1 漁業経営高度化・安定化に関する研究開発
(1) 漁業経営に関する研究(ほたて養殖経営体の経営分析)(企画指導部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p5-11
経営改善による養殖経営体の収益向上を図るためには、経営実態を把握する必要がある。そこで、県内のホタテガイ養殖を営む経営体の生産状況および経営状況を把握するとともに、その特性について解析した。
2 食の安全・安心の確保に関する技術開発
(1) 二枚貝等の貝毒に関する研究
① 麻痺性貝毒で毒化した介類の低毒化技術の開発(漁場保全部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p12-23
最近の研究により汽水性ベントスの多くは、セルラーゼ(セルロース消化酵素)を持つことが明らかとなっており、ベントスが摂餌して消化することにより貝毒原因プランクトンの発芽抑制が期待されている。本研究は、毒化した貝類の低毒化技術開発のため、国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所(以下、「水産技術研究所」という。)で進められているゴカイ等のマクロベントス(底生生物)を活用した貝毒原因プランクトンのシスト(種)の発芽抑制技術について、その導入の可能性を検討する。
② 貝毒モニタリング調査(漁場保全部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p24-26
貝類の毒化時期における水質の変化と貝毒原因プランクトンの出現状況及び貝類の毒化状況を調査することにより、解決策を探るための基礎資料とする。
3 生産性・市場性の高い産地形成に関する技術開発
(1) 秋サケ増殖に関する研究(漁業資源部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p27-47
岩手県の秋サケ回帰尾数は、平成8年度をピークに近年低迷しており、回帰尾数減少の原因解明と回復に向けた対策が求められている。
本研究では、確実な種卵確保による増殖事業の推進に資するため、資源変動を把握しながら回帰予測の精度向上を図ることを目的に、放流稚魚の追跡調査と回帰親魚の年齢・魚体サイズ・耳石等に係る調査を行う。また、早急な資源回復に資するため、人為的に関与できる種苗生産・放流技術の改良と普及を目的に、沿岸の高水温化に対応した放流時期やサイズの検討、環境変化に強い種苗を生産するための飼育環境や餌料、系統の検討を行うとともに、稚魚放流後の初期減耗を緩和するための海水馴致放流等の技術開発を行う。
(2) アワビ・ウニ等の増殖に関する研究
① ドローンによる海藻現存量の把握手法の検討(増養殖部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p48-52
アワビやウニ類は餌となる海藻類が不足すると、肥満度や身入りの低下、成長の停滞が生じる。これまでの調査結果から、本県沿岸に生育する海藻類のうち主要な餌料であるコンブの生育量は、冬期の海水温の高低に左右されることが明らかにされており、近年はこの時期の水温が高めに経過する影響でコンブの生育量が少ない年が多くなっている。この餌料海藻不足への対策としては、これまでの試験で、海中造林やウニ除去が一定の効果があることが確認されている。
海中造林やウニ除去の実施にあたっては、各漁場の藻場の分布状況の特徴を把握したうえで、最も効果が見込める漁場を選定して実施する必要がある。また、藻場の分布状況は種苗放流漁場の選定に際しても有益である。これまで、藻場の分布状況や海藻類の現存量の把握については、潜水による調査で対応しており、広範囲に漁場全体をとらえることが困難であったことから、近年他の道県で導入が検討されているドローン空撮画像による藻場解析手法の確立を試みた。本手法の藻場解析には、①多大な労力と時間を要する、②不慣れな人は藻場の判別が困難、といった課題がある。この課題の解決に向けて、AIのひとつである機械学習の導入を検討した。
② 餌料海藻造成手法の検討(増養殖部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p53-79
アワビやウニ類は餌の海藻類が不足すると、肥満度や身入りの低下、成長の停滞が生じる。これまでの調査結果から、本県沿岸に生育する海藻類のうち主要な餌料であるコンブの生育量は、冬期の海水温の高低に左右されることが明らかにされており、近年はこの時期の水温が高めに経過する影響でコンブの生育量が少ない年が続いている。この餌料海藻不足への対策としては、これまでの試験で、海中造林やウニ除去が一定の効果があることが確認されている。しかし、既存の海中造林では、海藻類の養成開始直後に芽落ちしやすく、その養成は不安定である。さらには天然餌料海藻の芽がウニの摂餌圧を被る冬期までに十分な量の海藻類を養成できておらず、海中造林でウニの摂餌圧を抑制するまでには至っていない。また、ウニの除去には多大な労力と経費を要すること、除去した痩せウニの事業規模での活用方法が確立していないことから、これらの対策は普及が停滞している。
