令和元年度岩手県水産技術センター年報

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1 漁業経営の高度化・安定化に関する研究開発

(1) 漁業経営に関する研究
① ワカメ養殖経営体の分析(企画指導部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p5-9

漁業者の減少や高齢化により本県ワカメ生産量が減少傾向にある現状において、ワカメ養殖生産を維持していくためには、各経営体の経営改善による収益向上に向けた取組が必要であるが、経営実態が把握できていない状況にある。そこで、平成26、27年度の経営体調査資料を用いて、ワカメ養殖にかかる収益性分析を行い、経営状況とその特性について解析した。

② カキ養殖経営体の経営分析(企画指導部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p10-14

経営改善による養殖経営体の収益向上を図るためには、経営実態を把握する必要がある。そこで、県内のカキ養殖を営む経営体の労働状況や事業収支等を調査し、カキ養殖にかかる生産状況及び経営状況を把握するとともに、その特性について解析した。

(2) 市場流通に関する研究(企画指導部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p15-18

本県の主要養殖生物であるホタテガイ、カキは、東日本大震災津波により生産量が激減した。復旧・復興事業で漁船や施設など生産体制は回復しているものの、生産は震災前の6割に留まっている。震災で失った市場シェアや新たに得た流通体制などの状況や価格動向については把握・解析されていない。
そこで、ホタテガイ、カキの流通をモニタリングし、震災後の市場シェアを再確認するとともに、価格決定要因を解明することにより、価格向上やニーズにあった出荷体制等を提案し、養殖漁家所得の向上を図ることを目的とする。

2 食の安全・安心の確保に関する技術開発

(1) 二枚貝等の貝毒に関する研究
① 麻痺性貝毒で毒化した介類の毒量減衰式の作成(漁場保全部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p19-20

東日本大震災後、貝毒原因プランクトンの大量発生によりホタテガイ等の毒化が大きな問題となっている。
特に、大船渡湾では麻痺性貝毒によるホタテガイの高毒化のため、長期間にわたる出荷自主規制を余儀なくされ、漁場によっては貝毒が抜けやすいとされるマガキへ養殖種の変更も行われている。
そこで、出荷自主規制解除時期を予測することにより、計画的な出荷再開へ養殖管理の目安として、毒化した二枚貝の麻痺性貝毒減衰時期予測式を作成する。

② 麻痺性貝毒で毒化した介類の低毒化技術の開発(漁場保全部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p21-22

東日本大震災後、貝毒原因プランクトンの大量発生によりホタテガイ等の毒化が大きな問題となっている。
そこで、北里大学との共同により、短期間の給餌飼育による麻痺性貝毒の低毒化技術を開発することを目的とする。
なお、マガキ及びホタテガイの麻痺性貝毒減衰機構の解明と減衰効果のある飼料の開発は北里大学が担当し、当所は給餌飼育によるマガキ及びホタテガイの低毒化試験方法の確立と麻痺性貝毒を効果的に低毒化するための給餌飼育技術開発を担当する。

③ 貝毒モニタリング調査(漁場保全部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p23-27

貝類の毒化時期における海況及び水質の変化と貝毒原因プランクトンの出現状況及び貝類の毒化状況を調査することにより、解決策を探るための基礎資料とする。

3 生産性・市場性の高い産地形成に関する技術開発

(1) 秋サケ増殖に関する研究(漁業資源部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p28-42

岩手県の秋サケ回帰尾数は、平成8年度をピークに近年低迷しており、回帰尾数減少の要因解明と回帰尾数回復の対策が求められている。
本研究では、確実な種卵確保による増殖事業の推進に資するため、資源変動を把握しながら回帰予測の精度向上を図ることを目的に、放流稚魚の追跡調査と回帰親魚の年齢、魚体サイズ調査を行う。また、早急な資源回復に資するため、人為的に関与できる種苗生産・放流技術の改良と普及を目的に、沿岸の高水温化に対応した放流時期やサイズの検討、環境変化に強い種苗を生産するための飼育環境や餌料、系統の検討を行うとともに、稚魚放流後の初期減耗を緩和するための海水馴致放流等の技術開発を行う。

(2) アワビ・ウニ等の増殖に関する研究
① ドローンによる海藻現存量の把握手法の検討(増養殖部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p43-45

