平成30年度岩手県水産技術センター年報

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1.水産業の経営高度化・安定化のための研究開発

1-(1)漁業経営の体質強化のための研究(企画指導部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p5-8

経営改善による養殖経営体の収益向上を図るためには、経営実態を調査・分析した上で改善点を把握する必要がある。そこで、平成26、27年度に実施した経営体調査資料を用いて収益性分析を行い、養殖経営体の経営状況とその特性について解析した。

1-(2)本県主要水産物のマーケティングに関する研究(ホタテガイ、カキ)(企画指導部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p9-13

本県の主要養殖生物であるホタテガイ、カキは、東日本大震災津波により生産量が激減した。復旧・復興事業で漁船や施設など生産体制は回復しているものの、生産は震災前の6割に留まっている。震災で失った市場シェアや新たに得た流通体制などの状況や価格動向については把握・解析されていない。
そこで、ホタテガイ、カキの流通をモニタリングし、震災後の市場シェアを再確認するとともに、価格決定要因を解明することにより、価格向上やニーズにあった出荷体制等を提案し、養殖漁家所得の向上を図ることを目的とする。

2.全国トップレベルの安全・安心を確保する技術の開発

2-(1)毒化した二枚貝の麻痺性貝毒減衰時期予測、及びシストの分布、二枚貝養殖漁場の環境評価-①毒化した二枚貝の毒量減衰式の作成(漁場保全部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p14-16

東日本大震災後、貝毒原因プランクトンの大量発生によりホタテガイ等の毒化が大きな問題となっている。特に、大船渡湾では麻痺性貝毒によるホタテガイの高毒化のため、長期間にわたる出荷自主規制を余儀なくされ、漁場によっては貝毒が抜けやすいとされるマガキへ養殖種の変更も行われている。
そこで、出荷自主規制解除時期の予測により、計画的な出荷再開へ養殖管理の目安として、毒化した二枚貝の麻痺性貝毒減衰時期予測式を作成する。また、震災後、麻痺性貝毒原因プランクトンの休眠胞子(シスト)が存在する海底が攪(かく)乱されたことから、シスト分布の震災後の変化を把握する。

2-(1)-②その他(貝毒プランクトンの動向調査)(漁場保全部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p17-21

貝類の毒化時期における海況及び水質の変化とプランクトンの出現状況を調査することにより、貝類の毒化原因となるプランクトンの出現状況及び毒化状況を明らかにし、解決策を探るための基礎資料とする。

2-(2)カキのNoV汚染による食中毒事故の発生リスク低減に関する研究(漁場保全部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p22-24

ノロウイルス(以下、「NoV 」)による食中毒は、食中毒原因のトップとされる。その感染原因の一つとして、NoVに汚染されたマガキ等二枚貝の生食、あるいは不十分な加熱調理後の喫食が挙げられ、マガキ(以下、「カキ」)の生産段階におけるNoV に由来するリスク管理が求められている。
このため、養殖漁場の海水中のNoV汚染状況を調査するとともに、カキ養殖漁場におけるNoVの汚染予測手法を開発し、NoV によるカキの汚染リスク低減のための漁場管理方法を提示することを目的とする。

3.生産性・市場性の高い増養殖技術の開発

3-(1)秋サケ増殖に関する研究-①増殖・管理技術の開発・改善(漁業資源部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p25-33

岩手県の秋サケ回帰尾数は平成8年度をピークに近年低迷しており、その回復が喫緊の課題となっている。
サケ資源の減少要因として、沿岸海洋環境(春季の海水温、餌となる動物プランクトン種等)の変動がサケ稚魚の減耗に関係していると考えられている。このことから、民間ふ化場からは海洋環境の変動に適応した(生残率の高い)稚魚の生産・放流技術の開発が求められている。
本研究では、サケ大規模実証試験施設において、飼育密度(平成26、27、30年度)及び給餌飼料(平成28、29、30年度)並びに流速を変えた飼育方法(平成30年度)についてそれぞれ異なる条件下で飼育した稚魚を放流し、その後の成長・生残を比較するほか、遊泳力、飢餓耐性について調査した。また、高温耐性を持つと想定される北上川水系の資源特性について検証することを目的とする。併せて、海中飼育について、異なる飼育期間や大目網の設置等による飼育方法を検証することにより、環境変化に対応した健苗生産、飼育技術の開発・改良を目指す。

3-(1)-②秋サケ回帰予測技術の向上(漁業資源部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p34-39

