平成28年度岩手県水産試験研究成果等報告会

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1 開催日時及び場所

平成29年3月3日(金曜日)13:00~16:30
水産技術センター大会議室(釜石市平田3-75-3)

2 主催

岩手県水産技術センター、岩手県内水面水産技術センター

3 プログラム

平成28年度岩手県水産試験研究成果等報告会発表課題(各課題要旨)
成果発表
(1) サクラマス放流調査について
(2) 平成28年度におけるサケの回帰動向について
(3) 秋・冬季の岩手県におけるスルメイカ漁獲変動要因
(4) 通電加熱技術を活用したイクラ・ウニ等地域水産物の高付加価値型食品開発
(5) フリー種苗によるワカメ養殖技術の開発
(6) ワカメ陸上刈取り実証試験
(7) 震災以降の養殖漁場の環境変化

4 御礼

漁業者、漁業協同組合、漁業協同組合連合会等の系統団体、市町村、研究・教育機関の方等、103名の方に御参加いただきました。ありがとうございました。本報告会では、参加者から貴重なご意見、ご要望をいただきました。今後の研究成果に反映できるよう努めて参ります。

平成27年度岩手県水産試験研究成果等報告会要旨

発表(1) サクラマス放流調査について

大野 宣和・小林 俊将・高橋 禎・五十嵐 和昭(内水面水産技術センター)
【はじめに】
岩手県では、本県固有のサクラマスの資源造成を行うことにより、その資源を定置網等の沿岸漁業で利用するだけでなく、河川においても内水面漁業の振興を図るために利用することを目指している。当センターでは、平成27年度から安家川と豊沢川をモデル河川として、種苗放流試験と産卵床調査を開始し、問題点を踏まえて今年度は、支流への種苗放流が可能か、飼育池で1世代又は2世代継代した種苗が、放流用稚魚として支障が無いか確認することとした。
また、8月30日に上陸した台風10号により、安家川の流域も甚大な被害が生じたことからその影響についても調査した。
【方法】
1)標識放流
当センター及び下安家漁協で耳石温度標識を施標した稚魚を用いて、本流と支流に放流した。

河川 放流月日 池産系 そ上系
安家川 7月12日 6,000尾 90,000尾 96,000尾
豊沢川 7月6日、7日 40,000尾 70,000尾 110,000尾

2)採捕調査
(1)安家川
本流に2箇所、支流3箇所を定点として、放流前、放流後に採捕調査を行った。採取方法は、電気ショッカー、タモ網、投網等を用い、魚種別に採捕尾数を確認し、ヤマメは尾叉長を測定し、一部を持ち帰り、耳石を取り出し標識を確認した。
(2)豊沢川
本流1箇所、支流3箇所を定点として、安家川と同様に調査した。
【成果の概要】
1)安家川
(1)支流にはヤマメが生息していることを確認したので、標識魚を放流しても問題ないと判断した。
(2)放流後の調査では、標識魚の動向により支流から本流への移動、年々大滝の上流から下流への移動が確認できた。
(3)台風10号による影響について、調査したところヤマメ、イワナが採捕され、標識放流魚も確認することができた。
2)豊沢川
(1)支流にはヤマメが生息していることを確認したので、標識魚を放流しても問題ないと判断した。
(2)放流後の調査により池産系の標識魚も採捕でき、成長していることも確認できた。
表1 安家川の採捕結果1

場所 魚種 7月4日
本流元村地区 ヤマメ 49
イワナ 18

表2 安家川の採捕結果2

場所 魚種 7月5日 7月20日 12月13日
年々大滝下流 ヤマメ 16 11 17
イワナ 10 13 5
年々大滝上流 ヤマメ 16 35 12
イワナ 4 1 2

表3 安家川の採捕結果3

場所 魚種 7月12日 7月20日 2月1日
本流下安家地区 ヤマメ 8 28 6
イワナ 1 1  
アユ 3    
ウグイ 3    
カジカ 94 30  
ハゼ類 26 35  
下安家漁協支流 ヤマメ 12 77  
アユ 26 5  
カジカ 21 7  
ハゼ類 45 22  

表4 豊沢川の採捕結果

  事前調査 放流後 標識魚 放流後 標識魚
  6月30日 7月13日 2n-3H 2n-4H 12月15日 2n-3H 2n-4H
寒沢川下 89尾 64尾   5/30 17尾   4/17
寒沢川上 28尾 84尾   19/30      
瀬の沢川下 49尾       15尾    
本流上根子橋下 55尾 71尾 27/30        

