平成29年度岩手県水産技術センター年報

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1.水産業の経営高度化・安定化のための研究開発

1-(1)ワカメ等海藻養殖の効率化システムの開発(企画指導部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p4-8

ワカメ養殖業は、1960 年代に湯通し塩蔵ワカメの加工技術の確立とともに始まり現在に至っているが、収穫から加工までの工程が短期に集中する厳しい労働形態となっている。また、経営体の大半は零細で、従事者の減少とともに高齢化が進んでいることから、生産は減少傾向にある。
このことから、本研究では、ワカメ養殖業の大規模経営による生産量の増大を図るため、省力化装置の実証試験等に基づく効率化システムの開発に取り組むとともに、その導入効果を検証することを目的とした。

1-(2)本県主要水産物のマーケティングに関する研究(ホタテガイ、カキ)(企画指導部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p9-12

本県の主要養殖生物であるホタテガイ、カキは、東日本大震災津波の被害により生産量が激減した。漁船や養殖施設等の復旧・整備は概ね終了しているものの、震災後、市場において失ったシェアや価格動向などについては把握・解析されていない。
そこで、ホタテガイ、カキの流通をモニタリングし、震災前後のシェアを把握するとともに、価格向上やニーズにあった出荷体制等を提案し、養殖漁家所得の向上を図ることを目的とする。

2.全国トップレベルの安全・安心を確保する技術の開発

2-(1)毒化した二枚貝の麻痺性貝毒減衰時期予測、及びシストの分布、二枚貝養殖漁場の環境評価-①毒化した二枚貝の毒量減衰式の作成(漁場保全部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p13-15

東日本大震災津波後、貝毒原因プランクトンの大量発生によりホタテガイ等の毒化が大きな問題となっている。特に、大船渡湾では麻痺性貝毒によるホタテガイの高毒化のため、長期間にわたる出荷自主規制を余儀なくされ、漁場によっては貝毒が抜けやすいとされるマガキへ養殖種の変更も行われている。
そこで、出荷自主規制解除時期の予測により、計画的な出荷再開への養殖管理の目安として、毒化した二枚貝の麻痺性貝毒減衰時期予測式を作成する。また、震災後、麻痺性貝毒原因プランクトンの休眠胞子(シスト)が存在する海底が攪(かく)乱されたことから、シスト分布の震災後の変化を把握する。

2-(1)-②貝毒プランクトンの動向調査(漁場保全部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p16-20

貝類の毒化時期における海況及び水質の変化とプランクトンの出現状況を調査することにより、貝類の毒化原因となるプランクトンの出現状況及び毒化状況を明らかにし、解決策を探るための基礎資料とする。

2-(1)-③その他(漁場保全部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p21-23

平成27年3月に国の通知が改正され、下痢性貝毒検査の公定法がマウス試験法から機器分析法へと移行されたが、検査費用の増加が生産者にとって負担となっている。今後、麻痺性貝毒に関しても機器分析への移行が検討されており、導入に向けた科学的根拠を収集するとともに、簡易検査によるスクリーニング体制を確立し、安全性の確保と検査費用の負担軽減を図ることが必要である。
そこで、機器分析法への移行後も安全な水産物を安定供給するため、麻痺性貝毒の機器分析と簡易検査に係る科学的知見を収集する国の調査研究事業に参画し、本県での導入に向けたデータを収集する。
また、平成29年度は釜石湾において麻痺性貝毒が発生したことから、突発的異常現象調査の一環として貝毒プランクトン等の臨時調査を行う。

2-(2)カキのNoV汚染による食中毒事故の発生リスク低減に関する研究(漁場保全部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p24-26

ノロウイルス(以下「NoV」)による食中毒は、食中毒原因のトップとされる。その感染原因の一つとして、NoVに汚染されたマガキ等二枚貝の生食、あるいは不十分な加熱調理後の喫食が挙げられ、マガキ(以下「カキ」)の生産段階におけるNoVに由来するリスク管理が求められている。
このため、カキ養殖場におけるカキのNoV 汚染状況を調査するとともに、NoV の汚染予測手法を開発し、NoVによるカキの汚染リスク低減のための漁場管理方法を提示することを目的とする。

3.生産性・市場性の高い増養殖技術の開発

3-(1)秋サケ増殖に関する研究-①増殖・管理技術の開発・改善(漁業資源部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p27-33