岩手県の秋サケ回帰尾数は、平成8年度をピークに近年低迷しており、回帰尾数減少の要因解明と回帰尾数回復の対策が求められている。
本研究では、①漁業指導調査船「岩手丸」(以下「岩手丸」という。)を用い、岩手県沿岸における幼稚魚期の分布状況や成長速度の推定、並びに②津軽石川、織笠川及び片岸川のそ上親魚の年齢組成、体サイズ及び繁殖形質(孕卵数、卵体積)の長期的なモニタリング結果から秋サケの回帰予測を行うことで、安定した増殖事業の実践に資するとともに、近年の資源変動要因の解明に寄与することを目的とする。

3-(2)アワビ・ウニ等の餌料対策に関する研究(増養殖部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p40-43

アワビやウニ類は餌の海藻類が不足すると、肥満度や身入りの低下、成長の停滞が生じる。これまでの調査結果から、本県沿岸に生育する海藻類のうち最も重要な餌料と考えられるコンブの生育量は、冬期の海水温の高低に左右されることが明らかにされており、近年はこの時期の水温が高めに経過する影響でコンブの生育量が少ない年が多くなっている。この餌料海藻不足への対策として、これまでの試験の結果から、海中造林やウニ除去が一定の効果があることが確認されている。しかし、人件費や管理の大変さ、除去したウニの有効な活用方法等が確立されていないことから、普及には至っていない。このため、より簡便で効果的な餌料対策を検討する。

3-(3)アワビ等の種苗放流に関する研究-①種苗生産の安定・低コスト化技術の開発(増養殖部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p44-48

岩手県沿岸はアワビの好漁場であり、アワビの漁獲量(平成22年度)は都道府県別で最も多い283トン、全国漁獲量1,461トンのおよそ2割を占めていた。岩手県では、この漁獲量を維持、増大するため、年間800万個の種苗放流と漁獲規制などの資源管理を実施してきたが、東日本大震災の大津波によりアワビ資源は大きな被害を受けた。平成22年生まれ(震災時の年齢は10歳)の天然稚貝が全県的に壊滅的な被害を受け、さらには、県内のアワビ種苗生産施設が全壊し、平成23年から26年にかけて種苗放流の休止または縮小を余儀なくされたことから、アワビ資源の減少、低迷を招いている。
このような状況から、アワビ種苗生産・放流の再開によるアワビ資源の増加が強く求められており、その一方で放流を行う各沿海漁協では復旧・復興のための経済的な負担が膨らんでいることから、震災前の種苗生産体制への単なる復旧ではなく、最先端の技術を活用し、従来以上に効率的な体制を構築することが急務である。
本研究では、アワビ初期稚貝の好適餌料である針型珪藻およびワカメ幼葉を用いた飼育技術の導入により、従前より飛躍的に生産効率の高い種苗生産技術の開発を行う。

3-(4)海藻類養殖の生産効率化に関する研究-①人工種苗生産技術に関する研究(増養殖部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p49-54

本県のワカメ養殖は、色の良さや葉の厚み等の品質を重視するとともに、病虫害による被害の発生を防ぐ観点から、3月から4月に限定して比較的若い葉体を収穫している。しかし、この方法では養殖施設当たりの生産量が少なくなるとともに漁家の収益にも影響することから、短期間でより早く生長するワカメ種苗の開発が生産者から求められている。また、近年出荷量が増加している、間引いたワカメを生出荷する「早採りワカメ」については、出荷時期を早めることや、早採りワカメを専用の施設で繰り返し生産することによる生産量の増加などにより、漁家の増収への寄与が期待できる。
本研究では、従来の人工種苗生産技術を改良し、早期に沖出しすることでワカメの生育を早めることが期待される種苗として、1.5~2cmほどの短い種糸に付着した種苗(以下「半フリー種苗」という。)の生産技術の開発に取り組んでいる。この新たな種苗生産技術の導入によりワカメの生育を早め、養殖施設当たりの収穫量の増大や早期収穫の可能性について検討する。

3-(4)介類養殖の安定生産に関する研究-②海藻類養殖における病虫害発生機構に関する研究(増養殖部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p55-57

ワカメ、コンブは本県を代表する養殖種目である。これらの養殖種は、病虫害の発生や生理活性の低下等により減産や品質低下など大きな被害を度々受けてきたが、有効な対策が確立されておらず、早期刈取り指導などを通じて品質低下を水際で防いでいる状況にある。本研究は、ワカメ性状調査などの基礎的研究を積み重ね、病虫害発生の早期発見や出現傾向を把握することでワカメの品質維持に努めるとともに、知見の積み上げによる将来的な病虫害発生機構の解明を目的とする。

