令和4年度岩手県水産試験研究成果等報告会の要旨の公開について
令和5年3月3日(金)の「令和4年度岩手県水産試験研究成果等報告会」で発表した5課題の要旨を公開いたしましたので業務の参考にしてください。
ギンザケ発眼卵供給体制の構築
内水面水産技術センター 主任専門研究員 貴志 太樹
アワビの容器放流とばらまき放流における回収率の比較
水産技術センター 増養殖部 専門研究員 渡邉 成美
柱状採水法を用いた貝毒の監視強化
水産技術センター 漁場保全部 上席専門研究員 加賀 新之助
脱出リング付改良カゴにおける小型ミズダコの行動について
水産技術センター 漁業資源部 専門研究員 森 友彦
サケ稚魚へのアスタキサンチンオイルの餌料添加による効果の検証
水産技術センター 漁業資源部 専門研究員 岡部 聖
令和4年度岩手県水産試験研究成果等報告会要旨
ギンザケ発眼卵供給体制の構築
内水面水産技術センター 主任専門研究員 貴志 太樹
【目的】
近年、秋サケ等主要魚種の不漁が続く中、本県沿岸ではサーモン海面養殖への期待が高まっており、ギンザケ、トラウト、サクラマスの海面養殖が開始されたところである。今後、養殖規模は拡大していく見込みであり、種苗の確保が課題である。中でもギンザケは、宮城県で盛んに養殖されており、国内で最も多く生産されている海面養殖サーモンであるが、発眼卵は、北海道またはアメリカ産に依存しているのが現状である。本県の内水面養殖業者も北海道またはアメリカから発眼卵を移入し、岩手県と宮城県向けのギンザケ種苗を生産している。
今後、本県沿岸におけるサーモン海面養殖の増加に向けてギンザケ発眼卵の増産が必要であること、また、県外及び国外からの発眼卵移入に係るコストの削減や疾病持ち込みのリスク軽減のため、県内産発眼卵の供給が急務と考えられることから、内水面水産技術センター(以下、当所)においてギンザケ発眼卵を生産し、県内の内水面養殖業者へ供給する体制を構築することを目的とした。
【方法】
当所で飼育している系統(以下、系統A)を用いて、5月から親魚養成を行い、成長量、餌料効率、生殖腺指数を測定した。
所がマス類の生産を委託している岩手県内水面養殖漁業協同組合(以下、養殖組合)が別途養成した親魚(以下、系統B)も合わせ、各系統とも10月末から週1回ずつ親魚の触診を行い、排卵が進んだ雌個体を選別し、採卵に供した。採卵は、雌親魚の腹部を切開することにより行い、採卵日ごとの採卵数、一尾あたり孕卵数を測定した。採卵後、雄親魚から精子を搾取し、等張液内で受精させた。得られた受精卵は、イソジンによる吸水前消毒を実施したうえでボックス型ふ化槽に収容し、9.3~10.5℃の飼育水をかけ流して管理した。積算温度280℃・日で検卵機及び目視による一次検卵を実施し、発眼率を算出した。
発眼卵は、事前に養殖組合生産分の試験販売及び当所生産分の試験配布について、県内の内水面養殖業者を対象に要望調査を実施し、要望のあった業者に対し、積算温度300℃・日で目視による二次検卵を実施のうえ出荷した。
【成果の概要】
親魚は、摂餌が鈍くなる9月下旬まで給餌し、平均体重1,309gに達した(図1)。親魚養成開始から給餌終了までの期間(5~9月)における増重量は4,877kg、総給餌量は4,710kg、餌料効率は103.5%であった。雄の生殖腺指数は、9月にピーク(10.9)となり、その後減少した。雌の生殖腺指数は、7月から11月まで増加し、11月に最大(22.6)となった(図2)。
採卵開始時期は、系統A、Bでそれぞれ11/21の週、10/31の週となり、採卵ピークはそれぞれ12/12の週、11/14の週となり、採卵時期が約1か月異なった(図3)。採卵尾数は、2系統合わせて1,527尾となり、総採卵数は273万粒、孕卵数は、系統Aが1,678粒/尾、系統Bが1,861粒/尾であった。平均発眼率は、系統Aで61.5%、系統Bで79.6%であった。
県内でギンザケ種苗生産を行っている12業者のうち7業者から要望があり、要望数量どおり合計156万粒の発眼卵を出荷した(表1)。
【今後の問題点】
令和5年度から、養殖組合にギンザケ発眼卵の生産及び販売を委託し、本格的に供給体制が始動するが、安定供給に向け、魚病対策を徹底すること及び生産の効率化に係る技術提供や技術開発が必要である。
親魚養成試験では、ほぼ全個体が成熟し、成長も良好であったが、大型親魚ほど孕卵数が大きいことから、今後、親魚候補を稚魚期から飽食させ、より大型の親魚とすることで、生産効率の向上が期待できる。
内水面養殖業者は、限られた期間で海面に出荷できるサイズまで種苗を成長させる必要があり、なるべく早い時期に発眼卵を必要としている。系統Bの方が、系統Aより採卵時期が約1ヵ月早かったことから、今後、養殖業者のニーズに合った時期に発眼卵を出荷するためには、系統Bを中心として発眼卵を生産していくことが望ましい。
