岩手県水産技術センター研究報告第11号
令和6年3月
岩手県沿岸の磯焼けがエゾアワビ鉤どり漁業の漁獲効率に及ぼす影響
渡邉隼人・堀井豊充・高見秀輝・小林俊将・西洞孝広
2016年以降,岩手県沿岸の広範囲で海藻がほとんど繁茂しない,いわゆる「磯焼け」が長期にわたり発生しており,2023年現在も継続している。本稿では岩手県内各地のエゾアワビ漁獲統計資料を基に,DeLury法によって磯焼け発生前後の漁獲効率を比較した。分析の結果,2016年以降の漁獲効率は2015年以前の値の概ね2倍程度に上昇していることが明らかとなった。漁獲効率が変化することによって,推定される資源量も大きく変動することとなる。海藻の繁茂状況を考慮せずに資源評価を行うと,資源量を過大に評価することとなるため,現存する資源量に対して過剰に漁獲することにつながりかねない。よって,エゾアワビ資源を適切かつ持続的に利用するためには,資源調査と併せて漁場の藻場現存量のモニタリングを行い,藻場の動態を反映した資源管理・漁業管理手法の導入を検討する必要があると考えられた。
岩手水技セ研報(11),1~6(2024)
サケ不漁下における漁協自営定置の経営実態と収益性推移 -岩手県内4漁協の事例-
及川光
岩手県の漁協自営定置を取り巻く環境は厳しさを増しており,各漁協の実情に即した経営改善策の立案が喫緊の課題となっている。本稿では,経営改善策の立案に必要な知見を得るために,岩手県内で漁協自営定置を営む4漁協を対象として損益分岐点分析を行った。分析の結果,4漁協の損益分岐点は平均1.6~2.2億円と漁協間で最大6千万円の差があり,最も収益性の低い漁協では損益分岐点が水揚金額を上回った回数が過去9年間で7回に及んでいたことが分かった。損益分岐点を引き下げて収益性を向上させるためには,総経費の約半数を占める労務費の引き下げが有効と考えられるが,その実現にあたっては各漁協の労務費を規定する就業規則を改訂するなど,多くの調整を要することが課題と考えられた。
岩手水技セ研報(11), 7~12(2024)
サケ精子の由来が卵の発生に与える影響について
岡部聖・清水勇一
サケ(Onchorhynchus keta)において,雄親魚の精子の由来が卵の発生にどのような影響が与えるか調べるため,本試験では精子の凍結保存技術を用いた。精子をグルコース-メタノール混合液に希釈し,液体窒素を用いて凍結保存することで,異なるそ上時期や河川における精子を,同一の雌親魚由来の卵に媒精することが可能となった。凍結保存精子を用いた受精卵では,同一日に採取した生精子を用いた受精卵と比較して,ふ化時の積算温度が低く,ふ化速度が早いものが見られた。このことから,サケの卵発生,特にふ化は,雄親魚の精子の由来により影響を受けることが分かった。
岩手水技セ研報(11), 13~16(2024)