサイズ、水深、流速等の測定、デジカメで河床を撮影して画像より石のサイズを測定しました。
調査中に確認できたサクラマス親魚については、尾数の把握と死魚については可能な範囲で体長測定を行いました。
【成果の概要】
(1) 安家川
安家川は、そ上限界となっている治山ダム下流の上坂本地区から下流の野田村との境界まで、広い範囲に産卵床が確認されました。2回の調査で確認できた産卵床は98箇所、確認できた親魚は31尾でした。また、予備的に調査した支流でも産卵床が確認できました。安家川は上流から下流まで淵と瀬が連続した構造をしており、確認された産卵床は、淵尻で河床の石の長径が1~5cmのサイズの場所に多いことが分りました。
これらの予測手法は周期的な水温変動は精度よく再現するものの、突発的な水温変動を予測することは不可能であり、予測誤差が大きくなる事例も見られた。特に、秋季の津軽暖流と冬季~春季の親潮および沿岸親潮は養殖生産に影響を与えることがあるため、以下のとおり突発的な水温変動を予測する手法について開発した。
(2) 豊沢川
豊沢川は、高村橋付近2箇所で産卵床を確認しました。
今回調査した区域は、安家川の産卵床が確認されたような河床条件等を有する区域が限れており、産卵床の数が少なく、親魚も確認できませんでした。
【今後の課題】
(1) 継続した産卵床のモニタリングを行い、自然再生産による資源動態を把握します。
(2) 耳石温度標識を施した稚魚を放流することにより、河川内での稚魚の移動や成長を把握するとともに、親魚の回帰率を把握します。
(3) 自然再生産の実態を把握することにより、稚魚放流による効率的な資源造成方法の開発を行います。

【謝辞】
安家川漁業協同組合、下安家漁業協同組合及び豊沢川漁業協同組合の関係者の方には、有益な情報提供を頂いたうえに、調査にも特段のご配慮を頂きありがとうございました。
国立研究開発法人水産総合研究センター東北区水産研究所沿岸漁業資源研究センターさけます資源グループの方々には安家川で現地指導いただき、ありがとうございました。

発表(6) サケの回帰状況について

山根広大・小川元(漁業資源部)

【目的】
岩手県において、秋サケは最も重要な漁獲対象種である。平成27年度は、震災年級である平成22年級が5歳魚として、震災の翌年に放流された平成23年級が主群の4歳魚として回帰することから、昨年度に引き続き震災の影響が懸念されていた。そこで本研究では、平成27年度の漁獲実績について地域別漁獲量や海況の観点から検討するとともに、県内3河川にそ上した親魚の調査から、県全体の年齢別回帰尾数を推定した。
【方法】
平成27年度の秋サケ漁獲実績は秋サケ漁獲速報(岩手県農林水産部水産振興課発行平成27年12月31日現在)を用いた。河川での調査は、津軽石川、織笠川および片岸川で9月~1月にかけて旬1回ずつ実施し、雌雄各100尾をサンプルとして用いた。体長・体重を測定後、鱗を用いてサンプルの年齢を調べた。3河川での年齢査定の結果を引き延ばし、県全体の年齢別回帰尾数を推定した。
【成果の概要】
平成27年度の漁獲実績は約305万尾であり、平成26年度実績の約6割に留まった。河川では約30万尾であり、平成26年度実績の約8割であった。
旬別にみると、河川・沿岸の回帰尾数は、10月中旬までは平成26年度実績と同程度であったが、10月下旬以降大幅に下回った(図1)。なお、9月以降いずれの旬でも予測値を下回った。河川においても、10月下旬までは平成26年度と同程度であったが11月上旬以降下回った(図2)。
沿岸漁獲量における地域別の割合を調べると、県北地域の割合が43%と最も高く、県中央地域が36%、県南地域が21%であった(図3)。近年10年間で比較すると、県北地域は最も割合が高く、県南地域は最も低かった。
この要因の一つとして、三陸沿岸に暖水塊が存在し親潮が南下できないため県南での漁獲が不振だった可能性が考えられた。
県内3河川にそ上した親魚の年齢査定の結果、平成27年度は平成26年度よりも4歳魚が約67万尾の増加、5歳魚が約280万尾の減少と推定された。


【今後の対応】
平成28年も回帰親魚調査を継続し、震災前と比較して放流数が少なかった5年魚(平成23年級)や4歳魚(平成24年級)の回帰状況を把握する。
今後、回帰尾数の予測にあたり、平成27年度の県内河川における年齢査定結果をとりまとめるとともに、近年の不漁期のデータを重視することについても検討していく。

発表(7) アワビの資源動向について

大村敏昭・西洞孝広・武蔵達也(増養殖部)

