令和元年度岩手県水産試験研究成果等報告会(要旨公開)

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令和元年度岩手県水産試験研究成果等報告会の要旨公開について

当報告会は令和2年3月6日(金)に開催を予定しておりましたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の防止を図る観点から中止することとなり、出席を予定していただいた皆様には多大なご迷惑をおかけいたしました。当報告会において、発表を予定しておりました4課題の要旨を公開いたしましたので業務の参考にしてください。

北上川水系のサケ稚魚の特徴について

水産技術センター 漁業資源部 専門研究員 長坂 剛志

北上川水系の稚魚の特徴を把握するため、北上川水系と沿岸河川の稚魚について、発生、成長、温度変化に対する反応、遊泳力、飢餓耐性を比較した。北上川水系の稚魚は、発生が早く、飢餓耐性に優れる傾向が見られた。

アワビ漁業におけるMSYを考慮した資源解析手法について

水産技術センター 増養殖部 専門研究員 渡邉 成美

アワビの資源評価手法の高度化を目的として、A地区におけるアワビの資源解析等を行った。その結果、A地区におけるアワビ資源状況の把握及び、最大持続漁獲量(MSY)と漁獲圧等の関係を得ることができた。

海面サーモン養殖用種苗生産に関する基礎的知見の収集について

内水面水産技術センター 主査専門研究員 内記 公明

ニジマスとサクラマスの養殖用種苗を海面に移行する最適な時期や体サイズを検討するための基礎的知見を収集した。高水温耐性や塩分耐性について、へい死が始まる水温帯、体サイズや系統の違いによる差が見られた。

さけ孵化場における吸水前消毒の取り組み

沿岸広域振興局水産部宮古水産振興センター 主査水産業普及指導員 高橋 憲明

冷水病の垂直感染対策として有効な洗卵と消毒を宮古管内の各ふ化場に普及するため、各ふ化場の実情に合わせた作業工程を提案した。その結果、何れのふ化場も大幅な作業増なしに冷水病対策に取り組めるようになった。

令和元年度岩手県水産試験研究成果等報告会要旨

北上川水系のサケ稚魚の特徴

【はじめに】

岩手県の秋サケ回帰尾数は低迷しており、その回復が急務の課題となっている。回帰尾数の減少要因として、本県沿岸の春季の高水温化があげられ、放流された幼稚魚が沿岸滞泳期に高水温にさらされて減耗していると予想される。したがって回帰尾数の減少対策には、高水温環境に適応した稚魚を放流することが有効と考えられる。

そこで、岩手県で最も南の資源である北上川水系のサケに着目した。北上川水系のサケは、早期資源であり高水温期にそ上することから内在的に高温耐性を持つと考えられるが、北上川水系のサケの特徴はほとんど調査されていない。そこで、北上川水系と沿岸河川のサケ稚魚について、同一条件での発生速度や温度変化に対する反応、遊泳力、飢餓耐性を比較して北上川水系のサケ稚魚の特徴を把握することを目的とした。

【方法】

平成30年11月6~8日に採卵した北上川水系砂鉄川と平成30年11月13日に採卵した片岸川の卵を用いて比較を行った。試験項目は以下のとおりとした。

①発生・成長比較試験
両河川の種卵とも通常の飼育管理を行い、ふ化、ふ上、池出しまでの積算水温を比較した。また、池出し後は1週間毎にサンプリングして尾叉長及び体重を比較した。

②遊泳力試験
(有)タカツ産業製の遊泳力装置を用いて、両河川の稚魚の池出し時と放流直前の持続遊泳力と瞬発遊泳力を測定した。

③飢餓耐性試験
放流直前の両河川の稚魚150尾ずつを海水かけ流しの巡流水槽で無給餌飼育し、生残率と成長率を比較した。また、両試験区の対照区として給餌区を設定した。

④温度ストレス試験
温度ストレスの指標として知られるヒートショックプロテイン(以下、HSP)の遺伝子発現量を調査するため、両河川の稚魚を低水温(約5℃)、原水温(約10℃)、高水温(18℃)に設定した円形水槽で飼育し、0、0.5、1、3、6、24時間後及び6日後にサンプリングを行った。

【結果の概要】

①発生・成長比較試験
両河川の稚魚のふ化開始時の積算水温は、砂鉄川474.5℃、片岸川484.5℃でふ化までは砂鉄川の発生が早かった。ふ上開始時の積算水温は、砂鉄川718.7℃、片岸川709.7℃でふ上は片岸川が早かった。ふ上状況に応じて行う池出しの積算水温は、砂鉄川1025.9℃、片岸川971.4℃で砂鉄川はふ上から池出しまでに時間がかかった。また、両河川の池出し後の成長は、尾叉長・体重ともに同程度であった。

