令和5年度岩手県水産技術センター年報

年報・研究報告(PDFファイル)のダウンロードページはこちら

Pocket

1 漁業経営の高度化・安定化に関する研究開発

(1) 漁業経営に関する研究(企画指導部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p5-8

本県の沿海漁業協同組合(以下「漁協」とする)は、全22組合のうち21組合が定置網漁業を自営(以下「漁協自営定置」とする)しており、漁協自営定置の利益に依存する構造になっていることから、その水揚の良否が漁協経営を左右する現状にある。一方、近年では漁協自営定置の主力魚種であるサケの水揚金額が震災前平均値の2%まで落ち込むなど経営状況が悪化の一途を辿っていることから、早急に経営改善を図る必要があるものの、現状の岩手県が講じる取組みは水揚金額等の基礎的なデータ収集に留まっており、漁協毎の経営効率性や収益性といった経営改善策の立案に必要な知見が揃っていない。

以上の背景から、本研究では岩手県の漁協自営定置の経営効率性と収益性を明らかにし、今後の経営改善に寄与し得る基礎的な資料を提供することを目的に設定した。

(2) 市場流通に関する研究(企画指導部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p9-12

本県産養殖物の生産体制は、東日本大震災(以下、「震災」と呼称)の影響により壊滅的な被害を受けた。その後、水産基盤の復旧は概ね完了したものの、生産金額は震災前の7割未満に留まっており、流通面から対策を立てることが急務の課題となっている。

そこで、本研究では本県産養殖品目の流通実態等を明らかにすることによって、将来的な価格向上策や消費者ニーズに対応した出荷体制等の提案に資する基礎的な知見を提供することを目的に設定した。

2 食の安全・安心の確保に関する技術開発

(1) 二枚貝等の貝毒に関する研究
① 麻痺性貝毒で毒化した介類の低毒化技術の開発(漁場保全部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p13-16

貝毒原因プランクトンの発生量を減らすことを目的として、底生生物を活用した休眠胞子(シスト)の減少効果について検討した。

② 貝毒モニタリング調査(漁場保全部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p17-19

的確な貝毒の監視及び貝類の安全な流通に活用することを目的として、貝類の毒化時期における水質の変化と貝毒原因プランクトンの出現状況及び貝類の毒化状況について調査を行った。

3 生産性・市場性の高い産地形成に関する技術開発

(1) 秋サケ増殖に関する研究(漁業資源部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p20-35

岩手県の秋サケ回帰尾数は、平成8年度をピークに近年低迷しており、回帰尾数減少の原因解明と回復に向けた対策が求められている。

本研究では、確実な種卵確保による増殖事業の推進に資するため、資源変動を把握しながら回帰予測の精度向上を図ることを目的に、放流稚魚の追跡調査と回帰親魚の年齢・魚体サイズ・耳石等に係る調査を行った。また、早急な資源回復に資するため、人為的に関与できる種苗生産・放流技術の改良と普及を目的に、沿岸の高水温化に対応した放流時期やサイズの検討、環境変化に強い種苗を生産するための飼育環境や餌料、系統の検討を行うとともに、稚魚放流後の初期減耗を緩和するための海水馴致放流等の技術開発を行った。

(2) アワビ・ウニ等の増殖に関する研究
① ドローンによる海藻現存量の把握手法の検討(増養殖部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p36-41

アワビやウニ類は餌となる海藻類が不足すると、肥満度や身入りの低下、成長の停滞が生じる。これまでの調査結果から、本県沿岸に生育する海藻類のうちアワビ等の主要な餌料であるコンブの生育量は、冬季の海水温の高低に左右されることが明らかにされており、近年は冬季の水温が高めに推移することが多いためコンブの生育量が少ない年が多くなっている。このような餌料海藻不足への対策として、これまでの試験で海中造林やウニ除去が一定の効果があることが確認されている。しかし、これらの対策の導入にあたっては、各漁場の藻場の分布状況の特徴を把握したうえで、最も効果が見込める漁場を選定して実施する必要がある。また、藻場の分布状況は種苗放流漁場の選定に際しても有益である。