以上のことから、天然餌料海藻の芽出し時期にウニの摂餌圧を分散させることで天然餌料海藻(主にコンブ)の芽を守り、繁茂させるための、簡便で効果的な餌料対策を検討する。加えて、瘦せウニの有効な活用方法として、光周期調節によるウニの成熟抑制効果を用いた新たな蓄養方法を検討する。
③ 効果的なナマコ増殖技術の開発(増養殖部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p80-81
ナマコは、近年の中国での需要増加や、アワビ・ウニと餌料を競合しないことなどから、栽培漁業対象種として漁業者やその関係団体から注目されている。本県では人工種苗生産技術が確立され、放流事業が行われているが、有効な標識技術がなかったことから放流技術に関する知見は極めて乏しく、放流効果も把握されていない。そのような状況に対し、近年、他の道県では、DNAを用いた親子鑑定の技術が開発され、放流後の追跡調査が可能となった。
そこで、このような遺伝情報を用いたナマコ種苗の追跡調査を行い、放流後の成長、生残状況を明らかにして、種苗放流による資源増大効果を把握するとともに、より効果的な放流技術を開発する。
④ より経済効果の高いアワビ資源管理手法の検討(増養殖部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p82-84
岩手県ではエゾアワビ(以下、アワビと記す)は重要な資源であるが、近年は漁獲量が低迷している。これは、東日本大震災津波による稚貝の流失や平成23年から平成26年までのアワビ種苗放流の休止や大幅な縮小によるアワビ資源の減少が原因である。加えて、平成28年以降は岩手県沿岸への冬から春季の冷水接岸がなく、ウニの食害による餌料海藻不足が生じていた。このような中で、種苗放流は安定的な資源添加が見込めることから、その重要性が増している。アワビの資源回復及び持続的な利用に当たっては、アワビ資源状況および放流貝の漁獲加入状況を把握し、資源状況に見合った方策の検討が必要である。
アワビの資源量については、漁獲データを用いて推定することが可能であり、殻長組成データを用いることで、VPA(コホート解析)により天然貝、放流貝の加入や漁獲率等の推定も可能となる。
以上より、放流貝の漁獲加入状況及びアワビ資源量を把握することで、効果的な資源管理方策の検討を図り、アワビ資源の回復及び持続的な利用につなげる。
(3) 海藻類養殖の効率生産化に関する研究
① 人工種苗生産技術に関する研究(増養殖部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p85-86
本県のワカメ養殖は、色の良さや葉の厚み等の品質を重視するとともに、病虫害による被害の発生を防ぐ観点から、3月から4月に限定して比較的若い葉体を収穫している。しかし、この方法では養殖施設当たりの生産量が少なくなるとともに漁家の収益にも影響することから、短期間でより早く生長するワカメ種苗の開発が生産者から求められている。また、近年出荷量が増加している、間引いたワカメを生出荷する「早採りワカメ」については、出荷時期を早めることや、早採りワカメを専用の施設で繰り返し生産することによる生産量の増加などにより、漁家の増収への寄与が期待できる。
本研究では、従来の人工種苗生産技術を改良し、早期に沖出しすることでワカメの生育を早めることが期待される種苗として、1.5~2cmほどの短い種糸に付着した種苗(以下「半フリー種苗」という。)の生産技術の開発に取り組み、その有効性が確認できたことから、生長が早い等の優良な形質を有する系統の検索を行い、これら技術の導入等によりワカメの生育を早め、養殖施設当たりの収穫量の増大や早期収穫の可能性について明らかにすることを目的とする。
(4) 二枚貝等養殖の安定生産に関する研究
① ホタテガイの安定生産手法の検討(増養殖部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p87-90
本県の重要な養殖対象種であるホタテガイを安定的に生産するためには、浮遊幼生の出現状況データ等を参考にしながら適期に採苗器を垂下し、良質な地場種苗を確保する必要がある。そこで、漁業者に対して適切な採苗時期の指導を行うことを目的として、浮遊幼生と付着稚貝の出現状況等を調査した。
