令和3年度岩手県水産技術センター年報

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1 漁業経営の高度化・安定化に関する研究開発

(1) 漁業経営に関する研究
① カキ養殖経営体の経営分析(企画指導部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p5-13

経営改善による養殖経営体の収益向上を図るためには、経営実態を把握する必要がある。そこで、県内のカキ養殖を営む経営体の労働状況や事業収支等を調査し、カキ養殖にかかる生産状況および経営状況を把握するとともに、その特性について解析した。

(2) 市場流通に関する研究(企画指導部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p14-19

本県の主要養殖生物であるホタテガイ、カキは、東日本大震災津波により生産量が激減した。復旧・復興事業で漁船や施設など生産体制は回復しているものの、生産は震災前の6割に留まっている。震災で失った市場シェアや新たに得た流通体制などの状況や価格動向については把握・解析されていない。また、その間、貝毒の長期化や新型コロナ感染症拡大など、今までにない局面に直面している。

そこで、県漁連及び取扱い業者への聞き取り調査等により震災以降の県産ホタテガイの生産・流通の現状を把握し、価格向上やニーズに合った出荷体制等の提案し、養殖漁家の所得向上を図ることを目的とする。

2 食の安全・安心の確保に関する技術開発

(1) 二枚貝等の貝毒に関する研究
① 麻痺性貝毒で毒化した介類の毒量減衰式の作成(漁場保全部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p20-23

本県では貝類養殖に適した漁場を有する中で、養殖生産量の回復や漁家所得の向上につながる新規養殖対象種への期待が大きい。そこで、県は、夏の高水温にも強いとされるアサリ養殖に向けた増養殖方法の確立を目指しているところである。一方、平成30年度以降本県沿岸では、麻痺性貝毒による長期間に亘る出荷自主規制を余儀なくされており、毒が抜けやすい養殖対象種への転換が必要となっている。そこで、出荷自主規制解除時期を予測することにより、計画的な出荷再開を行うため、毒化したアサリの麻痺性貝毒減衰率を算出することを目的とする。

② 麻痺性貝毒で毒化した介類の低毒化技術の開発(漁場保全部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p24-25

昨年度まで実施してきた麻痺性貝毒で毒化した介類の低毒化技術の開発は、ホタテガイ体内での毒の代謝機構の解明に不測の時間を要するため、期間内での計画達成が困難であることが判明した。そこで、令和3年度以降の低毒化技術の開発は、底生生物を活用した貝毒原因プランクトンのシスト発芽抑制試験に変更した。本研究は、国立研究開発法人水産研究・教育機構で進められているゴカイ等の底生生物を活用した貝毒原因プランクトンのシスト(種)の発芽抑制研究成果を活用して本県への導入を進める。

③ 貝毒モニタリング調査(水温別注意密度設定)(漁場保全部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p26-35

県では、貝毒モニタリング調査による二枚貝等の毒化予測について、水温別の原因プランクトン警戒密度を設定し実施してきた。しかし、令和元年度の採水法の変更(10 m層に固定していた採水法から0~10 mへの柱状採水法に変更)に伴い、既存の水温別警戒密度が使用できなくなった。そこで、柱状採水の利点を活かして予測精度を向上させるための水温別注意密度の設定を試みた。

④ 貝毒モニタリング調査(漁場保全部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p36-40

貝類の毒化時期における海況及び水質の変化と貝毒原因プランクトンの出現状況及び貝類の毒化状況を調査することにより、解決策を探るための基礎資料とする。

⑤ シスト密度と麻痺性貝毒発生リスク(漁場保全部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p41-43

既存の主要養殖漁場(ホタテガイ生産海域)におけるシスト密度(湾内の平均値)とホタテガイ麻痺性貝毒量(毒量最大値)の関係から麻痺性貝毒発生リスクを評価する。

3 生産性・市場性の高い産地形成に関する技術開発

(1) 秋サケ増殖に関する研究(漁業資源部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p44-62

岩手県の秋サケ回帰尾数は、平成8年度をピークに近年低迷しており、回帰尾数減少の原因解明と回復に向けた対策が求められている。

本研究では、確実な種卵確保による増殖事業の推進に資するため、資源変動を把握しながら回帰予測の精度向上を図ることを目的に、放流稚魚の追跡調査と回帰親魚の年齢・魚体サイズ・耳石等に係る調査を行う。また、早急な資源回復に資するため、人為的に関与できる種苗生産・放流技術の改良と普及を目的に、沿岸の高水温化に対応した放流時期やサイズの検討、環境変化に強い種苗を生産するための飼育環境や餌料、系統の検討を行うとともに、稚魚放流後の初期減耗を緩和するための海水馴致放流等の技術開発を行う。