アワビやウニ類は餌の海藻類が不足すると、肥満度や身入りの低下、成長の停滞が生じる。これまでの調査結果から、本県沿岸に生育する海藻類のうち主要な餌料であるコンブの生育量は、冬期の海水温の高低に左右されることが明らかにされており、近年はこの時期の水温が高めに経過する影響でコンブの生育量が少ない年が多くなっている。この餌料海藻不足への対策としては、これまでの試験で、海中造林やウニ除去が一定の効果があることが確認されている。
このような対策の導入に当たっては、各漁場の藻場の分布状況の特徴を把握したうえで、最も効果が見込める漁場を選定して実施する必要がある。また、このような情報は種苗放流漁場の選定に際しても有益である。これまで、藻場の分布状況や海藻類の現存量の把握については、潜水による調査で対応していたことから、広範囲に漁場全体をとらえることが困難であった。そのような状況に対し、近年他の道県では、ドローンを用いた方法の検討が進められており、本県においても本手法の導入を検討する。

② 餌料海藻造成手法の検討(増養殖部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p46-58

アワビやウニ類は餌の海藻類が不足すると、肥満度や身入りの低下、成長の停滞が生じる。これまでの調査結果から、本県沿岸に生育する海藻類のうち主要な餌料であるコンブの生育量は、冬期の海水温の高低に左右されることが明らかにされており、近年はこの時期の水温が高めに経過する影響でコンブの生育量が少ない年が多くなっている。この餌料海藻不足への対策としては、これまでの試験で、海中造林やウニ除去が一定の効果があることが確認されている。しかし、既存の海中造林では、海藻類の養成開始直後に芽落ちしやすく、その養成は不安定である。さらには天然餌料海藻の芽がウニの摂餌圧を被る冬期までに十分な量の海藻類を養成できておらず、海中造林でウニの摂餌圧を抑制するまでには至っていない。また、ウニの除去には多大な労力と経費を要すること、除去した痩せウニの事業規模での活用方法が確立していないことから、これらの対策は普及していない。
以上のことから、天然餌料海藻の芽出し時期にウニの摂餌圧を分散させることで天然餌料海藻の芽を守り、繁茂させるための、簡便で効果的な餌料対策を検討する。

③ 種苗生産の安定・低コスト化技術の開発・普及(増養殖部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p59-60

岩手県沿岸はアワビの好漁場であり、アワビの漁獲量(平成22年度)は都道府県別で最も多い283トン、全国漁獲量1,461トンのおよそ2割を占めていた。岩手県では、この漁獲量を維持、増大するため、年間800万個の種苗放流と漁獲規制などの資源管理を実施してきたが、東日本大震災の大津波によりアワビ資源は大きな被害を受けた。平成22年生まれ(震災時の年齢は10歳)の天然稚貝が全県的に壊滅的な被害を受け、さらには、県内のアワビ種苗生産施設が全壊し、平成23年から26年にかけて種苗放流の休止または縮小を余儀なくされたことから、アワビ資源の減少、低迷を招いている。
このような状況から、アワビ種苗生産・放流の再開によるアワビ資源の増加が強く求められており、その一方で放流を行う各沿海漁協では復旧・復興のための経済的な負担が膨らんでいることから、震災前の種苗生産体制への単なる復旧ではなく、最先端の技術を活用し、従来以上に効率的な体制を構築することが急務である。
本研究では、アワビ初期稚貝の好適餌料である針型珪藻を用いた飼育技術の導入により、従前より飛躍的に生産効率の高い種苗生産技術の開発を行う。

④ 効果的なナマコ増殖技術の開発(増養殖部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p61-63

ナマコは、近年の中国での需要増加や、アワビ・ウニと餌料を競合しないことなどから、栽培漁業対象種として漁業者やその関係団体から注目されている。本県では人工種苗生産技術が確立され、放流事業が行われているが、有効な標識技術がなかったことから放流技術に関する知見は極めて乏しく、放流効果も把握されていない。そのような状況に対し、近年、他の道県では、DNAを用いた親子鑑定の技術が開発され、放流後の追跡調査が可能となった。
そこで、このような遺伝情報を用いたナマコ種苗の追跡調査を行い、放流後の成長、生残状況を明らかにして、種苗放流による資源増大効果を把握するとともに、より効果的な放流技術を開発する。

⑤ より経済効果の高いアワビ資源管理手法の検討(増養殖部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p64-67

