令和2年度岩手県水産試験研究成果等に係る要旨の公開について

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令和2年度岩手県水産試験研究成果等に係る要旨の公開について

例年、当センターと岩手県内水面水産技術センターで共催している岩手県水産試験研究成果等報告会につきましては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の防止を図る観点から各研究成果等の要旨公開としましたので業務の参考にしてください。

(1)令和2年度のサケの回帰状況(水産技術センター漁業資源部)

令和2年度の岩手県のサケの回帰尾数は、昨年に続き平成22~30年度の8割減の水準となった。これは、平成27~29年級の回帰不振が原因であり、放流稚魚の生息適期の短期化、餌不足、南東方向への海流の強化が主な要因と考えられた。

(2)陸奥湾及び噴火湾起源のホタテラーバの輸送に関する粒子追跡実験(水産技術センター漁業資源部)

ホタテラーバの本県沿岸への来遊条件を明らかにするため、仮想粒子群を追跡する数値実験を行った。来遊には、親潮前線の接近と津軽暖流の南下が重要であり、黒潮系暖水の強い波及により、県南部海域を中心に不振になると考えられた。

(3)サバやカツオの加工残滓を利用した「地域循環型」 機能性食品の開発(水産技術センター利用加工部)

サバ・カツオに多く含まれる強力な抗酸化性を示す機能性成分「セレノネイン」を含む健康食品向け中間素材を県内水産加工業者の加工残滓(内臓・血液)から製造する技術を地元企業とともに開発し、商品化を推進した。

(4)冬季のウニの摂餌圧分散を利用した餌料対策について(水産技術センター増養殖部)

「大型海藻を餌料として冬期に漁場に設置し、それをウニに摂餌させることで天然コンブの幼葉に対する摂餌圧を分散して天然コンブの幼葉を守る手法」の模擬試験を陸上水槽で実施した。結果、餌料用海藻の給餌によりコンブ幼葉はウニの摂餌から保護された。

(5)令和2年3月に発生した急激な栄養塩枯渇について(水産技術センター漁場保全部)

令和2年3月にワカメ漁場付近の栄養塩濃度が急激に低下した。この時期は、栄養塩を豊富に含む親潮が北偏していたと思われ、その影響により栄養塩が少ない津軽暖流が沿岸域に強い勢いで流れ込んだことが原因と考えられた。

(6)サクラマス増殖に関する研究(内水面水産技術センター)

サクラマス種苗量産技術の向上により事業規模での50万尾生産を達成した。放流後の標識魚追跡調査から、放流種苗の河川内での生残と成長の状況、回帰親魚の状況を確認した。

(7)宮古地区におけるアサリ養殖試験について(宮古水産振興センター)

全国的にも注目されている人工採苗によるアサリ養殖について、事業規模で実施するための試験を令和元年度から開始した。また、先行して取り組んだ漁協での試験結果に基づいて養殖マニュアルを作成し、養殖方法の確立・普及に努めている。

各要旨

(1)令和2年度のサケの回帰状況

水産技術センター 漁業資源部 主査専門研究員 清水 勇一

【はじめに】

令和2年度における全国のサケの来遊数は、前年を上回るものの、平成16年以降減少して昭和50年代中盤から後半と同水準になっている。地域的には、日本海側よりも太平洋側、北部よりも南部ほど減少率が大きい傾向にあり、本報告では、令和2年度の岩手県の回帰状況を整理し、令和3年度の見通しと不漁要因について検討したので報告する。

【方法】

回帰状況については、岩手県のさけますに関する資料および岩手県農林水産部水産振興課による秋サケ漁獲速報を参照した。また、水産技術センターが7月に発表した秋サケ回帰予測と漁獲速報と比較検討した。さらに、津軽石川、織笠川、片岸川において旬1回の頻度で行った回帰親魚調査による体重、尾叉長、年齢組成結果を整理し、令和3年度の見通しと不漁要因を検討した。なお、不漁要因の検討には、漁業指導調査船「岩手丸」によるサケ稚魚分布密度調査、海洋観測資料、同「北上丸」による動物プランクトン調査資料も参考にした。