岩手県の秋サケ回帰尾数は平成8年度をピークに近年低迷しており、その回復が喫緊の課題となっている。
サケ資源の減少要因として、沿岸海洋環境(春季の海水温、餌となる動物プランクトン種等)の変動がサケ稚魚の減耗に関係していると考えられている。このことから、民間ふ化場からは海洋環境の変動に適応した(生残率の高い)稚魚の生産・放流技術の開発が求められている。
本研究では、民間ふ化場と同規模で試験が可能なサケ大規模実証試験施設において、飼育密度(平成26、27年度)及び給餌飼料(平成28、29年度)についてそれぞれ異なる条件下で飼育した稚魚を放流し、その後の成長・生残を比較するほか、遊泳力、飢餓耐性について検証することを目的とする。

3-(1)-②秋サケ回帰予測技術の向上(漁業資源部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p34-39

岩手県の秋サケ回帰尾数は、平成8年度をピークに今日まで低迷しており、回帰尾数減少の要因解明と回帰尾数回復の対策が求められている。
本研究では、①漁業指導調査船「岩手丸」を用い、岩手県・北海道太平洋沿岸における幼稚魚期の分布状況や成長速度の推定、並びに②津軽石川、織笠川及び片岸川のそ上親魚の年齢組成、体サイズ及び繁殖形質(孕卵数、卵体積)の長期的なモニタリング結果から秋サケの回帰予測を行うことで、安定した増殖事業の実践に資するとともに、近年の資源変動要因の解明に寄与することを目的とする。

3-(2)アワビ等の種苗放流に関する研究-①種苗生産の安定・低コスト化技術の開発(増養殖部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p40-43

岩手県沿岸はアワビの好漁場であり、アワビの漁獲量(平成22年度)は都道府県別で最も多い283トン、全国漁獲量1,461トンのおよそ2割を占めていた。岩手県では、この漁獲量を維持、増大するため、年間800万個の種苗放流と漁獲規制などの資源管理を実施してきたが、東日本大震災津波によりアワビ資源は大きな被害を受けた。平成22年生まれ(震災時の年齢は10歳)の天然稚貝が全県的に壊滅的な被害を受け、さらには、県内のアワビ種苗生産施設が全壊し、平成23年から26年にかけて種苗放流の休止または縮小を余儀なくされたことから、アワビ資源の減少、低迷を招いている。
このような状況の下、アワビ種苗生産・放流の再開によるアワビ資源の増大が強く求められている一方で、放流を行う各沿海漁業協同組合では復旧・復興のための経済的な負担が膨らんでいることから、震災前の種苗生産体制への単なる復旧ではなく、最先端の技術を導入し、従来以上に効率的な体制を構築することが急務である。
本研究では、事業規模での導入例のない再成熟採卵方式によるアワビの増殖技術の実証研究を行い、併せて、アワビ初期稚貝の好適餌料である針型珪藻およびワカメ幼芽を用いた飼育技術の導入により、従前より飛躍的に生産効率の高い種苗生産技術の開発を行う。

3-(3)海藻類養殖の生産効率化に関する研究-①人工種苗生産技術に関する研究(増養殖部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p44-48

本県のワカメ養殖は、色の良さや葉の厚み等の品質を重視するとともに、病虫害による被害の発生を防ぐ観点から、収穫時期を3月から4月に限定して比較的若い葉体を収穫している。しかし、この方法では単位養殖施設当たりの生産量が少なくなり、漁家の収益減に直結することから、より早く生長するワカメ種苗の開発が求められている。また、近年出荷量が増加している、間引いたワカメを生出荷する「早採りワカメ」については、出荷時期を早めることや、早採りワカメを専用の施設で繰り返し生産することによる生産量の増加などにより、漁家の増収への寄与が期待できる。
より早い時期に十分な大きさのワカメを収穫するためには、より早い時期に大きな種苗を沖出しし、ワカメを少しでも早く生長させることが必要と考えられる。本研究では、より早い時期に大きな種苗の沖出しを可能にするため従来の人工種苗生産技術を改良し、種糸を用いない種苗(以下「フリー種苗」という。)と、1.5~2cmほどの短い種糸に付着した種苗(以下「半フリー種苗」という。)の生産技術の開発に取り組むとともに、これらの新たな種苗生産技術の導入によりワカメの生育を早め、養殖施設当たりの収穫量の増大や収穫期間の前倒しが可能かについて検討する。

3-(3)-②海藻類養殖における病虫害発生機構に関する研究(増養殖部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p49-52