岩手県ではアワビは重要な資源であるが、近年は漁獲量が低迷している状況である。これは、東日本大震災津波による稚貝の流失や平成23年から平成26年までのアワビ種苗放流の休止や大幅な縮小によるアワビ資源の低迷が原因と考えられ、この状況は今後数年続くことが懸念されている。
一方、種苗放流は安定的な資源添加が見込めることから、その重要性が増している。放流後のアワビの生残率は種苗放流方法によって大きく異なることが明らかとなっており、より効果的な種苗放流方法の確立が急務である。
以上より、放流貝の資源状況を把握するとともに、より効果的な種苗放流方法の確立をすることで、アワビ資源の回復及び漁獲量の増大を図る。

(3) 海藻類養殖の効率生産化に関する研究
① 人工種苗生産技術に関する研究(増養殖部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p68-72

本県のワカメ養殖は、色の良さや葉の厚み等の品質を重視するとともに、病虫害による被害の発生を防ぐ観点から、3月から4月に限定して比較的若い葉体を収穫している。しかし、この方法では養殖施設当たりの生産量が少なくなるとともに漁家の収益にも影響することから、短期間でより早く生長するワカメ種苗の開発が生産者から求められている。また、近年出荷量が増加している、間引いたワカメを生出荷する「早採りワカメ」については、出荷時期を早めることや、早採りワカメを専用の施設で繰り返し生産することによる生産量の増加などにより、漁家の増収への寄与が期待できる。
本研究では、従来の人工種苗生産技術を改良し、早期に沖出しすることでワカメの生育を早めることが期待される種苗として、1.5~2cmほどの短い種糸に付着した種苗(以下「半フリー種苗」という。)の生産技術の開発に取り組んでいる。この新たな種苗生産技術の導入によりワカメの生育を早め、養殖施設当たりの収穫量の増大や早期収穫の可能性について検討する。

(4) 二枚貝等養殖の安定生産に関する研究
① ホタテガイの安定生産手法の検討(増養殖部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p73-76

本県の重要な養殖対象種であるホタテガイを安定的に生産するためには、浮遊幼生の出現状況データ等を参考にしながら適期に採苗器を垂下し、良質な地場種苗を確保する必要がある。そこで、浮遊幼生と付着稚貝の出現状況等を調査し、そのデータを生産者等に情報提供した。

② カキ類の新しい生産技術導入の検討(増養殖部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p77-79

本県では東日本大震災以降、マガキシングルシード養殖が新たな養殖手法として期待され、種苗の安定供給を求める声が大きい。そこで、当所では、安全な種苗の安定供給に向けて人工種苗生産技術開発試験に取り組み、シングルシード養殖に適した形状の種苗を集約的に生産できる「ボトルシステム」を確立した。本システムは種苗生産専用施設での実施を想定した技術であるが、普及には至っていない。
近年、新たなシングルシード養殖資材として、①稚貝を容易に剥離できる天然採苗用採苗器「クペール」(総称)や、②適度な揺れで好ましい形状のカキを生産できる養成容器「バスケット」が、全国の生産現場において導入され始めている。
本研究では、これらの資材を用いて、本県の生産現場で導入可能なマガキシングルシードの人工種苗生産・養殖方法を検討した。

③ マガキの天然採苗手法の検討(増養殖部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p80-86

マガキ(以下、カキ)は、本県の重要な養殖対象種であるが、東日本大震災により宮城県の種苗生産地が被災し、岩手県への種苗供給が不安定となった。さらに、海外ではカキ養殖へ重大な被害をもたらす疾病が発生しており、種苗の導入による病原体の持ち込みが危惧される。これらのことから、県内で種苗を生産する技術を確立させ、安全な種苗の安定供給を図る。
マガキ(以下、カキ)は、本県の重要な養殖対象種であるが、東日本大震災により宮城県の種苗生産地が被災し、岩手県への種苗供給が不安定となった。さらに、海外ではカキ養殖へ重大な被害をもたらす疾病が発生しており、種苗の導入による病原体の持ち込みが危惧される。これらのことから、県内で種苗を生産する技術を確立させ、安全な種苗の安定供給を図る。

④ アサリ増養殖技術の検討(増養殖部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p87-90

アサリは全国的に食用とされる最もなじみのある二枚貝である。その国内生産のほとんどは天然資源の漁獲によるものであるが、1980年代後半からは資源の減少に伴い生産量が激減し、国内消費の不足分は輸入で賄われている。このような中、各地で様々な方法で養殖が検討されており、中でも垂下養殖は良好な成長と高い生残に加えて、身入りが非常に良く、その生産貝は高値で取引され、アサリ生産の維持・回復や生産現場の活性化に向けて導入への期待が高まりつつある。
一方、本県では、貝類養殖に適した漁場を有する中で、養殖生産量の回復や漁家所得の向上につながる新規養殖対象種導入への期待が大きい。
そこで、アサリ養殖導入に向けて、既存の人工種苗生産技術を活用し、本県沿岸の漁場の特徴に合わせた増養殖方法の確立を図る。