【目的】
岩手県では磯根漁業が盛んであり、アワビ類の水揚量は1997年以降全国第1位を維持している(農林水産統計)。しかし、2011年3月11日の震災で地域により稚貝が減耗したことに加えて、種苗生産施設の被災により種苗放流が2011~14年にかけて中断・縮小したことから、今後のアワビの資源動向に不安を抱く漁業者も多い。
そのため、従来の潜水による資源量調査から地区別に現在の資源状態を明らかにし、さらに漁獲データを用いた資源解析により、今後の資源動向の予測を試みた。
【方法】
1) 潜水による資源量調査
県内3カ所を定点とし、毎年10月に県北部(水深約2~5m、13点)及び県中部(水深3~12m、33点)、毎年9月に県南部(水深5~10m、18点)で枠採り調査を行っている。いずれの調査も、増殖用ブロックについては1基の表面、天然岩礁については2m×2m枠内のアワビを採集し、個体ごとに殻長と体重を計測した。
2) 資源解析及び予測
資源解析と資源動向予測は県南部A地区と県北部B地区で行った。漁獲物の殻長データがある県南部A地区では、1998~2014年の殻長階級別年齢組成から各年の年齢別漁獲個体数を推定した。これを用いて、成長や生残が年により異ならない仮定のもとで、VPAにより各年の年齢別資源量を推定した。親貝と翌年の1歳資源量の関係から再生産曲線を推定し、放流数が2015年以降震災前の水準に戻るという仮定で、2024年までの資源動向を予測した。一方、漁獲物の殻長データが無い県北部B地区では、1999~2014年の漁獲日ごとの漁獲量と操業データからCPUEを計算した。漁期中は開口を重ねるごとにCPUEが減少する傾向があることから、DeLury法により各年の漁期前資源量を推定した。自然死亡は一定と仮定して年別の漁獲加入量を推定し、漁期前資源量(親貝の量)と数年後の漁獲加入量の関係から2019年までの資源動向を推定した。
【結果の概要】
1) 潜水による資源量調査
県北部では、震災後にアワビの減少はほとんどみられず、その後も現在まで資源は増加傾向となっていた。県中部では、震災年に天然稚貝の減少がみられ、その後2014年にかけて殻長70mmを超える中・大型貝が減少傾向を示した。県南部では、震災年に特に殻長50mm以下の放流貝が激減し、現在、殻長70mmを超える中・大型貝が低密度となっていた(図1)。以上から、震災の影響は県中部以南でみられ、現在、特に県南部では放流休止の影響により放流貝の漁獲対象資源(殻長90mm超)が減少していると考えられた。
2) 資源解析及び予測
県南部A地区では、天然貝の漁獲対象資源は、現在の漁獲圧を維持した場合は増加と減少の確率がほぼ半々であり、漁獲圧を増やすと資源減少、減らすと資源増加の確率が高くなる予測となった(図2)。
一方、放流貝の漁獲対象資源は震災による放流休止の影響で漁獲圧にかかわらず2018年頃まで低水準になる予測となった。天然貝と放流貝を合計した漁獲対象資源は今後数年にわたり低水準になる確率が高く、漁獲量もこれに伴い減少傾向となるものの、震災後に放流した個体が本格的に漁獲加入する2019年頃から上昇に転じると予測された。
県北部B地区は、近年開口回数では無く漁獲量の上限による管理を行っている。そこで、現状の漁獲量、現状より1トン増、現状より1トン減の場合を継続した場合の資源動向を予測した(図3)。今後の天然貝の漁獲対象資源は、漁獲を増やしても横ばい、現状以下の漁獲量を続けた場合は増加する確率が高い予測となった。一方、放流貝の漁獲対象資源は震災による放流休止の影響で2019年まで低水準と予測された。天然貝と放流貝を合わせた漁獲対象資源は、現状の漁獲量を維持すればほぼ横ばいとなる確率が高い予測となった。現状の漁獲量を維持するための開口回数は、現在よりも若干多くなると予測された。
【今後の課題】
・予測の幅が広いため、毎年データを更新しながら精度向上を図る必要がある
・資源動向予測に基づく漁協の漁業管理の実効性を検証していく必要がある


【謝辞】
本研究をご指導いただいた水産総合研究センター中央水産研究所経営経済研究センター所長堀井豊充博士、同東北区水産研究所沿岸漁業資源研究センター養殖生産グループ主任研究員高見秀輝博士、潜水調査にご協力いただいた同浅海生態系グループ長村岡大祐博士、同研究員八谷光介博士、白藤徳夫博士、松本有記雄博士に謝意を申し上げます。本研究の一部は農林水産技術会議食料生産地域再生のための先端技術展開事業「アワビの緊急増殖技術開発研究」により実施されました。