令和2年度岩手県水産技術センター年報

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1 漁業経営の高度化・安定化に関する研究開発

(1) 漁業経営に関する研究
①カキ養殖経営体の経営分析(企画指導部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p5-13

経営改善による養殖経営体の収益向上を図るためには、経営実態を把握する必要がある。そこで、県内のカキ養殖を営む経営体の労働状況や事業収支等を調査し、カキ養殖にかかる生産状況および経営状況を把握するとともに、その特性について解析した。

(2) 市場流通に関する研究(企画指導部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p14-20

本県の主要養殖生物であるホタテガイ、カキは、東日本大震災津波により生産量が激減した。復旧・復興事業で漁船や施設など生産体制は回復しているものの、生産は震災前の6割に留まっている。震災で失った市場シェアや新たに得た流通体制などの状況や価格動向については把握・解析されていない。

そこで、県内漁協及び取扱い業者への聞き取り調査により、養殖カキ生産地における生産・流通の現況把握を行う。

2 食の安全・安心の確保に関する技術開発

(1) 二枚貝等の貝毒に関する研究
① 麻痺性貝毒で毒化した介類の毒量減衰式の作成(漁場保全部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p21-27

東日本大震災後、貝毒原因プランクトンの大量発生によりホタテガイ等の毒化が大きな問題となっている。

特に、大船渡湾では麻痺性貝毒によるホタテガイの高毒化のため、長期間に亘る出荷自主規制を余儀なくされ、漁場によっては貝毒が抜けやすいとされるマガキへ養殖種の変更も行われている。

そこで、出荷自主規制解除時期を予測することにより、計画的な出荷再開へ養殖管理の目安として、毒化した介類の麻痺性貝毒減衰時期予測式を作成する。

② 麻痺性貝毒で毒化した介類の低毒化技術の開発(漁場保全部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p28-32

東日本大震災後、貝毒原因プランクトンの大量発生によりホタテガイ等の毒化が大きな問題となっている。

そこで、北里大学との共同により、短期間の給餌飼育による麻痺性貝毒の低毒化技術を開発することを目的とする。

なお、マガキ及びホタテガイの麻痺性貝毒減衰機構の解明と減衰効果のある飼料の開発は北里大学が担当し、当所は給餌飼育によるマガキ及びホタテガイの低毒化試験方法の確立と麻痺性貝毒を効果的に低毒化するための給餌飼育技術開発を担当する。

③ 貝毒モニタリング調査(漁場保全部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p33-37

貝類の毒化時期における海況及び水質の変化と貝毒原因プランクトンの出現状況及び貝類の毒化状況を調査することにより、解決策を探るための基礎資料とする。

3 生産性・市場性の高い産地形成に関する技術開発

(1) 秋サケ増殖に関する研究(漁業資源部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p38-66

岩手県の秋サケ回帰尾数は、平成8年度をピークに近年低迷しており、回帰尾数減少の原因解明と回復に向けた対策が求められている。

本研究では、確実な種卵確保による増殖事業の推進に資するため、資源変動を把握しながら回帰予測の精度向上を図ることを目的に、放流稚魚の追跡調査と回帰親魚の年齢・魚体サイズ・耳石等に係る調査を行う。また、早急な資源回復に資するため、人為的に関与できる種苗生産・放流技術の改良と普及を目的に、沿岸の高水温化に対応した放流時期やサイズの検討、環境変化に強い種苗を生産するための飼育環境や餌料、系統の検討を行うとともに、稚魚放流後の初期減耗を緩和するための海水馴致放流等の技術開発を行う。

(2) アワビ・ウニ等の増殖に関する研究
① ドローンによる海藻現存量の把握手法の検討(増養殖部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p67-68

アワビやウニ類は餌の海藻類が不足すると、肥満度や身入りの低下、成長の停滞が生じる。これまでの調査結果から、本県沿岸に生育する海藻類のうち主要な餌料であるコンブの生育量は、冬期の海水温の高低に左右されることが明らかにされており、近年はこの時期の水温が高めに経過する影響でコンブの生育量が少ない年が多くなっている。この餌料海藻不足への対策としては、これまでの試験で、海中造林やウニ除去が一定の効果があることが確認されている。

