令和3年度岩手県水産試験研究成果等に係る要旨の公開について

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令和3年度岩手県水産試験研究成果等に係る要旨の公開について

例年、当センターと岩手県内水面水産技術センターが共催している岩手県水産試験研究成果等報告会につきましては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から開催を見合わせ、各研究成果等の要旨公開のみとしましたので業務の参考にしてください。

(1)ケガニ漁況の新たな予測モデルについて(水産技術センター漁業資源部)

ケガニの漁況予測手法を再検討した結果、「前年の民間船カゴCPUE」、「7年前の釧路東部TAC」、「7年前の釧路東部TAC×2月の親潮第一分枝南限緯度」を含む新たな予測モデルで旧・予測モデルより予測精度の改善が見られた。

(2)活ホヤの長距離陸上輸送試験について(水産技術センター利用加工部)

消化管内容物の吐出しを行った活ホヤについて、海水板氷を入れた板厚25mmの発泡箱に梱包し、福岡市まで宅配便による長距離陸上輸送試験を実施したところ、全個体が生存したまま輸送可能であることを確認した。

(3)ウニの摂餌圧分散による餌料対策(水産技術センター増養殖部)

「コンブの芽出し時期に養殖大型海藻類を海底へ設置し、ウニの摂餌圧を分散させる餌料対策手法」の実証試験を実施した。結果、天然大型海藻の生育やウニ生殖巣重量の増加等が確認され、本手法の有効性が示された。

(4)麻痺性貝毒で毒化した介類の出荷再開時期を予測する(水産技術センター漁場保全部)

麻痺性貝毒で毒化した介類の毒量減衰率(ホタテガイ:1.96%/日、マガキ:4.92%/日、マボヤ:4.52%/日、ムラサキイガイ3.11%/日、エゾイシカゲガイ6.81%/日)を算出し、出荷自主規制解除までの日数を予測できるようにした。

(5)ニジマスのIHNウイルスフリー種苗生産試験(内水面水産技術センター)

内水面水産技術センターで海面養殖用のニジマスのIHNウイルスフリー種苗の生産試験に取り組んだ。その結果、種卵の消毒や保有しているIHN耐過魚との隔離等の防疫対策を講じた場合、当センターでもIHNウイルスフリー種苗が生産できる可能性が示された。

各要旨

(1)ケガニ漁況の新たな予測モデルについて

水産技術センター 漁業資源部 専門研究員 森 友彦

【目的】

ケガニは、常磐以北の太平洋、日本海及びオホーツク海に分布しており、本県では、12月から翌4月にかけて主にカゴ及び固定式刺網により漁獲されている。本種は漁船漁業において重要な対象種であり、漁期前調査に基づく漁況予測は関係者の関心が高い。しかし、近年、予測値が大きく外れる事態が発生しており、精度向上を図る必要があることから、北海道のケガニ漁獲情報や海洋環境データなどを取り込んだ新たな予測モデルを構築し、これまでの予測モデルとの比較・検討を行った。

【方法】

漁況予測モデルでは、岩手県水産情報配信システムから集計した水揚量及び水揚隻数を用いて平成24年から令和2年漁期の「1日1隻あたりのカゴ水揚量(以下、民間船カゴCPUE)」を算出し、応答変数とした。
説明変数は、次の(1)及び(2)のとおり、各資料及び調査結果から算出・集計した。予測モデルの選択は、統計解析ソフトRを用いて一般化線形モデルにより赤池情報量基準(以下、AIC)を算出し、予測モデルが複雑化しすぎないように説明変数を最大4つまでとして、AICが最も低くなるものを採用した。なお、「前年の民間船カゴCPUE」を新・旧予測モデルの共通の説明変数とし、資源水準の変化を平準化した。

(1)旧・予測モデルの説明変数

釜石沖の水深170~200 mで実施している漁業指導調査船「北上丸」による漁期前調査結果から、「北上丸カゴCPUE」、「表層水温」、「中層水温」、「海底直上10mの水温」、また、宮古以南の水深200~350 mで実施している同「岩手丸」の秋季トロール調査結果から「ケガニの推定現存尾数」を用いた。

(2)新・予測モデルの説明変数

ケガニは、北海道の漁獲量が最も多く、太平洋海域では北海道から岩手県の個体群の間に遺伝的な差はない(Azuma et al. 2008)と報告されている。本県海域では、北海道由来の幼生が漂流・着底している個体群を主に漁獲していると仮定し(図1)、北海道太平洋沿岸の4地区のカゴ漁業による許容漁獲量(以下、TAC)を北海道総合研究機構の「2021年度資源評価結果」から引用した。また、幼生の輸送に関係する海洋環境データとして、「2月の親潮第一分枝南限緯度」を水産研究・教育機構HPから引用・算出した。