発表(2) 平成28年度におけるサケの回帰動向について

山根 広大(漁業資源部)

【目的】
岩手県において秋サケは最も重要な漁獲対象種であるが、平成28年度の来遊尾数は12月31日現在で289万尾であり、平成27年度同期の約95%、震災前5ヵ年平均(836万尾)の約35%に留まっている。漁業資源部では、サケの資源変動要因の解析や来遊予測に資するため、津軽石川、織笠川及び片岸川の3河川を特定調査河川として、回帰親魚のモニタリングを継続実施している。本報告では、平成28年度における来遊や海況の状況をとりまとめるとともに、県内3河川にそ上した親魚の調査から、尾叉長・体重・肥満度の経年変化や県全体の年齢別の回帰尾数についてとりまとめた。
【方法】
平成28年度の秋サケ漁獲実績は秋サケ漁獲速報(岩手県農林水産部水産振興課発行 平成28年12月31日現在)を用いた。河川での調査は、津軽石川、織笠川および片岸川で9月~1月にかけて旬1回ずつ実施し、雌雄各100尾をサンプルとして用いた。体長・体重を測定後、鱗を用いてサンプルの年齢を調べた。3河川での年齢査定の結果を引き延ばし、県全体の年齢別回帰尾数を推定した。


【成果の概要】
平成28年度における12月下旬現在の漁獲実績は約289万尾であった。これは、平成27年度実績の約95%であり、23・24・27年度と同様の低水準であった。
旬別にみると、全体としては平成27年度実績と類似した傾向を示した。11月上旬までは平成27年度実績を下回ることが多く、11月中旬に上回ったものの、11月下旬と12月上旬に下回り、12月中旬と12月下旬に上回った(図1)。
沿岸漁獲量における地域別の割合を調べると、県北地域(普代村以北)の割合が42%と最も高く、県中央地域が41%、県南地域(大槌町以南)が17%であった(図2)。近年10年間で比較すると、県北地域は平成27年度実績に次いで割合が高く、県南地域は最も低い傾向を示した。この要因の一つとして、漁期を通して親潮第1分枝の勢力が非常に弱く、親潮が南下できないため県南での漁獲が不振だった可能性が考えられた。
調査を行った3河川にそ上した親魚の尾叉長、体重及び肥満度を調べたところ、いずれの河川においても、尾叉長と体重は過去5ヵ年平均の範囲内にあったものの、肥満度が最も低い値を示した。平成8年度以降のデータを用いて、尾叉長と体重の関係を調べたところ、平成28年度は尾叉長に対して体重が非常に軽く、魚体が痩せていたことがわかった。
調査河川にそ上した親魚の年齢査定の結果、平成28年度は、3歳魚が7%、4歳魚が64%、5歳魚が28%であった。平成27年度の実績と比較すると、4歳魚は同程度、若干5歳魚が多い傾向がみられたが、過去5ヵ年の範囲内であった。なお、北海道においては、4歳魚よりも5歳魚の方が多いという結果が報告されており、岩手県とは異なる傾向がみられた。

【今後の対応】
平成29年度においても、岩手県沿岸でのサケ幼稚魚分布調査、片岸川、織笠川及び津軽石川における親魚の生物測定、繁殖形質及び年齢査定のモニタリング調査を実施し、秋サケの資源状態を把握する。県内河川の年齢査定結果に基づいて、秋サケ回帰予報を作成・公表し、増殖事業者における計画的な採卵に貢献する。

発表(3) 秋・冬季の岩手県におけるスルメイカ漁獲変動要因

髙梨 愛梨(漁業資源部)