②遊泳力試験
池出し時と放流直前の遊泳力は、持続、瞬発遊泳力ともに同程度であり、両河川で差はなかった。

③飢餓耐性試験
砂鉄川の無給餌区の生残率の低下は、片岸川の無給餌区と比べて緩やかであった。また、死亡数は、水温の上昇とともに増加した。試験終了時の片岸川の稚魚は、試験開始時からほとんど成長していないのに対し、砂鉄川の稚魚は平均で尾叉長が115%、体重が128%増加していた。

④温度ストレス試験
各試験水温区の斃死は少数で、試験区毎に違いは見られなかった。また、HSPの発現解析は現在実施中。

以上のように砂鉄川と片岸川のサケには、発生と飢餓耐性に違いが見られた。北上川水系は、河口までの距離が沿岸河川と比べて長いため、降河中の飢餓に耐える必要があることから飢餓耐性に優れているものと思われる。一方で、成長と遊泳力には違いが見られなかったことから、同条件で飼育した場合、基本的な特徴は変わらないものと考えられる。

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アワビ漁業におけるMSYを考慮した資源解析手法について

水産技術センター 増養殖部 専門研究員 渡邉 成美・佐々木 司
水産振興課 主任 大村 敏昭・技師 貴志 太樹
国立研究開発法人 水産研究・教育機構 理事 堀井 豊充
国立研究開発法人 水産研究・教育機構 東北区水産研究所資源環境部 生産環境グループ グループ長 高見 秀輝
国立研究開発法人 水産研究・教育機構 東北区水産研究所宮古庁舎 沿岸漁業資源研究センター 浅海生態系グループ 研究員 松本 有記雄

【目的】

岩手県沿岸のエゾアワビの資源評価手法の高度化を目的として、岩手県沿岸のA地区を対象に研究を行った。A地区では「鈎」を使用してエゾアワビが漁獲されており、資源解析にあたっては鈎が届かない深所に生息する個体の割合を考慮する必要がある。また、当地区では人工種苗が大量に放流されており、漁獲物中に占める放流個体の割合は4割程度にも及ぶことから、放流個体の資源添加を考慮した評価を行う必要がある。

そこで、本研究ではこれらを考慮した資源評価手法を開発した。

【方法】

①資源解析
A地区の漁獲量統計、混獲率、漁獲物測定調査結果および過年度に作成したAge-Length Keyから計算された1998~2018年の天然・放流別年齢別漁獲個体数の値を用いて、VPAによって各年の年齢別の資源量と漁獲率を推定した。この際、深所に生息するため漁獲対象とならない個体の割合を20%とし、また自然死亡係数Mは0.24(大村ら 2015)とした。

②持続漁獲量(SY)の算出
再生産成功率、一隻一日あたり漁獲効率および放流個体の資源添加効率をパラメータとしてモンテカルロ法により計算し、2019年から2118年の100年間の動態シミュレーションを200回行った。これにより得られた2118年の漁獲量をSYとみなした。上記方法により、放流数ごとのMSY(最大持続生産量)を算出し、MSYを達成するための延べ操業隻数とその時の親資源量について検討した。

【成果の概要】

①資源解析結果
漁獲対象初期資源重量は、天然資源で2007年頃から減少傾向にあったが、2015年から緩やかな回復傾向に転じている。一方、放流資源は2004年頃から減少傾向が続き、2014年に最低水準となった。これらの変動のうち、2013年以降の資源の減少については東日本大震災による津波の影響及び、種苗生産施設が被災し2011年から2014年まで種苗放流を休止・縮小した影響によると考えられる。2015年以降は種苗放流量の回復に伴い、放流資源の資源量は上向きとなっている(図1)。
鈎が届き、漁獲対象となる浅所における漁獲率の推移を図2に示す。A地区では、天然貝に比べ放流貝の漁獲率が高い傾向がある(図2)。特にこれが顕著である2006年から2014年については、1年毎に岩手県沿岸に冷水が接岸しており、漁場の餌環境が良好であった。このため、放流貝が放流場所(漁場)から大きく移動せず、効率的な漁獲につながったものと考える。
2015年以降は天然貝、放流貝ともに漁獲率が低位となっており、特に放流貝で顕著であった。2015年に漁獲された放流貝は、震災以前に放流されたものと推定でき、震災の津波やその他の影響により漁場に広く散らばったことで漁獲率が低くなった可能性がある。また、2016年以降は冷水の接岸がなく、漁場の餌海藻が少なかったため、アワビが移動したものと考える。

