令和7年度第2回岩手県水産試験研究成果等報告会の要旨の公開について
岩手県水産技術センター及び岩手県内水面水産技術センターでは、水産試験研究成果の普及と試験研究の一層の充実を図るため、令和8年2月20日(金曜日)に岩手県水産試験研究成果等報告会を開催しました。当日発表した6課題の要旨を公開しましたので、業務の参考に参考にしてください。
ヨーロッパヒラガキ養殖の海外視察調査報告(水産技術センター増養殖部)
ヨーロッパヒラガキを新規養殖種として早期に確立するために、北欧スウェーデンを視察調査した。現地先進企業にて効率的な種苗生産・養殖技術を調査するとともに、希少性や品質を活かした市場戦略について実態を把握した。
岩手県における新規漁獲対象種マダコの流通実態と産地対応の方向性(水産技術センター企画指導部)
新たな資源としての期待がかかる岩手県産マダコに着目し、これまで明らかになっていなかった流通実態について調査した。調査の結果、岩手県産マダコの殆どが冷凍品として岩手県外へ流通しており、輸入品の埋め合わせ商材になっていることが分かった。今後の付加価値向上にあたっては、ブランド化や海業による地産地消を展開している先進事例を参考にする必要があると考えられた。
岩手県におけるスルメイカの不漁と小型化(水産技術センター漁業資源部)
岩手県におけるスルメイカの不漁と小型化について、漁獲動向と魚体と日齢の関係から検討した。不漁については、冬季の漁獲ピークが高水温化により消失したこと、小型化については、成長鈍化により体重が減少したことによると考えられた。
本県沿岸で発生した急潮と気象・海象の関係(水産技術センター漁業資源部)
本県沿岸で発生した急潮の要因を分析した結果、①一定方向に強い風が吹き続けたとき、②沿岸域に暖水渦と冷水渦が配置されたとき、③暖流が接岸し、かつ低気圧が通過したときに分類できた。
テナガダラの利活用について(水産技術センター利用加工部)
テナガダラは資源が増大しているが、水揚げされず利用が進まない。魚肉は低脂肪・高水分で身割れしやすく加工が難しいが、練製品にすると弾力は弱いものの、しなやかな物性値を呈する。試作品「すり身揚げ豆腐」は嚥下困難者用食品規格をクリアした。漁獲上課題が大きいが、これら練製品への利活用が期待できる。
ヤマメ三系統の河川及び飼育環境下における残存(生残)及び成長と放流効果について(内水面水産技術センター)
種苗の放流効果向上を検討するため、継代履歴の異なるヤマメを供試魚として河川調査及び飼育試験を実施した結果、河川環境では野生に近い系統ほど残存し、飼育環境では継代が進んだ系統ほど生残することが考えられた。
令和7年度第2回岩手県水産試験研究成果等報告会要旨
ヨーロッパヒラガキ養殖の海外視察調査報告
寺本 沙也加(水産技術センター増養殖部)
【はじめに】
ヨーロッパヒラガキは、令和6年度に国内定着が確認された欧州原産の食用カキであり、本県では令和7年度より重点研究課題に位置付けられた新規養殖種である。本種の種苗生産・養殖技術を早期確立するため、令和7年10月24日~11月1日の期間、本県がモデルとする産業化のスタイルを有する北欧スウェーデンを視察調査した。フランス等の主要生産国では、疾病の蔓延により減産が顕著であるほか、広大な干潟を利用したバスケット養殖が主流であるため、本県漁場へ応用しにくい側面がある。一方、スウェーデンを含む北欧は、低水温環境により疾病が発生しておらず、近年生産量を伸ばしている。加えて、同国西海岸では、水深のあるフィヨルド地形を利用した垂下養殖が行われており、リアス式海岸を有する本県と漁場環境が類似している。なお、同国のヨーロッパヒラガキは、大量生産・大量消費型の産業スタイルではなく、希少性と品質を売りにした高級食材としての地位を確立している。
以上のことから、種苗生産・養殖技術および市場戦略の観点において、本県が目指すべき生産モデルは北欧型であると考え、現地で種苗生産から養殖方法、流通状況までを調査したので報告する。
【視察で得られた知見】