【成果の概要】

岩手県のサケの回帰尾数は、平成8年度をピークに、段階的に平成11年度以降4割減少、平成22年度降6割減少して低い水準で推移していた。その後、令和元年度に76万尾、令和2年度は59万尾(1月31日現在)となり、さらに8割減少した新たな段階に入った可能性がある(図1)。この2年間、河川捕獲の割合が上昇し、最盛期となる11月下旬を中心に全ての時期で減少、3~5年前の資源構成が12月上旬ピークとなったことを背景に、漁獲のピークも12月上旬から中旬に変化した。令和2年度漁期前に公表した回帰予測と比較すると、尾数で予測値の28%、(河川は47%)と著しく予測を下回り、時期別の増減は予測どおりだったものの、各時期予測の29%の実績として推移した(図2)。
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図1 岩手県のサケ放流数と回帰尾数の年度推移
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図2 令和2年度の旬別回帰予測と実績(右)および相関関係(右)
※ 時期の増減は概ね一致している(R2=0.81)が各旬予測の29%で推移
津軽石川、織笠川、片岸川の3河川において、3河川とも各年齢の尾数は少なく、4歳魚の割合が高かった。この3河川の調査結果を県全体に引き延ばすと、漁期前予測と比較して3歳魚と4歳魚は大きく予測を下回り、5歳魚はやや予測を上回った。年級別回帰尾数に整理すると、平成27年級から平成29年級にかけて著しく少なかった(図3)。また、体サイズについては、肥満度が平年よりも低い傾向があり、ややヤセ気味であった。 このように、平成27年級から平成29年級の回帰尾数が著しく少ないことが、令和元年以降の不漁の原因となっており、同年級の放流時の環境は、沿岸滞泳期において、生息適水温期間が短くなり、餌料も少なく、離岸期には南東方向の潮流が強く(図4)北上回遊に不利な条件であった。一方、種苗生産・放流については、放流サイズがやや小さい傾向が見受けられるものの、基準を遵守した良い飼育放流を実施していた。 令和3年度について、調査した3河川の年齢査定結果をもとに例年行っている方法で計算すると、106万尾と今年度の約2倍の回帰尾数が見込まれた。しかし、最近は予測に対して各時期29%の実績であることから、これを補正すると今年度の約1/2の31万尾と推定された。いずれにしても、平成30年度の3割以下となることから、資源回復のための種卵確保が一層重要となる。

【今後の課題】

高水温、低餌料環境により、放流した稚魚の成長不良が原因で、離岸前の死亡と南東方向への流失が資源の減少要因と仮定される。今後、この仮説を裏付けるデータを収集することと、数から質への増殖事業の転換が求められる。

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(2)陸奥湾及び噴火湾起源のホタテラーバの輸送に関する粒子追跡実験

水産技術センター 漁業資源部 専門研究員 児玉 琢哉
水産技術センター 増養殖部 専門研究員 渡邉 成美・増養殖部長 野呂 忠勝
国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産資源研究所(塩釜) 水産資源研究センター 海洋環境部 寒流第2グループ グループ長 奥西 武
国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産資源研究所(釧路) 水産資源研究センター 海洋環境部 寒流第1グループ グループ長 黒田 寛

【目的】

岩手県のホタテガイ養殖では、天然採苗により種苗を確保しており、例年5月頃から採苗器を漁場に投入する。しかし、近年は県南部海域を中心とした採苗不振が頻発しており、安定的な種苗確保が難しくなっている。本県に来遊するホタテラーバの主な起源は陸奥湾及び噴火湾で、浮遊幼生期間は30~40日と推定されている。この期間における海洋環境が本県沿岸域への来遊に重要であるが、その詳細は明らかとなっていない。 そこで、本研究では、ホタテラーバの本県沿岸への来遊条件を明らかにするため、ホタテラーバを模した仮想粒子群を追跡する数値実験(以下、粒子追跡実験)を行った。

【方法】

粒子追跡実験は、2003~2019年を解析期間として、各年2~7月の1日(上旬)、10日(中旬)、20日(下旬)に陸奥湾口(953粒子)及び噴火湾口(957粒子)に粒子を放流し(図1)、10m深に固定して行った。実験の外力としての流動場は、国立研究開発法人水産研究・教育機構が開発した高解像度版FRA-ROMS(水平解像度1/50度)の再解析値(日別10m深水平流速)を用いた。計算は、水平移流に加えて乱流拡散を考慮して行い、計算間隔を360秒として流跡を求め、県南部海域への来遊粒子数は、浮遊幼生期間を考慮して陸奥湾口及び噴火湾口から放流後30日以内に、北緯38.9~39.35度、東経142度以西(御箱埼~広田湾口)を通過したものとした。また、年別に放流粒子数に対する来遊粒子数の割合(来遊成功率)を求めた。