このような対策の導入に当たっては、各漁場の藻場の分布状況の特徴を把握したうえで、最も効果が見込める漁場を選定して実施する必要がある。また、このような情報は種苗放流漁場の選定に際しても有益である。これまで、藻場の分布状況や海藻類の現存量の把握については、潜水による調査で対応していたことから、広範囲に漁場全体をとらえることが困難であった。そのような状況に対し、近年他の道県では、ドローンを用いた方法の検討が進められており、本県においても本手法の導入を検討する。

② 餌料海藻造成手法の検討(増養殖部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p69-81

アワビやウニ類は餌の海藻類が不足すると、肥満度や身入りの低下、成長の停滞が生じる。これまでの調査結果から、本県沿岸に生育する海藻類のうち主要な餌料であるコンブの生育量は、冬期の海水温の高低に左右されることが明らかにされており、近年はこの時期の水温が高めに経過する影響でコンブの生育量が少ない年が続いている。この餌料海藻不足への対策としては、これまでの試験で、海中造林やウニ除去が一定の効果があることが確認されている。しかし、既存の海中造林では、海藻類の養成開始直後に芽落ちしやすく、その養成は不安定である。さらには天然餌料海藻の芽がウニの摂餌圧を被る冬期までに十分な量の海藻類を養成できておらず、海中造林でウニの摂餌圧を抑制するまでには至っていない。また、ウニの除去には多大な労力と経費を要すること、除去した痩せウニの事業規模での活用方法が確立していないことから、これらの対策は普及していない。

以上のことから、天然餌料海藻の芽出し時期にウニの摂餌圧を分散させることで天然餌料海藻(主にコンブを対象)の芽を守り、繁茂させるための、簡便で効果的な餌料対策を検討する。

③ 種苗生産の安定・低コスト化技術の開発・普及(増養殖部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p82-83

岩手県沿岸はアワビの好漁場であり、アワビの漁獲量(平成22年度)は都道府県別で最も多い283トン、全国漁獲量1,461トンのおよそ2割を占めていた。岩手県では、この漁獲量を維持、増大するため、年間800万個の種苗放流と漁獲規制などの資源管理を実施してきたが、東日本大震災津波によりアワビ資源は大きな被害を受けた。平成22年生まれ(震災時の年齢は10歳)の天然稚貝が全県的に壊滅的な被害を受け、さらには、県内のアワビ種苗生産施設が全壊し、平成23年から26年にかけて種苗放流の休止または縮小を余儀なくされたことから、アワビ資源の減少、低迷を招いている。

このような状況から、アワビ種苗生産・放流の再開によるアワビ資源の増加が強く求められており、その一方で放流を行う各沿海漁協では復旧・復興のための経済的な負担が膨らんでいることから、震災前の種苗生産体制への単なる復旧ではなく、最先端の技術を活用し、従来以上に効率的な体制を構築することが急務である。

本研究では、アワビ初期稚貝の好適餌料である針型珪藻を用いた飼育技術の導入により、従前より飛躍的に生産効率の高い種苗生産技術の開発を行う。

④ 効果的なナマコ増殖技術の開発(増養殖部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p84-86

ナマコは、近年の中国での需要増加や、アワビ・ウニと餌料を競合しないことなどから、栽培漁業対象種として漁業者やその関係団体から注目されている。本県では人工種苗生産技術が確立され、放流事業が行われているが、有効な標識技術がなかったことから放流技術に関する知見は極めて乏しく、放流効果も把握されていない。そのような状況に対し、近年、他の道県では、DNAを用いた親子鑑定の技術が開発され、放流後の追跡調査が可能となった。

そこで、このような遺伝情報を用いたナマコ種苗の追跡調査を行い、放流後の成長、生残状況を明らかにして、種苗放流による資源増大効果を把握するとともに、より効果的な放流技術を開発する。

⑤ より経済効果の高いアワビ資源管理手法の検討(増養殖部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p87-97

岩手県ではエゾアワビ(以下、アワビと記す)は重要な資源であるが、近年は漁獲量が低迷している。これは、東日本大震災津波による稚貝の流失や平成23年から平成26年までのアワビ種苗放流の休止や大幅な縮小によるアワビ資源の低迷が原因と考えられ、この状況は今後数年続くことが懸念されている。一方、種苗放流は安定的な資源添加が見込めることから、その重要性が増している。放流後のアワビの生残率は種苗放流方法によって大きく異なることが明らかとなっており、より効果的な種苗放流方法の確立が急務である。

