平成29年度岩手県水産試験研究成果等報告会

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1 開催日時及び場所

平成30年3月5日(月)13時00分~16時00分
水産技術センター大会議室(釜石市平田3-75-3)

2 主催

岩手県水産技術センター、岩手県内水面水産技術センター

3 プログラム

(1) サクラマス産卵床調査について
 内水面水産技術センター 上席専門研究員 大野 宣和

(2) 岩手県海域におけるマダコの漁獲変動の特徴
 水産技術センター 漁業資源部 専門研究員 髙梨 愛梨

(3) 平成29年度秋サケ来遊状況について
 水産技術センター 漁業資源部 上席専門研究員 太田 克彦

(4) 電気インピーダンス法によるマダラの雌雄判別について
 水産技術センター 利用加工部 主査専門研究員 藤嶋 敦

(5) 資源経済モデルを用いたアワビ漁業の解析
 水産技術センター 増養殖部 専門研究員 貴志 太樹

(6) 麻痺性貝毒減衰試験について
 水産技術センター 漁場保全部 上席専門研究員 加賀 克昌

平成29年度岩手県水産試験研究成果等報告会要旨

サクラマス産卵床調査について

内水面水産技術センター 上席専門研究員 大野 宣和

【目的】
 岩手県では、平成28年5月に岩手県内水面漁業振興計画を策定し、サクラマスについては、資源造成に向け種苗生産技術及び放流技術の開発に取り組むこととしています。
 当センターでは、この計画に基づき安家川と豊沢川をモデル河川として、種苗放流試験及び産卵床調査を平成27年度から開始しています。
 モデル河川では、天然のサクラマスが再生産していますが、今までその実態は不明であったため産卵床の位置、箇所数等を継続的に調査を行うことで、両河川のサクラマス資源について、把握することができます。
 また、人工種苗を放流する際に、天然サクラマスの資源状況を考慮して放流場所や尾数を選ぶことで、効果的な資源造成が期待されます。

【方法】
1 安家川
 本流は、大坂本地区の治山ダムから下流の流域、支流は年々沢、清水川を対象とし、9月27日、10月5日、15日の3回実施しました。道路沿いから淵尻、橋の周囲を中心に目視で観察し、産卵床を確認した場合には可能な限り川に入って、位置情報の記録、産卵床の撮影、一部の産卵床は水温、水深等の記録、川底の写真を撮影し環境データを収集しました。
 また、産卵後の親魚(ホッチャレ)についても発見に努め、尾数、サイズ等のデータを収集しました。
 産卵床の一部を素手で掘起こし、受精卵が埋設されているかの確認も行いました。
2 豊沢川
 支流の寒沢川(種苗放流区)および瀬の沢川(無放流区)において稚魚採捕調査区域を調査範囲として、10月9日、13日、21日に同様の調査を行いました。

【成果の概要】
1 安家川
 産卵は9月27日の調査から確認できるようになり、10月5日の調査時にピークとなり10月15日まで親魚や産卵行動を確認することができました。
 大坂本地区から野田村との境界周辺までの広い範囲の本流、年々沢及び清水川も含めて、合計64箇所の産卵床を確認でき、平成28年8月30日に上陸した台風10号による被害から回復に向かっていると思われました。
 4箇所で産卵床を掘起こしたところ、2箇所で受精卵又は発眼卵を確認することができました。

2 豊沢川
 10月9日寒沢川の調査から産卵床が確認でき、13日瀬の沢川、21日寒沢川の調査でも確認できました。親魚を確認できたのは10月9日と13日の調査でした。
 寒沢川では計9箇所の産卵床と産卵後の親魚2尾を確認し、瀬の沢川では計6箇所の産卵床と親魚3尾を確認でき、北上川水系においても再生産が行われていることが把握できました。

【今後の問題点】
 安家川については、資源量把握のため流域全体の産卵床調査を続けると共に、産卵床の分布密度を把握するための区域を絞り込む必要があります。
 豊沢川については、放流・非放流区域を調査することにより放流魚による再生産状況を把握する必要があります。
 河川内で再生産されている稚魚数を推定するため、産卵床数と翌年の稚魚採捕尾数から関連付ける解析方法の検討と調査の継続が必要となります。