(2) アワビ・ウニ等の増殖に関する研究
① ドローンによる海藻現存量の把握手法の検討(増養殖部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p63-65

アワビやウニ類は餌の海藻類が不足すると、肥満度や身入りの低下、成長の停滞が生じる。これまでの調査結果から、本県沿岸に生育する海藻類のうち主要な餌料であるコンブの生育量は、冬期の海水温の高低に左右されることが明らかにされており、近年はこの時期の水温が高めに経過する影響でコンブの生育量が少ない年が多くなっている。この餌料海藻不足への対策としては、これまでの試験で、海中造林やウニ除去が一定の効果があることが確認されている。

このような対策の導入に当たっては、各漁場の藻場の分布状況の特徴を把握したうえで、最も効果が見込める漁場を選定して実施する必要がある。また、このような情報は種苗放流漁場の選定に際しても有益である。これまで、藻場の分布状況や海藻類の現存量の把握については、潜水による調査で対応していたことから、広範囲に漁場全体をとらえることが困難であった。そのような状況に対し、近年他の道県では、ドローンを用いた方法の検討が進められており、本県においても本手法の導入を検討する。

② 餌料海藻造成手法の検討(増養殖部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p66-94

アワビやウニ類は餌の海藻類が不足すると、肥満度や身入りの低下、成長の停滞が生じる。これまでの調査結果から、本県沿岸に生育する海藻類のうち主要な餌料であるコンブの生育量は、冬期の海水温の高低に左右されることが明らかにされており、近年はこの時期の水温が高めに経過する影響でコンブの生育量が少ない年が続いている。この餌料海藻不足への対策としては、これまでの試験で、海中造林やウニ除去が一定の効果があることが確認されている。しかし、既存の海中造林では、海藻類の養成開始直後に芽落ちしやすく、その養成は不安定である。さらには天然餌料海藻の芽がウニの摂餌圧を被る冬期までに十分な量の海藻類を養成できておらず、海中造林でウニの摂餌圧を抑制するまでには至っていない。また、ウニの除去には多大な労力と経費を要すること、除去した痩せウニの事業規模での活用方法が確立していないことから、これらの対策は普及していない。

以上のことから、天然餌料海藻の芽出し時期にウニの摂餌圧を分散させることで天然餌料海藻(主にコンブ)の芽を守り、繁茂させるための、簡便で効果的な餌料対策を検討する。

③ 効果的なナマコ増殖技術の開発(増養殖部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p95-96

ナマコは、近年の中国での需要増加や、アワビ・ウニと餌料を競合しないことなどから、栽培漁業対象種として漁業者やその関係団体から注目されている。本県では人工種苗生産技術が確立され、放流事業が行われているが、有効な標識技術がなかったことから放流技術に関する知見は極めて乏しく、放流効果も把握されていない。そのような状況に対し、近年、他の道県では、DNAを用いた親子鑑定の技術が開発され、放流後の追跡調査が可能となった。

そこで、このような遺伝情報を用いたナマコ種苗の追跡調査を行い、放流後の成長、生残状況を明らかにして、種苗放流による資源増大効果を把握するとともに、より効果的な放流技術を開発する。

④ より経済効果の高いアワビ資源管理手法の検討(増養殖部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p97-101

岩手県ではエゾアワビ(以下、アワビと記す)は重要な資源であるが、近年は漁獲量が低迷している。これは、東日本大震災津波による稚貝の流失や平成23年から平成26年までのアワビ種苗放流の休止や大幅な縮小によるアワビ資源の低迷が原因と考えられ、この状況は今後数年続くことが懸念されている。一方、種苗放流は安定的な資源添加が見込めることから、その重要性が増している。放流後のアワビの生残率は種苗放流方法によって大きく異なることが明らかとなっており、より効果的な種苗放流方法の確立が急務である。

以上より、放流貝の資源状況を把握するとともに、より効果的な種苗放流方法を確立することで、アワビ資源の回復及び漁獲量の増大を図る。

(3) 二枚貝等養殖の安定生産に関する研究
① ホタテガイの安定生産手法の検討(増養殖部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p102-112