以上より、放流貝の資源状況を把握するとともに、より効果的な種苗放流方法の確立をすることで、アワビ資源の回復及び漁獲量の増大を図る。

また、近年、岩手県沿岸ではマダコが多数確認され、アワビへの食害が危惧されている一方で、マダコによる食害の影響の大きさは明らかとなっていない。よって、アワビ漁場において、マダコによる食害の影響の大きさを確認する。

(3) 海藻類養殖の効率生産化に関する研究
① 人工種苗生産技術に関する研究(増養殖部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p98-99

本県のワカメ養殖は、色の良さや葉の厚み等の品質を重視するとともに、病虫害による被害の発生を防ぐ観点から、3月から4月に限定して比較的若い葉体を収穫している。しかし、この方法では養殖施設当たりの生産量が少なくなるとともに漁家の収益にも影響することから、短期間でより早く生長するワカメ種苗の開発が生産者から求められている。また、近年出荷量が増加している、間引いたワカメを生出荷する「早採りワカメ」については、出荷時期を早めることや、早採りワカメを専用の施設で繰り返し生産することによる生産量の増加などにより、漁家の増収への寄与が期待できる。

本研究では、従来の人工種苗生産技術を改良し、早期に沖出しすることでワカメの生育を早めることが期待される種苗として、1.5~2cmほどの短い種糸に付着した種苗(以下「半フリー種苗」という。)の生産技術の開発に取り組み、その有効性が確認できたことから、生長が早い等の優良な形質を有する系統の検索を行い、これら技術の導入等によりワカメの生育を早め、養殖施設当たりの収穫量の増大や早期収穫の可能性について検討する。

(4) 二枚貝等養殖の安定生産に関する研究
① ホタテガイの安定生産手法の検討(増養殖部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p100-108

本県の重要な養殖対象種であるホタテガイを安定的に生産するためには、浮遊幼生の出現状況データ等を参考にしながら適期に採苗器を垂下し、良質な地場種苗を確保する必要がある。そこで、浮遊幼生と付着稚貝の出現状況等を調査し、そのデータを生産者等に情報提供した。

また、近年ではホタテガイ養殖において、耳吊り後のへい死が問題となっている。この課題解決に向けて必要な知見を得るため、唐丹湾を定点として、ホタテガイ養殖試験を実施した。青森県での試験により、カゴ養殖は耳吊り養殖に比べてホタテガイにかかるストレスが小さいことがわかっている。このことから、ホタテガイのカゴ養殖試験を実施し、作業効率や生残率等について耳吊り養殖と比較した。

② マガキの天然採苗手法の検討(増養殖部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p109-116

マガキは、本県の重要な養殖対象種であるが、東日本大震災により宮城県の種苗生産地が被災し、岩手県への種苗供給が不安定となった。さらに、海外ではカキ養殖へ重大な被害をもたらす疾病が発生しており、種苗の導入による病原体の持ち込みが危惧される。これらのことから、県内で種苗を生産する技術を確立させ、安全な種苗の安定供給を図る。

③ アサリ増養殖技術の検討(増養殖部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p117-119

アサリは全国的に食用とされる最もなじみのある二枚貝である。その国内生産のほとんどは天然資源の漁獲によるものであるが、1980年代後半からは資源の減少に伴い生産量が激減し、国内消費の不足分は輸入で賄われている。このような中、各地で様々な方法で養殖が検討されており、中でも垂下養殖は良好な成長と高い生残に加えて、身入りが非常に良く、その生産貝は高値で取引され、アサリ生産の維持・回復や生産現場の活性化に向けて導入への期待が高まりつつある。

一方、本県では、貝類養殖に適した漁場を有する中で、養殖生産量の回復や漁家所得の向上につながる新規養殖対象種導入への期待が大きい。
そこで、アサリ養殖導入に向けて、既存の人工種苗生産技術を活用し、本県沿岸の漁場の特徴に合わせた増養殖方法の確立を図る。

④ 病害発生状況の把握と対策検討(増養殖部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p120-125

近年、ヨーロッパザラボヤが養殖ホタテガイや養殖カキへ大量付着し、養殖管理の作業負担の増加、養殖二枚貝の脱落、餌料の競合による養殖二枚貝の成長の悪化など深刻な問題を引き起こしている。本種は一旦漁場内に侵入すると排除は困難であり、付着個体の除去が現在取り得る対応策である。付着個体の除去は、親個体群の減少に伴う次世代個体の付着数の減少も期待できる。そこで、より効果的な付着個体の除去に向けて、付着時期等の予測や早期の把握に必要な知見を収集する。