スウェーデン唯一の種苗生産施設を有し、種苗生産から養殖までの一貫生産を実施している先進企業であるOstrea Aquaculture社(スウェーデン・コスター諸島)を視察した。同社における取組から以下の知見を得るとともに、国内10か所以上の魚市場や鮮魚店を調査し、各販売拠点における価格、流通形態、消費者への提供スタイルを調べた。
(1) 種苗生産
飼育水は、水深40m及び90mから取水し、UV-O殺菌を廃止して、バイオフィルターによる細菌叢制御(生態学的濾過)へ転換することにより、幼生生残率を従来の2~10%から10~80%に向上させている。幼生飼育時は、全換水率100%/h以上の高流量循環により細菌増殖を抑制することで、180L水槽で約200万個体の高密度管理を行っている。餌料培養は、Industrial Plankton社(カナダ)の自動培養装置を2台と、独自開発した培養バックを使用して生産している。餌料藻類は、Rhodomonas salina(80%)とTetraselmis suecica(20%)を混合して給餌しており、100万個の幼生飼育に対し、300~400細胞/µlの餌料が1,000L/日必要となる。
(2) 養殖方法
陸上で殻高5mmまで育成した後に沖出しを行い、20mmまでは多段式ランタンネット、それ以降は多段式バスケット(カナダ製)へ移行して育成する。低水温環境のため、出荷サイズの殻高70mm、殻付き重量80gへ育成するまでの養殖期間は3~5年を要する。なお、生残率を高めるために、定期的な分散と低密度飼育が必要である。
(3) 流通状況
ストックホルム、イェーテボリ、ウッデバラ、タヌム、グレッベスタード、ストレムスタードにおいて、魚市場や鮮魚店を調査した。スウェーデン産ヨーロッパヒラガキの現地価格は、PDO認定(EUの品質認証制度)を受けているグレッベスタード産が1個あたり約1,500円、他の地域産が1個あたり約1,200円と、マガキの2倍以上の高値で取引されており、フランスなど他の欧州産と比較しても高価であった。これは、北欧の低水温環境での長期育成により優れた風味や品質が形成されることから、欧州市場において最高級品としての地位を確立していると考えられる。流通形態は殻付きの生食用であり、規格は殻高70mm、殻付き重量80gで統一されていた。提供スタイルは、店頭でアルコールと共に提供するハーフシェル形式が主流であった。一般量販店には卸さず高級市場のみに販路を限定することで、「わざわざ現地に赴いて食べる特別な食材」としての付加価値を高めていた。
【今後の展開】
ヨーロッパヒラガキは、主要な貝類養殖種の不調が続く本県養殖業において、既存種を補完・代替する新たな選択肢になり得ると考えられる。本種は、卵巣肥大症への感受性がなく、8月末~2月頃にかけて旬を迎えるため、マガキの端境期を補完することが可能である。これにより、カキ類の周年出荷が可能となり、漁家収入の向上が期待される。また、山田湾での養殖試験や呈味成分分析の結果から、県産個体は欧州産と遜色ない品質を有し、原産地より短期間で生産できる可能性が示唆されている。今後は、今回の視察で得られた知見を基に、種苗生産や養殖技術の確立、および種苗の安定供給体制の構築を図ることで、収益性の高い持続可能な養殖モデルを確立し、産業化への移行を推進していく。
岩手県における新規漁獲対象種マダコの流通実態と産地対応の方向性
及川 光(水産技術センター企画指導部)
【目的】
本研究で取り上げるマダコ(Octopus sinensis)は、西日本を中心に高い需要を持つ重要な魚種である。近年では海洋環境の変化によって分布域が北上傾向にあり、特に常磐・三陸ではミズダコ(Enteroctopus dofleini)と入れ替わる形でマダコの水揚量が増加し、日本有数の産地へと変容しつつある。