本県の重要な養殖対象種であるホタテガイを安定的に生産するためには、浮遊幼生の出現状況データ等を参考にしながら適期に採苗器を垂下し、良質な地場種苗を確保する必要がある。そこで、浮遊幼生と付着稚貝の出現状況等を調査し、そのデータを生産者等に情報提供した。

また、近年ではホタテガイ養殖において、耳吊り後のへい死が問題となっている。この課題解決に向けて必要な知見を得るため、唐丹湾を定点として、ホタテガイ養殖試験を実施した。青森県での試験により、カゴ養殖は耳吊り養殖に比べてホタテガイにかかるストレスが小さいことがわかっている。このことから、ホタテガイのカゴ養殖試験を実施し、作業効率や生残率等について耳吊り養殖と比較した。

② カキ類の新しい生産技術導入の検討(増養殖部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p113-115

本県では東日本大震災以降、マガキシングルシード養殖が新たな養殖手法として期待され、種苗の安定供給を求める声が大きい。当所では、安全な種苗の安定供給に向けて人工種苗生産技術開発試験に取り組み、シングルシード養殖に適した形状の種苗を集約的に生産できる「ボトルシステム」を確立したが、種苗の育成に1カ月以上要することや、相応の設備が必要となることから、生産現場での普及には至っていない。

近年、新たなシングルシード養殖資材として、①稚貝を容易に剥離できる天然採苗用採苗器「クペール」(総称)や、②適度な揺れで好ましい形状のカキを生産できる養成容器「バスケット」が、全国の生産現場において導入され始めている。

本研究では、これらの資材を用いて、本県の生産現場で導入可能なマガキシングルシードの人工種苗生産・養殖方法を検討した。

③ マガキの天然採苗手法の検討(増養殖部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p116-119

マガキは、本県の重要な養殖対象種であるが、東日本大震災により宮城県の種苗生産地が被災し、岩手県への種苗供給が不安定となった。さらに、海外ではカキ養殖へ重大な被害をもたらす疾病が発生しており、種苗の導入による病原体の持ち込みが危惧される。これらのことから、県内で種苗を生産する技術を確立させ、安全な種苗の安定供給を図る。

④ アサリ増養殖技術の検討(増養殖部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p120-123

アサリは全国的に食用とされる最もなじみのある二枚貝である。その国内生産のほとんどは天然資源の漁獲によるものであるが、1980年代後半からは資源の減少に伴い生産量が激減し、国内消費の不足分は輸入で賄われている。このような中、各地で様々な方法で養殖が検討されており、中でも垂下養殖は良好な成長と高い生残に加えて、身入りが非常に良く、その生産貝は高値で取引され、アサリ生産の維持・回復や生産現場の活性化に向けて導入への期待が高まりつつある。

一方、本県では、貝類養殖に適した漁場を有する中で、養殖生産量の回復や漁家所得の向上につながる新規養殖対象種導入への期待が大きい。

そこで、アサリ養殖導入に向けて、既存の人工種苗生産技術を活用し、本県沿岸の漁場の特徴に合わせた増養殖方法の確立を図る。

⑤ 病害発生状況の把握と対策検討(増養殖部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p124-128

近年、ヨーロッパザラボヤが養殖ホタテガイや養殖カキへ大量付着し、養殖管理の作業負担の増加、養殖二枚貝の脱落、餌料の競合による養殖二枚貝の成長の悪化など深刻な問題を引き起こしている。本種は一旦漁場内に侵入すると排除は困難であり、付着個体の除去が現在取り得る対応策である。付着個体の除去は、親個体群の減少に伴う次世代個体の付着数の減少も期待できる。そこで、より効果的な付着個体の除去に向けて、付着時期等の予測や早期の把握に必要な知見を収集する。

本県では平成20年にマボヤ被嚢軟化症の発生が確認され、養殖マボヤがへい死するなど大きな被害を及ぼすようになった。本疾病の対策として、定期検査を実施して発生状況を把握することで、他の海域への伝播を防ぐ。

(4) 水産生物の病害虫の防御に関する研究
① 病害虫対策に関するモニタリング(増養殖部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p129-132

ワカメ、コンブは本県を代表する養殖種目である。これらの養殖種は、病虫害の発生や生理活性の低下等により減産や品質低下など大きな被害を度々受けてきたが、有効な対策が確立されておらず、早期刈取り指導などを通じて品質低下を水際で防いでいる状況にある。本研究は、ワカメ性状調査などの基礎的研究を積み重ね、病虫害発生の早期発見や出現傾向を把握することでワカメの品質維持に努めるとともに、知見の積み上げによる将来的な病虫害発生機構の解明を目的とする。