本県では平成20年にマボヤ被嚢軟化症の発生が確認され、養殖マボヤがへい死するなど大きな被害を及ぼすようになった。本疾病の対策として、定期検査を実施して発生状況を把握することで、他の海域への伝播を防ぐ。また、防疫的観点から地場の親ホヤを用いた人工種苗生産技術の改善に取り組む。

(5) 水産生物の病害虫の防御に関する研究
① 病害虫対策に関するモニタリング(増養殖部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p126-128

ワカメ、コンブは本県を代表する養殖種目である。これらの養殖種は、病虫害の発生や生理活性の低下等により減産や品質低下など大きな被害を度々受けてきたが、有効な対策が確立されておらず、早期刈取り指導などを通じて品質低下を水際で防いでいる状況にある。本研究は、ワカメ性状調査などの基礎的研究を積み重ね、病虫害発生の早期発見や出現傾向を把握することでワカメの品質維持に努めるとともに、知見の積み上げによる将来的な病虫害発生機構の解明を目的とする。

4 水産資源の持続的利用に関する技術開発

(1) 漁業生産に影響を与える海況変動に関する研究(漁業資源部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p129-140

本県海域には津軽暖流水、親潮水、沿岸親潮水、黒潮系暖水が流入し、その季節的・経年的変動は漁船漁業及び養殖業に大きな影響を及ぼす。例えば、春季に親潮系冷水(親潮水及び沿岸親潮水)が南偏して長期的に本県沿岸に5℃以下の水温帯が接岸する異常冷水現象は、養殖ワカメの生産減などにつながる。そこで、漁業指導調査船での海洋観測、定地水温観測、人工衛星画像などから得られる海洋観測データから本県の漁業生産に影響を及ぼす海況変動の兆候を捉えるとともに、今後の予測を行い、水産情報配信システム「いわて大漁ナビ」等により漁業者に広報することで、計画的な漁業生産活動に貢献する。

(2) 定置網及び漁船漁業における主要漁獲対象資源の持続的利用に関する研究(漁業資源部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p141-165

岩手県海域に生息及び来遊する主要な漁獲対象資源の資源水準を評価し、その変動要因を推定することにより、多様で持続可能な定置網漁業及び漁船漁業の再構築に貢献する実践可能で効果の高い資源管理方策を提案することを目的とする。なお、本研究の一部は、国が進める我が国周辺の水産資源の評価及び管理を行う水産資源調査・評価推進委託事業により実施した。

(3) 震災による磯根資源への影響を考慮したアワビ・ウニ資源の持続的利用に関する研究(増養殖部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p166-171

東日本大震災津波による磯根生物への影響とその後の回復状況を、震災前の調査資料がある県内3か所(北部:洋野町、中部:宮古市、南部:大船渡市)で検討する。また、種苗生産施設の被災によりアワビやウニ類の種苗放流が中断・縮小したため、これらの生息量がどのように推移したかモニタリングする。

5 いわてブランドの確立を支援する水産加工技術の開発

(1) 加工技術の開発に関する研究
① 通電加熱技術などによる新たな製造技術の開発(利用加工部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p172-174

通電加熱は食材に電気を流したときに発生する抵抗熱を利用した加熱法である。この加熱において、食材の熱分布に影響する電流の方向性は形状や成分の違いに依存することから、成分的に偏りがなく加熱時の形状を自由に整えることができる飲料等の液体や、魚肉すり身等の加工を中心に通電加熱技術が産業化されている。