一方、福島県や宮城県とは異なりこれまで殆どマダコの水揚げが無かった岩手県では、マダコの流通体制が確立していないため、現状のままでは他の産地よりも低い価格水準で投げ売りされるリスクを孕んでいる。今後、新たな資源としてマダコを有効に活用するためには、現状の流通実態を把握したうえでマーケティング戦略の構築について検討する必要があるが、マダコの流通問題を取り上げた研究は海外産を対象としたものに留まっており1-3)、岩手県産マダコに関する知見は明らかになっていない。
以上の背景により、本研究では新たな資源としての期待がかかる岩手県産マダコに着目し、マーケティング戦略の構築に向けて流通実態を明らかにするとともに、流通・販売といった産地対応の方向性について検討することを目的とした。
【方法】
岩手県内におけるタコ類の主要な6つの産地卸売市場(八木、久慈、普代、宮古、釜石、大船渡)からマダコを買い付けている中心的な業者を7社抽出し、令和7年6月から同年8月にかけてヒアリング調査を実施した。ヒアリング調査では、各社が買い付けているマダコの規格(サイズ)や加工の有無、仕向け先について聞き取った。併せて、宮城県の業者が岩手県産のマダコを買い付ける動きも見られたことから、気仙沼市、南三陸町志津川、石巻市および仙台市において水産加工業者や市場関係者、水産商社を対象としたヒアリング調査を実施した。
【結果の概要】
調査の結果、岩手県産マダコの殆どが冷凍品として岩手県外へ流通していることが分かった。調査地における水産加工業者は買い付けたマダコの内臓除去と冷凍処理を施しており、仕向け先はサイズによって異なっていた。1kg以上の大型品は、輸入品をメイン商材として取り扱う茨城県ひたちなか市や関西圏の水産加工業者へ流通しており、首都圏のスーパーマーケットが最終実需者となっていた。一方、500g前後の小型品は関西圏の商社を通して小売店へ流通していたが、需要が低く不安定な商材に位置付けられていた。
現状の産地対応を俯瞰すると、岩手県産マダコが輸入品の埋め合わせに終始していることが問題と考えられた。既存の流通チャネルを是正して岩手県産マダコの価値を高めるためには、マダコのブランド化や海業による地産地消を展開している県内外の先進事例を参考にしながらマーケティング戦略を構築する必要があると考えられた。
【今後の課題点】
500g前後の小型品は需要が低いため金銭的なメリットが無く、また無秩序な採捕はマダコ資源を枯渇させるリスクがある。対策として、宮城県を参考に公的な漁期やサイズ制限を導入することが考えられるが、アワビ資源の保護といった観点から地域内での合意形成が課題になる。
【参考文献】
1) Coronado, E., Salas, S., Cepeda González, M. F., & Chuenpagdee, R. (2020). Who’s who in the value chain for the Mexican octopus fishery: Mapping the production chain. Marine Policy, 118, 104013.
2) Diedhiou, I., Yang, Z., Ndour, M., Deme, M., Fall, M., Thiaw, M., Thiam, N., & Li, S. (2019). Socioeconomic dimension of the octopus “Octopus vulgaris” in the context of fisheries management of both small- scale and industrial fisheries in Senegal. Marine Policy, 106, 103517.
3) Wamukota, A., Brewer, T. D., & Crona, B. (2014). Market integration and its relation to income distribution and inequality among fishers and traders: The case of two small-scale Kenyan reef fisheries. Marine Policy, 48, 93– 101.