藻場の分布状況や海藻類の現存量の把握については、これまで潜水による調査を行っており、広範囲に漁場全体をとらえることが困難であったことから、近年他の道県で導入が検討されているドローン空撮画像による藻場解析手法の確立を試みた。本調査により、より簡易的にコンブ場等大型海藻類の藻場を把握する統一したモニタリング方法の確立に向け、ドローンやAIを活用した藻場解析手法の構築を目指した。

② 餌料海藻造成手法の検討(増養殖部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p42-48

本県沿岸ではウニ焼けによるアワビやウニ類の餌料海藻不足が問題となっている。ウニ焼けへの対策としては、漁場に過剰に生息するウニを適正な密度まで減らすことが求められ、その具体的な対策としては、「天然のウニ漁期により多くのウニを漁獲すること」や「ウニ焼け漁場から痩せウニを除去すること」などが挙げられる。しかし、ウニ漁期における既存の生産工程では、漁獲が時化や天候に左右される他、漁獲当日のむき身加工による時間や労力が制約となり漁獲量が制限される。漁獲後に短期間無給餌で蓄養できれば複数日に渡ってのむき身加工が可能となり、ウニの漁獲量増加が期待される。

また、ウニ焼け漁場から除去した痩せウニに給餌をして、身入りを良くしてから販売する取り組みが各地で進められているが、産卵期に身溶けが生じることから出荷時期が制限されることが課題となっている。

そこで、本研究では天然のウニの安定出荷や漁獲量増加に向けて、短期間無給餌で蓄養した場合における品質の変化などを把握し、ウニの生産工程の見直しを検討する。加えて、痩せウニの有効な活用方法として、光周期調節によるウニの成熟抑制効果を用いた新たな蓄養方法を検討する。

③ より経済効果の高いアワビ資源管理手法の検討(増養殖部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p49-52

岩手県ではエゾアワビ(以下、アワビとする)は重要な資源であるが、近年は漁獲量が低迷している。その一因として、東日本大震災津波による稚貝の流失や平成23年から平成26年までのアワビ種苗放流の休止もしくは大幅な縮小によるアワビ資源の減少が挙げられる。加えて、平成28年以降は岩手県沿岸への冬から春季の冷水接岸がなく、ウニの食害による餌料海藻不足が生じていた。このような中で、種苗放流は安定的な資源添加が見込めることから、資源回復対策としてその重要性が増している。アワビの資源回復及び持続的な利用に当たっては、アワビ資源状況および放流貝の漁獲加入状況を把握し、資源状況に見合った方策の検討が必要である。アワビの資源量については、漁獲データを用いて推定することが可能であり、殻長組成データを用いることができる場合には、VPA(コホート解析)により天然貝、放流貝の加入や漁獲率等の推定も可能となる。

以上により、アワビ資源の回復及び持続的な利用につなげることを目的に放流貝の漁獲加入状況及びアワビ資源量を推定し、効果的な資源管理方策の検討を行った。

(3) 海藻類養殖の効率生産化に関する研究
① 人工種苗生産技術に関する研究(増養殖部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p53-55

本県のワカメ養殖は、生産量において全国で第2位と沿岸域における養殖漁業対象種として重要な産業となっている。本研究では、より大きいサイズで本養成が開始できるワカメ人工種苗生産技術として「半フリー種苗」の技術開発を行うとともに、同種苗を用いた養殖技術のマニュアル化に向けた養殖試験を行った。

また、ワカメの半フリー種苗生産技術が応用可能であるか検討を行うため、複数種の海藻を対象に試験採苗を行った。

(3) 海藻類養殖の効率生産化に関する研究
② コンブ養殖に関する検討(増養殖部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p56-60

本県のコンブ養殖では、近年、海水温の上昇による養殖期間の短縮や品質低下(末枯れ)が問題となっている。この問題の解決にあたっては、種苗を早期に沖出しして養殖期間を拡大することや、大きく生長させた種苗を沖出しして収穫時期を前倒しすることにより末枯れを防ぐことなどが挙げられることから、その実現に向けて従来の人工種苗生産技術の改良が求められる。