【成果の概要】

旧・予測モデルでは「前年の民間船カゴCPUE」を含む予測モデルのAICが最も低かった。
新・予測モデルでは「前年の民間船カゴCPUE」、「7年前の釧路東部TAC」、「7年前の釧路東部TAC×2月の親潮第一分枝南限緯度(交互作用項)」を含む予測モデルのAICが最も低く、旧・予測モデルより当てはまりの良さの改善が見られた(図2)。
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図2 新・旧モデルによる予測CPUEと実測CPUE

【今後の問題点】

今回の新・予測モデルにより精度が向上したが、北海道の漁獲情報への依存度が高いことから、今後さらに変数の組み合わせや漁期前調査の方法を検討していく必要がある。

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(2)活ホヤの長距離陸上輸送試験について

水産技術センター 利用加工部 主査専門研究員 伊藤 寛

【目的】

本県の養殖マボヤは平成17年ごろから始まった韓国輸出需要に支えられ、生産量が1,500トン前後で安定していたが、平成23年3月に発生した東日本大震災津波で養殖施設が壊滅的な被害を受け、生産能力はほぼ失われた。
その後、養殖施設は国の復興関連事業により復旧して養殖が再開し、平成26年から本格的に出荷が再開したものの、韓国が東北地方の水産物に対する禁輸措置を行ったことにより主力の出荷先を失ったため、これまでの出荷量を維持するためには新たな出荷先を検討する必要があるものと考えられた。
また、活ホヤの輸送方法については平成17年度に海水と酸素を封入する手法がマニュアル化されているが、高値で販売できた韓国輸出を前提としており、より経費を削減するため手法の改良が必要と考えられた。
そのため、令和2年度から「質の高い水産物の安定確保対策事業(県単事業)」によりマボヤの高鮮度流通に関する研究に取り組み、令和2年度には、むき身のマボヤはK値の上昇速度が著しく、5℃で保存しても約1.5日後には生食可能である20%を超えること及び生存中のマボヤは、K値の上昇がみられないことが確認され、むき身加工後の鮮度低下速度が著しく早いことを確認している。
また、同時に行った福岡市内飲食店に対する食味アンケート結果から、活ホヤでの流通が求められていることが判明した。
そこで、令和3年度は活ホヤを長距離輸送するための梱包条件を検討のうえ、活ホヤの長距離陸上輸送試験を実施した。

【方法】

試験は、綾里漁業協同組合から購入した養殖期間4~5年の養殖マボヤのうち400g以上の個体を用いて行った。
梱包条件を前処理、梱包箱、冷却剤、箱詰め方法の項目に分けて予備試験を行い、福岡までの所要日数である3日間生存したまま輸送できる梱包方法を検討し、すべてを網羅した梱包方法により活ホヤの長距離陸上輸送試験を行った。
なお、長距離陸上輸送試験の実施に当たっては、県福岡事務所を通じて福岡市内飲食店3店舗に温度ロガーの回収、ホヤの生存確認(真水投入後の皮の張り具合で確認)及び食味アンケートについて依頼した。

【成果の概要】

予備試験により得られた梱包条件は表1のとおりとなった。この中で、前処理として実施した消化管内容物の吐出しについては、図2に示した通り消化管内容物の残置がほぼない状態まで吐出しを行うことができ、その後のホヤ独特の臭気の発生抑制に高い効果が示された。
この条件により令和3年8月2日に購入したサンプルを処理し、翌日15時頃に発送したところ、福岡県の飲食店3店舗到着までに、概ね50~52時間が経過していた。温度ロガーのデータから発泡箱内の温度は概ね5℃以下で安定していたことが確認されたほか、協力店担当者により、送付した活ホヤ全数の生存が確認された。
また、同時に実施した食味アンケートにおいて、冷凍ホヤと活ホヤを比較した結果、食味及び食感はほぼ同じだったが、臭いは活ホヤのほうが弱いという結果になった。

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図1 K値の計算式

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図2 前処理したマボヤ体内の消化管内容物の残置状況

表1 予備試験により得られた梱包条件
項目 条件
前処理 濾過海水(17~19℃)で1晩静置し、糞の吐き出しを実施する。
梱包直前に冷海水(5℃)に短時間(5分程度)静置し、ホヤを冷却する。
梱包箱 板厚25mmの発泡スチロール箱を用いる。
冷却剤 袋に密封した海水で作った板氷を、ホヤに接触しないように緩衝材等で包んで設置する。
箱詰め方法 箱に袋を掛け、入出水孔を上にしてホヤが倒れないよう隙間なく詰める。
注意事項 輸送中に箱が転倒しないよう天地無用で送る。

