浅海増養殖技術に関する資料(ニュース特別号)

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令和2年11月18日

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はじめに

例年、9月に花巻市で開催されている浅海増養殖技術検討会について、令和2年度は新型コロナウィルス感染症の影響により開催が見送られたことから、水産技術センターで発表を予定していた浅海増養殖技術に係る資料をお知らせします。

なお、掲載している資料は、10月12日作成のものとなっておりますので、利用にあたってはご注意ください。

資料目次(タイトルをクリックするとその項目に移動します。)

1 ワカメ・コンブ関係

(1) 令和2年秋季の海況の見通しについて(漁業資源部)

(2) 令和2年春の栄養塩の早期枯渇原因について(漁場保全部)

(3) ワカメ半フリー種苗の活用について(増養殖部)

2 ホタテガイ・カキ関係

(1) ホタテガイラーバの来遊予測及び養殖管理について(漁業資源部)

(2) 麻痺性貝毒発生の広域化・長期化について(漁場保全部)

3 アワビ・ウニ関係

(1) アワビの資源管理について(増養殖部)

(2) アワビ、ウニの餌料対策について(増養殖部)

1 ワカメ・コンブ関係

(1) 令和2年秋季の海況の見通しについて

ア 現在の海況について(9月下旬~10月上旬)

漁業指導調査船「岩手丸」により実施した定線海洋観測の結果、本県沿岸10海里以内の表面水温は18~20℃台であり、概ね平年並みに推移しています(図1左)。100m深水温の分布は県中部から県南部の沖合域で平年よりやや高めの傾向にありますが、海流の突発的な波及による顕著な水温変動は見られておりません(図1右)。

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図1 9月29日~10月2日に実施した定線海洋観測結果(左図:表面水温、右図:100m深水温)

イ 11月上旬の水温予測について

定線海洋観測の長期データから11月上旬の水温予測を実施したところ、沿岸10海里以内の100m深水温の平年値は12~15℃台であり、全域で平年並みと予測されました。

また、水産研究・教育機構が運用している海況予測システム「FRA-ROMS」によると、11月上旬の岩手県沿岸域は、津軽暖流水の波及が弱めであるため、平年より最大2℃程度低めとなる予測となっています(図2)。

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図2 海況予測システム「FRA-ROMS」による11月上旬の100m深水温予測図(左図)及び平年偏差図(右図)

(2) 令和2年春の栄養塩の早期枯渇原因について

水産技術センターでは、漁業指導調査船岩手丸で沿岸4定線観測(黒埼、トドヶ埼、尾埼、椿島)を毎月行っています。岩手丸が採水した海水の分析結果から令和2年の春(2、3月)の栄養塩の動向は、例年に比べ大きく落ち込む現象が観測されました(図1)。ちょうどワカメの収穫時期の前半にあたり、生産者の皆様は色々危惧されたことと思います。

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図1 沿岸定線(黒埼及び椿島定線)の栄養塩の推移

この時期は、例年と比べて3月の親潮の勢力が非常に弱かったことがわかっています(図2)。そのため、岩手県沿岸を南下する津軽暖流が例年よりも強く流れていたと考えられます。津軽暖流は親潮と比較して栄養塩が少ないとされており、結果として、沿岸で栄養塩が急速に枯渇したと考えられます。

水産技術センターでは、秋のワカメ種苗の巻き込み時期に合わせて「ワカメ養殖情報」に栄養塩の供給時期予測(栄養塩が20μg/Lを超える確率を50日先まで予測)を行い、水産技術センターwebページで公開しています。是非、ご活用ください。

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図2 100m深の水温分布(赤線:10℃、青線:5℃)
※ 5℃の等温線は親潮の存在を示しているとされている

(3) ワカメ半フリー種苗の活用について

ワカメ半フリー種苗(図1)を用いた養殖は、クレモナ等に胞子を付着させて培養し、陸上で葉長2~5cmまで生長させて養殖用種苗として養殖ロープに巻き込んだりステープラで打ち込んで行う方法です(図2)。

通常の養殖用種苗に比べ、早い時期から沖出しできることから、収穫も早い時期から行える特徴があります(図3)。また、1株の生育本数が自然に一定数に減少することから、間引き作業の省略化が図られるというメリットがあります。

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図3 ワカメフリー種苗による養殖試験結果(ワカメ1本あたりの重量)

水産技術センターでは、平成29年度から3年間、県内の希望する漁協へ種苗を配付し(表1)、養殖試験に取り組んでもらい、その効果を実感していただきました。
今後は、(社)岩手県栽培漁業協会にワカメ半フリー種苗の生産技術を移転し、量産化技術を確立していく予定です。

表1 年度別のワカメ半フリー種苗の配付状況
年度 漁協数 実施人数 配布株数
平成29年度(実績) 8 34 71,550
平成30年度(実績) 12 33 63,900
平成31年度(実績) 9 39 68,120

2 ホタテガイ・カキ関係

(1) ホタテガイラーバの来遊予測及び養殖管理について

本県に来遊するホタテガイラーバの主な起源は、陸奥湾及び噴火湾と推定されており、来遊量は海況の影響を受けて大きく変化します。数値実験から本県への親潮の接近がラーバの来遊には重要であることがわかりました。また、本県海域の4月の100m深水温(親潮の指標)と唐丹湾の付着稚貝数を比較したところ、有意な負の相関関係が認められました。