【成果の概要】

県南部海域への来遊成功率の経年変化は、2003~2014年は5~16%の範囲で推移していたが、2015年以降は5%以下と低かった(図2)。来遊成功率と4月平均の10m深水平流速との関係は、来遊成功率は三陸沿岸の南への流れが強まると高まる関係が見られ(図3)、いずれの月でも同様だった。また、来遊粒子の流跡から、親潮が後退してからは津軽暖流により陸域に沿って来遊するものが多かった。一方、30日間輸送させた粒子の累積出現数は、来遊成功率が低かった近年、県南部海域での出現が少ない傾向にあり、多くの粒子は黒潮系暖水の影響を受け、沖合域に拡散していた(図4)。このように、本県沿岸における親潮前線の接近と津軽暖流の南下がホタテラーバの来遊に重要であるが、親潮前線の接近や津軽暖流の南下が順調であっても黒潮系暖水の沿岸域への波及が強い年は、県南部を中心に採苗不振になると考えられた。
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図2 県南部海域への来遊成功率の経年変化

【今後の問題点】

これまで、岩手県海域における4月100m深水温(親潮の指標)から岩手県沿岸域へのホタテラーバの来遊量を予測してきたが、今後は黒潮系暖水などの流れの影響を加味した予測情報の発信を検討していく必要がある。

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(3)サバやカツオの加工残滓を利用した「地域循環型」 機能性食品の開発

水産技術センター 利用加工部 上席専門研究員 上田 智広

【目的】

サバ、カツオは全国で漁獲され、乾製品(節)、塩蔵品、缶詰等、様々な加工がされている。可食部である普通肉と血合肉の部位以外の、頭、鰓、鰭、骨、内臓は食用として利用されていない。これらは加工残滓として、ミール(魚粉)向けに製造業者に引き渡されるが、これだけで大幅な利益は期待できない。資源有効利用を積極的に進めるには、企業の取組意欲を醸成するため、資源をより付加価値の高い製品に転換していく仕組みが重要と考える。
様々な食品に含まれる成分の健康機能性は、消費者の知識や関心を深め、いまや購買動機の主要軸となっている。付加価値の高い転換手段として地域資源の残滓から機能性素材を回収し、健康食品や医薬品向けの中間素材として安定した製造供給体制の確立を目標とした。
サバ・カツオには機能性成分「セレノネイン」が含まれている。セレノネインの構造式を図1に示した。このセレノネインは、エルゴチオネインの一部がセレン元素に置換されたイミダゾール基を有するセレン化合物の一つである。最近中国の疫学調査からコロナウィルスの重症化を抑制する可能性が報告されており注目されている。またセレンサプリに用いる亜セレン酸のような毒性がなく過剰摂取等の問題は起こりにくいと思われる。この成分の特徴は強い抗酸化性にある。同じ抗酸化成分であるエルゴチオネインに比べて800倍、ビタミンE誘導体の500倍の抗酸化性を示す。2010年に(国研)水産研究・教育機構によって発見後、基礎的研究により図2に示す様々な生物活性が報告されている。特に血液や脾臓、腎臓等の部位に多く含まれている。三陸沿岸はサバやカツオの回遊ルートにあたり、地元で様々な加工品が製造され、比較的残滓が入手しやすい。そこで、国の復興予算による委託事業を活用し、地元被災企業であり未利用資源から機能性素材製造を生業としている「(有)バイオケム釜石工場」と連携し、2012年度から9年間に渡り、製品開発及び商品開発を進めた。

【方法】

全体計画のフローを図3に示した。中間素材の製造原料には地域の食品製造業者から入手したサバ加工残滓(頭、内臓)、カツオ加工残滓(血液)を入手した。それぞれ、頭、内臓等の残滓をチョッパーでミンチ化したあと、重量に対し一定の割合でプロテアーゼ製剤と水を加えて数時間加温攪拌して分解したのち、高温加熱して酵素を失活させてスラリー状の分解液を得た。これをろ過したのち、減圧濃縮して濃縮エキスを製造した。さらに、安定した性状の乾燥粉末とするため、吸湿と固着防止を目的として酸化澱粉を加えてスプレードライヤーによる噴霧乾燥を行った。得られた濃縮エキスあるいは乾燥粉末は中間素材製品として規格値を設定のため、40℃保管中の品質劣化試験(加速試験)、栄養成分、ミネラル分析、呈味成分の各種定量分析、安全性評価を行った。また中間素材の精製法を検討した。
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図3 セレノネイン中間素材開発の取り組みと今後の展開