安家川の産卵床調査結果
調査月日 産卵床の数 発見した親魚の尾数 確認できたホッチャレ 備考
9月24日 2 2 2 坂本地区
9月27日 13 1 2 1 坂本~大平
10月5日 42 9 1 松ケ沢~川口
10月15日 10 3 1 川口~町境
67 15 3 3 1
豊沢川の産卵床調査結果
調査月日 産卵床の数 発見した親魚の尾数 確認できたホッチャレ 備考
10月9日 6 1 1 2 寒沢川
10月13日 6 瀬の沢川
10月21日 3 2 1 寒沢川
15 3 2 2 0

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岩手県海域におけるマダコの漁獲変動の特徴

水産技術センター 漁業資源部 専門研究員 髙梨 愛梨

【目的】
 マダコは青森県を分布の北限とする暖水性種であり、冬季に漁獲加入する春産卵群と、夏季に漁獲加入する秋産卵群の2群が存在する(水口・出月 2016)。本県におけるマダコの漁獲量は極めて変動が大きいものの、2013年以降は増加傾向にあり、単価も高いことから沿岸漁船漁業における重要な漁獲対象種となっている。
 本報告では、岩手県海域におけるマダコの漁獲変動の特徴を整理し、近年の漁獲量増加要因について検討した。

【方法】
 マダコの漁獲動向を整理するため、2000~2017年の岩手県全港におけるカゴ漁獲量を集計した。漁獲物の体重組成は、2017年10~12月に八木魚市場で実施した標本船調査の結果を用いた。また、本県海域への稚仔供給状況を把握するため、海況予測システムFRA-ROMSによる流速場を用いた粒子追跡実験を行った。計算領域は30°N~45°N、140°E~145°Eとし、放流地点を宮城県~千葉県沿岸域とした。計算期間は稚仔分散期を考慮して5月1日、及び6月1日からそれぞれ40日間とした。
 さらに、漁獲変動要因を推定するため、年間漁獲量上位、下位各5ヶ年を抽出し、両者間で本県沿岸域における水温、及び稚ダコの致死水温である7℃(秋元・佐藤 1980)を下回る日数を比較した。水温データは山田湾定地水温計による日平均水温を用いた。

【成果の概要】
 2000~2017年の漁獲量は0~549 tと年変動が著しく、いずれの年も10~12月の漁獲が主体であった。漁獲物の体重組成は、10月は500g台主体、11~12月には900~2,650g台主体であった。また、粒子追跡実験では、宮城県~福島県海域から散布した粒子が岩手県海域へ輸送されることが確認されたが、茨城県以南から散布した粒子は黒潮続流に取込まれ日本列島東方沖に逸散した。
 一方、漁獲量上位5ヶ年では、下位5ヶ年に比べ1~6月の水温がやや高い傾向を示し、当該期間中に7℃を下回る日数が有意に少なかった(Mann-Whitney’s U test, p<0.05)。
 本県海域で漁獲されるマダコは、冬季の漁獲が主体であることから春産卵群主体であると考えられる。春産卵群の主産卵海域は千葉県外房海域とされているが(水口 1991)、粒子追跡実験の結果から、当該海域から本県海域への稚仔供給は非常に不安定であることが示唆された。一方で、宮城県~福島県海域由来の稚仔が比較的まとまって供給される可能性が示された。近年、宮城県においてマダコが急増していることから、本県における漁獲量増加は宮城県~福島県海域からの稚仔輸送量の増加が一因となったと推測される。
 また、漁獲量変動には1~6月の水温が影響を及ぼす可能性が示された。1~2月は成体の南下期、5~6月は稚仔分散期に該当する。従って、当該時期に高水温となる年においては、成体の南下開始時期の遅延による漁期の長期化や本県により近い宮城県~福島県周辺海域での産卵群の出現、稚仔生残率の向上により漁獲量が増加したと考えられる。

【今後の対応】
 本県におけるマダコの漁獲量は増加傾向にあり、かご漁業を主体とした沿岸漁船漁業における重要な漁獲対象となっている。従って、平成30年度以降も漁獲動向を把握するため、モニタリング調査を継続する。

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平成29年度秋サケ来遊状況について

水産技術センター 漁業資源部 上席専門研究員 太田 克彦

【目的】
 秋サケは本県水産業の重要な漁獲対象種であるが、その回帰尾数は平成8年度の24百万尾をピークに以降は減少に転じ、平成29年度には2.4百万尾(1月31日現在)まで減少し、その回復が喫緊の課題となっている。
本報告では、平成29年度の回帰状況及び特定調査河川(県内3河川)におけるそ上親魚モニタリング結果について取りまとめるとともに、近年のサケ不漁要因の解析及び当センターにおける取組について紹介する。