4 水産資源の持続的利用に関する技術開発

(1) 漁業生産に影響を与える海況変動に関する研究(漁業資源部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p133-144

本県海域には津軽暖流水、親潮水、沿岸親潮水、黒潮系暖水が流入し、その季節的・経年的変動は漁船漁業及び養殖業に大きな影響を及ぼす。例えば、春季に親潮系冷水(親潮水及び沿岸親潮水)が南偏して長期的に本県沿岸に5℃以下の水温帯が接岸する異常冷水現象は、養殖ワカメの生産量減などにつながる。そこで、漁業指導調査船での海洋観測、定地水温観測、人工衛星画像などから得られる海洋観測データから本県の漁業生産に影響を及ぼす海況変動の兆候を捉えるとともに、今後の予測を行い、水産情報配信システム「いわて大漁ナビ」等により漁業者に広報することで、計画的な漁業生産活動に貢献する。

(2) 定置網及び漁船漁業における主要漁獲対象資源の持続的利用に関する研究(漁業資源部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p145-169

岩手県海域に生息及び来遊する主要な漁獲対象資源の資源水準を評価し、その変動要因を推定することにより、実践可能で効果の高い資源管理方策を提案することを目的とする。なお、本研究の一部は、国が進める我が国周辺の水産資源の評価及び管理を行う水産資源調査・評価推進委託事業により実施した。

(3) 震災による磯根資源への影響を考慮したアワビ・ウニ資源の持続的利用に関する研究(増養殖部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p170-176

東日本大震災津波による磯根生物への影響とその後の回復状況を、震災前の調査資料がある県内3か所(北部:洋野町、中部:宮古市、南部:大船渡市)で検討する。また、種苗生産施設の被災によりエゾアワビやウニ類の種苗放流が中断・縮小したため、これらの生息量がどのように推移したかモニタリングする。

5 いわてブランドの確立を支援する水産加工技術の開発

(1) 県産水産物の特徴等を生かした加工品開発等に関する研究
① 県産水産物を利用した加工品開発等に関する研究(ワカメの品質に関する研究)(利用加工部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p177-181

利用加工部では養殖ワカメの加工適正を把握するため、毎年、岩手県の2地区で採取された養殖ワカメ原藻のpHを測定している。令和3年の3月中旬に海域の栄養塩濃度が急激に低下して原藻の色落ちに関する相談を受けたため、3月下旬からクロロフィル含量の測定を追加した。併せて、令和3年産湯通し塩蔵ワカメの品質調査結果と冷凍生ワカメの生産量の調査結果についても報告する。

② 県産水産物の呈味成分に関する研究(マボヤ)(利用加工部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p182-184

養殖マボヤは、主要輸出先である韓国が日本からの輸入規制を続けており、流通先が狭まっている状況となっている。また近年は、地先水産物の漁獲状況が著しく変化しているなかにあって、安定生産できる養殖マボヤの資源を活用して加工品を生産し、同時に需要拡大の取り組みを進めながら安定した販売につなげていく必要がある。しかし、マボヤは消費者の好みが大きく分かれる水産物として知られており、その国内市場規模は本県主要魚種であるアキサケ、サンマ、スルメイカ等に比べ小さい。好き嫌いの原因は鮮度低下により発生する独特の臭気(ホヤ臭)が考えられ、主な消費地は産地から近い東北地域に留まっている状況にある。本研究では、需要拡大に向け、マボヤの食文化が確立されていない地域に商圏を延伸させるために、高鮮度を維持する流通技術の開発に取り組んだ。

③ 県産水産物の原料特性に関する研究(マイワシ)(利用加工部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p185-191

本県の主要漁獲対象種であるサケ、サンマ、スルメイカ等が近年不漁となり、その加工を生業とする県内業者にとって原料確保が難しい状況にある。一方、マイワシをはじめ、サワラ、ブリなどの資源量は中位から高位、かつ維持から増加傾向にあることから、この資源を地域で最大限有効活用することが望まれている。本研究では、資源回復が著しいマイワシの加工利用度を向上させるとともに、水産加工業者の原料転換を積極的に進めるため、加工品を試作して県内加工業者の製品化の参考とするための加工マニュアルを作成する計画としている。令和3年度は、加工原料として製品仕向けに影響を与える一般成分の変化を時期別、魚体サイズ別に調べた。また、マイワシ落し身を原料として利用促進を図るため複数の加工品を試作し、その品質について、食味試験により評価した。