【成果の概要】

当初、セレノネイン素材はゴマサバ、マサバの加工残滓から製造開発に取り組んだ。ところが、分解液に油脂が多く含まれると、濾布が目詰まりを起こし、濾過ができなくなる事態が生じた。サバは漁獲時期や年級により、特に内臓には脂肪が含まれ変動が大きいため原料選定には留意が必要である。また、粉末中の含有量も1~2µg・Se/g程度であり、この健康食品向け中間素材の取扱いを検討している一部の健康食品メーカーからセレノネイン含有量の向上が求められた。そこで、脂肪量が少なくセレノネインを多く含む血液から開発を進めたところ中間素材のセレノネイン含量は8µg・Se/g以上をクリアした。 近年は多獲魚であっても漁模様が不安定であり、原料入手が困難になる場合も想定される。そこでカツオ血液からも中間素材を製造した。超低温下に凍結保管されたカツオのたたき用ラウンド(丸魚)を冷凍のまま切断した頭部から、解凍中に流下する血液を回収し原料としており、加工した中間素材は劣化した魚臭が感じられず、最終製品に使いやすい素材が出来た(図4)。中間素材は加速試験からセレノネインの品質保持期限を2年間に設定した。なお紙面制約からデータ表示しないが、重金属(カドミウム、水銀)、ヒスタミン、ヒ素などは食品としての基準値以下にあった(詳細データは過去年報等を参照願いたい)。さらに、中間素材は逆浸透膜やGPCカラムを用いて、有機溶媒を用いず安全で効率的に精製度を高めることができた。この技術は実験用試薬や医薬品向けの素材製造に有望であり特許出願を行った。 これらの中間素材は、健康食品として添加、再分包されて最終消費者に展開される製品であることから、商品の企画提案を行いながら販売促進を進めたところ、地元食品業者によりゼリータイプの商品が製造され、2020年末より小売店舗で販売を開始した。
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図4 カツオ頭部からのセレノネイン製造工程

【今後の問題点】

一般食品「いわゆる健康食品」としての販売では特徴を消費者に理解してもらうのは容易ではない。新規性成分の薬理効果を示し販促につなげたいが健康増進をアピールした表現は薬機法に抵触する。企業の責任においてヒトでのエビデンスとともに比較的認可されやすい「機能性表示食品」が2015年に制度化したことで、認可を受けていない食品は販売に苦戦している。セレノネイン含有食品を機能性表示食品としてアピールするためには、セレノネイン独自のヒトでのエビデンスが必要であり、その確立が待望される。一方、魚でのエビデンスは比較的揃っており、養殖やペットフード等への活用展開も考えられる。

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(4)冬季のウニの摂餌圧分散を利用した餌料対策について

水産技術センター 増養殖部 技師 北川 真衣

【目的】

本県沿岸では、アワビやウニ類の主要な餌料であるコンブの生育量は、冬期の海水温の高低に左右され、近年はこの時期の海水温が高めに推移していることによって、コンブの量が極めて少なくなっている。これは、高めの水温によってウニがコンブ幼葉を食べつくしてしまうことに起因している。この餌料海藻不足への対策として海中造林やウニ除去が一定の効果があることが確認されているが、それぞれ難点や課題があり、生産現場には普及していない。そこで、簡便で効果的な新たな餌料対策手法を検討した。

【方法】

「大型海藻を餌料として冬期に漁場に設置し、それをウニに摂餌させることで天然コンブの幼葉に対する摂餌圧を分散して天然コンブの幼葉を守る手法」の現場実施に向けて、陸上水槽にて模擬試験を行い、コンブ幼葉の保護効果を検証した。

