岩手県水産技術センター研究報告第13号
令和8年3月
サクラマスOncorhynchus masouの海水適応能に及ぼす背景色の効果
山野目健
背景色がサクラマスの海水適応能に及ぼす効果を調べた。淡水で飼育中のサクラマスを白色もしくは黒色水槽の海水に移行し,30日間生残の推移を観察した。実験は7回行い,そのうち4回では黒色水槽に移行した魚の生残率が白色水槽移行魚より有意に低かった。黒色素胞刺激ホルモン(MSH)はサケ科魚類において黒色背景で放出が促進される典型的なペプチドホルモンである。そこで,白色水槽で海水飼育したサクラマスの生残に対するMSHの効果を調べた。同ホルモンを含んだペレットを投与した結果,対照群にはへい死が認められなかったのに対し,MSH投与群は56日以内に全滅した。この結果は,黒色背景がサクラマスの海水適応能を低下させることを示唆する。
岩手水技セ研報(13),1~9(2026)
養殖ワカメに被害を及ぼすEphelota giganteaの環境DNAによる発生予測
小林俊将・川島拓也・阿部陽
養殖ワカメに付着して商品価値を低下させるEphelota giganteaの発生を予測することを目的に,環境DNAによるモニタリング調査を行った。ワカメ養殖漁場に3定点を設け,ワカメ漁期の2月~3月に約週1回の間隔で海水1Lを採取し,海水からE.giganteaのDNAを検出した。その結果,養殖ワカメへのE.giganteaの付着が確認される12~19日前に養殖漁場の海水からE.giganteaのDNAが検出された。このことから,環境DNAの技術を用いることによりE.giganteaの発生を予測できることが示唆された。
岩手水技セ研報(13),10~13(2026)
岩手県に回帰したサケ資源の変動
清水勇一・岡部聖・及川仁・瀬川格
岩手県におけるサケは,増殖事業により資源造成され岩手県の水産業を支える重要な魚種となったが,近年の漁獲量は極端に減少している。本報告では,岩手県へ回帰したサケの年級別年齢別回帰尾数やモニタリング河川の魚体及び繁殖形質の年変化から,長期的な資源変動を整理した。その結果,①1979年級までの増大期,②1995~2005年級の高位期,③1995~2005年級の初期低位期,④2006~2014年級の中期低位期,⑤2015年級以降の後期低位期の5期に段階的な変動として整理された。資源量が減少した原因は明らかではないが,1歳魚までの生残率が大きく低下していると推定された。今後の資源回復に向けて,稚魚を放流する春季のモニタリングを継続して資源増大期のような海洋環境を観測した際には,直ちに増殖事業を強化できるように準備しておくことが重要であると考えられた。
岩手水技セ研報(13),14~23(2026)