令和2年4月の100m深水温は「8.04℃」であったことから唐丹湾での付着稚貝数は近年で最も低い「332個/袋」と予測されました(図1)。

実際の付着稚貝数はこれまでで最も少ない250個/袋以下(図2)であったことから、来遊予測は的中しました(R2.5.12令和2年度ホタテガイ採苗情報(臨時号)で情報提供済)。

次年度の採苗器の投入に当たっては、各浜のラーバ調査・付着稚貝調査結果(ホタテガイ採苗情報)に併せて来遊予測情報を参考にし、特に海洋環境が不適と判断された場合には採苗器の大量投入や分散投入等の対策をお願いします。

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図2 唐丹湾(調査定点)のホタテガイ付着稚貝数(令和2年8月3日)

稚貝の分散作業を実施する際には、次の点に留意して行ってください。

  • 採取する稚貝の大きさは殻長9mm以上とし、早めの採取・分散を心掛けましょう。
  • 変形貝を防ぐため玉ねぎ袋の底にたまった稚貝は使わないようにしましょう。
  • 採取・分散にあたっては、雨の日や雨後を避け、水温(25℃以上の場合は実施しない)及び気温の動向を確認しながら、丁寧かつ速やかに作業を進めてください。
  • 分散作業で使用するポンプアップした海水は、工事等による濁り等の影響がないことを確かめながら使用してください。

(2) 麻痺性貝毒発生の広域化・長期化について

麻痺性貝毒によるホタテガイ等の出荷自主規制は、その原因となるプランクトンの発生によって起こることが知られています。

麻痺性貝毒原因プランクトン(以下、プランクトンと略す)は、アレキサンドリウム属(図1)のプランクトンでシスト(種)(図2)を形成し、海底泥中で休眠します。シストは、環境条件が整えば休眠から目覚めて発芽し、海水中を遊泳するプランクトンとなり、増殖適環境であれば、大量に発生します。これらの理由から、麻痺性貝毒の発生は、内湾性で、出荷自主規制が講じられる湾が限定されていました。しかし、近年は、プランクトンの発生が広域に亘り、高毒化した場合には、出荷自主規制の長期化が起こっています(表1)。

表1 最近の麻痺性貝毒による出荷自主規制海域
  H30 H31(R1) R2
生産海域  
北部      
中北部      
宮古湾    
山田湾    
中部    
大槌湾
釜石湾
中南部
三陸町  
大船渡湾東部
大船渡湾西部
南部

過去の知見では、内湾由来(海底のシストから発生したプランクトン)と外洋から入ってきたプランクトンによって、広域に出荷自主規制が講じれらた事例があり、令和2年度もこの2パターンによるものと考えられました。

実際に水産技術センターの漁業指導調査船岩手丸がサンプリングした海水からもプランクトンが確認されています(図3)。

3 アワビ・ウニ関係

(1) アワビの資源管理について

岩手県のアワビの漁獲量は、東日本大震災以降低迷し、最近は餌料海藻の生育不良によっても減少しています。

このような中、アワビ漁業を持続的に行っていくためには、資源状況の把握と適切な管理が必要となります。水産技術センターでは、資源量の解析及び将来予測(漁獲資源推定)、更には収益性を考慮した資源経済分析を組み合わせた資源管理モデルを開発しました。

図1は、県内A漁場において、口開け回数を変えてアワビ資源の将来の変動を予測した結果です。4回の開口を継続した場合では天然貝の資源量は将来的に増加しますが、6回の開口を継続した場合では資源量は横ばいとなり、8回の開口を継続した場合では資源量は減少します。

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図1 口開け回数を変えた場合の将来の資源動向の推定

また、資源経済分析(図2)の結果では、現状を改善するには人工種苗の放流数を増やし、口開け回数を増やすことで収益を上げることが出来ますが、資源の状況を考慮した開口回数とすることが重要です。

以上のような資源解析や資源経済分析を行うには、1漁期2回以上の漁獲結果(1回毎の結果)、操業時間、操業者数などのテータが5年以上必要となります。

お気軽にご相談ください。

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図2 資源経済分析結果

(2) アワビ、ウニの餌料対策について

近年アワビやウニ類の餌となるコンブ等の大型褐藻類の生育量は著しく減少し、アワビ、ウニ類の成長や身入りへの悪影響が危惧されています。これは、コンブの幼葉が芽出しする冬期の水温がここ数年高めに経過しており、漁場に大量に生息しているウニ類によって食べられてしまうためと考えられています。

水産技術センターでは、フリー・半フリー種苗により早期生長させた海藻を人為的にコンブの芽出しの時期に漁場へ給餌してウニの食欲をコンブの芽以外に向けさせ、幼葉を保護してコンブ群落をつくれないか試験をしているところです。

漁場で実際に試験を行う前に、陸上水槽で模擬試験を行いました。
コンブの幼葉に模す海藻としてコンブの種糸を篭の中に設置して、ウニを収容し、ウニの食欲を向けさせる海藻として養殖したコンブとスジメを使って試験を行いました。

その結果、コンブやスジメを入れた試験区ではコンブの芽に模した種糸はウニの食害を受けないでコンブ種糸上の幼葉が残っていましたが、コンブやスジメを入れなかった試験区ではほとんどウニに食べられてしまいました(図1)。

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図1 陸上水槽によるコンブ幼葉保護試験

今後は、漁場での実証試験に取り組む予定としています。本方法がコンブ等の藻場形成に効果があることを期待したいと思います。

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図2 漁場での実証試験のイメージ図

お問い合わせ

漁業資源部: 0193-26-7915

増養殖部: 0193-26-7917

漁場保全部: 0193-26-7919

代表メールアドレス: CE0012@pref.iwate.jp