※ ヒアリング調査の結果により作成
岩手県におけるスルメイカの不漁と小型化
村上 泰宗(水産技術センター漁業資源部)
【目的】
スルメイカは、秋季発生系群と冬季発生系群の2群が資源の主体となっている。岩手県における漁獲量は、冬季発生系群の資源量と連動しており、最盛期には年間30,000トンに達したが、近年は資源状態の悪化に伴い減少し、平成29年以降は3,000トン未満の不漁が続いている。加えて、漁業者からは漁獲物の小型化も指摘されている。
本研究では、本県におけるスルメイカの漁獲動向と魚体サイズ及び日齢の変化を解析し、不漁と小型化の要因について検討した。
【方法】
市場月報及び岩手県水産情報配信システムより、昭和41年~令和6年の県内7魚市場における漁獲量データを取得し、平均漁獲量の±20%の範囲を上回る期間を高水準期、下回る期間を低水準期と定義し、類似した傾向を示す5ヶ年(高水準期:昭和41年~45年及び平成19年~23年、低水準期:昭和57年~61年及び令和2年~6年)を抽出して、月別漁獲動向を比較した。また、水産研究・教育機構が整理した「東北海区の水塊指標」及びFRA-ROMSⅡによる水温分布図より、漁獲動向と海況との関係を比較した。さらに、平成24年~令和6年に漁業指導調査船「岩手丸」及び「北上丸」によるいか類漁場探索調査で採集した個体及び釜石魚市場に水揚げされた個体について、外套長と体重の測定及び既往の方法による平衡石からの日齢査定を行った。
【成果の概要】
月別漁獲動向を比較すると、高水準期には夏季及び冬季に漁獲のピークがあったのに対し、低水準期では冬季のピークが消失した(図1)。低水準期における冬季の50m深水温は、暖流水の影響を受けてスルメイカの適水温である15℃を上回る傾向にあり、冬季の漁場形成が阻害され、年間の漁獲量が減少したと考えられた。
また、外套長には大きな年変化がなかったのに対し、体重は減少傾向であった(図2)。本県に来遊するスルメイカの日齢はどの年も概ね190~250日の範囲にあり、来遊時期に大きな変化がなかったことから(図3)、成長が鈍化したと考えられた。平均体重と同時期の黒潮続流の平均緯度には強い負の相関が認められ(r=-0.89、p<0.001、図4)、近年の小型化には水温や餌生物環境の変化が大きく関与したと推察した。
【今後の問題点】
黒潮大蛇行の終息に伴い、黒潮続流の北偏が解消した令和7年は、12月の50m深水温が沿岸から沖合にかけて11~12℃となっており、月別の漁獲動向も9月と12月にそれぞれピークが現れるなど、高水準期に近い動向を示した。しかし、依然として平均体重は回復しておらず、漁獲量も低水準期に近い値となったことから、資源状態が十分に回復しているとは考えにくい。また、海況の変化に伴い、今後も漁場形成や魚体に変化が生じると予測されることから、継続的なモニタリングが必要である。


※各年6~10月に採集したサンプル


本県沿岸で発生した急潮と気象・海象の関係
〇太田 倫太郎(水産技術センター漁業資源部)・小川 元(水産技術センター副所長兼漁場保全部長)
【目的】
定置網漁業や養殖業が盛んな本県にとって、急潮は漁具や施設の破損、流失などの大きな被害をもたらすため、モニタリングの強化と対策が求められている。急潮は「沿岸に敷設した漁具に被害を及ぼす流れ」(松山、2009)や「50cm/秒(約1ノット/時)以上の流れ」(石戸谷ら、2006)と定義される。また、急潮の発生には、①台風や低気圧の通過に伴う風によるもの ②黒潮系暖水の進入によるものという、気象と海象の2つの要因があるとされている(松山、2009)。本研究では、本県で急潮が発生する条件を明らかにすることを目的に、大きな被害が発生した急潮を気象的要因と海象的要因に分類した。
【方法】
