令和6年度岩手県水産技術センター年報

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1 漁業経営の高度化・安定化に関する研究開発

(1) 漁業・養殖業の経営改善に関する研究
ア 養殖業経営体の収益性・効率性の向上に関する研究(企画指導部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p5-9

養殖ワカメは多くの漁業者が着業する本県で最も重要な養殖品目であるが、かつて4万トンを超えていた生産量は現在2万トン以下まで落ち込んでおり、その回復に向けた取組が急務となっている。減産の主要因として養殖行使者数の減少を指摘した推計結果を踏まえると(*1)、養殖行使者の退出を防ぐためにも経営の安定化に寄与する施策を講じる必要があるが、近年の経営構造が明らかになっていないために具体的な施策の立案に必要な知見が揃っていないのが現状である。

以上の背景により、本研究では生産量・金額ともに最上位に位置する大船渡市綾里地区を事例に選定したうえで、主に東日本大震災後の動向に着目しながらワカメ養殖漁家の経営構造を明らかにすることを目的に設定した。

(*1)宮田勉(2011)「三陸におけるワカメ養殖業の制度要因-3.11大震災前後の比較-」、『国際漁業研究』第10巻第1号、pp.45-49。

(1) 漁業・養殖業の経営改善に関する研究
イ 定置網漁業の収益性・効率性の向上に関する研究(企画指導部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p10-13

本県の沿海漁業協同組合(以下、漁協と略記)は、全22組合のうち21組合が定置網漁業を自営(以下、漁協自営定置と略記)しており、漁協自営定置の利益に依存する構造になっていることから、その水揚の良否が漁協経営を左右する現状にある。一方、近年では漁協自営定置の主力魚種であるサケの水揚金額が最盛期(平成8年)の1%未満まで落ち込むなど経営状況が悪化の一途を辿っており、それに伴って漁協本体も経営の危機に直面している。漁協の経営改善を図るためには、主力事業である漁協自営定置の効率的な経営を実現する必要があるが、既存研究の殆どが収支動向の現状把握に留まっており、経営効率性は明らかになっていなかった。

以上の背景から、本研究では定量的な経営分析を行うことによって岩手県内の漁協自営定置の経営効率性を明らかにすることを目的に設定した。

(2) 県産水産物のマーケティングに関する研究
サーモン養殖の新規参入促進に関する研究(企画指導部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p14-19

我が国の魚介類消費量は平成13年度の40.2kg(1人1年当たり換算)をピークとして減少傾向にあるが(*1)、対照的に「サーモン」と呼称される海面で養殖されたニジマスやギンザケ等は根強い人気を維持している。岩手県においても、令和元年4月からサケ不漁による漁協経営の悪化や水産加工業者の原料不足といった諸問題の解決を目的としてサーモン養殖の試験操業が開始され、令和7年3月時点で県内7経営体が海面養殖もしくは試験に取り組んでいる。今後も持続的な養殖を実現し、サーモンに対する旺盛な需要へ応え続けるためには、養殖コストの低減化などの経営安定化が必須となる。そして、経営安定化を実現するための第一歩として、岩手県におけるサーモン養殖の生産・経営構造を把握する必要がある。しかしながら、岩手県におけるサーモン養殖業の経営面に着目した先行研究は久慈市と大槌町における事業化の経過や生産実態を取り上げた戸川(2022)(*2)および内田(2024)(*3)のみに留まっているのが現状である。さらに、これらの先行研究はいずれも具体的な収支動向には言及しておらず、農林水産省が取りまとめた統計資料である『漁業経営統計調査』を参照してもサーモン養殖業に関するデータは掲載されていない。つまり、先行研究と統計資料を参照するだけでは、久慈市と大槌町を除く岩手県内各地区の生産・経営構造を把握することができない状況にある。

以上の背景により、本研究では岩手県におけるサーモン養殖業の事例分析を行い、生産構造や収支動向、収益性などの経営実態を明らかにすることを目的に設定した。なお、特に断りが無ければ本稿は研究報告第12号に掲載した及川(2025)の報文(後述の「結果の発表・活用状況等」を参照)に準拠している。