② カキ類の新しい生産技術導入の検討(増養殖部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p91-93
本県では東日本大震災以降、マガキシングルシード養殖が新たな養殖手法として期待され、種苗の安定供給を求める声が大きい。当所では、安全な種苗の安定供給に向けて人工種苗生産技術開発試験に取り組み、シングルシード養殖に適した形状の種苗を集約的に生産できる「ボトルシステム」を確立したが、種苗の育成に1カ月以上要することや、相応の設備が必要となることから、生産現場での普及には至っていない。
近年、新たなシングルシード養殖資材として、①稚貝を容易に剥離できる天然採苗用採苗器「クペール」(総称)や、②適度な揺れで好ましい形状のカキを生産できる養成容器「バスケット」が、全国の生産現場において導入され始めている。
本研究では、これらの新しい資材を用いてマガキシングルシードの人工種苗生産・養殖方法の実証試験を行い、本県生産現場での導入可能性について明らかにすることを目的に設定した。
③ マガキの天然採苗手法の検討(増養殖部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p94-97
マガキは、本県の重要な養殖対象種であるが、東日本大震災により宮城県の種苗生産地が被災し、岩手県への種苗供給が不安定となった。さらに、海外ではカキ養殖へ重大な被害をもたらす疾病が発生しており、種苗の導入による病原体の持ち込みが危惧される。これらのことから、県内で種苗を生産する技術を確立させ、安全な種苗の安定供給を図る。
④ アサリ増養殖技術の検討(増養殖部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p98-101
本県では、養殖生産量の回復や漁家所得の向上につながる新規養殖対象種導入への期待が大きい。これまで新規養殖対象種として「アサリ」に注目し、アサリ養殖導入に向けて本県沿岸の漁場特性に合わせた増養殖方法の検討が行われてきたが、海面での中間育成時の生残が不安定なこと等の問題があった。
そこで、今年度は既存の種苗生産技術を生かし、海面での中間育成が不要な殻長6mmの大型種苗の量産試験に取り組んだ。具体的な研究項目としては、(1)より確実な産卵誘発方法の検討、(2)採苗時のへい死発生原因の究明、(3)殻長6mmまで陸上で中間育成を実施することの3点に設定した。
⑤ 病害発生状況の把握と対策検討(増養殖部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p102-106
近年、ヨーロッパザラボヤやフジツボが養殖ホタテガイや養殖カキへ大量付着し、養殖管理の作業負担の増加、養殖二枚貝の脱落、餌料の競合による養殖二枚貝の成長の悪化など深刻な問題を引き起こしている。ヨーロッパザラボヤは一旦漁場内に侵入すると排除は困難であり、付着個体の除去が現在取り得る対応策である。付着個体の除去は、親個体群の減少に伴う次世代個体の付着数の減少も期待できる。そこで、より効果的な付着個体の除去に向けて、付着時期等の予測や早期の把握に必要な知見を収集する。また、フジツボは基礎的知見が不足していることから、付着時期や種類等の情報収集を進め、防除に向けた対策を検討する。
本県では平成20年にマボヤ被嚢軟化症の発生が確認され、養殖マボヤがへい死するなど大きな被害を及ぼすようになった。本疾病対策として、定期検査を実施して発生状況を把握することで、他の海域への伝播を防ぐ。
(5) 水産生物の病害虫に関する研究
① 病害虫に関するモニタリング(増養殖部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p107-109
ワカメ、コンブは本県を代表する養殖種目である。これらの養殖種は、病虫害の発生や生理活性の低下等により減産や品質低下など大きな被害を度々受けてきたが、有効な対策が確立されておらず、早期刈取り指導などを通じて品質低下を水際で防いでいる状況にある。本研究は、ワカメ性状調査などの基礎的研究を積み重ね、病虫害発生の早期発見や出現傾向を把握することでワカメの品質維持に努めるとともに、知見の積み上げによる将来的な病虫害発生機構の解明を目的とする。
4 水産資源の持続的利用に関する技術開発
(1) 漁業生産に影響を与える海況変動に関する研究(漁業資源部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p110-120