食品を均一に加熱できる場合は、加熱温度は電力の制御により調整が容易であることから、当センターの過去の研究では、生の食感を残すために食材の熱変性を抑制しつつ、殺菌を同時に行う加熱条件を検討している。得られたノウハウはその後、主要な県産水産物であるイクラの硬化防止や生ウニの凍結中に起こる身崩れの防止に適用し、これらの製品の品質向上につながる結果が得られている。イクラの硬化は卵膜に内在するトランスグルタミナーゼ(TGase)が、同じく卵膜に存在するタンパク質分子に作用して、分子が相互に結合し卵膜の構造強化されることで起こる。過去に行った研究では、漁獲後に魚卵を速やかに加熱しTGaseの作用を失活させることで貯蔵中に起こる硬化抑制が可能であり、バッチ式水槽あるいは大量生産を可能とする連続式パイプ型の通電加熱装置を用いた加工技術を開発している。特に、連続式で厚さ2cmのリング状の電極を12cm間隔で配置した設計のパイプ型の通電ユニットを用いた場合、加熱パイプに圧送する間に卵の潰れる割合が多くなると、卵の内容物が卵膜から漏出して、食材の導電率がリアルタイムで大きく変動を起こす。その結果、電圧を指標とした通電制御が不能となるため、一定温度での加熱が難しくなる。そのため、イクラを潰さずに圧送できるポンプの選定が重要な課題である。また、生ウニでは冷凍後に身崩れを防止し形状を極めて良好に保つためには、通電加熱前に水切りトレー上に最終包装形態に近い状態でウニを整列させてから加熱することが有効であることをラボスケールの試験により確認している。これらの技術を県内の水産加工企業に提案し現場導入を促進するために、今年度は企業の生産規模に合致した通電加熱システムを考案し、そのシステムによる試作を行って、得られた製品の品質確認して、その実現性を検証した。

(2) 県産水産物の特徴等を生かした加工品開発等に関する研究
① 県産水産物の原料特性に関する研究(マイワシ)(利用加工部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p175-178

本県の主要漁獲対象種であるサケ、サンマ、スルメイカ等が近年不漁となり、その加工を生業とする県内業者にとって原料確保が難しい状況にある。一方、マイワシをはじめ、サワラ、ブリなどの資源量は中位から高位、かつ横ばいから増加傾向にあることから、これらの資源を地域で最大限有効活用することが望まれている。本研究では、このうちマイワシの加工利用度を向上させるとともに、水産加工業者の原料転換を積極的に進めるため、加工品の試作も含めた加工マニュアルを作成することとしている。令和2年度は、加工原料として製品仕向に影響を与える脂肪含量の変化を時期別、魚体サイズ別に調べた。また、マイワシ落し身を練り製品原料として利用促進を図るため、揚げカマボコを試作し、その品質について、食味試験とともに、栄養成分や物性を測定して評価した。

② 県産水産物を利用した加工品開発等に関する研究(ワカメの品質に関する研究)(利用加工部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p179-182

利用加工部では、毎年、岩手県沿岸2地区で採取された養殖ワカメの葉体のpHを測定しているが、測定部位に関する相談が寄せられることも多い。正確に加工適正を評価するためには測定する部位を統一する必要がある。原藻のpHは本県特産の湯通し塩蔵ワカメの品質に大きく影響を及ぼすため、生ワカメ原藻のpHの測定部位とその分析方法を再掲示する。また、岩手県産湯通し塩蔵ワカメの品質把握を目的として令和2年産湯通し塩蔵ワカメの品質調査を行ったので、その結果について報告する。

③ 養殖貝類の呈味成分に関する研究(利用加工部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p183-185

近年、人工採苗によって一定サイズにまで稚貝を育て、単体にした稚貝を網カゴに入れて養殖するシングルシード法が全国的に普及しており、本県では野田湾などの外湾養殖で導入されている。当部では、平成30~31(令和元)年度にかけて野田湾(シングルシード法)及び大船渡湾(垂下式養殖法)で養殖されたマガキの遊離アミノ酸、グリコーゲン含量を測定した結果、グリコーゲン含量は産地間で明確な差は認められなかったが、大船渡産マガキの遊離アミノ酸総量は、野田湾産の平均1.8倍(1.3~2.2倍)高いことを報告した。そこで、今回は、実際に食べたときの味の特徴を確認するために官能評価を行ったので報告する。

(3) 県産水産物の高鮮度流通に関する研究
① 高鮮度加工流通システムに関する研究(サワラ・マイワシ)(利用加工部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p186-189

近年、本県の主力魚種である秋サケ、サンマ、スルメイカの不漁が続き、単価が上昇しており、水産加工事業者は原料の確保に苦慮している。一方、サワラやマイワシの漁獲量は近年増加しており、サワラの生鮮出荷やマイワシの加工品が増加してきている。本研究では、サワラとマイワシの有効活用を図ることを目的として、これらの県産水産物の高鮮度流通に関する研究を実施したので報告する。