【目的】
スルメイカは, 岩手県において主に定置網, 小型いか釣及び沖合底曳網漁業により漁獲される重要な水産資源である。本県のスルメイカ漁獲量は, 1990年代以降平均約14千トンと比較的高水準かつ安定して推移してきたが(図1), 2010年以降, 主にいか釣における漁獲量減少や, 主漁期の晩秋化等, 漁獲動向に変化が見られている。近年の主漁期は秋以降であるが, 当該時期の本県海域は日本海由来の群(秋生まれ群)と道東沖合域からの南下群(冬生まれ群)が混在することに加え, 海洋環境の変動も大きいことから漁獲量の年変動が著しい。そこで本研究では, 秋~冬季の漁獲パターンの変動要因を明らかにすることを目的として, 漁獲動向を整理し, 資源量水準, 海洋環境が漁獲変動に与える影響について検討した。。
【方法】
1990~2016年9~12月の岩手県内主要港におけるいか釣及び沖合底曳網の月別漁業種類別1隻(ヶ統)1日あたり平均漁獲量(以下, CPUE)を変数として階層的クラスター分析を行い, 漁獲パターンの似たものをグループ化した。この区分に基づいて, 漁獲量, スルメイカ秋, 冬生まれ群の資源量水準の比較を行い, 漁獲パターン決定に寄与する要因について検討した。また, 三陸海域におけるスルメイカ南下群は親潮の先端部に集中する傾向があることから, 岩手丸定線海洋観測による水温データを用いて本県沿岸域における親潮南限緯度を求め, 漁獲パターンとの比較を行った。さらに, 2013年以降は平衡石を用いた日齢査定を行い, 漁獲物の生まれ月組成を把握した。
【成果の概要】
クラスター分析の結果, 3つのグループが検出された(図2)。これらのグループ間において合計漁獲量に有意差が認められたことから, 漁獲量の多いグループを豊漁年, 漁獲量の少ないグループを不漁年, 直近年を含むグループを直近年と定義した。
各グループにおける9~12月の月別平均CPUEの推移をみると, 豊漁年で期間前半(9, 10月)に高く, 直近年で期間後半(11, 12月)に高い傾向を示し, 不漁年では明瞭なピークがみられなかった。また, 資源量水準を比較した結果, 秋生まれ群の資源尾数及び冬生まれ群の加入量指数が不漁年で低い傾向を示した。さらに, 豊漁年では親潮南限緯度がトドヶ崎よりも南に達する年が多く, 不漁年では少ない傾向を示した。
以上の結果から, 当該時期の漁獲量の多寡, 漁獲パターンの変動要因として, 資源量水準, 親潮の挙動が影響を及ぼしているものと推察された。
2002年等に代表される豊漁年においては, 期間前半のCPUEが高く, 当該期間中に漁獲対象となる秋生まれ群の資源量水準が高かったことから, 日本海由来の来遊資源が多かったものと推察される。また, 当グループでは10月以降の親潮勢力が強い傾向が認められたことから, 道東沖合域からの南下群の来遊条件も良好であったと推察され, これらのことが漁期前傾, 漁獲量の増加に寄与したものと考えられる。
一方, 1998, 2003年等に代表される不漁年においては, 秋, 冬生まれ群とも資源量水準が低かったことから, 資源量の減少が漁獲量減少の主因であった可能性が高いと考えられる。
2010~2015年を含む直近年においては, 漁獲物の生まれ月組成及び月別CPUEの推移から, 来遊資源の大部分を道東沖合域からの南下群に依存していると考えられ, 漁獲量の多寡は親潮の挙動により強く依存していると推察される。しかし, 近年秋季以降の親潮勢力が弱化傾向にあることから, 本県沿岸域における漁場形成が不安定になり易くなっていると考えられ, このことが漁期の晩秋化, 漁場形成不調および漁獲量減少の一因となっていると推察される。
【今後の課題】
本県の漁獲主体であるスルメイカ冬季発生系群の資源量は現在低位減少傾向にあり, 今後の動向が懸念される。スルメイカの資源動向及び漁獲状況を把握するため, 平成29年度以降もモニタリング調査を継続する。

発表(4) 通電加熱技術を活用したイクラ・ウニ等地域水産物の高付加価値型食品開発

上田 智広(利用加工部)