本県海域には、親潮水、沿岸親潮水、津軽暖流水、黒潮系暖水が流入し、その季節的・経年的変動は漁船漁業及び養殖業に大きな影響を及ぼす。例えば、春季に親潮系冷水(親潮水及び沿岸親潮水)が南偏し、本県沿岸に5℃以下の水温帯が長期間接岸する異常冷水現象は、養殖ワカメの品質低下や生産減につながる。そこで、漁業指導調査船での海洋観測、定地水温観測、人工衛星画像などから得られる海洋観測データから本県の漁業生産に影響を及ぼす海況変動の兆候を捉えるとともに、今後の予測を行い、水産情報配信システム「いわて大漁ナビ」等により漁業者に広報することで、計画的な漁業生産活動に貢献する。
(2) 定置網及び漁船漁業における主要漁獲対象資源の持続的利用に関する研究(漁業資源部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p121-146
岩手県海域に生息及び来遊する主要な漁獲対象資源の資源水準を評価し、その変動要因を推定することにより、実践可能で効果の高い資源管理方策を提案することを目的とする。
なお、本研究の一部は、国が進める我が国周辺の水産資源の評価及び管理を行う水産資源調査・評価推進委託事業により実施した。
(3) 震災による磯根資源への影響を考慮したアワビ・ウニ資源の持続的利用に関する研究(増養殖部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p147-153
東日本大震災津波による磯根生物への影響とその後の回復状況を明らかにすることを目的に、震災前の調査資料がある県内2か所(北部:洋野町、中部:宮古市)で調査を行った。また、種苗生産施設の被災によりエゾアワビやウニ類の種苗放流が中断・縮小したため、これらの生息量の推移についても調査した。
5 いわてブランドの確立を支援する水産加工技術の開発
(1) 県産水産物の特徴等を生かした加工品開発等に関する研究
① 県産水産物の原料特性に関する研究(養殖サーモン)(利用加工部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p154-157
本県の主要漁獲対象種であるアキサケが近年不漁となり、サケ加工を生業とする県内業者にとって原料確保が難しい状況にある。一方で、県内の海面を利用したサーモン養殖は事業化が急速に進んでおり、今後増産が見込まれる中で、県産養殖サーモンの加工原料としての特性把握が求められている。
本研究では、県産養殖サーモンの加工利用促進を図るため、原料特性の分析を行い、その特徴など必要な情報を水産加工業者へ提供することを目的に冷凍耐性指標の分析を行う。
令和4年度は、県産養殖サーモン3魚種について、冷凍耐性指標の分析による数値化を行うとともに、今後分析を行うべき冷凍耐性指標の絞り込みを行った。
② 県産水産物の原料特性に関する研究(マイワシ)
③ 県産水産物を利用した加工品開発等に関する研究(マイワシ)(利用加工部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p158-165
本県の主要漁獲対象種であるサケ、サンマ、スルメイカ等が近年不漁となり、その加工を生業とする県内業者にとって原料確保が難しい状況にある。一方、マイワシをはじめ、サワラ、ブリなどの資源量は中位から高位、かつ維持から増加傾向にあることから、この資源を地域で最大限有効活用することが望まれている。
本研究では、資源回復が著しいマイワシの加工利用度を向上させるとともに、水産加工業者の原料転換を積極的に進めるため、加工品を試作して県内加工業者の製品化の参考とするための加工マニュアルを作成することを目的とする。
令和4年度は、マイワシについて加工原料として製品仕向けに影響を与える一般成分の変化を時期別、魚体サイズ別に調べた。また、マイワシ落し身製造マニュアル及び加工マニュアルを作成するとともに、水産加工業者への実装に向けた取り組みを行った。
④ 県産水産物を利用した加工品開発等に関する研究(ワカメの品質に関する研究)(利用加工部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p166-170
令和4年産養殖ワカメの加工適正の把握を目的として原藻pHの測定を行った。併せて、令和4年2月中旬から5℃以下の冷水が本県沿岸部に接岸したことから、2月下旬からクロロフィル含量の測定を追加した。さらに、県産ワカメのブランドの維持に資するため、塩蔵ワカメの品質調査を実施した。
⑤ 県産水産物の呈味成分に関する研究(マボヤ)(利用加工部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p171-172
本県水産物の消費拡大を推進するにあたり、加工利用促進の取り組みが必要不可欠であることから、本県水産物の特徴を可視化するため、呈味成分の分析を行い、特徴を生かした加工品の開発を支援することとしている。
