岩手県水産技術センター研究報告第12号
令和7年3月
アワビ類の筋萎縮症に対する洗卵の効果
小林俊将
アワビの筋萎縮症に対する洗卵の効果を確かめるために,筋萎縮症が発生しているエゾアワビの種苗生産施設2カ所において,洗卵前後の受精卵を検査した。9ロットの受精卵全てから筋萎縮症の原因ウイルスであるAbALVの遺伝子が検出された。AbALV遺伝子が検出された受精卵をデカンテーション方式またはデカンテーション方式と流水方式の組み合わせにより洗卵した結果,9ロット中5ロットでAbALV遺伝子が非検出となった。また,AbALV遺伝子が検出された4ロットでもAbALV遺伝子のコピー数は大幅に減少した。このことから,種苗生産施設で実施されている洗卵作業により,筋萎縮症の垂直感染のリスクを低減できると考えられる。
岩手水技セ研報(12),1~4(2025)
岩手県沿岸におけるイセエビの分布状況について
渡邉隼人・小林俊将
イセエビは主に茨城県から九州の太平洋沿岸に分布する温帯性の大型甲殻類である。海水温の上昇により北方への分布拡大が報告されており,宮城県や岩手県における確認例が増加傾向にある。また2023年10月には北海道南部で分布北限更新となる個体が確認されている。岩手県内の漁業協同組合に目撃情報に関するアンケートを実施したところ,県南部から県北部まで広範囲に分布しており,岩手県沿岸において越冬していることを確認した。黒潮続流の北偏が岩手県沿岸の海洋環境に大きな影響を及ぼしており,生物分布に変化が生じている。
岩手水技セ研報(12),5~8(2025)
キタムラサキウニ生殖巣における短期間無給餌蓄養の影響
及川仁・小野寺宗仲
岩手県のキタムラサキウニ(以下,ウニ)の生産工程は,「漁獲日にむき身加工して出荷する」という工程が一般的であり,出荷日は時化や天候に大きく左右される。加えて,漁獲後のむき身加工にかかる時間や労力が制約となり,出荷量が制限される。この状況の改善には,「漁獲日に可能な限り漁獲して蓄養し,出荷日に合わせてむき身加工して出荷する」などの工程の見直しが必要である。一方,工程の見直しにはウニを漁港泊地などで一時的に蓄養する必要があり,その間の品質変化や最大収容密度の把握が求められる。本稿では工程の見直しに向け,2週間無給餌蓄養した場合におけるウニ生殖巣の品質変化や蓄養カゴへの最大収容密度について調べた。その結果,若干の変動はあるが,約1週間であれば無給餌蓄養でも時期に関わらず品質を維持できると推察された。加えて,1週間の蓄養の場合,付着可能面積に対して90個/m2以下となるように収容することが最適と推察された。
岩手水技セ研報(12),9~16(2025)
岩手県における海面サーモン養殖業の経営分析 -三陸やまだ漁業協同組合の事例-
及川光
岩手県では漁協経営の悪化や水産加工業者の原料不足といった諸問題の解決を目的としてサーモン養殖に取り組む地区が増えつつあり,持続的な養殖を行うための経営安定化が求められている。本稿では,経営安定化の実現にあたってサーモン養殖業の生産・経営構造の把握が必要であるとの認識のもと,三陸やまだ漁業協同組合を事例に選定し,その生産・収支動向や収益性などの経営実態を明らかにすることを目的に設定した。分析の結果,三陸やまだ漁業協同組合はサーモン養殖業の黒字化に成功しており,ブリ養殖業やマダイ養殖業と比較しても収益性や生産性は良好であることが分かった。この要因として,餌料費や労務費の低い経営構造が影響していると考えられた。
岩手水技セ研報(12),17~22(2025)