①模擬海底の作製
平均殻径35.7mmのキタムラサキウニ(以下、ウニ)、餌料用海藻としてスジメとコンブ、天然コンブ幼葉に見立てたコンブ促成種苗を用いて、FRP水槽に設置したポリプロピレン製カゴ(外径560mm×390mm×290mm)の中に模擬海底を作製した。
②試験区の設定
ウニの有無、餌料用海藻の有無及び種類によって合計6種類の試験区を設定した(表1、図1)。日長は明期11時間、暗期13時間とし、照度は、使用する照明器具の最大照度である1300㏓とした。藻場形成に大きな影響を及ぼすウニの生息密度200g/m2以上(菊地ら1974)をもとに、カゴへのウニ収容密度が約209g/m2となるよう、カゴ1個へのウニ収容数は4個体とした。試験実施期間は2週間に設定し、餌料用海藻給餌区には、当該期間中にウニ供試個体の飽食状態が維持されるよう、ウニ供試個体重量の10%/日相当の116gとした。
③結果の評価方法
試験開始から8日後に試験区1のコンブ幼葉がウニに食べつくされたため、そこで試験を終了した。餌料用海藻とコンブ幼葉の総重量を測定し、コンブ幼葉については種糸10mmを1カ所として計4カ所無作為に抽出し、全長2mm以上の幼葉を計数した。得られた結果と、試験開始時における、設置した餌料用海藻重量平均116g及びコンブ幼葉重量平均16.5gから重量の増減(増減量)を計算し、この数値を用いて結果を評価した。

表1 試験区(番号は試験区名を示す)
  餌料用海藻
なし コンブ スジメ
ウニ有 1 2 3
ウニ無 4 5 6
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図1 試験開始時の模擬海底の様子

【成果の概要】

①コンブ幼葉の増減量
ウニを収容している試験区では、試験区1で-14.2g、試験区2で-6.6g、試験区3で+23.9gとなり、餌料用海藻を設置していない試験区では大きく減少した一方、餌料用コンブを設置した試験区では小さく減少し、餌料用スジメを設置した試験区では増加した。一方、ウニを収容していない試験区では、試験区4で+28.4g、試験区5で+20.4g、試験区6で+7.2gとなり、餌料用海藻の設置の有無に関わらず各試験区でコンブ幼葉の重量は増加した(図2、3)。
②試験終了時のコンブ幼葉の葉長組成(計測した1cm×4カ所の個体数で表示)
コンブ幼葉は、ウニを収容して餌料用海藻を設置していない試験区1で残存数が極めて少なく、サイズも小さかった。一方、他の試験区では、より多くのコンブ幼葉が残存し、サイズも大型を含む広範であった(図4)。
③餌料用海藻の増減量
試験区2でコンブが‐20.1g、試験区3でスジメが‐35.9g、試験区5でコンブが+20.4g、試験区6でスジメが、−1.1gであり、 試験区2と3ではウニが餌料用海藻を相当量 摂餌していることが確認できた(図3)。

以上から、餌料用海藻を給餌することで、 ウニの摂餌圧が分散され、コンブ幼葉はウニ の摂餌から保護された。
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図2 試験終了時のコンブ幼葉の様子
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図3 コンブ幼葉及び餌料用海藻の増減量
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図4 試験終了時のコンブ幼葉の葉長組成

【今後の展開】

陸上での模擬試験で、当手法はコンブ幼葉の保護に有効であることがわかった。現在、漁場において、当手法を用いた実証試験を行っている。

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(5)令和2年3月に発生した急激な栄養塩枯渇について

水産技術センター 漁場保全部 専門研究員 瀬川 叡

【目的】

硝酸態窒素(以下、栄養塩)はワカメに必須の栄養素である。ワカメ養殖においては、本養成(巻き込み)から養成管理(間引き)時に20μg/L、収穫時に30μg/L以上の栄養塩濃度が必要とされている。養殖期間中に栄養塩が不足したり、急激な栄養塩濃度の変化があると、芽落ちによる生産量の減少や刈り取り後の品質低下を招く恐れがある。
海洋環境中の栄養塩濃度には季節変動があり、10~1月にかけて栄養塩濃度が上昇し、2~3月に最も高くなる。その後、4~5月に急速に減少し、6~9月はほぼ定量限界(約1μg/L)以下で推移する。しかし、水産技術センターの漁業調査指導船岩手丸によって実施された令和2年3月の定線海洋観測において、ワカメ養殖漁場に近い定点で急激な栄養塩濃度の低下が見られた。岩手県北部沿岸では定量限界以下となり、県南部沿岸では定量限界以下とはならなかったものの、過去の結果と比較して著しく低い値となった。この栄養塩濃度の低下によるワカメの品質低下は報告されていないが、効率的で安定したワカメ養殖を実現するためには、このような栄養塩変動を事前に把握することが重要である。そこで、本研究では、栄養塩変動を早期に把握するために令和2年3月に発生した急激な栄養塩枯渇の原因を検討した。