【はじめに】
研究成果を実用化可能な産業技術に作り上げ被災地に導入し、経営的視点から効果の把握を行う「食料基地再生のための先端技術展開事業」により、当所では県内加工企業と連携し通電加熱技術を活用した商品づくりに取り組んでいる。
通電加熱技術とは、食材に電気を通すと電気抵抗により食材自身が自己発熱することを利用した加熱法である。外部加熱に比べ、短時間で目的温度まで昇温でき、均一な温度分布が得られることが特徴である。1980年代にカマボコ製造で本技術を用いた大量製造ラインが開発されたことが契機となり、農産物にも拡大し大手食品企業で産業化が進展した。しかし、水産加工では扱う食材は不定形で、成分分布が不均一である場合が多く、通電処理では電流が偏り加熱斑を生じやすい。また、不安定な少量多品種の前浜原料に依存する加工は計画生産が難しく、カマボコ以外にはあまり利用されていなかった。そこで、8年前に各地域の試験場が結集し、産業導入に向けて様々な地域加工品の製造技術開発を推進してきた。
その取組みのうち、イクラの安全性向上のため通電加熱による殺菌効果と、成熟卵の硬化を防ぐ前処理加熱技術、凍結ウニの解凍後の未崩れを防止する前処理加熱技術について報告する。
【方法】
イクラ及びウニはチタン板電極を対面配置した10cm角アクリル水槽中で食塩水とともに撹拌しながら、設定温度に達するまで通電加熱した。得られた試料は以下の評価試験を行った。
1)通電加熱によるイクラの殺菌効果
生イクラに対して腸炎ビブリオ、大腸菌、黄色ブドウ球菌の食中毒菌を一定量添加して、到達温度を変えて通電加熱し、その後残存する菌を培養し菌数を測定した。
2)通電加熱による前処理を行ったときのイクラ卵膜硬化防止
成熟度の異なるサケ(銀毛・ブナ毛)から採取した生卵を各条件で通電処理後、塩漬しイクラを調製した。熟度が異なる生卵、加熱直後の卵あるいは塩蔵後一定温度下に貯蔵し経時的に調製したイクラの硬さを調べるため、卵を潰した瞬間の最大応力を機器測定した。また卵膜を特殊溶液に一定時間溶かし、タンパク質同士が強い結合を生ずる沈殿物の量を調べ、結合量を評価した。卵膜中のタンパク質同士を結合させて、硬くなる作用をもつ酵素活性(TGase)は卵膜をすり潰した液を蛍光物質と反応させ卵膜に含まれる酵素により取り込まれた蛍光量を測定し評価した。
3)通電加熱による前処理を行ったときの冷凍ウニの身崩れ防止効果
生ウニを各条件で加熱処理し、液切りして凍結処理を行い、一定期間冷凍保管後に解凍した時の身崩れ状況を目視あるいは顕微鏡標本により観察し、ドリップ量を測定した。
【成果の概要】
1)通電加熱によるイクラの殺菌効果
通電加熱に伴い白濁する温度について検討したところ、塩漬前のイクラでは3%食塩水を媒体とした場合には、79℃で2分間以上保持しても白濁は認められず、塩漬後のイクラでは80℃での加熱変性の影響は少なかった。しかし、媒体である溶液の成分によって状況が異なり、リン酸を含む別の溶液で加熱した場合では、70℃付近から徐々に白濁し、75℃付近では一部の卵で透明感が失われるものも認められた。殺菌効果は腸炎ビブリオ菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌の順に温度感受性が高く、腸炎ビブリオは65~70℃加熱により、大腸菌は75~80℃加熱により、生食としての品質を保持した状態で、生菌数を1/10程度に低減できた。


2)通電加熱による前処理を行ったときのイクラ卵膜硬化防止
イクラは成熟度が進んだ原料卵ほど、採卵後温度と時間に応じて徐々に硬化して、口中で潰すとプチプチとした食感となる。一方、硬化前に概ね52℃以上で通電加熱処理すると、その後硬化は認められず、この卵から調味したイクラは、通電加熱しないイクラに比べ食感が柔らかった。各加熱温度によるイクラの硬さを示す破断強度の測定値は卵膜中のタンパク質の高分子化の度合と対応しており、卵膜内に存在する高分子化を促進する酵素(TGase)の活性値とも関連性が高かった。県内企業が本法による加工に興味を示し、水槽中で4本のプロペラが回転しイクラを加熱撹拌するボックス式加熱装置を開発導入した。来季のシステム完成に向けた改良がすすめられている。

3)通電加熱による前処理を行ったときの冷凍ウニの身崩れ防止効果
生ウニを50~70℃で加熱処理した後冷凍貯蔵すると、そのまま冷凍した未加熱のウニと比べて解凍時身崩れは生じなかったが、65℃以上では蒸しウニ様となり滑らかさは失われた。未加熱や50℃加熱では冷凍貯蔵中にえぐ味が認められるのに対し、55℃と60℃の加熱処理では異味異臭は感じられず、生ウニに近い風味と食感を有していた。この知見を技術展開するため、実証企業の計画生産量に合わせてボックス式通電加熱装置を製作した。この装置は加熱用水槽の食塩水中でウニを温度むらがなく撹拌するため、布袋を装着した上下稼働枠や撹拌治具が取付可能であり、1時間あたり生ウニを20~30kg処理できる。