(*1)水産庁(2024)『令和5年度水産白書』、https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/R5/240611.html(2024年12月5日参照)。
(*2)戸川富喜(2022)「岩手県久慈市漁協におけるサケ科魚類養殖への新規参入」、『養殖ビジネス』59(1)、pp.13-17。
(*3)内田亨(2024)「ローカルにおけるサーモン養殖の事業化-岩手大槌サーモンの事例-」、『新潟国際情報大学国際学部紀要』(9)、pp.97-102。

2 食の安全・安心の確保に関する技術開発

(1) 二枚貝等の貝毒に関する研究
ア 麻痺性貝毒原因プランクトン発芽抑制技術の開発(漁場保全部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p20-21

貝毒原因プランクトンの発生量を減らすため、底生生物を活用した休眠胞子(シスト)減少効果について室内試験を行う。

(1) 二枚貝等の貝毒に関する研究
イ 貝毒モニタリング調査(漁場保全部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p22-24

介類の安全・安心な流通に資することを目的として、介類の毒化時期における水質の変化と貝毒原因プランクトンの出現状況および貝類の毒化状況について調査を行った。

3 生産性・市場性の高い産地形成に関する技術開発

(1) 環境変化に対応した技術開発
① 海洋環境変化に対応したサケ資源の増殖技術の開発(漁業資源部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p25-36

岩手県の秋サケ回帰尾数は、平成8年度の2,447万尾のピーク以降、平成11~21年度に平均860万尾、平成22~30年度に平均380万尾、令和元年以降に平均34万尾と段階的に減少した。これは、平成7~17年級、平成18~26年級、平成27年級以降の段階的な回帰尾数減少による。近年、岩手県沿岸では、沿岸親潮が接岸することによる低水温化や黒潮の大蛇行に伴う黒潮続流の北偏による高水温化、餌となる動物プランクトンの減少、南下する海流の強勢化など、春季の環境が著しく変化している。このことが、放流した稚魚の生残率の低下につながり、資源の低迷が続く要因と考えている。

本研究では、海洋環境の変化に対応したサケ資源の増殖技術を開発して資源回復を図るため、これまで得られた鱗や耳石サンプルから成長解析などを行って資源変動要因を再検討するほか、高水温や強い海流に対抗できる健康で強靭な稚魚の生産、放流技術の開発を行う。また、県内のサケふ化放流技術を存続させるために、ふ化場の有効活用手法を検討する。

(1) 環境変化に対応した技術開発
② 海洋環境変化に対応した磯根資源の増殖に関する研究
ア 磯根資源への海洋環境変化の影響に関する研究(増養殖部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p37-44

県北部および県中部の大規模増殖場が造成から30年以上が経過し、この間アワビをはじめとする磯根生物、海藻類の生息量等を継続的にモニタリングしてきた結果、生物群集の遷移状況を把握してきたほか、東日本大震災津波による生物群集への影響、その後の回復過程等資源管理に有用なデータを取得してきた。

近年、冬季の高水温による餌料海藻不足が継続し磯根生物の資源状況が悪化しており、適切な資源管理の下での漁獲が必要であることから、長期のモニタリング調査のデータに基づく海洋環境変化の影響を把握し、変化に対応した資源管理手法を提案することで、資源の回復、持続的な利用を図る。

(1) 環境変化に対応した技術開発
② 海洋環境変化に対応した磯根資源の増殖に関する研究
イ 効率的な藻場のモニタリング手法の開発(増養殖部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p45-48

近年、本県では冬季海水温の上昇等によりウニが活発に活動してコンブ等の芽を食べ尽くす磯焼けが発生し、アワビなどの磯根資源が減少していることから、令和3年3月に「岩手県藻場保全・創造方針(以下、「県藻場ビジョン」という)」を策定し、令和4年度から水産環境整備事業等で、着定基質の投入によるハード対策とウニ除去などのソフト対策を一体的に行い、藻場の造成を進めている。そのような中、早期に藻場を回復させるため、これまでの対策の効果検証を速やかに実施し、施策を展開していく必要がある。