急潮被害については、岩手県漁業共済組合、県内各沿海地区漁業協同組合、各振興局水産部及び振興センターから提供を受けた資料をもとに、令和元年~7年の期間で集計した。急潮発生前後の気象については、気象庁が公表する「保存用天気図」及び「過去の気象データ」を参照した。海流、表層温度などの海象情報については、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が公表する「ひまわり海中天気予報」及び水産研究・教育機構が公表する「改良版我が国周辺の海況予測システム FRA-ROMSⅡ」を参照した。
【成果の概要】
令和元年~7年の間に、本県で発生した急潮被害件数は66件であった。これらの被害は、令和元年に2件、令和2年に10件、令和3年に9件、令和4年に10件、令和5年に11件、令和6年に26件、令和7年に8件発生していた(図)。
令和元年から令和7年の急潮被害の要因を、気象、海象及びその両方の3種類に分類すると、気象由来のものが40件、海象由来のものが21件、両方の影響によるものが5件であった(表)。各分類で気象・海象条件を照らし合わせると、本県沿岸で急潮が発生する条件として、①一定方向に強風が吹き続けたとき ②沿岸域に暖水渦と冷水渦が配置されたとき ③暖流が沿岸に接近しかつ低気圧が通過したとき の3つがあることが分かった。
また、地区ごとに要因を比較すると、県南部では黒潮続流が波及していた令和5年と、台風の接近が多かった令和6年に被害件数が増加していた。一方、県北部では、黒潮大蛇行終息後の令和7年11月に大規模な急潮被害があった。このことから、黒潮続流の近接・台風の接近が頻繁に発生する年は県南部での急潮被害が増加し、黒潮続流の後退によって津軽暖流の影響が強くなる年は、県北部での被害が増加する可能性があると考えられた。
【今後の問題点】
急潮が発生しやすい気象・海象条件をさらに精査し、急潮情報の情報精度の向上を目指したい。

テナガダラの利活用について
〇上田 智広・宮田 小百合(水産技術センター利用加工部)
【目的】
テナガダラは、北海道から土佐湾までの太平洋沿岸や一部日本海などの主に深海域に広く分布するたら類であり、日本近海では底びき網漁業で混獲されることが知られている。岩手県沖における水深200~500 mの沖合トロール網調査では、平成29年頃からテナガダラが全体の50%以上を占める年が増えている。しかしながら、本種の商業利用はほとんど見られず、ミール等食用以外の利用も限定的である。頭部が大きく、尾部が長い特徴を有するテナガダラは、魚体に対する身肉が少なく、タンパク供給源としての栄養的価値や加工生産性が低いため、総じて他の未利用魚と比較して経済的な優位性が見いだせていない現状にある。さらに、テナガダラは入網した魚の多くが漁獲直後に船上で再放流され、産地市場への水揚げがほとんど見られないため、業界関係者のでも知名度が低く産業化を進めるうえで課題がある。一方、岩手県では、かつて主要魚種であったサケ、サンマ、スルメイカの漁獲量が減少し、地元企業では国外、県外からの移送を伴う原料移入で対応しているが、コストの上乗せによりさらに原料価格が上昇していることが推察される。この加工原料不足を解消するためにテナガダラの利用可能性を検討する意義は大きいと考えられる。そこで、当センターでは、令和6年度から向こう5か年計画で、本魚種の成分特性把握や有効利用に向けて取り組んでいる。なお、当センターよりも先に、茨城県では平成16年度から、青森県では令和5年度にテナガダラの加工特性の把握および加工品試作を実施しており、総じて刺身、干物、すり身としての適性を有することが報告されている。
【方法】