本研究では、コンブ人工種苗生産技術の改良を目的として、コンブ母藻の成熟誘導技術を用いて早期から種苗生産を行うとともに、主にワカメ養殖に用いられている1.5~2cmほどの短い種糸に付着した種苗(以下「半フリー種苗」という。)をコンブ養殖においても適用し、生産した半フリー種苗を実際に沖出しして生長度合いなどを比較する試験を行った。また、試験結果を踏まえて収穫量の増大や早期収穫の可能性についても検討した。

(4) 二枚貝等養殖の安定生産に関する研究
① ホタテガイの安定生産手法の検討(増養殖部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p61-66

本県の重要な養殖対象種であるホタテガイを安定的に生産するためには、浮遊幼生の出現状況データ等を参考にしながら適期に採苗器を垂下し、良質な地場種苗を確保する必要がある。そこで、浮遊幼生と付着稚貝の出現状況等を調査し、そのデータを生産者等に情報提供した。

また、令和5年度は本県沿岸域に黒潮続流が接近したことから、海水温が異常に高い状態となり養殖ホタテガイのへい死等が発生したため、高水温による影響について把握するため、ホタテガイ養殖を行っている沿海漁業協同組合から聞き取り調査を行った。

② アサリ増養殖技術の検討(増養殖部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p67-71

本県では、養殖生産量の回復や漁家所得の向上につながる新規養殖対象種導入への期待が大きい。特に、近年の海水温上昇により、ホタテガイ等の既存の養殖種の不調が深刻化し、高水温耐性のある養殖種の検討が求められている。これまで新規養殖対象種としてアサリRuditapes philippinarum (A. Adams & Reeve, 1850) に注目し、アサリ養殖導入に向けた種苗量産技術の開発や本県沿岸の漁場特性に合わせた養殖方法の検討が行われてきた。しかしその効率性や採算性についていくつか問題があった。

そこで、今年度は、次のことについて検討を行った。(1)種苗量産技術の開発として、採苗方法に関する検討を行った。(2)本県沿岸の漁場特性に合わせた養殖方法の検討として、令和4年度に水産技術センター(以下、センター)で作出した中間育成不要な大型種苗を用いて、県内3漁協(三陸やまだ漁協、新おおつち漁協、越喜来漁協)において養殖試験を行った。本試験では、生残率を上げるために養殖基質を軽石からアンスラサイトへ変更し、食害生物除去のために定期的な淡水浴を新たに実施した。

③ 病害発生状況の把握と対策検討(増養殖部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p72-76

近年、ヨーロッパザラボヤやフジツボが養殖ホタテガイに大量付着し、養殖管理の作業負担の増加、貝の脱落、餌料の競合による成長の悪化など深刻な問題を引き起こしている。ヨーロッパザラボヤは一旦漁場内に侵入すると排除は困難であり、対策として洗浄機による沖洗いが実施されている。そこで、本研究ではより効果的な沖洗い時期の検討に向けて、付着時期や付着量の年変動について調査した。また、フジツボは基礎的知見が不足していることから、付着時期や種類等の情報収集を進め、防除に向けた対策について検討した。

また、本県では平成20年にマボヤ被嚢軟化症の発生が確認され、養殖マボヤがへい死するなど大きな被害を及ぼすようになった。本疾病が他の海域へ伝播することを防ぐための対策として、定期検査を実施して発生状況を把握した。

(5) 水産生物の病害虫の防除に関する研究
① 病害虫対策に関するモニタリング(増養殖部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p77-80

ワカメ、コンブは本県を代表する養殖種目である。これらの養殖種は、病虫害の発生や生理活性の低下等により減産や品質低下など大きな被害を度々受けてきたが、有効な対策が確立されておらず、早期刈取り指導などを通じて品質低下を水際で防いでいる状況にある。本研究は、ワカメ性状調査などの基礎的研究を積み重ね、病虫害発生の早期発見や出現傾向を把握することでワカメの品質維持に努めるとともに、知見の積み上げによる将来的な病虫害発生機構の解明を目的とする。