県藻場ビジョンでは、減少した藻場を広範囲に回復させるため、設置した着定基質上に繁茂した海藻群落から、コンブの遊走子が潮流等によって周辺海域に拡散し、藻場を拡大させることとしているが、本県海域における着定基質上に繁茂した海藻群落からの藻場の拡大範囲が不明であるため、本調査で遊走子の拡散状況を確認した。また事業後の造成効果を定量的に表すため、潜水調査によらない簡易な藻場の確認手法として、環境DNA解析によるコンブの現存量把握手法の開発を目指した。

(1) 環境変化に対応した技術開発
② 海洋環境変化に対応した磯根資源の増殖に関する研究
ウ 餌料海藻増殖手法の検討(増養殖部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p49-52

本県沿岸では磯焼けによるアワビやウニ類の餌料海藻不足が問題となっている。磯焼けへの対策としては、漁場に過剰に生息するウニを適正な密度まで減らすことが求められ、磯焼け漁場から除去した痩せウニを養殖して、身入りを良くしてから販売する取り組みが各地で進められている。しかしながら、養殖ウニを天然ウニと同じ時期に出荷しても採算性が合わないことや産卵期の身溶け・給餌海藻不足により出荷時期が制限されることが課題となっている。

そこで、本研究では痩せウニの有効な活用方法として、光周期調節によるウニの成熟抑制効果および海藻代替餌料を用いた新たな養殖方法を検討することを目的として試験を実施した。

(1) 環境変化に対応した技術開発
③ 海洋環境変化に対応した海藻類養殖の安定生産に関する研究
ア 養殖ワカメの増産に関する研究(増養殖部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p53-57

本県のワカメ養殖は、沿岸域における養殖漁業対象種として重要な産業となっている。本研究では、大型種苗による本養成が可能なワカメ人工種苗生産技術として「半フリー種苗」の技術開発を行うとともに、同種苗を用いた養殖技術マニュアルの改訂に向けた養殖試験を行った。加えて、近年の高水温化傾向を踏まえ、高水温耐性ワカメ種苗の選抜育種試験、メカブ陸上保管方法の検討、徳島県鳴門で実施されている陸上保苗を参考に陸上保苗方法の検討を行った。

(1) 環境変化に対応した技術開発
③ 海洋環境変化に対応した海藻類養殖の安定生産に関する研究
イ 海藻類養殖の多様化に関する検討(増養殖部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p58-64

本県のコンブ養殖は、海水温の上昇による養殖期間の短縮や品質低下(末枯れ)が問題となっている。この問題の解決にあたっては、種苗を早期に沖出しして養殖期間を拡大することや、大きく生長させた種苗を沖出しして収穫時期を前倒しすることにより末枯れを防ぐことなどが挙げられ、その実現に向けて従来の人工種苗生産技術の改良が求められている。本研究では、コンブ人工種苗生産技術の改良を目的として、主にワカメ養殖に用いられている1.5~2.0cmほどの短い種糸に付着した種苗(以下「半フリー種苗」という。)をコンブ養殖においても適用し、生産した半フリー種苗を沖出しして生長度合いなどを比較する試験を行った。また、試験結果を踏まえて収穫量の増大や早期収穫の可能性についても検討した。

また、近年の高水温化や貝毒長期化により、海藻類養殖への機運が高まっていることから、多様な海藻種の種苗生産から養殖試験を実施し、最適な種苗生産および養殖方法の検討を行った。

(1) 環境変化に対応した技術開発
④ 海洋環境変化に対応した貝類養殖の安定生産に関する研究
ア ホタテガイの安定生産手法の検討(増養殖部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p65-70

本県の重要な養殖対象種であるホタテガイを安定的に生産するためには、浮遊幼生の出現状況データ等を参考にしながら適期に採苗器を垂下し、良質な地場種苗を確保する必要がある。そこで、ホタテガイの浮遊幼生と付着稚貝の出現状況等を調査し、そのデータを生産者等に情報提供した。