令和6年は6月、11月および令和7年は6月に原料を入手し、常法による一般成分(水分、粗脂肪、粗タンパク質、灰分)分析と、ねり製品に用いるすり身の特性評価を実施した。また本種の身質の脆弱性を補うため、演者らはねり製品化に取り組んでいる。ねり製品の適性評価には、令和6年11月に岩手県沖で漁獲されテナガダラ(平均体重205 g)の皮なしフィレからミンチ肉とした後、2回水晒しした裏ごし肉に、糖などを添加して冷凍すり身を調製した。なお裏ごし後の加工歩留は31%と低かった。食塩と水を加えて擂潰し、水分80%、塩分3%に調製した塩摺肉をφ25mmのソーセージ用チューブに充填し、各温度と時間条件で加熱しゲル(カマボコ)を調製した。物性測定はソーセージ状ゲルから、φ25 mm×H25 mmのピースを作成し、測定機により、ピースの円柱面中央部にφ5 mmの球形プランジャを1mm・s-1の速度で貫入させ、破断時の応力(破断強度)と歪率(圧縮率)を得た。併せて、加熱操作による坐り(弾力増強)の効果を化学的に把握するため、各加熱ゲルの一部をSDS溶液に溶解させた試料をSDS電気泳動に供し、ゲル中のタンパク組成の変化を解析した。
また、魚肉に脱脂大豆粉末と「にがり」に水やサラダ油を加えて乳化後、絞り袋に入れて油ちょうしソフト感を付与した「揚げ豆腐」様の製品を試作した。その物性を測定し嚥下困難者用製品の規格基準と照合した。テナガダラの鮮度低下を客観的に把握する手段として、10℃で貯蔵したテナガダラのK値を経時的に測定した。これらの得られた研究知見を産業化に結び付けるため、令和6年2月に岩手の底びき網漁業関係者および水産加工業者、宮城のすり身製造業者が集った意見交換会を開催し、水揚げされていない本魚種のすり身利用に向けた課題整理を行った。
【成果の概要】
一般成分値は季節や魚体サイズ間で変動が少ない魚種と考えられる。構成する成分間で組成を比較すると、水分は83%前後とスケトウダラより数%程度高く、一方で粗脂肪は0.3%以下で極めて少なく、粗タンパク質もマダラと同程度の15%前後と魚類のなかではやや少ない。フィレの身質が脆弱に感じられるのは、高水分や低タンパク質等の成分組成が影響していることが推察される。加熱ゲルの物性はいずれの加熱条件でも破断強度が最大1 N程度と低く、弾力を増強するため試みた2段加熱(30℃、 60 min → 90℃、 30 min)の破断強度は1.2Nであり、坐りで認められるミオシン重鎖を主体とするタンパク組成変化も少なく、坐り効果は認められなかった。一方、破断時の歪率は高く、二段加熱ゲルで約80%を示し、しなやかな食感を形成した。また味が淡泊で癖が無く、消費者の嗜好性によっては高く評価される可能性がある。なお、調製すり身には内臓や表皮由来の黒皮や白皮の混入が多く、製品表面が茶褐色である揚げ蒲鉾など、異物と誤認されない製品への利用に限定されると考えられる。鮮度指標であるK 値は、既に試験開始時には生食の判断の一般的目安である20%に達しており、2日目で40%を超え、3日目には70%に達した。タチウオやたい類など他魚種に比べ数値の上昇が速く、品質低下が早い魚種と考えられた。なお K値は魚肉中の特定の一部の酵素による核酸成分の分解度を示す指標であり、漁獲後の時間と温度履歴は推定できるが、通常は微生物の増殖等多様な要因が関連して品質低下が起こるため、K値の判断となる目安が実際の官能的評価と合致しないケースも多い。
【今後の問題点】
テナガダラすり身をカマボコには強い弾力は期待できないが、しなやかさに極めて優れることが明らかとなり、ソフト感を強調した「すり身揚げ豆腐」は一部の嚥下困難者用食品の規格基準をクリアした。今後食品メーカーに普及し、特徴のある物性を背景に練り製品原料として利用喚起を図っていくものの、一方で市場に水揚されない状況を改善しなければ産業化は難しい。テナガダラは現状においては混獲魚の位置づけであり、効率的に安定して漁獲する必要性や魚体形状から網から外しにくい問題が明らかとなったほか、加工関連では栽割は手作業で行うため効率性の良い大型魚の受入が望まれるほか、通常はすり身製造に生原料を用いることから、一日の加工処理量に見合う漁獲量の調整や原料受入時間の制約に関する課題を認識した。