【方法】
 平成29年度の回帰状況は秋サケ漁獲速報(岩手県農林水産部水産振興課発行)に基づいた。特定調査河川のモニタリングは、津軽石川、織笠川及び片岸川の3河川において、10月~翌年1月にかけて各旬1回、雌雄各100尾を上限に尾叉長及び体重を測定するとともに、採鱗、肥満度の算出及び年齢査定を行った。また、3河川での年齢査定結果をもとに、県全体の年齢別回帰尾数を推定した。
 また、今年度を含む近年の不漁要因の解析には、漁業指導調査船「岩手丸」の海洋観測による2月から6月にかけての沿岸表面水温の測定値を用いた。

【成果の概要】
 平成29年度の1月下旬現在の回帰状況は2,404千尾、7,283トンであり、平成28年度実績である2,974千尾、8,745トンの80.8%、83.3%、震災前5か年平均の8,357千尾、26,741トンの28.8%、27.2%であった(図1、表1)。旬別の回帰尾数の推移を平成28年度と比較すると、10月上旬以前と下旬に平成28年度を上回ったものの、それ以外の時期では平成28年度を下回った。平成29年7月28日付「平成29年度岩手県秋サケ回帰予報」で公表した予測値と回帰状況を比較すると、尾数は予測値367万尾(208~526万尾)の65%、重量は予測値10,934トン(5,764~16,760トン)の67%となり、予測の範囲内ではあるが、予測値を大きく下回る結果となった(表2)。
 定置網を主とする地域別の沿岸漁獲割合では、久慈地区(洋野町~普代村)が798千尾、39%、宮古地区(田野畑村~山田町)が821千尾、40%、釜石地区(大槌町、釜石市)が236千尾、11%、大船渡地区(大船渡市、陸前高田市)が204千尾、10%となり、平成27年度以降は久慈地区の漁獲割合が40%程度を占めている(図2、3)。
 特定調査河川のモニタリング結果では、尾叉長、体重及び肥満度は、津軽石川のメス親魚の尾叉長及び体重並びにオス親魚の体重は直近5か年の平均を上回り、それ以外は平均の範囲内となった。また、年齢査定結果より、平成29年度の回帰親魚の年齢組成を推定すると、3歳魚12%、4歳魚51%、5歳魚34%の割合となった(図4)。
本県沿岸の表面水温の経年変化から、2~3月は低水温化する傾向があるのに対して、5~6月は高水温化する傾向があることが判明した。このような沿岸域の水温変化は、稚魚の成長や沿岸滞留に好適な水温期間の短縮を引き起こし、稚魚は成長不十分なままで北上回遊してしまうため、減耗するのではないかと思われる。

【今後の対応】
 本県沿岸の表面水温の高温化による減耗が懸念されるが、現行の稚魚飼育管理の工程中に減耗の抑制に有効な対策が確立されていない。
 そこで、秋サケの資源動向の把握及び特定調査河川の回帰親魚モニタリングの継続とともに、近年の沿岸環境にも耐えることが可能なサケ飼育管理方法を研究し、ふ化放流事業者へ技術普及を図ることで、サケ増殖事業の維持安定に貢献する。

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電気インピーダンス法によるマダラの雌雄判別について

水産技術センター 利用加工部 主査専門研究員 藤嶋 敦

【目的】
 電気インピーダンス法は、ヒト用体脂肪計で利用されており、その測定原理は、人体に微弱な交流電流を流し、そのインピーダンス(交流電流に対する電気抵抗値)から水分や脂肪率などを求める方法である。
 マダラは、精巣(白子)の商品価値が高く、オスの方がメスよりも高い価格で取引されるが、外観から雌雄を判別することは難しい。魚類は一般的に精巣の方が卵巣に比べ水分が多く、細胞のサイズが非常に大きいことから、両者ではインピーダンスが異なると考えられる。このため、市販されている魚用脂肪計を利用してマダラの雌雄判別ができないか検討した。