【方法】

水産技術センターでは漁業調査指導船岩手丸による定線海洋観測を実施している。令和2年は1月を除いて毎月、定線海洋観測を実施した。定線海洋観測では、黒埼、トドヶ埼、尾埼、椿島の4つの定線を設定している。各定線上の0マイル沖、10マイル沖、30マイル沖、50マイル沖において、0m、10m、30m、50mから採水を行った。採水したサンプルは連続流れ分析装置を用いて栄養塩濃度を測定した。

【成果の概要】

令和2年3月に各定線0マイル地点の0mにおいて過去の結果(平成25~30年の平均)よりも栄養塩濃度が著しく低下した(表1)。栄養塩濃度の急速な低下には、混合層深度の変化(躍層の形成)と植物プランクトンの増殖(ブルーム)が関係していると考えられている。また、躍層が形成されることによって海底からの栄養塩供給が減少し、植物プランクトンの増殖により栄養塩が消費されることで急速に枯渇が進むことも考えられている。0マイル地点で栄養塩濃度が急速に低下した令和2年3月の黒埼10マイル地点及びトドヶ埼10マイル地点の混合層深度はそれぞれ154m、243mに達した。このことから、鉛直方向の栄養塩供給が減少したとは考えられなかった。令和2年3月の栄養塩濃度の水平分布を令和2年2月のものと比較すると、2月には黒埼定線0マイルから50マイルまでの広い範囲に高栄養塩濃度の水が存在したが(図1a)、令和2年3月はトドヶ埼30マイルから50マイル、尾埼30マイルから50マイルの中部沖合に高栄養塩濃度の水が存在した(図1b)。令和2年3月には沿岸10マイル以内の栄養塩濃度が急速に低下した。この傾向は県北部ほど強かった。岩手県沿岸の10マイル以内には津軽暖流が南下しており、親潮と比較して栄養塩濃度が低い。また、水産研究・教育機構の発表している海況予報では、令和2年3月上旬には親潮が極めて北偏するとされており、この時期、親潮と流域が競合している津軽暖流が強勢であったと推測された。このことから、令和2年2月から3月にかけて、栄養塩濃度の低い津軽暖流が強勢で岩手県沿岸10マイル以内に流れ込み、高栄養塩濃度の水を沖合に押し流し、その結果、10マイル以内の沿岸で急速に栄養塩濃度が低下したと考えられた。
表1 表面(0m)の栄養塩濃度(定量限界以下を0とした)
単位:μg/L 平成25~30年の平均(3月) 令和2年3月
黒埼 98 0
トドヶ埼 116 0
尾埼 131 29
椿島 111 18
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図1 表面(0m)の栄養塩濃度コンター図(単位:μg/L)
(a):令和2年2月7~13日
(b):令和2年3月17日~19日

【今後の問題点】

これまでの調査から、親潮が北偏すると岩手県沿岸の栄養塩濃度が低くなる傾向にあることがわかっている。しかし、親潮の北偏とその後の栄養塩変動は完全にリンクしているわけではなく、混合層深度の変化や津軽暖流内の栄養塩濃度、沿岸親潮の存在など複数の因子で構成されていると思われる。令和2年3月に発生したような急激な栄養塩濃度の変化について、今のところは事前に知ることはできない。今後、さらに観測データを蓄積し、海況変化と栄養塩変動の関係を明らかにしていくことで、栄養塩の変化を予測できる可能性がある。

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(6)サクラマス増殖に関する研究

内水面水産技術センター 主査専門研究員 内記 公明・専門研究員 川島 拓也

【目的】

サクラマスは、本県の定置網漁業における春の主要な漁獲対象種かつ河川における主要な遊漁対象種であり、本県の重要な水産資源となっている。そこで、内水面水産技術センター(以下、内水技)では、資源の増大を目的に、事業規模での50万尾生産を目標として種苗量産技術開発と放流効果の高い増殖技術開発に取組んでいる。これまでの種苗量産技術開発及び放流技術開発について得られた結果を報告する。