系統Aで発眼率が低かったが、これは、採卵ピークが12月となり、卵が低温の外気の影響を受け死卵が多くなったこと、さらに水カビ防止の銅繊維の効果が低くなっていたことから、一部のふ化ボックスで水カビがまん延したことが主な要因と考えられた。今後、卵の温度管理や水カビ対策を見直し、ふ化ボックス収容後の水カビのまん延を防ぐことで、発眼率は80%程度に改善されると考えられる。
今年度の発眼卵出荷数量は156万粒となり、水揚ベースで約1,000トン分、現在の県内の需要を満たす規模となったが、今後、県内の養殖生産量の増加に合わせて、供給量を増加していく必要がある。そのため、バイテク魚(全雌)を利用した発眼卵生産など、生産効率の大幅な向上が期待される技術開発を検討する必要がある。
アワビの容器放流とばらまき放流における回収率の比較
水産技術センター 増養殖部 専門研究員 渡邉 成美
【目的】
容器放流は、アワビ種苗を放流容器に収容し容器ごと海底に設置する手法であり、放流後のアワビ種苗の活力維持とそれに伴う回収率の向上が期待される方法である。放流方法の比較については、放流後、短期間の生残率を調査した事例(遠藤ら、2003)はある一方、回収率や投資効果など漁獲時までを対象とした知見はない。このことから、容器放流と船上からのばらまき放流(以下、ばらまき放流)で種苗放流を行い、回収状況の比較により容器放流の放流効果について検証した。
また、放流場所によっては放流容器の波板が海底に接地しにくく、アワビ種苗が海底に移動できずに残存率(種苗が容器内に残った割合)が高くなることがあった。このため放流容器の改良を行い、従来容器との比較試験を行った。
【方法】
1 回収率比較試験
平成28年10月12日に吉浜湾において、ばらまき放流(4,789個)及び容器放流(4,679個)で、標識を装着したアワビ種苗を放流し、放流から2時間後に容器を回収した。その後、平成29年から令和3年の11、12月に漁獲された標識アワビを確認し、ばらまき放流と容器放流の回収率や投資効果を比較した。
2 改良容器試験
令和2年10月8日、野田湾の3定点で実施した。改良容器は、波板と外枠を固定するロープにゆとりを持たせ、容器内の波板が上下に可動可能なものとした(図1)。従来容器、改良容器それぞれに500個のアワビ種苗を収容し、各定点で放流した。放流から7時間後に容器を回収し残存率を確認した。
【成果の概要】
1 回収率比較試験
平成29年から令和3年の漁獲時(11、12月)に発見された標識アワビの累積発見率は、容器放流で0.906%、ばらまき放流で0.731%であった。つまり、容器放流の方がばらまき放流に比べて1.24倍高い回収率であるという結果が得られた(表1、図2)。
この結果から、ばらまき放流の回収率を5.0%と仮定した場合、容器放流の回収率は6.2%となる。この条件で20万個の種苗放流をする場合、その放流群における最終的な漁獲量は、ばらまき放流では1,280kg、容器放流では1,587kgとなる。さらに経費シミュレーションを行ったところ、容器放流を5か年継続する場合の投資効果は、ばらまき放流を継続する場合の2.3倍となった。このように、容器放流は資源添加を高め、漁獲量や投資効果の面でもばらまき放流に比べ優位であり、放流効果を高める放流方法であるといえる。
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図1 A地区におけるアワビ初期資源重量の推移
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図2 A地区の浅所におけるアワビ漁獲率の推移
2 改良容器試験
改良容器の試験結果については、従来容器では放流場所によって残存率(容器内に残る稚貝の割合)のばらつきが大きかったのに対し、改良容器では場所による残存率のばらつきが小さかった(図3)。また、改良容器の方が従来容器に比べて残存率が低い傾向となった。これは、波板が海底に接地する部分が多くなることにより、放流場所の底質の起伏に関わらずにアワビ種苗がスムーズに海底に移動できたためだと推察される。このため、従来容器を使用した場合に残存率が高くなるような放流場所では、波板可動式の改良容器を用いることで、容器放流の成功率の向上が期待できる。
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図3 23万個放流時の持続生産量と親貝重量(SSB)の関係
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図4 23万個放流時の持続生産量と延べ操業隻数の関係
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図5 A地区におけるMSYと放流数・MSYを達成する漁獲圧の関係