3-(5)-①ホタテガイ・ホヤ等の安定生産手法の検討(増養殖部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p58-67

本県の重要な養殖対象種であるホタテガイを安定的に生産するためには、浮遊幼生の出現状況データ等を参考にしながら適期に採苗器を垂下し、良質な地場種苗を確保する必要がある。そこで、浮遊幼生と付着稚貝の出現状況を調査し、そのデータを生産者等に情報提供するとともに、ホタテガイのへい死等について、状況を把握するため、養殖ホタテガイへい死状況調査を実施した。
近年、ヨーロッパザラボヤの大量付着により、養殖管理の作業負担の増加や、餌料の競合によるホタテガイの生残および成長の悪化が懸念されている。付着時期の早期予測を実現するため、これに必要な付着時期や付着時の水温等のデータを収集した。
マボヤについては、人工種苗が沖出し後の中間育成中に大きく減耗したとの情報があったことから、現状を把握し減耗の要因を検討するために、中間育成時の成育状況を調査した。

3-(5)-②マガキの新しい生産技術導入の検討(増養殖部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p68-73

マガキは本県の重要な養殖対象種であるが、震災以後種苗の供給が不安定であること、種苗の移入による病原体拡散のリスクが高まっていることが問題となっている。これらの問題を解決するため、県内で種苗生産する技術を確立する必要がある。
そこで、県内での天然採苗および人工種苗を用いたシングルシード養殖の導入を目的とし、天然採苗試験およびシングルシード種苗生産・養殖試験を行った。

4.水産資源の持続的利用のための技術開発

4-(1)海況変動を考慮した漁海況予測技術の開発(漁業資源部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p74-81

岩手県海域の海洋環境は、複数の海流が流入することにより複雑かつ季節的・経年的に変化が大きく、沿岸域の漁船漁業及び養殖業に与える影響も大きい。例えば、冬季から春季にかけて親潮系冷水が南偏して長期的に本県沿岸に接岸する異常冷水現象は、その年のワカメ養殖等に影響を及ぼすことがある。そのため、漁業指導調査船での海洋観測や定地水温観測、人工衛星画像などから得られる海洋環境データを情報発信するとともに、データの多面的な解析により漁海況予測技術の開発を検討し、漁業被害の軽減と生産効率の向上を目指す。
また、水産情報配信システム「いわて大漁ナビ」により県内魚市場の水揚げデータや水温情報を広報し、漁船漁業者や養殖業者の日々の操業を情報面から支援する。

4-(2)地域性漁業資源の総合的な資源管理に関する研究(主要底魚類の資源評価)(漁業資源部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p82-94

岩手県地先海域における重要な漁業資源である底魚類の資源水準を評価し、その変動要因を推定することにより、多様で持続可能な漁船漁業の再構築に貢献する実践可能で効果の高い資源管理方策を提案することを目的とした。

4-(3)回遊性漁業資源の利用技術の開発(漁業資源部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p95-110

我が国が平成8年に批准した国連海洋法条約では、排他的経済水域内の水産資源について科学的根拠に基づく資源状態の評価と適切な資源管理が義務づけられている。このため、複数の都道府県で利用される回遊性資源については、国及び関係都道府県の研究機関と協力し、資源調査・漁況予測技術の開発を行っている。
本研究では、資源の持続的利用を図ることを目的に、漁獲可能量(TAC)の設定に係る資源評価及び漁況予測のための情報収集、並びに本県の特性を反映した地先海域における漁況の把握及び予測を行う。

4-(4)震災による磯根資源への影響を考慮したアワビ・ウニ資源の持続的利用に関する研究(増養殖部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p111-116

東日本大震災津波による磯根生物への影響とその後の回復状況を、震災前の調査資料がある県内3か所(北部:洋野町、中部:宮古市、南部:大船渡市)で検討する。また、種苗生産施設の被災によりアワビやウニ類の種苗放流が中断・縮小したため、これらの生息量がどのように推移したかモニタリングする。

5.いわてブランドの確立を支援する水産加工技術の開発

5-(1)高次加工を目指した加工技術開発に関する研究-①通電加熱技術等による省エネ・省力化型加工製造技術開発及び実証研究(利用加工部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p117-118