将来的には原料の品質に応じた冷凍魚利用も視野に検討を進める必要性が感じられた。加工原料が不足するなか、今後受入条件を満たすことで一時的に商品化が期待できても、持続的利用につなげるために、小売業界や消費者に対して一連の取組みに対する理解醸成を行い、需用を喚起することも必要である。産地が原料不足の課題を全体で共有し、解決に向けて利害関係を越えた協力体制が必要と思われる。
ヤマメ三系統の河川及び飼育環境下における残存(生残)及び成長と放流効果について
松川 広樹(内水面水産技術センター)
【目的】
ヤマメ等の渓流魚は漁業権対象魚種として多くの河川漁協で増殖事業が実施されている。河川における主な増殖方法として稚魚放流があり、養魚場で長年継代して生産された継代魚を用いることが一般的である。最近の研究で継代魚と野生魚を交配して生産した半野生魚の方が、より河川での残存率が高いことが明らかとなってきた。そこで、種苗の放流効果向上を検討するため、継代履歴の異なるヤマメ系統を供試魚として河川調査と飼育試験を実施した。
【方法】
1 供試魚
3系統の稚魚を用い、各系統それぞれに鰭切による外部標識を施し、区別可能とした。3系統は、令和5年に安家川に遡上したサクラマスから採卵し、当所で飼育した群を遡上F1系統、平成26年に安家川に遡上したサクラマスを起源として当所で3世代継代した群を遡上F4系統、当所で10世代以上継代して生産した群を池産系統とした。
2 河川調査
令和6年4月に八幡平市内を流れる松川支流の金沢川に各系統350個体の稚魚を放流した。令和6年4月から令和7年3月まで、毎月採捕調査を実施し、採捕個体は標識を確認して計数した後、ランダムに抽出した一部個体の尾叉長と体重を測定した。本県では、3月から9月末までの期間、全長13cmを超える大きさのヤマメが河川で漁獲対象となることから、放流の翌年3月時点で尾叉長13cmを超える個体を漁獲対象個体として、放流個体数に対する残存率を算出した。
3 飼育試験
当所施設内の水槽で各系統150個体の稚魚を混合飼育し、令和6年4月から令和7年3月まで、毎月測定した。測定は各系統30個体をランダムに抽出し、尾叉長と体重を測定した。
【成果の概要】
河川環境における残存率は、調査期間を通して遡上F1系統が最も高く、池産系統が最も低い傾向にあった(図1)。一方、飼育環境における生残率は、試験期間を通して遡上F1系統が最も低く、池産系統が最も高い傾向にあった(図2)。すなわち、河川環境では野生に近い系統ほど残存し、飼育環境では継代が進んだ系統ほど生残することが考えられた。
各系統の平均尾叉長は、河川環境では調査期間を通して成長の違いが確認されなかった一方、飼育環境では池産系統が他二系統よりも高成長であった(図3及び図4)。
放流翌年3月時点での尾叉長13cmを超える個体の放流個体数に対する残存率は、遡上F1系統で2.0%、遡上F4系統で1.1%、池産系統で0.6%であった。すなわち、野生に近い系統ほど漁獲対象サイズになるまで河川に残存する個体が多く、放流効果が高いと考えられた。
【今後の問題点】
河川漁協における高齢化や人手不足、漁協の収入減少が生じる中、より効果の高い種苗放流の実施が求められる。したがって、より野生に近い系統の種苗放流や発眼卵放流の検討が必要と考えられた。




お問い合わせ
増養殖部 : 0193-26-7917
企画指導部: 0193-26-7914
漁業資源部: 0193-26-7915
利用加工部: 0193-26-7916
内水面水産技術センター: 0195-78-2047
代表メールアドレス: CE0012@pref.iwate.jp