ワカメ、コンブは本県を代表する養殖種目である。これらの養殖種は、病虫害の発生や生理活性の低下等により減産や品質低下など大きな被害を度々受けてきたが、有効な防除手段が確立されておらず、早期刈取り指導などを通じて品質低下を水際で防いでいる状況にある。本研究は、ワカメ性状調査などの基礎的研究を積み重ね、病虫害発生の早期発見や出現傾向を把握することでワカメの品質維持に努めるとともに、知見の積み上げによる将来的な病虫害発生機構の解明を目的とする。

3-(4)介類養殖の安定生産に関する研究-①ホタテガイ・ホヤ等の安定生産手法の検討(増養殖部)

2016 岩手県水産技術センター年報 p53-58

本県の重要な養殖対象種であるホタテガイを安定的に生産するためには、浮遊幼生の出現状況データ等を参考にしながら適期に採苗器を垂下し、良質な地場種苗を確保する必要がある。そこで、浮遊幼生と付着稚貝の出現状況を調査し、そのデータを生産者等に情報提供した。
また、近年、ヨーロッパザラボヤ等の大量付着により、養殖管理の作業負担が増したことや、餌料の競合によるホタテガイの生残および成長の悪化が懸念されていることから、付着量の軽減法等を検討した。

3-(4)-②マガキの新しい生産技術導入の検討(増養殖部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p59-65

マガキは本県の重要な養殖対象種であるが、東日本大震災津波以後、種苗の供給が不安定であることや、種苗の移入による病原体拡散のリスクが高まっていることが問題となっている。これらの問題を解決するためには、県内で種苗生産する技術を確立する必要がある。
そこで、県内での天然採苗及び人工種苗を用いたシングルシード養殖の導入を目的とし、天然採苗試験及びシングルシード種苗生産・養殖試験を行った。

4.水産資源の持続的利用のための技術開発

4-(1)海況変動を考慮した漁海況予測技術の開発(漁業資源部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p66-75

岩手県海域の海洋環境は、複数の海流が流入することにより複雑かつ季節的・経年的に変化が大きく、沿岸域の漁船漁業及び養殖業に与える影響も大きい。例えば、冬季から春季にかけて親潮系冷水が南偏して長期的に本県沿岸に接岸する異常冷水現象は、その年のワカメ養殖等に影響を及ぼすことがある。そのため、漁業指導調査船での海洋観測や定地水温観測、人工衛星画像などから得られる海洋環境データを情報発信するとともに、データの多面的な解析により漁海況予測技術の開発を検討し、漁業被害の軽減と生産効率の向上を目指す。
また、水産情報配信システム「いわて大漁ナビ」により県内魚市場の水揚げデータや水温情報を広報し、漁船漁業者や養殖業者の日々の操業を情報面から支援する。

4-(2)地域性漁業資源の総合的な資源管理に関する研究-①主要底魚類の資源評価(漁業資源部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p76-87

岩手県地先海域における重要な漁業資源である底魚類の資源水準を評価し、その変動要因を推定することにより、多様で持続可能な漁船漁業の再構築に貢献する実践可能で効果の高い資源管理方策を提案することを目的とした。

4-(2)-②東日本大震災以降の漁船漁業の現状評価と、資源評価結果に基づく資源利用モデルの導入(漁業資源部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p88-90

岩手県の漁船漁業は、多様で変化に富む地先の漁業資源を様々な漁法で漁獲することによって営まれてきたが、東日本大震災津波によって甚大な被害を受けた。今後、なりわいとしての水産業が再生し、復興していくためには、海域の生産力を最大限生かした多様な漁業の復活が欠かせない。そこで、本研究は、岩手県で行われている沿岸漁船漁業の回復過程をモニタリングすることにより、多様で持続的な沿岸漁船漁業の再構築に寄与することを目的とする。

4-(3)回遊性漁業資源の利用技術の開発(漁業資源部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p91-103

我が国が平成8年に批准した国連海洋法条約では、排他的経済水域内の水産資源について科学的根拠に基づく資源状態の評価と適切な資源管理が義務づけられている。このため、複数の都道府県で利用される回遊性資源については、国及び関係都道府県の研究機関と協力し、資源調査・漁況予測技術の開発を行っている。
本研究では、資源の持続的利用を図ることを目的に、漁獲可能量(TAC)の設定に係る資源評価票及び漁況予測のための情報収集、並びに本県の特性を反映した地先海域における漁況の把握及び予測を行う。

4-(4)震災による磯根資源への影響を考慮したアワビ・ウニ資源の持続的利用に関する研究(増養殖部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p104-109