近年、本県でも高水温となる年が頻発していることから、高水温時期におけるホタテガイ養殖管理のための基礎資料とするために、県内のホタテガイ養殖漁場の水深別の水温を調べた。

(1) 環境変化に対応した技術開発
④ 海洋環境変化に対応した貝類養殖の安定生産に関する研究
イ 貝類養殖の多様化に関する研究(増養殖部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p71-77

本県海域では、黒潮続流の北偏による高水温状態の継続により、主要な養殖生産物であるホタテ等の減産が深刻化していることから、海洋環境変化に対応した貝類養殖の安定生産に関する研究が求められている。
平成30年度からは、高水温耐性のある新規養殖対象種としてアサリ養殖の導入が試みられてきた。今年度からは、海洋環境変化に対応した貝類養殖の多様化を促すため、アサリに加えてヨーロッパヒラガキの養殖技術開発を実施した。

(1) 環境変化に対応した技術開発
⑤ 漁獲が増加している資源および未利用資源の有効利用に関する研究
ア 漁獲が増加している資源および未利用資源の生態特性の解明と新規漁法の導入(漁業資源部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p78-81

近年、黒潮大蛇行に伴う黒潮続流の三陸海域への北上や暖水渦の強勢化等により、海洋環境が大きく変化している。そのため、漁獲物の分布域の変化や種組成の変化がみられており、特に、これまで利用していない魚種では、本県で行っている漁具・漁法では効率的に漁獲できない可能性がある。

本研究では、近年漁獲量が増加している魚種を効率的に漁獲できる漁具・漁法を検討し、普及することを目的とする。

(1) 環境変化に対応した技術開発
⑤ 漁獲が増加している資源および未利用資源の有効利用に関する研究
イ 漁獲が増加している資源および未利用資源の加工原料としての評価・加工品開発(利用加工部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p82-87

本県の主要漁獲対象種であるサケ、サンマ、スルメイカ等の主要魚種の漁獲量が減少傾向にある中、三陸海域ではテナガダラ、タチウオ等の暖水性魚種の資源が増えている。これらの魚種の有効利用を図り、加工原料不足の解消に資することが期待される。これらの暖水系魚種は、本県において馴染みが無く、加工原料への利用が進んでいないことから、成分等の分析を行って、加工原料特性を把握するとともに、必要に応じて加工品のレシピ開発を行い、県内の水産加工事業者に提供し利用拡大を図る。

(2) 水産生物の病虫害防除に関する研究
ア 海面増養殖における防疫に関する研究(増養殖部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p88-90

マボヤ被嚢軟化症は持続的養殖生産確保法に基づく特定疾病に指定されていることから、定期的なモニタリングと発生時のまん延防止措置の対応が必要となっている。海藻類養殖ではワカメへのスイクダムシの付着、二枚貝養殖ではマガキの卵巣肥大症、種苗生産施設ではアワビの筋萎縮症やヒラメのアクアレオウイルス症など各種疾病の問題が発生しており、その対策が必要となっている。

また、平成30年から、本県海域でもサケマス類の海面養殖が始まり、現在は6カ所にまで拡大しており、その疾病への対応も必要となってきている。本研究課題ではこれらの問題に対応するために必要な一連の調査研究に取り組み、本県海面養殖業等での防疫対策を推進することを目的としている。

(2) 水産生物の病虫害防除に関する研究
イ 付着生物の防除に関する研究(増養殖部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p91-94

近年、ヨーロッパザラボヤやフジツボが養殖ホタテガイに大量付着し、養殖管理の作業負担の増加、貝の脱落、餌料の競合による成長の悪化など深刻な問題を引き起こしている。ヨーロッパザラボヤは一旦漁場内に侵入すると排除は困難であり、唯一の対策として洗浄機による沖洗いが実施されている。近年の研究により、ホヤ類幼生は暗くなると遊泳運動が活発になる、上向きに運動する傾向がある、上に移動する時のみ物に接触すると付着するといった特徴が分かっていることから、今年度は付着軽減を目的とした試験を行った。一方、フジツボ類は基礎的知見の収集を目的に付着時期や種類等の情報収集や調査を行い、防除に向けた対策について検討した。