【方法】
1 雌雄判別方法の検討
 試料は、平成29年1~2月に県内魚市場に水揚げされたマダラ31尾を用いた。体重は3.3~12kg、漁獲後から推定8~20時間氷蔵されていたもので、生殖巣重量指数(生殖巣重量/内臓除去重量)はメス11~51、オス15~31であった。
 インピーダンスの測定には、「フィッシュ・アナライザ」(大和製衡㈱、写真1)を用いた。この測定機の電極をマダラの腹部に接触させ100kHzのインピーダンスを測定した。なお、試験開始時には腹部の4カ所の位置で測定したが、良好な結果を得られなかったため、その後、適切な測定位置について検討した。また、測定後は、開腹して雌雄を確認した。
 
2 インピーダンス基準の検証
 上記1の試験結果から、適切な測定部位は図1のとおりで、インピーダンス基準(整数値)を「100kHz、75Ω以上をオス、74Ω以下をメス」と定めた。この基準を検証するため、県内の鮮魚出荷場でフィレー加工を行う際にインピーダンスの測定と雌雄判別を行った。なお、検証試験は、平成29年10月~平成30年2月に6回実施し、マダラ292尾を用いた。

【成果の概要】
1 雌雄判別方法の設定
 平成29年1月上旬~中旬に漁獲されたマダラ16尾については、インピーダンスから雌雄を判別することはできなかった。この原因として、生殖巣が肝臓や胃(内容物含む)に覆れてインピーダンスが正確に測定できなかったためと考えられた。そこで、平成29年1月下旬~2月下旬に漁獲されたマダラ15尾については、インピーダンスの測定位置を図1のとおりとした。また、100kHzのインピーダンスがメスでは49~67Ω、オスでは82~98Ωとなり、75Ωを境に雌雄を判別できると分かった(図2)。

2 インピーダンス基準の検証
 検証試験の結果を図3に示した。検証試験1~4では、メスの中に75Ωを超える個体があった。また、オス、メスともに100Ωを大きく超える個体があり、約190Ωにも達する個体もあった。この原因を明らかにするため、腹部が気体で充満し大きく膨らんだ個体に電極を強く押し当てるとインピーダンスが大きく低下した。気体は電気をほとんど通さないため、インピーダンスが高くなったものと考えられる。このため、検証試験5~6では電極を強く押し付けて測定したところ100Ω大きく超える個体はなくなったが、全体的にインピーダンスが低下した。
 以上の結果から、鮮魚出荷場や魚市場などの現場では、基準値を70Ω以上とするなどやや高めに設定することでメスの混入を防ぐことができることが分かった。

【今後の課題】
 本技術の鮮魚出荷業者、魚市場などへの普及。

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資源経済モデルを用いたアワビ漁業の解析

貴志 太樹(水産技術センター増養殖部)
堀井 豊充(国立研究開発法人水産研究・教育機構)

【目的】
 岩手県のアワビ漁業は、東日本大震災津波により稚貝が流失し、種苗生産施設の被災により放流も中断したことで資源量が低迷している。そのような状況において、震災後の資源管理方策を検討するため、県内6地区で資源解析および資源予測を実施した。その結果、数年間は資源量が低迷するものの、これまで以上に漁獲圧を高めるようなことが無い限り、現状通り操業しても資源の回復に大きな影響はないものと考えられる。
 このような状況を踏まえて、資源の回復を考慮しながら、アワビ漁業の収益を最大化する方策について検討するため、2地区(県南部Aおよび県北部B)を選定し、資源経済モデルを用いて収益性の解析を実施した。

【方法】
◆資源解析
 A地区では、1998~2016年の漁獲データおよび殻長組成データを用いてVPAにより解析を行った。自然死亡係数Mは0.24(大村ら 2015)とした。
 B地区では、1999~2016年の漁獲データを用いてDelury法により解析を行った。Deluryの第二モデルを採用し、エクセルソルバーを用いた最尤推定法により各年のパラメーター(漁期前資源量、漁具能率)を推定した(水産資源保護協会 2001)。
◆資源経済モデル
 資源解析により推定された再生産関係および資源量―漁獲量関係を用いて、開口数および放流数を変化させた場合の平衡漁獲量(一定の漁獲圧を維持した場合に仮定される平衡状態における漁獲量)を求めた。漁獲量―漁獲金額関係を用いて、平衡漁獲量から平衡漁獲金額を求め、コストとの差を収益とし、開口数―放流数―収益の関係を求めた。両地区において収益が最大となる開口数および放流数を求め、現状と震災前の状態について収益性を評価した。