⑤ 病害発生状況の把握と対策検討(増養殖部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p91-95

近年、ヨーロッパザラボヤが養殖ホタテガイや養殖カキへ大量付着し、養殖管理の作業負担の増加、養殖二枚貝の脱落、餌料の競合による養殖二枚貝の成長の悪化など深刻な問題を引き起こしている。本種は一旦漁場内に侵入すると排除は困難であり、付着個体の除去が現在取り得る対応策である。付着個体の除去は、親個体群の減少に伴う次世代個体の付着数の減少も期待できる。そこで、より効果的な付着個体の除去に向けて、付着時期等の予測や早期の把握に必要な知見を収集する。
本県では平成20年にマボヤ被嚢軟化症の発生が確認され、養殖マボヤがへい死するなど大きな被害を及ぼすようになった。本疾病の対策として、定期検査を実施して発生状況を把握することで、他の海域への伝播を防ぐ。

(5) 水産生物の病害虫対策に関する研究
① 病害虫に関するモニタリング(増養殖部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p96-98

ワカメ、コンブは本県を代表する養殖種目である。これらの養殖種は、病虫害の発生や生理活性の低下等により減産や品質低下など大きな被害を度々受けてきたが、有効な対策が確立されておらず、早期刈取り指導などを通じて品質低下を水際で防いでいる状況にある。本研究は、ワカメ性状調査などの基礎的研究を積み重ね、病虫害発生の早期発見や出現傾向を把握することでワカメの品質維持に努めるとともに、知見の積み上げによる将来的な病虫害発生機構の解明を目的とする。

4 水産資源の持続的利用に関する技術開発

(1) 漁業生産に影響を与える海況変動に関する研究(漁業資源部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p99-106

岩手県海域の海洋環境は、複数の海流が流入することにより複雑かつ季節的・経年的に変化が大きく、沿岸域の漁船漁業及び養殖業に与える影響も大きい。例えば、冬季から春季にかけて親潮系冷水が南偏して長期的に本県沿岸に接岸する異常冷水現象は、その年のワカメ養殖等に影響を及ぼすことがある。そのため、漁業指導調査船での海洋観測や定地水温観測、人工衛星画像などから得られる海洋環境データを情報発信するとともに、データの多面的な解析により漁海況予測技術の開発を検討し、漁業被害の軽減と生産効率の向上を目指す。
また、水産情報配信システム「いわて大漁ナビ」により県内魚市場の水揚げデータや水温情報を広報し、漁船漁業者や養殖業者の日々の操業を情報面から支援する。

(2) 地域性漁業資源の総合的な資源管理に関する研究(主要底魚類の資源評価)(漁業資源部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p107-129

岩手県海域に生息及び来遊する主要な漁獲対象資源の資源水準を評価し、その変動要因を推定することにより、多様で持続可能な定置網漁業及び漁船漁業の再構築に貢献する実践可能で効果の高い資源管理方策を提案することを目的とする。なお、本研究の一部は、国が進める我が国周辺の水産資源の評価及び管理を行う水産資源調査・評価推進委託事業により実施した。

(3) 震災による磯根資源への影響を考慮したアワビ・ウニ資源の持続的利用に関する研究(増養殖部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p130-135

東日本大震災津波による磯根生物への影響とその後の回復状況を、震災前の調査資料がある県内3か所(北部:洋野町、中部:宮古市、南部:大船渡市)で検討する。また、種苗生産施設の被災によりアワビやウニ類の種苗放流が中断・縮小したため、これらの生息量がどのように推移したかモニタリングする。

5 いわてブランドの確立を支援する水産加工技術の開発

(1) 加工技術の開発に関する研究
① 通電加熱技術などによる新たな製造技術の開発(利用加工部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p136-137