【今後の展開】
ローラコンベア式加熱装置によるイカ潰し肉を原料とするシート状再成型食品(釜石)、パイプ式加熱装置を組み入れた製造システムによるメカブ(宮古)の製品開発も行っており、次年度以降も関連企業と改良を重ねながら商品のブラッシュアップを進めていくこととしている。

発表(5) フリー種苗によるワカメ養殖技術の開発

西洞 孝広(増養殖部)

【はじめに】
本県のワカメ養殖生産量は最も多かった1980年代には4万トン程度であったものが、その後減少が続き、東日本大震災後は2万トン程度にとどまっている。生産量減少の大きな要因は生産者の減少に伴う施設台数の減少によるものであるが、それと同時に、品質を重視するため、収穫時期を前倒しして3月から4月までに限定していることで、施設当たりの収穫量が低下していることも大きく影響していると考えられる。
高品質なワカメを生産するに当たり、現行の収穫時期を大幅に変更することは困難であることを踏まえて、施設当たりの収穫量を増やすためには、より早く大きなワカメを育てる養殖技術の開発が有効な解決策であり、本研究では従来からある無基質人工種苗生産技術を改良した新たな種苗生産技術により、より早く巻込みが可能な養殖技術を開発した。
【方法】
無基質培養した配偶体を成熟させたものをミキサーで粉砕し、3Lフラスコを用いて滅菌海水中で通気培養した。芽胞体が1~3mmになった段階から100Lパンライト水槽で、芽胞体が1cm程度になった段階で1,000Lアルテミアふ化槽に移してそれぞれ流水、通気培養を行った(写真1)。ワカメが3~5cm程度の幼葉になった段階(写真2)で直径3~5mm程度の撚糸、ソフトロープ等に挟み込み、越喜来湾内の養殖施設に巻き込んで養成し、生育状況を調査した。
【成果の概要】
10月に養殖施設への巻き込みを行い(写真3)、2カ月後の12月には平均葉長32cmまで生長し、目立った芽落ちは見られなかった。その後、3月の調査時には平均全長170cm、平均全重360gで十分に収穫可能なサイズに生長しており(写真4)、フリー種苗による直接巻き込み方式で養殖できることが確認できた(図1)。ただし、3月の調査では1m当たりの生育本数は約70本程度と少なく、そのため1m当たりの総重量は約14kgとそれほど多くなかったことから、今後も試験を繰り返して、巻込み時の適正な1株当たりのワカメの本数、施設1m当たりの株数等を明らかにし、より安定した技術の確立が必要である。


【今後の問題点】
フリー種苗による養殖は、海上施設において種苗を保苗する作業が不要であり、さらに巻込み時に密度調整を行うことで間引き作業が不要となることから、漁業者の負担軽減につながる技術である。平成28年度に実施中の漁業者による養殖試験において、本養成開始後の芽落ちが一部で見られていることから、養殖ロープに種苗を装着する際に用いる種苗糸の種類や装着方法についてさらに検討し、出来る限り芽落ちを少なくして、安定的に本養成できるよう技術の確立が必要である。また、沖出しサイズを更に大きくすることで生長を早められるかを確認し、どの程度の収穫量増加を見込めるのかを検討していくことも必要である。

発表(6) ワカメ陸上刈取り実証試験

田中 一志・平嶋 正則・横沢 雄大(企画指導部)、久慈 康支(漁場保全部)

【目的】
三陸地域のワカメ養殖の生産体系は零細経営が多く、収穫から加工工程に短期集中する典型的な労働集約型の作業形態となっており、かつ、生産者の減少や高齢化が進行している。そこで農林水産技術会議の先端プロ事業を活用し、陸上刈取り装置による省力化について検討した。
同装置の導入で期待できる主な効果は次のとおりである。
①陸上で安全に楽な姿勢で刈取ることができることから、洋上での刈取り作業と比較して高齢者や女性が従事し易い。
②波浪により洋上での刈取りが困難であることが予想される場合、前日に養殖桁を事前に漁港内に移動することで、陸上で刈取ることができ、計画的に作業し易い。
検討項目は、養殖桁の曳航や陸上刈取り装置の効率等である。
【方法】
1)養殖桁の曳航試験等
平成28年3月17日に、ワカメ未刈取りの養殖桁(150m×2(ダブル))を船内機船(4.2
t)で曳航し、曳航時間の測定と曳航方法の検討を行った。養殖桁は港内のアンカー付浮球
に係留し、3月18日と20日に片桁ずつ引き揚げて、陸上刈取り試験に供した。
2)陸上刈取り試験(平成28年3月20日)
平成27年春に試作した陸上刈取り装置を改良し、刈取り~桁掃除~巻取り作業を同時に行い、ビデオ画像から作業時間を計測したほか、刈取ったワカメの重量を測定した。
【成果の概要】
1)養殖桁の曳航試験等
(1)前年問題となった船内機船の旋回性は、船首ビットに養殖桁を結わえることで改善された。
漁港と漁場の距離は約1,900mであるが、船内機船では往路に5分、復路に58分(約1ノットで曳航)の計63分を要した。
(2)聞き取り調査の結果、調査地区での船外機船による作業では、ダブルの施設に対し、刈取りに4日(1日1往復)、桁の回収に1往復、合計5往復しているので、往復10分が5回の50分を要していた。
(3)養殖桁の港内係留は、左右にたわみながらも、直線距離では約90mの範囲に収まった。
港内に曳航した養殖桁の刈取りを当日に行わない場合は、港内に係留することで翌日以降に行うことが可能であることが分った。