4 水産資源の持続的利用に関する技術開発

(1) 漁業生産に影響を与える海況変動に関する研究(漁業資源部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p81-90

本県海域には、親潮水、沿岸親潮水、津軽暖流水および黒潮系暖水が流入し、その季節的・経年的変動は漁船漁業及び養殖業に大きな影響を及ぼすことが知られている。そこで、漁業指導調査船での海洋観測、定地水温観測、人工衛星画像などから得られる海洋観測データから本県の漁業生産に影響を及ぼす海況変動の兆候を捉えるとともに、今後の予測を行い、水産情報配信システム「いわて大漁ナビ」等により漁業者に広報することによって、計画的な漁業生産活動に貢献することを目的に試験を実施した。

(2) 定置網及び漁船漁業における主要漁獲対象資源の持続的利用に関する研究(漁業資源部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p91-114

岩手県海域に生息及び来遊する主要な漁獲対象資源の資源水準を評価し、その変動要因を推定することにより、実践可能で効果の高い資源管理方策を提案することを目的とする。なお、本研究の一部は、国が進める我が国周辺の水産資源の評価及び管理を行う水産資源調査・評価推進委託事業により実施した。

(3) 震災による磯根資源への影響を考慮したアワビ・ウニ資源の持続的利用に関する研究(増養殖部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p115-121

東日本大震災津波による磯根生物への影響とその後の回復状況を明らかにすることを目的として、震災前の調査資料がある県内2か所(北部:洋野町、中部:宮古市)においてスキューバ潜水による調査を行った。また、種苗生産施設の被災によりエゾアワビやウニ類の種苗放流が中断・縮小したことによって、これらの生息量がどのように推移したのかについてモニタリング調査を行った。

5 いわてブランドの確立を支援する水産加工技術の開発

(1) 県産水産物の特徴等を生かした加工品開発等に関する研究
① 県産水産物を利用した加工品開発等に関する研究(ワカメの品質に関する研究)(利用加工部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p122-129

令和5年産養殖ワカメの加工適正の把握を目的として原藻pHの測定を行った。さらに、県産ワカメのブランド維持に資するため、令和5年産湯通し塩蔵ワカメの品質調査を実施した。併せて、湯通し塩蔵ワカメ・コンブに増殖して異物クレームの対象となる好塩性微生物の種の推定や性状確認を行った。

② 県産水産物の原料特性に関する研究(マイワシ)(利用加工部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p130-132

本県の主要漁獲対象種であるサケ、サンマ、スルメイカ等が近年不漁となり、その加工を生業とする県内業者にとって原料確保が難しい状況にある。一方、マイワシをはじめ、サワラ、ブリなどの資源量は中位から高位、かつ維持から増加傾向にあることから、この資源を地域で最大限有効活用することが望まれている。

本研究では、資源回復が著しいマイワシの加工利用度を向上させるとともに、県内水産加工業者の原料転換を積極的に進めるため、加工品を試作して製品化の参考となる加工マニュアルを作成・普及することを目的とする。

令和5年度は、マイワシについて加工原料として製品仕向けに影響を与える一般成分の変化を時期別、魚体サイズ別に調べた。また、令和4年度までに作成したマイワシ落し身製造マニュアル及び加工マニュアルを活用し、水産加工業者への実装に向けた取り組みを行った。

③ 県産水産物の原料特性に関する研究(サワラ)(利用加工部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p133-137

本県の主要漁獲対象種であるサケ、サンマ、スルメイカ等が近年不漁となり、その加工を生業とする県内業者にとって原料確保が難しい状況にある。一方、マイワシをはじめ、サワラ、ブリなどの資源量は中位から高位、かつ維持から増加傾向にある。本研究では、この資源を地域で最大限有効活用するため、近年資源が中位にあるサワラの原料特性を把握するとともに、生産量の多い地域における流通加工実態について、聞き取り調査を実施した。