本県の養殖マボヤは、主要輸出先である韓国が日本からの輸入規制を続けており、流通先が狭まっている状況となっている。また近年は、地先水産物の漁獲状況が著しく変化しているなかにあって、安定生産できる養殖マボヤの資源を活用した加工品を生産し、同時に需要拡大の取り組みを進めながら安定した販売につなげていく必要がある。しかし、マボヤは消費者の好みが大きく分かれる水産物として知られており、その国内市場規模は本県主要魚種であるアキサケ、サンマ、スルメイカ等に比べ小さい。
本研究では、養殖マボヤの加工品開発支援の一環として、独特の味を構成する呈味成分の数値化に取り組んだ。
(2) 県産水産物の高鮮度流通に関する研究
① 高鮮度加工流通システムに関する研究(サワラ)(利用加工部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p173-176
近年、本県の主力魚種である秋サケ、サンマ、スルメイカの不漁が続き、単価上昇により水産加工事業者は原料の確保に苦慮している。一方、サワラの漁獲量は近年増加しており、生鮮出荷や加工品開発の動きが活発化してきている。本研究では、サワラの有効活用を図ることを目的として、高鮮度流通に関する研究を実施したので報告する。
② 高鮮度加工流通システムに関する研究(マボヤ)(利用加工部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p177-180
本県で養殖されるマボヤは、主要輸出先であった韓国が東日本大震災発災以後に本県を含む東北地方からの水産物禁輸措置を継続しているため、国内の販路開拓が必要となっている。また、マボヤは消費者により好みが大きく分かれる水産物として知られており、その国内市場規模は秋サケ、サンマ、スルメイカ等の主要魚種の規模に比べ小さく、従来から食文化のある北海道、東北地域に留まっている現状にある。
そこで、需要拡大に向け、マボヤの食文化が確立されていない地域に商圏を延伸させるために、高鮮度を維持する流通技術の開発に取り組んだ。
なお、韓国に輸出していた時期と比較して販売価格が大幅に低下していることから、過去にマニュアル化した海水及び酸素を封入する輸送方法よりも、さらにコストを削減することを前提に開発を行った。
6 恵まれた漁場環境の維持・保全に関する技術開発
(1) 主要湾の底質環境に関する研究(漁場保全部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p181-185
県内主要5湾(久慈湾、宮古湾、山田湾、大槌湾及び広田湾)の底質環境を評価し、適正な漁場利用および増養殖業の振興に資する。
(2) 県漁場環境保全方針に定める重点監視水域(大船渡湾・釜石湾)の環境に関する研究(漁場保全部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p186-191
釜石湾及び大船渡湾は、岩手県漁場環境保全方針に基づく重点監視水域に指定されていることから、この両湾において、良好な漁場環境を維持するため、水質及び底質・底生生物を調査し、その長期的な変化をモニタリングする。
なお、両湾ともに、平成23年3月11日に発生した東日本大震災による津波で、陸域から相当量の有機物等の流入、海底地形の変化や海底泥のかく乱等が生じ、漁場環境が大きく変化した。また、両湾ともに、湾口防波堤が復旧工事により新たな構造となったことから、湾内の漁場環境は今後も震災以前とは異なる状態に変化することが予想される。そこで、湾内の水質や底質などの漁場環境をモニタリングし、その変化を漁業関係者に情報提供することにより、適切な漁場管理の実行を促す。
(3) ワカメ養殖漁場の栄養塩に関する研究
① 主要養殖漁場の栄養塩動向の把握(漁場保全部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p192-193
ワカメの生育に影響を及ぼす栄養塩濃度について、定期的に養殖漁場で調査を行い、その変動の状況を関係者へ情報提供し、ワカメ養殖の振興に資する。
② 栄養塩予測技術の精度向上(漁場保全部)
2022 岩手県水産技術センター年報 p194-199
海洋環境中の栄養塩濃度はワカメ等の藻類の生育に大きな影響を与える。岩手県ではワカメ養殖が盛んに行われており、栄養塩の動向を把握することは養殖ワカメの安定生産に極めて重要である。
岩手県沿岸は黒潮、親潮、津軽暖流など複数の海流が混ざり合う非常に複雑な海域であり、沿岸域の環境変化と併せてワカメ養殖への影響を適切に評価する必要がある。本研究では、沿岸域の環境を把握することにより適切な養殖管理に資するために、岩手県沿岸の海況と栄養塩動向の調査を行い、ワカメ養殖への影響を検討する。