本研究では、通電加熱技術による冷凍ウニの製造技術や成熟度が高いサケ魚卵を原料したイクラの硬化防止技術の開発を行っている。通電加熱とは、焼成や煮熟等、外部からの熱電導により食品を加熱する方法とは異なり、食品に電気を流すことで自己発熱させる方法である。この技術は、加熱温度の制御が容易であり、食品全体を均一に加熱できる。加熱温度によっては、非加熱商品である印象を保ちつつ、殺菌や酵素の失活が可能となる。
これまで冷凍ウニについては「生殖巣→通電加熱→トレー詰め→急速凍結」の製造工程により身崩れ防止を図ってきたが、トレー詰めの際、生殖巣に力が加わると解凍後に身崩れしやすくなることから、今年度はその改善方法について検討した。また、イクラについては、通電加熱処理したサケ魚卵は調味液の浸透が速いことから、卵膜に構造上の変化が起きていると考えられ、電子顕微鏡による観察を行い、通電加熱技術を社会実装する際の一助とする。

5-(2)県水産物の素材特性に関する研究-①海藻製品の品質向上および新しい加工品の開発に関する研究(利用加工部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p119-122

毎年、養殖ワカメの刈り取り時期は、加工原料としての品質を把握するため、葉体pHの調査を行い、湯通し塩蔵ワカメの生産終了後は、水分や塩分等の分析を行い、加工指導を行うための参考データを得ている。また、今年度については、ボイル海水の繰り返し使用が湯通し塩蔵ワカメの品質に与える影響についても調べた。本研究は、湯通し塩蔵ワカメの品質向上の一助となることを目的としている。

5-(2)県水産物の素材特性に関する研究-②機能性に関する研究(利用加工部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p123-124

サバ科魚類に含まれるセレンタンパク化合物(セレノネイン)は抗酸化性を有することから、当所と県内企業は、サバ加工残滓から同成分を抽出し、機能性素材として健康食品等メーカーに供給することを目指している。従来は内臓自体を原料としていたことから、漁獲時期によっては脂肪が多く含まれるため、フィルタープレス通過後のろ液に乳白色の濁りが見られ、ろ布交換を数回行う必要があったため、製造効率が悪かった。そこで今年度は製造方法の改良を検討した。

5-(2)県水産物の素材特性に関する研究-③養殖貝類の呈味成分に関する研究(利用加工部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p125-130

広田湾ではエゾイシカゲガイの養殖が行なわれ、生産量も増加し、地域特産品として出荷販売されている。また、従来、マガキ養殖は内湾で行われていたが、近年では野田湾などの外湾ではシングルシードとして出荷することを目的に養殖が行われている。しかし、養殖貝の一般成分や呈味成分(遊離アミノ酸など)に関する知見は非常に少なく、味の特徴を説明するための参考資料がほとんどなかった。本研究では、養殖貝の成分の季節変動を把握するとともに食味評価の科学的根拠を示すことを目的とした。

6.豊かな漁場環境の維持・保全のための技術開発

6-(1)適正な漁場利用を図るための養殖漁場の底質環境評価(漁場保全部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p131-134

県内主要5湾(久慈湾、宮古湾、山田湾、大槌湾及び広田湾)の底質環境を評価し、適正な漁場利用および増養殖業の振興に資する。

6-(2)県漁場環境保全方針に定める重点監視水域(大船渡湾・釜石湾)のモニタリング及び広報(漁場保全部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p135-140

釜石湾及び大船渡湾は、岩手県漁場環境保全方針に基づく重点監視水域に指定され、水産生物にとって良好な漁場環境を維持するため、水質及び底質・底生生物を調査し、漁場環境の長期的な変化を監視してきている。
平成23年3月11日に発生した東日本大震災による津波で、両湾とも陸域から相当量の有機物等の流入、海底地形の変化・海底泥のかく乱等が生じたことで、湾内の養殖漁場環境が大きく変化した。また、両湾に設置された湾口防波堤は復旧工事により新たな構造となったことで、湾内の養殖漁場環境は今後も変化することが予想される。
そこで、湾内の漁場環境に影響を与える水質や底質をモニタリングし、その変化を漁業関係者に情報提供することにより漁場管理を促す。

6-(3)養殖ワカメ安定生産の基礎となるワカメ漁場栄養塩モニタリング及び関係者への広報(漁場保全部)

2018 岩手県水産技術センター年報 p141-143

ワカメの生育に影響を及ぼす栄養塩濃度の変化について、定点を経年調査し、情報を随時提供することで、ワカメ養殖の振興に資する。