④ 県産水産物の原料特性に関する研究(養殖サーモン)(利用加工部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p138-142

近年、本県の主要漁獲対象種であるアキサケが不漁となり、サケ加工を生業とする県内業者にとって原料確保が難しい状況にある。一方で、県内の海面を利用したサーモン養殖は事業化が進んでおり、今後も増産が見込まれる中で、県産養殖サーモンの加工原料としての特性把握が求められている。

本研究では、県産養殖サーモンの加工利用促進を図るため、原料特性の分析を行い、その特徴など必要な情報を水産加工業者へ提供することを目的に冷凍耐性指標の分析を行う。

令和5年度は、県産養殖サーモン3魚種について、令和4年度に検討した冷凍耐性指標の分析による数値化を行った。

(2) 低・未利用資源の有効利用に関する研究
① 廃棄する小型養殖マボヤの有効利用に関する研究(利用加工部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p143-149

本県で生産される養殖ホヤは、東日本大震災後の韓国の禁輸措置を契機に国内流通が中心となっている。国内向けの出荷基準が厳しく、中小型個体は出荷できないため全生産量の7~8割が廃棄されるが、震災前に行われていた韓国輸出では、中小型個体でも出荷していたため、収益性が大幅に低下した。

今後、漁業者の引退や、より収益性の高い漁業への転換等に伴い、本県の養殖ホヤ生産量の減少が懸念される。そこで、出荷できない未利用の養殖ホヤを加工原料化することで、現在の生産体制を維持しつつ収益性の向上を図り、マボヤ養殖を行う漁業者を支援することを目的に加工試験を実施した。

6 恵まれた漁場環境の維持・保全に関する技術開発

(1) 主要湾の底質環境に関する研究(漁場保全部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p150-154

県内主要5湾(久慈湾、宮古湾、山田湾、大槌湾及び広田湾)の底質環境を評価し、適正な漁場利用および増養殖業の振興に資することを目的に調査を行った。なお、令和5年度の調査は久慈湾において実施した。

(2) 県漁場環境保全方針に定める重点監視水域(大船渡湾・釜石湾)の環境に関する研究(漁場保全部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p155-160

釜石湾及び大船渡湾は、岩手県漁場環境保全方針に基づく重点監視水域に指定されていることから、この両湾において良好な漁場環境を維持するため、水質及び底質・底生生物の長期的な変化についてモニタリング調査を行った。

なお、両湾ともに平成23年3月11日に発生した東日本大震災による津波で、陸域から相当量の有機物等の流入、海底地形の変化や海底泥のかく乱等が生じ、漁場環境が大きく変化した。また、両湾ともに湾口防波堤が復旧工事により新たな構造となったことから、湾内の漁場環境は今後も震災以前とは異なる状態に変化することが予想される。そこで、湾内の水質や底質などの漁場環境をモニタリングし、その変化を漁業関係者に情報提供することにより、適切な漁場管理の実行を促すことを目的に調査を行った。

(3) ワカメ養殖漁場の栄養塩に関する研究
① 主要養殖漁場の栄養塩動向の把握(漁場保全部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p161-162

ワカメの生育に影響する栄養塩濃度について、定期的に養殖漁場で調査を行い、その変動の状況を関係者へ情報提供し、ワカメ養殖の振興に資する。

② 栄養塩予測技術の精度向上(漁場保全部)

2023 岩手県水産技術センター年報 p163-174

海洋環境中の栄養塩濃度はワカメ等の藻類の生育に大きな影響を与える。岩手県ではワカメ養殖が盛んに行われており、栄養塩の動向を把握することは養殖ワカメの安定生産に向けて極めて重要である。

岩手県沿岸は黒潮、親潮、津軽暖流など複数の海流が混ざり合う非常に複雑な海域であり、沿岸域の環境変化と併せてワカメ養殖への影響を適切に評価する必要がある。本研究では、沿岸域の環境を適切に把握するために、岩手県沿岸の海況と栄養塩動向の調査を行い、ワカメ養殖への影響について検討した。