【成果の概要】
 A地区では、収益最大は80万個放流の13回開口となった。現状(2014~2016年実績)は11.3~47.0万個放流の4~5回開口、震災前(1997~2009年実績)は56~76万個放流の5~8回開口であり、震災前の方が収益最大の状態に近かった。収益を増加させるには開口数を増やすことが有効と考えられるが、大型個体が少ない現在の資源状態では、開口数を増加させるのは現実的ではなく、今後は資源状態を見ながら開口数を増やすことが望ましいと考えられる(図1)。

 B地区では、収益最大は7万個放流の10回開口となった。現状(2015~2016年実績)は6.4~10.5万個放流の8回開口、震災前(1999~2006年実績)は5.0~9.3万個放流の12~17回開口で、震災前の開口数は収益最大となる開口数よりも多かったが、現在は収益最大の状態に比較的近いと考えられる。今後は資源状態を見ながら、放流は7万個程度、開口は10回程度までを目安に操業するのが望ましいと考えられる(図2)。

【今後の問題点】
 解析の精度を向上させるためにはより多くのデータの蓄積が必要であるが、震災によりデータを流失した地区もあり、長期のデータを利用できる地区は少ない。また、より詳細な解析を行うのに必要な殻長組成データが足りない地区も多い。今後、データ収集体制を構築し、より多くの地区で精度の高い解析を実施することが必要である。

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麻痺性貝毒減衰試験について

加賀 克昌・内記 公明・渡邊 志穂・瀬川 叡・久慈 康支(水産技術センター漁場保全部)
佐藤 繁(北里大海洋生命科学部)

【目的】
 麻痺性貝毒(以下、「PSP」)の二枚貝への蓄積は、全国で毎年のように公衆衛生と同時に漁業にも厳しい被害を起こしている。本県では、昭和35年チリ地震津波の翌年にPSPによる食中毒が発生しており、本県沿岸にPSP原因プランクトンの発生と貝類の毒性を監視する体制が整備されている。
 平成23年の東日本大地震津波以降に復旧したホタテガイ養殖漁場では、ホタテガイのPSP高毒化や出荷規制期間の長期化が確認される海域があり、養殖業復興上の大きな妨げとなっている。また、これまでの調査からホタテガイよりもマガキの方がPSPを蓄積しにくくまた減衰しやすいことが次第に明らかになってきており、ホタテガイからマガキへ養殖種を変更する海域も見られている。以上のことから、マガキがホタテガイと比べてどのくらいPSPが減衰しやすいかを調査し、今後の養殖業振興に向けた基礎資料とする。

【方法】
 平成28年4月から7月まで県内のA漁場(水深約23m)の10m層にマガキを垂下し、定期的に取り上げて可食部全体を分析試料とした。貝毒分析は、北里大学海洋生命科学部において機器分析(HPLC法)により行い、マウス毒性値に換算した。
 環境調査が可能な場合は、同時に海水を採取しPSP原因プランクトン(Alexandrium属)の細胞数を計数するとともに、多項目水質計により水温、塩分等の鉛直観測を行った。

【成果の概要】
・PSP原因プランクトンは、5月下旬に水深16m層で最大6,470細胞/L、12層平均値で1,910細胞/Lと年間最高値を示した。
・PSPの機器分析値から換算した最高毒性は5月中旬に約38MU/gとなった。その後、多少の増減はあったものの速やかに減少し、約1ヶ月半後の6月下旬には規制値の4MU/gを下回った。
・毒性の変動から推測されたマガキのPSP減衰率は6.5%/日となり、昭和54~63年に同様にホタテガイを用いて試験を実施した結果から得られた減衰率の平均値1.5%/日の約4倍となった(図1)。
 マガキの通常の養殖水深は2~6mであり、4~7月はこれより深い水深帯にPSP原因プランクトンが多く出現することから、プランクトンの鉛直移動を考慮しても、マガキはホタテガイより早くPSPが減衰すると推測される。
 以上から、春季にPSP原因プランクトンが発生する海域では、ホタテガイからマガキへの養殖種変更は貝毒被害軽減対策の方法の一つとして有効と考えられた。

【今後の課題】
・ホタテガイについては、中腸線(ウロ)の最高毒値から規制解除までの日数を推定する計算式を作成済みであるが、マガキについても同様に解除時期の目安を提示する計算式や換算表の作成が必要
・他の養殖種の貝毒減衰状況把握が必要

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