4 水産資源の持続的利用に関する技術開発

(1) 漁海況の中長期的な変化とその要因に関する研究(漁業資源部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p95-101

本県海域には、親潮水、沿岸親潮水、津軽暖流水、黒潮系暖水が流入している。近年の本県沿岸域の海水温は、平成29年8月から現在も続く黒潮大蛇行を起因とした黒潮続流の北偏や、沿岸親潮の接岸などにより、極端な高低が発生しており、漁獲量や魚種組成に変化が見られている。また、海流に加えて、発達した低気圧や台風の接近により、沿岸部では、1ノット以上の急潮が頻発し、定置網や養殖施設に大きな被害をもたらしている。

このように、現在の海洋環境は極端に変化しており、短期的な資料による漁海況予測は困難な状況となってきた。そこで、漁業指導調査船での海洋観測資料や市場の漁獲統計資料など漁海況資料を可能な限り長期間にわたって整理し、得られたデータを解析することにより、将来的に起こりうる海況変化の予測を試みる。このことにより、急潮や漁業種類ごとの魚種組成の変化をいち早く広報することが可能となり、水産業の経営安定化を促進することで、水産資源の持続的利用に貢献することができる。

(2) 水産資源の持続的利用のための評価・管理技術の開発
ア 底魚資源の評価と管理に関する研究
イ 浮魚資源の評価と管理に関する研究(漁業資源部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p102-112

岩手県海域に生息および来遊する主要な漁獲対象資源および将来的に漁獲対象となることが期待される資源について、資源生態学的な情報を収集・整理し、資源評価の手法を再検証することで、資源の持続的利用に資することを目的とする。なお、本研究の一部は、国が進める我が国周辺の水産資源の評価および管理を行う水産資源調査・評価推進委託事業により実施した。

(2) 水産資源の持続的利用のための評価・管理技術の開発
ウ 収益性が高い磯根資源の漁獲管理方策の検討(増養殖部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p113-116

岩手県ではエゾアワビ(以下、「アワビ」と言う。)は重要な資源であるが、近年は漁獲量が低迷している。これは、東日本大震災津波による稚貝の流失や平成23年から平成26年までのアワビ種苗放流の休止もしくは大幅な縮小によるアワビ資源の減少が原因である。加えて、平成28年以降は岩手県沿岸への冬から春にかけての冷水接岸がなく、ウニの食害による餌料海藻不足が生じていた。このような中で、種苗放流は安定的な資源添加が見込めることから、その重要性が増している。アワビの資源回復および持続的な利用に当たっては、アワビ資源状況および放流貝の漁獲加入状況を把握し、資源状況に見合った方策の検討が必要である。

アワビの資源量については、漁獲データを用いて推定することが可能であり、殻長組成データを用いることで、VPA(コホート解析)により天然貝、放流貝の加入や漁獲率等の推定も可能となる。

以上より、放流貝の漁獲加入状況およびアワビ資源量を把握することで、効果的な資源管理方策の検討を図り、アワビ資源の回復および持続的な利用につなげることを目的に調査研究を行った。

5 いわてブランドの確立を支援する水産加工技術の開発

(1) 県産水産物の特徴を生かした流通・加工技術に関する研究
ア 県産水産物の呈味成分に関する研究(利用加工部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p117-120

岩手県産水産物のブランド化や販路拡大等の取り組みを支援するため、県産水産物の呈味成分を把握する必要がある。令和6年度は天然サクラマスと養殖ヨーロッパヒラガキの一般成分、遊離アミノ酸およびATP関連物質について調べたので、それらの結果について報告する。

(1) 県産水産物の特徴を生かした流通・加工技術に関する研究
イ 県産水産物の特徴を生かした加工技術・加工品の開発に関する研究(利用加工部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p121-125