東日本大震災津波による磯根生物への影響とその後の回復状況を、震災前の調査資料がある県内3か所(北部:洋野町、中部:宮古市)及び震災後に調査を開始した南部(釜石市)で検討する。また、種苗生産施設の被災によりアワビやウニ類の種苗放流が中断・縮小したため、これらの生息量がどのように推移したかモニタリングする。

5.いわてブランドの確立を支援する水産加工技術の開発

5-(1)高次加工を目指した加工技術開発に関する研究-①通電加熱技術等による省エネ・省力化型加工製造技術開発及び実証研究(利用加工部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p110-113

通電加熱装置は精密な温度制御が可能で加工品の品質向上に期待が持てるとともに、生産ラインのシステム化により大量生産にも対応ができる装置である。本研究では冷凍ウニやイクラ等の生食用加工品の製造工程に通電加熱技術を組み入れた生産システムを開発することを目的とする。

5-(2)地先水産資源の付加価値向上に関する研究-①地域水産資源を用いた加工品試作開発(利用加工部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p114-116

当所と県内の水産加工業者は、研究委託事業で連携しアメリカオオアカイカあるいはムラサキイカの胴肉から、ベルト式連続通電加熱装置を導入し、「(登録商標)ふわっとイカ」を製品化した。今後病人・高齢者用食品向けの販売を図るため、本研究では、高齢者用食品規格基準に対する製品の物性値の適合度を確認するとともに、栄養的特徴を明らかにする。

5-(3)県産水産物の品質に関する研究-①簡易・迅速品質評価技術開発(利用加工部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p117-122

大和製衡㈱などが魚体のインピーダンスから脂質含量(魚肉100 g当たりの脂質重量の割合)を推定する測定機を開発する中で、当所は、共同研究機関として4魚種(サケ、カツオ、ブリ、サワラ)のデータ収集を行い、本測定機は平成27年2月に「フィッシュ・アナライザ(Fish AnalyzerTM、以下「FA」)」として市販された。一方、全国ではFAを活用し、地元で漁獲されるマグロやタイなどのブランド化に取り組んでいる事例が見られる。
また、FAには三倍体ニジマスを測定対象としてメーカーが作成した検量線(以下「旧検量線」)が組み込まれており、本県の養鱒場での活用が見込まれるが、養鱒場では小型や中型のニジマスも測定対象としたい要望があった。更に、昨年度の当センターの試験でマダラ腹部のインピーダンスを測定し雌雄を判別することができている。
そこで、本研究では、養鱒場や加工場等の現場でFAを使用し、機器を普及するための課題や改善点等について検討することを目的とした。

5-(4)県産水産物の素材特性に関する研究-①海藻製品の品質向上および新しい加工品の開発に関する研究(利用加工部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p123-124

養殖ワカメの品質の指標である葉体pHと湯通し塩蔵ワカメの品質を調査し、湯通し塩蔵ワカメの品質向上に寄与することを目的とする。

6.豊かな漁場環境の維持・保全のための技術開発

6-(1)適正な漁場利用を図るための養殖漁場の底質環境評価(漁場保全部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p125-128

県内主要5湾(表1参照。県漁場環境方針に定める重要監視水域(大船渡湾・釜石湾)のモニタリングは別途毎年実施)の底質環境を評価し、適正な漁場利用および増養殖業の振興に資する。

6-(2)県漁場環境保全方針に定める重点監視水域(大船渡湾・釜石湾)のモニタリング及び広報(漁場保全部)

2017 岩手県水産技術センター年報 p129-134

釜石湾及び大船渡湾は、岩手県漁場環境保全方針に基づく重点監視水域に指定されていることから、水産生物にとって良好な漁場環境を維持するため、水質及び底質・底生生物を調査し、長期的な変化を監視している。
平成23年3月11日に発生した東日本大震災による津波で、両湾とも陸域から相当量の有機物等の流入、海底地形の変化・海底泥のかく乱等が生じたことで、湾内の養殖漁場環境が大きく変化した。また、両湾に設置された湾口防波堤は復旧工事により新たな構造となったことで、湾内の養殖漁場環境は今後も変化することが予想される。そこで、湾内の漁場環境に影響を与える水質や底質をモニタリングし、その変化を漁業関係者に情報提供することにより漁場管理を促すことを目的とする。

6-(3)養殖ワカメ安定生産の基礎となるワカメ漁場栄養塩モニタリング及び関係者への広報(漁場保全部)

2016 岩手県水産技術センター年報 p135-136

ワカメの生育に影響を及ぼす栄養塩濃度の変化について、定点を経年調査し、情報を随時提供することで、ワカメ養殖の振興に資する。