2)陸上刈取り試験
陸上刈取り装置では、片桁(150m)の刈取りに2人(刈取り作業・巻取り作業)で73分を要した。
参考までに船外機船を用いた洋上刈取りの所要時間(片桁分)を試験地区で聞き取りしたところ、2人で6時間40分を要していた。
比較すると、陸上刈取りの作業時間は洋上刈取りの約1/5で済む。


【今後の課題】
陸上刈取り装置の普及に向けて、積極的にPRを図っていく。

発表(7) 震災以降の養殖漁場の環境変化

内記 公明・加賀 克昌・渡邊 志穂・瀬川 叡(漁場保全部)

【目的】
大震災津波により貝類等養殖漁場の海底に堆積している有機物量が大きく変化していた。その後、有機物量がどのように変化し、これが養殖漁場環境へどのような影響を与えるかを把握するために調査を実施したので、その結果の概要を報告する。
【方法】
沿岸9湾(久慈湾、宮古湾、山田湾、大槌湾、釜石湾、唐丹湾、越喜来湾、大船渡湾、広田湾)において震災関連の国事業で調査を実施し震災前後の変化を把握した。そのうち、従来の県事業により順次経年変化を追跡することとしている7湾のうち2014年から2016年にかけて5湾で調査を実施した。(図1)調査の内容は、各湾に4~15定点を設けて、底質環境が最も悪化する9月から10月に採泥器で海底泥を採取し、有機物量を示す化学的酸素要求量(COD)を分析するとともに、海底上1m(底層)の海中の溶存酸素量を測定した。


【結果の概要】
1)山田湾
震災前の2007年(中央値33.4mg/g乾泥)と比べて震災後の2012年(中央値14.6mg/g乾泥)は海底泥中のCODの値が有意に減少していたが、2016年(中央値24.4mg/g乾泥)には2012年よりも有意に増加していた。(図2)
2)大槌湾
震災前の2009年(中央値30.0mg/g乾泥)と比べて震災後の2012年(中央値9.3mg/g乾泥)は海底泥中のCODの値が有意に減少していたが、2015年(中央値20.5mg/g乾泥)には2012年よりもやや増加していた。(図3)
3)広田湾
震災前の2010年(中央値16.4mg/g乾泥)と比べて震災後の2012年(中央値5.9mg/g乾泥)は海底泥中のCODの値が有意に減少していたが、2014年(中央値14.1mg/g乾泥)には2012年よりも有意に増加していた。(図4)
4)釜石湾
震災前の2004年(中央値15.7mg/g乾泥)と比べて震災後の2012年(中央値40.0mg/g乾泥)は海底泥中のCODの値が有意に増加していたが、2013年から2016年(中央値17.4-28.6mg/g乾泥)には減少傾向を示していた。(図5)
5)大船渡湾
震災前の2006年(中央値40.6mg/g乾泥)と比べて震災後の2012年(中央値61.0mg/g乾泥)は海底泥中のCODの値が有意に増加していたが、2013年から2016年(中央値31.9-44.2mg/g乾泥)は2012年よりも有意に減少していた。(図6)
6)底層の溶存酸素量
震災以降、水産用水基準に定める内湾漁場の夏季底層の溶存酸素量(4.3 mg/L)を下回る定点は釜石湾の1定点のみであった。(表1)

【今後の対応】
今後、久慈湾や宮古湾についても順次調査を行うこととしており、変化した底質環境を監視し、養殖漁場環境への影響を把握していく。