岩手県産水産物の有効活用や消費拡大等を図るため、水や調味料を一切添加しないオール無添加レトルト食品(一部、調味料で味付けしたレトルト食品を含む)を考案し、県産水産物を用いて試作を行った。これらの試作結果の概要について報告する。

(3) 県産水産物の品質の維持・安定化に関する研究
ア 養殖ワカメや塩蔵製品の品質に関する研究
イ 塩蔵海藻の保存性に関する研究(利用加工部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p126-130

令和6年産養殖ワカメの加工適正や品質の把握を目的として原藻pHやクロロフィル量の測定を行った。併せて、令和6年産湯通し塩蔵ワカメの品質調査を実施した。また、塩蔵ワカメ・コンブに増殖して異物クレームの対象となるワレミアの18℃増殖試験を行い、塩蔵海藻の製造時におけるワレミアの増殖リスクを評価した。

6 恵まれた漁場環境の維持・保全に関する技術開発

(1) 養殖漁場の環境評価に関する研究
ア 主要な養殖漁場における底質評価手法の開発(漁場保全部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p131-134

県内主要5湾(広田湾、大槌湾、山田湾、宮古湾および久慈湾:表1)の底質環境を評価し、適正な漁場利用および増養殖業の振興に資する。

(1) 養殖漁場の環境評価に関する研究
イ 重点監視水域の環境把握(漁場保全部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p135-141

釜石湾および大船渡湾は、湾口防波堤が設置され外海水との交換が良好とはいえず、岩手県漁場環境保全方針により重点監視水域に指定されている。両湾ともにホタテガイやカキ類の養殖が盛んに行われている漁場であることから、良好な漁場環境を維持するため、水質および底質・底生生物の調査から長期的な変化をモニタリングし、現況と過去のデータとの比較を漁業関係者に情報提供することにより、適切な漁場管理の実行を促す。

(2) 養殖生産安定のための環境把握技術に関する研究
ア 海藻類養殖漁場における栄養塩環境予測技術の開発
(ア) 吉里吉里漁場における栄養塩調査(漁場保全部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p142-144

ワカメの生育に影響を及ぼす栄養塩濃度について、定期的に養殖漁場で調査を行い、その変動の状況を関係者へ情報提供し、ワカメ養殖の振興に資する。

(2) 養殖生産安定のための環境把握技術に関する研究
ア 海藻類養殖漁場における栄養塩環境予測技術の開発
(イ) 沿岸定線観測による栄養塩調査(漁場保全部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p145-151

海洋環境中の栄養塩濃度はワカメ等の藻類の生育に大きな影響を与える。岩手県ではワカメ養殖が盛んに行われており、栄養塩の動向を把握することは養殖ワカメの安定生産に極めて重要である。

岩手県沿岸は黒潮続流、親潮、津軽暖流など複数の海流が混ざり合う非常に複雑な海域であり、沿岸域の環境変化と併せてワカメ養殖への影響を適切に評価する必要がある。本研究では、沿岸域の環境を適切に把握するために、岩手県沿岸の海況と栄養塩動向の調査を行い、ワカメ養殖への影響を検討する。

(3) 「海業」の促進に係る調査研究(企画指導部)

2024年度 岩手県水産技術センター年報 p152-154

漁村地域では全国平均を上回る速さで人口減少や少子高齢化が進行しており、漁業生産力の低下のみならず地域社会そのものが存続の危機に直面している。このような状況下では、既存の漁業振興と併せて新たな生業の創出によって所得向上を図ることが重要であり、近年では沿岸域における地域資源を活用した「海業」の振興によって前述の課題解決を図る取組が進められている。本県においても、「海業振興モデル地区」および「海業の推進に取り組む地区」に選定された事例があるものの、社会科学的な視点から持続的な海業の仕組みづくりを推進するような取組は行われておらず、また海業を県内全域へ促進するための研究も行われていない。

以上の背景により、本研究では海業が持続的に成立するために必要な条件を明らかにし、本県において海業への取組みを促進することを目的に設定した。