【方法】

(1)種苗量産技術開発
下安家漁業協同組合から提供された安家川遡上系サクラマスの発眼卵又は稚魚を用いて、次の3点について検討を行った。①孕卵数や卵質に優れる大型親魚の養成方法、②採卵効率向上のための採卵直前のへい死対策、③稚魚生産効率の向上のための種卵及び稚魚の管理方法。
(2)放流技術開発
耳石温度標識(以下、標識)を施した種苗を県内河川に放流し、このうち安家川及び豊沢川(以下、モデル河川)において電気ショッカーや釣り等による採捕調査を放流1週間後・12月・翌年3月の3回行った。採捕された標識魚から日間成長率(%/day)の算出及びピーターセン法による資源量の推定を行った。 また、平成30年度以降、標識魚が親魚として回帰することから、モデル河川と小本川で回収した回帰親魚の頭部から標識の有無を確認し、放流魚の回帰状況を調べた。

【成果の概要】

(1)種苗量産技術開発
①大型親魚の養成については、年齢1+(ほぼ2才)スモルト魚を約8か月間海水飼育することで、大型の親魚を養成することができた(図1)。②親魚のへい死対策としては、成熟が始まる8~9月に作業等で魚体にストレスを与えるとミズカビが魚体全体に広がりへい死することから、8月以降は熟度鑑別まで魚体にストレスを与えないことが重要である。また、水温が低い親魚池ではミズカビの広がりが軽微でへい死個体が少ない傾向が見られた。③稚魚生産効率向上対策としては、ふ化槽への給水量の調整(毎分15L)、ミズカビ防止のための銅繊維の適正使用による発眼率の向上(90%以上)を確認した(表1)。池出し後1か月以内の塩水浴による疾病予防や稚魚の状態の改善、平均体重0.5gに達した段階からの選別による成長のばらつきと共食いの抑制効果を確認した。これらの対策の結果、令和元年度は目標とする稚魚50万尾生産を達成した(表1)。

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図1 淡水飼育と海水飼育における魚体重と孕卵数の関係
表1 これまでの生産データ
採卵年 雌親魚尾数(尾) 採卵数(千粒) 孕卵数(粒/尾) 発眼卵数(千粒) 発眼率(%) 稚魚生産尾数(千尾) 稚魚/発眼卵(%)
H27年度   848 468 552 262 56.0 86 33.0
H28年度   1,029 582 566 414 71.1 234 56.5
H29年度   1,743 1,449 831 1,118 77.2 233 20.8
H30年度   932 1,010 1,084 773 76.5 450 58.2
R01年度   1,148 589 51.3
内訳 池産系採卵群 476 444 933 406 91.5 215 52.9
発眼卵移入 742 374 50.4

(2)放流技術開発
放流河川数は平成27年から令和元年にかけて増加した(図2)。放流尾数も台風10号災害が発生した平成28年の翌年である平成29年を除き、平成27年から令和元年にかけて増加した(図2)。モデル河川では、ほとんどの調査年度で翌年3月まで標識魚を採捕しており、放流地点に留まっていることを確認した(図3)。日間成長率は、安家川下流が他の調査地点よりも低い傾向にあった(図4)。資源量は、安家川上流が4~19千尾、安家川下流が124~265千尾、豊沢川が16~185千尾と推定された(図5)。平成30年及び令和元年に回帰した親魚の耳石を確認した結果、安家川のサンプルのみから標識を確認した(表2)。


表2 回帰親魚調査結果
年度 年級 河川 サンプル数 標識
確認数
H30 H27 安家川 98 6
0
寒沢川 9 0
0
小本川 39 0
R1 H28 安家川 283 2
0
小本川 41 0

【今後の問題点】

(1)種苗量産技術開発
親魚の海水飼育には親候補魚の海水飼育施設までの運搬費(往復)または、所内での海水施設整備が必要。令和元年度は過去最多の1,148千粒の発眼卵を確保したが、発眼卵から稚魚までの生残は51.3%と平成30年度58.2%と比較して低下した。これは飼育密度の増加に伴う飼育環境の悪化が原因と推察された。令和2年度から採卵以降の飼育工程全体を見直し、最適な生産方法の改善に取組む。
(2)放流技術開発
より効果の高い放流技術について検討するため、放流後の生残、スモルト化の状況、移動範囲などの調査継続が必要。放流効果を把握するため、回帰親魚調査を継続するほか、放流魚の降海状況の調査についても検討する。