通電加熱は食材に電気を流すと産生する抵抗熱を用いた加熱法である。この技術は、加熱温度の制御が容易であり、食品を均一に加熱できる。食材によるが加熱温度をある範囲に制御すると、食材の熱変性を抑制しつつ殺菌や酵素失活ができるため、生鮮品である冷凍ウニ製造やイクラの硬化防止の技術開発を推進してきた。今年度は、通電加熱して前処理後、凍結 – 解凍したときのウニの身崩れ防止効果について、通電加熱後のウニの表面構造を電子顕微鏡により観察し関連性を調べた。また、新たな課題として、ツノナシオキアミ中のチロシナーゼ活性制御による黒化防止、サバの寄生虫(アニサキス)に対する通電加熱の効果を検証した。

(2) 県水産物の特徴等を活かした加工品開発等に関する研究(利用加工部)
① 県産水産物の原料特性に関する研究
② 県産水産物を利用した加工品開発等に関する研究

2019 岩手県水産技術センター年報 p138-143

本県では、近年、サケ、サンマ、スルメイカの不漁が続き、県内水産加工業者は加工原料の確保と単価上昇に苦慮している。一方、近年、サワラ、ブリ、マイワシなどの資源量は、高位もしくは増加傾向にあるとされ、本県でも水揚げ量が安定または増加している。しかし、本県では、従来、サワラやブリなどの漁獲量は少なく、加工原料への仕向けが少なかった。そこで、比較的安価な小型のサワラやブリの加工マニュアルを作成することとした。今年度は、これらの魚種は魚体サイズや脂質含量が漁獲時期により変化することを踏まえ各種加工品の試作を行った。併せて、中型のブリの加工品として、新巻を試作した。

③ 養殖貝類の呈味成分に関する研究(利用加工部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p144-151

広田湾や大船渡湾ではエゾイシカゲガイの養殖が行なわれ、地域特産品として広田湾では7月から10月の間、大船渡湾では1月から3月の間出荷販売されている。また、従来、マガキ養殖は内湾で行われていたが、近年では野田湾などの外湾でシングルシード養殖が可能となったことから、出荷を目的に養殖が行われている。これら県内で養殖されている貝類の一般成分(水分、グリコーゲン、タンパク質、脂質など)や呈味成分(グルタミン酸等の遊離アミノ酸など)に関する知見は非常に少なく、味の特徴を説明するための参考資料がほとんどなかった。本研究では、養殖貝類の成分の季節変動を把握するとともに食味評価の科学的根拠を示すことを目的とした。

(3) 低・未利用資源の有効利用に関する研究
① 機能性成分(セレノネイン)の有効活用(利用加工部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p152-153

サバ科魚類の血液に特に多く含有する「セレノネイン(セレンタンパク質)」は高い抗酸化性を有し、酸化障害を原因とするガンなどの疾病予防やアンチエイジングへの利用展開が期待される。そこで、当センターは各機関と連携し、サバ等の加工残滓からセレノネインを抽出する技術を開発した。この技術を県内水産加工業者に普及し、製造した素材を健康食品等への利用展開を推進し、技術実装を図ることを目的とする。

6 恵まれた漁場環境の維持・保全に関する技術開発

(1) 主要湾の底質環境に関する研究(漁場保全部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p154-157

県内主要5湾(久慈湾、宮古湾、山田湾、大槌湾及び広田湾)の底質環境を評価し、適正な漁場利用および増養殖業の振興に資する。

(2) 県漁場環境保全方針に定める重点監視水域(大船渡湾・釜石湾)の環境に関する研究(漁場保全部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p158-162

釜石湾及び大船渡湾は、岩手県漁場環境保全方針に基づく重点監視水域に指定されている。これらの湾において、水産生物にとって良好な漁場環境を維持するため、水質及び底質・底生生物を調査し、漁場環境の長期的な変化を監視している。
平成23年3月11日に発生した東日本大震災による津波で、両湾とも陸域から相当量の有機物等の流入、海底地形の変化・海底泥のかく乱等が生じたことで、湾内の養殖漁場環境が大きく変化した。また、両湾に設置された湾口防波堤は復旧工事により新たな構造となったことで、湾内の養殖漁場環境は今後も変化することが予想される。
そこで、湾内の漁場環境に影響を与える水質や底質をモニタリングし、その変化を漁業関係者に情報提供することにより適切な漁場管理を促す。

(3) ワカメ養殖漁場の栄養塩に関する研究(漁場保全部)

2019 岩手県水産技術センター年報 p163-164

ワカメの生育に影響を及ぼす栄養塩濃度の変化について、定点を経年調査し、情報を随時提供することで、ワカメ養殖の振興に資する。