②最大持続漁獲量(MSY)と漁獲圧、親貝重量の関係
モンテカルロ法によるシミュレーションの結果、現在の放流数(23万個)を維持した場合ではMSYを達成する親貝の資源量は65トンで、このときの延べ操業隻数は560隻となり、2018年の延べ操業隻数590隻と大差なかった(図3、図4)。一方で、現在の親貝資源量は57トンほどであり、望ましい水準をやや下回っているため、当面の間は現在の漁獲圧を増大させないことが望ましいと考えられる。
また、放流数とMSYおよびそれを達成する漁獲圧の関係が得られたことから、操業の実態に応じてMSYを達成するための放流目標や努力量水準についての長期的な目標を立てることが可能であると考えられた(図5)。

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海面サーモン養殖用種苗生産に関する基礎的知見の収集について

内水面水産技術センター 主査専門研究員 内記 公明

【目的】

近年、消費者のサーモン生食嗜好が強くなってきており、刺身用商材として大型のサケ・マス類の需要が高まってきている。これを受けて、県外では「ご当地サーモン」の研究や事業化の取り組みが積極的に行われるようになり、地域活性化の一環として行われている事例もある。

県内でも、かつては昭和50~60年代にギンザケの海面養殖が行われていたが、輸入鮭鱒類の増加、特にチリ産ギンザケの輸入量増加に伴う平成13年の価格暴落により業者が廃業し、平成15年以降は養殖が行われなくなった。しかし、平成30年度から久慈市漁協、令和元年度から宮古市と新おおつち漁協がギンザケやトラウトの海面養殖試験を開始しており、良好な結果が得られれば、今後、内水面養殖業者が海面養殖用種苗の生産を担う場面は増えていくものと想定されるが、淡水から海水へ馴致する際の生残率向上が依然として課題となっている。

このことから、刺身用に適すると考えられるニジマス及びサクラマスについて、養殖用種苗を海面に移行する最適な時期及び体サイズを検討する基礎的知見を収集するために、今年度から飼育試験を開始したので、その結果について報告する。

【方法】

ニジマス(内水技が保有するドナルドソン系ニジマスの0+)、スチール(北海道大学七飯淡水実験所由来のスチールヘッド系ニジマス1+)、サクラマス稚魚(安家川天然遡上魚由来0+個体)、サクラマススモルト(安家川天然遡上魚由来1+スモルト個体)を試験魚として、高水温や塩分の耐性を調べた。高水温耐性について、水温を20℃、22℃、24℃、26℃、28℃に設定して試験魚を無給餌飼育し、48時間後までの生残率を調べた。

塩分耐性について、人工海水を使い試験魚を無給餌飼育し、48時間後までの生残率を調べた。

【成果の概要】

①高水温耐性について(表1)
へい死が始まる水温は、20℃から26℃の範囲であった。同じ魚種であっても、体サイズの違いでへい死が始まる水温に差が見られた。

(表1 各水温で飼育した48時間後の生残率)

魚種/水温 20℃ 22℃ 24℃ 26℃ 28℃
ニジマス
(8/26開始時の平均尾叉長72.4mm、平均体重4.0g)
100% 100% 30% 0%
ニジマス
(11/27開始時の平均尾叉長165.1mm、平均体重63.6g)
100% 60% 0% 0%
スチール
(12/4開始時の平均尾叉長257.1mm、平均体重223.6g)
100% 100% 100% 90% 0%
サクラマス稚魚
(9/9開始時の平均尾叉長83.8mm、平均体重6.4g)
100% 100% 100% 0%
サクラマススモルト
(8/29開始時の平均尾叉長200.9mm、平均体重96.7g)
100% 90% 78% 0% 0%
サクラマススモルト
(12/2開始時の平均尾叉長224.2mm、平均体重133.1g)
100% 100% 100% 0%

②塩分耐性について(表2)
海水適応能が高いとされるスチールヘッド系ニジマスやサクラマススモルトで塩分耐性がみられた。また、ニジマスでは、体サイズが大きい群で塩分耐性がみられた。

(表2 人工海水で飼育した48時間後の生残率)

魚種 生残率
ニジマス(12/11開始時の平均尾叉長163.9mm、平均体重57.6g) 100%
スチール(12/11開始時の平均尾叉長256.3mm、平均体重201.7g) 100%
サクラマススモルト(12/11開始時の平均尾叉長224.0mm、平均体重120.7g) 100%
ニジマス(9/18開始時の平均尾叉長86.3mm、平均体重8.5g) 42%
サクラマス稚魚(9/18開始時の平均尾叉長87.1mm、平均体重5.9g) 37%