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(7)宮古地区におけるアサリ養殖試験について

沿岸広域振興局水産部宮古水産振興センター主査水産業普及指導員 高橋 憲明・上席水産業普及指導員 遠藤 敬
水産技術センター 増養殖部 専門研究員 髙梨 脩
農林水産部水産振興課 主査 宮本 雄一郎

【目的】

近年、国産のアサリ生産量は、天然資源の減少に伴い低迷しているため、全国で人工採苗によるアサリ養殖の取り組みが進んでいる。また、アサリは、養殖での成長・生残とも良好であり、高値で取引されていることから、本県においても有用な養殖種目として注目され始めている。
本県における取組としては、岩手県水産技術センターで人工採苗を行い、平成30年度からその種苗を用いた養殖試験を3漁協で実施している。しかし、これまで漁協による人工採苗は実施されてこなかった。
そこで、水産技術センターの人工採苗技術を漁協等に移転し、本県において、事業規模でアサリ養殖を実施することを目的とした試験を実施した。

【方法】

試験では、まず、令和元年度に人工採苗を宮古漁協において実施した。また、本試験の結果を基に、事業規模で養殖を行うための「アサリ養殖マニュアル」を作成した。
また、令和2年度には、このマニュアルに基づいて宮古漁協に加え、船越湾漁協においても人工採苗を開始した。

【成果の概要】

1 アサリ養殖マニュアルの作成

令和元年度の宮古漁協における人工採苗試験の結果等により作成したマニュアルの概要は以下のとおり。

①親貝の確保・仕立、成熟確認
②産卵誘発(干出刺激、昇温刺激、精子懸濁液刺激、受精卵回収、卵数確認)
③幼生回収(採卵翌日、ベリジャー(D型)幼生)
④幼生飼育(2週間程度、無換水、毎日給餌(キートセロス・カルシトランス等)
⑤採苗(真水:海水=3:2、着底基質:貝化石の粉末)
⑥着底稚貝の管理(30日程度、無換水、毎日給餌(キートセロス・グラシリス))
⑦中間育成(陸上施設、底メッシュ容器、アップウェリング)
⑧2次分散(養殖施設、多段丸カゴ式(軽石を使用))

2 宮古漁協((株)隆勝丸))における養殖試験

令和元年度の宮古漁協における人工採苗の結果、79,480千粒の受精卵を確保し、305千個の幼生を回収した。その後、底面メッシュ容器による中間育成、500μmメッシュ網による2次分散を経て、現在は、軽石を用いた5段の丸カゴによる養殖試験を実施中である。
令和2年度は、上記マニュアルに基づき干出刺激、昇温及び精子懸濁液刺激による産卵誘発を行ったものの、採卵には至らなかった。

3 船越湾漁協(ザキヤマ水産)における養殖試験

令和2年度に、上記マニュアルに基づいて、船越湾漁協において人工採苗を行った。その結果、干出刺激、昇温及び精子懸濁液刺激では産卵は誘発されず、餌及び精子懸濁液刺激により、24,150千粒の受精卵を確保し、5,200千個の幼生を回収した。その後、底面メッシュ容器による中間育成を行い、現在は、網をかけたカゴによる2次分散を行い、養殖試験を実施中である。

【今後の問題点】

令和2年度において、干出刺激、昇温及び精子懸濁液刺激では産卵は誘発されなかったことから、マニュアルの改訂を行い、餌及び精子懸濁液刺激による採苗方法を加え、人工採苗の安定化を目指す必要がある。
また、1次分散以降の管理について、本県における稚貝の成長、生残の詳細なデータを取るとともに、併せて養殖方法の検討も行い、本県におけるアサリ養殖方法の確立に向け、試験を継続する必要がある。


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お問い合わせ

漁業資源部: 0193-26-7915
利用加工部:0193-26-7916
増養殖部: 0193-26-7917
漁場保全部: 0193-26-7919
内水面水産技術センター:0195-78-2047
宮古水産振興センター:0193-64-2216

代表メールアドレス: CE0012@pref.iwate.jp