② 高鮮度加工流通システムに関する研究(マボヤ)(利用加工部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p190-194

マボヤは、本県の主要な養殖種のひとつであるが、近年は主要輸出先である韓国が日本からの輸入規制を続けており、生産物が余剰となっている。しかし、マボヤは消費者により好みが大きく分かれる水産物として知られており、その国内市場規模は主要魚種の規模に比べ小さく、販路の拡大が進みにくい。好き嫌いの原因として鮮度低下により発生する独特の臭気(ホヤ臭)が考えられ、主たる流通圏が産地から近い東北地域に留まっている現状にある。そこで、需要拡大に向け、マボヤの食文化が確立されていない地域に商圏を延伸させるために、高鮮度を維持する流通技術の開発に取り組んだ。

(4) 低・未利用資源の有効利用に関する研究
① 機能性成分(セレノネイン)の有効活用(利用加工部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p195-199

サバ科魚類の血液には高い抗酸化性を示すセレンタンパク質が含まれることが、国の研究機関により明らかとなっている。この成分は「セレノネイン」と命名され、酸化障害を原因とするガンなどの疾病予防やアンチエイジングを目的とする健康食品への利用が期待されている。当センターでは東日本大震災を契機とした研究事業において、地域の水産加工業者のサバ加工残滓から、セレノネインの健康食品に添加する中間素材の製造技術開発を推進してきた。さらに、平成30年度からは県内企業による中間素材の製品化や販売を目標とする「実証研究事業」の取組において、製品の成分規格化や製造方法の改良による品質安定化などの技術支援を推進してきた。令和元年度には販売先である健康食品メーカーの希望に応じ、製品中のセレノネイン濃度の向上に取り組み、サバ残滓からの製品化が完了している。

今年度は、原料の安定供給の観点から、サバ水揚量の変動に備えサバ以外の魚種として、カツオ(頭部)からの製品化を検討した。また、セレノネインの普及のために最終製品を企画提案し、地元での製造販売を支援した。

6 恵まれた漁場環境の維持・保全に関する技術開発

(1) 主要湾の底質環境に関する研究(漁場保全部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p200-204

県内主要5湾(久慈湾、宮古湾、山田湾、大槌湾及び広田湾)の底質環境を評価し、適正な漁場利用および増養殖業の振興に資する。

(2) 県漁場環境保全方針に定める重点監視水域(大船渡湾・釜石湾)の環境に関する研究(漁場保全部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p205-210

釜石湾及び大船渡湾は、岩手県漁場環境保全方針に基づく重点監視水域に指定されている。これらの湾において、水産生物にとって良好な漁場環境を維持するため、水質及び底質・底生生物を調査し、漁場環境の長期的な変化を監視している。

平成23年3月11日に発生した東日本大震災による津波で、両湾とも陸域から相当量の有機物等の流入、海底地形の変化・海底泥のかく乱等が生じたことで、湾内の養殖漁場環境が大きく変化した。また、両湾に設置された湾口防波堤は復旧工事により新たな構造となったことで、湾内の養殖漁場環境は今後も変化することが予想される。

そこで、湾内の漁場環境に影響を与える水質や底質をモニタリングし、その変化を漁業関係者に情報提供することにより適切な漁場管理を促す。

(3) ワカメ養殖漁場の栄養塩に関する研究
① 主要養殖漁場の栄養塩動向の把握(漁場保全部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p211-212

ワカメの生育に影響を及ぼす栄養塩濃度の変化について、主要な養殖漁場で経年調査し、情報を関係者へ提供することでワカメ養殖の振興に資する。

② 栄養塩予測技術の精度向上(漁場保全部)

2020 岩手県水産技術センター年報 p213-217

海洋環境中の栄養塩濃度はワカメ等の藻類に大きな影響を与える。岩手県ではワカメ養殖が盛んに行われており、養殖中の栄養塩の動向を把握することはワカメ養殖振興に極めて重要である。

岩手県沿岸は非常に複雑な海況であり、より安定したワカメ養殖を実現するためには、沿岸域の適切な環境把握とワカメ養殖への影響についての適切な評価が必要である。そこで、沿岸域の適切な環境把握として、岩手県沿岸の海況と栄養塩動向の調査を行った。また、ワカメ養殖への影響を評価することを目的とし、ワカメ養殖漁場での環境把握とその影響について調査した。