【今後の問題点】

広塩性魚の浸透圧調節と水温の関係について、ニジマスの場合、淡水中では順応可能な温度範囲が広いのに対して、海水中ではその範囲が狭くなることが知られている。よって、令和2年度以降は、各魚種の海水中の高水温耐性を評価する必要がある。

また、給餌条件で海水飼育を行い長時間の高水温耐性を評価する必要もある。

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さけふ化場における冷水病対策の取り組み

沿岸広域振興局水産部宮古水産振興センター主査水産業普及指導員 高橋 憲明

【目的】

本県のサケ増殖事業は、近年の回帰率低下が課題となっており、その対策として健苗生産・適期放流を実施している。冷水病は、さけふ化場で問題となっている細菌性疾病の一つであり、原因菌が卵内に入り込むことにより垂直感染することが明らかとなっている。この垂直感染を防除するには、菌数を減らす「等張液洗卵」および卵表面を除菌する「吸水前消毒」が有効とされているものの、これまでさけふ化場においての実施事例はなかった。そこで、昨年度、岩手県内水面水産技術センター指導のもと、明戸川ふ化場において事業規模で上記工程の実証試験を実施した。その結果、冷水病と思われる大量へい死はなく、健苗生産に成功した。

一方で、同ふ化場において実施した工程には、「多数の人員が必要」であり、かつ、「これまでの採卵作業より時間を要する」ことから、他のふ化場に導入するにあたっては、工程の簡略化が課題となっていた。

そこで今年度は、宮古地区の各ふ化場におけるこれまでの採卵作業に合わせて簡略化した工程を各ふ化場担当者とともに検討し、実証試験を行ったので紹介する。

【方法】

(1) Aふ化場における吸水前消毒工程
以下の手順により、昨年度に引き続きAふ化場において授精前洗卵及び吸水前消毒を実施し、効果を検証した。

①鑑別:蓄養中の雌雄親魚の熟度を鑑別し、その日の採卵用親魚数を確定させる
②採卵:受卵盆1つあたり8尾程度(卵2万粒を目安)を採卵する
③等張液洗卵:受卵盆にジョッキで等張液を注ぎ、洗卵する(1回)シャワー洗卵(毎分6Lで20秒程度)
④受精:4、5尾程度から媒精・撹拌し、等張液により受精させる
⑤洗浄:余分な精子を除去するため、等張液により洗浄する(2回)
⑥吸水前消毒:卵を等張液イソジン液に収容し15分間消毒する(5分毎に撹拌する)
⑦洗浄:消毒終了後、卵を真水(流水)で洗浄する
⑧吸水:卵を吸水槽に収容し、1時間程度吸水させる
⑨収容:卵重、卵サンプルを計量し、採卵数を確定させた後、ふ化槽に収容する 

上記工程を参考に、宮古地区の各ふ化場の人員、これまでの作業工程等を考慮したうえで導入可能な工程をふ化場担当者と検討し、実証試験を行った。また、各ふ化場における発眼率を昨年度と比較するとともに、卵内の冷水病菌保菌率を確認した。

【成果の概要】

1 各ふ化場において実証試験した工程
(1) Aふ化場
・すべての採卵群に等張液洗卵および吸水前消毒を実施。
・昨年度の工程から濯ぎ洗卵2回を濯ぎ洗卵1回とシャワー洗卵に変更。

(2) Bふ化場
・すべての採卵群に等張液洗卵のみを実施。

(3) Cふ化場
・すべての採卵群に等張液洗卵および吸水前消毒を実施。
・捕獲場に隣接する採卵場において、採卵、媒精を実施し、無接水でふ化場まで運搬して洗卵、消毒を実施。

(4) Dふ化場
・ふ化場で蓄養していた早期群に等張液洗卵および吸水前消毒を実施。

(5) Eふ化場
・一部の採卵群に等張液洗卵のみを実施。

(6) Fふ化場
・一部の採卵群に等張液洗卵のみを実施。

2 発眼率の比較結果および冷水病菌保菌検査結果

各ふ化場の発眼率を昨年度と比較したところ、昨年度よりやや低かった。また、内水面水産技術センターにおいて、各ふ化場における卵内の冷水病菌保菌検査を実施したところ、等張液洗卵、吸水前消毒の実施の如何に関わらず、どのふ化場からも冷水病菌は検出されなかった。

【今後の問題点】

宮古管内各ふ化場が実施した冷水病対策の効果についてデータを蓄積し、どの方法がふ化場に導入し易く、かつ、有効であるかを検証する必要がある。また、その手法を県内の他ふ化場にも普及させ、健苗を生産し、本県さけの回帰率向上につなげる必要がある。

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