④ 塩蔵ワカメ光照射貯蔵試験(利用加工部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p192-203

岩手県産湯通し塩蔵ワカメ(芯抜品)の容器包装製品の店頭陳列時の保存性を評価するため、蛍光灯を常時点灯させた状態で低温貯蔵を行い、色調の変化を調べて賞味期限を推定した。

(2) 県産水産物の高鮮度流通に関する研究
① 高鮮度加工流通システムに関する研究(サワラ・マイワシ)(利用加工部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p204-209

近年、本県の主力魚種である秋サケ、サンマ、スルメイカの不漁が続き、単価上昇により水産加工事業者は原料の確保に苦慮している。一方、サワラやマイワシの漁獲量は近年増加しており、サワラの生鮮出荷やマイワシの加工品開発の動きが活発化してきている。本研究では、サワラとマイワシの有効活用を図ることを目的として、これらの県産水産物の高鮮度流通に関する研究を実施したので報告する。

② 高鮮度加工流通システムに関する研究(マボヤ)(利用加工部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p210-214

養殖マボヤは、主要輸出先であった韓国が東日本大震災発災以後に本県を含む東北地方からの水産物禁輸措置を継続しているため、国内の販路開拓が必要となっているが、マボヤは消費者により好みが大きく分かれる水産物として知られており、その国内市場規模は秋サケ、サンマ、スルメイカ等の主要魚種の規模に比べ小さく、従来から食文化のある北海道、東北地域に留まっている現状にある。そこで、需要拡大に向け、マボヤの食文化が確立されていない地域に商圏を延伸させるために、高鮮度を維持する流通技術の開発に取り組んだ。

なお、韓国輸出と比較して販売価格が大幅に低下していることから、過去にマニュアル化した海水及び酸素を封入する方法よりさらにコストを削減することを前提に開発を行った。

6 恵まれた漁場環境の維持・保全に関する技術開発

(1) 主要湾の底質環境に関する研究(漁場保全部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p215-219

県内主要5湾(久慈湾、宮古湾、山田湾、大槌湾及び広田湾)の底質環境を評価し、適正な漁場利用および増養殖業の振興に資する。

(2) 県漁場環境保全方針に定める重点監視水域(大船渡湾・釜石湾)の環境に関する研究(漁場保全部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p220-225

釜石湾及び大船渡湾は、岩手県漁場環境保全方針に基づく重点監視水域に指定されている。これらの湾において、水産生物にとって良好な漁場環境を維持するため、水質及び底質・底生生物を調査し、漁場環境の長期的な変化を監視している。

平成23年3月11日に発生した東日本大震災による津波で、両湾とも陸域から相当量の有機物等の流入、海底地形の変化・海底泥のかく乱等が生じたことで、湾内の養殖漁場環境が大きく変化した。また、両湾に設置された湾口防波堤は復旧工事により新たな構造となったことで、湾内の養殖漁場環境は今後も変化することが予想される。

そこで、湾内の漁場環境に影響を与える水質や底質をモニタリングし、その変化を漁業関係者に情報提供することにより適切な漁場管理を促す。

(3) ワカメ養殖漁場の栄養塩に関する研究
① 主要養殖漁場の栄養塩動向の把握(漁場保全部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p226-227

ワカメの生育に影響を及ぼす栄養塩濃度の変化について、主要な養殖漁場で経年調査し、情報を関係者へ提供することでワカメ養殖の振興に資する。

② 栄養塩予測技術の精度向上(漁場保全部)

2021 岩手県水産技術センター年報 p228-232

海洋環境中の栄養塩濃度はワカメ等の藻類に大きな影響を与える。岩手県ではワカメ養殖が盛んに行われており、養殖中の栄養塩の動向を把握することはワカメ養殖振興に極めて重要である。

岩手県沿岸は非常に複雑な海況であり、より安定したワカメ養殖を実現するためには、沿岸域の適切な環境把握とワカメ養殖への影響についての適切な評価が必要である。そこで、沿岸域の適切な環境把握として、岩手県沿岸の海況と栄養塩動向の調査を行った。また、ワカメ養殖への影響を評価することを目的とし、ワカメ養殖漁場での環境把握とその影響について調査した。