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図3 梱包方法の模式図


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図5 食味アンケート結果

【今後の問題点】

今回の梱包条件のうち、下氷で梱包する際の入出水孔への塩の塗布の効果及びホヤと海水氷の接触の影響が未確認だったことから、これらの確認を行ったうえでマニュアル化する予定である。
また、「質の高い水産物の安定確保対策事業」では航空便による輸送方法の検討も行う計画となっており、令和4年度に実施する予定である。

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(3)ウニの摂餌圧分散による餌料対策

水産技術センター 増養殖部 技師 及川 仁

【目的】

アワビやウニ類は餌の海藻類が不足すると、肥満度・身入りの低下や成長停滞が生じる。本県沿岸の主要な餌料であるコンブの生育量は、冬期の海水温に左右され、近年は水温が高めに推移する影響で生育量が少ない年が続いている。この状況は、漁場に過剰に生息するウニがコンブの幼芽を摂餌することによって生じている。そこで、コンブの芽出し時期に養殖大型海藻を設置し、ウニの摂餌圧を分散させる餌料対策手法(図1)を検討した。
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図1 餌料対策手法の仕組み

【方法】

令和3年2月24日、宮古市重茂地先の漁場「たておりと」で枠取り調査をした後、隣接する一区画(5m×5m)内の海底に総重量約64kgのスジメを設置した(図2)。設置したスジメは、令和2年7月から当所で種苗生産し、10月と11月に試験漁場付近の養殖施設に沖出しして早期養成したものを用いた。スジメを設置した区画を給餌区、給餌区から0m、5m、10m、15m離れたそれぞれの区画を対照区として設定し、試験を開始した。試験開始後は月に一度、目視による経過観察を行い、令和3年5月24日の枠取り調査をもって試験を終了した。枠取り調査では、各区画から2枠分(1枠:2m×2m)に存在する長さ1cm以上の生物を採取した。アワビは個体毎に殻長、体重を測定した。ウニ類は個体毎に殻径、体重を測定するとともに、各枠から10個体を選定し、生殖巣重量の測定と身色の確認を行った。海藻を含むその他の生物は、種類毎に総重量を測定した。

【成果の概要】

試験開始前、天然藻類はほぼ確認されず、無節石灰藻が優占していた(図3)。また、アワビは確認されなかったが、ウニは4.5個体/m2(153g/m2)確認された。経過観察では、アワビやウニがスジメに寄り、摂餌している様子が確認された(図4)。天然海藻は、給餌区ではワカメの幼葉が複数確認された一方、対照区では確認されず、フクロノリが観察された。試験終了時、天然海藻は、給餌区でワカメが1.9個体/m2(146g/m2)、その他雑海藻も出現した一方、対照区では大型海藻は出現せず、フクロノリが優占していた(図5、6、7、8)。アワビは給餌区で0.6個体/m2、対照区の0mで0.4個体/m2出現した一方、対照区の5~15mではほぼ出現しなかった。ウニは各調査点で出現し、個体数密度は各調査点で約7個体/m2と同程度であったが、給餌区には大型の高齢個体が多く、重量密度と生殖巣重量は給餌区から離れるにつれて減少する傾向にあった。また、身入りと身色は高齢な個体ほど悪くなる傾向にあった。
以上、養殖大型海藻の設置によりウニの摂餌圧が分散され、天然餌料海藻の生育、ウニの生殖巣重量の増加等が確認されたことから、本手法が有効であることが示された。


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図8 天然海藻の重量密度(試験終了時)

【今後の問題点】

本餌料対策手法は、従来の給餌方法と異なり、低水温期の幼葉を守れる分だけの養殖大型海藻を設置できればよいため、費用や労力の大幅な軽減が期待される。現在、本手法の普及に向け、スジメを含めた養殖大型海藻の特徴把握試験を実施している。

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(4)麻痺性貝毒で毒化した介類の出荷再開時期を予測する

水産技術センター 漁場保全部 上席専門研究員 加賀 新之助

【目的】

県では、平成30年度以降、麻痺性貝毒によるホタテガイ出荷自主規制海域が広域化している。麻痺性貝毒原因プランクトン(以下、「プランクトン」という)の発生海域が広域化しているためである。そこで、麻痺性貝毒で毒化した介類の毒量減衰時期予測を平成27年度から7年間に亘り実施してきた。期待される効果としては、麻痺性貝毒で毒化した介類の計画的な出荷再開による生産所得の安定と安全・安心な水産物の供給である。介類の毒の抜け易さを知ることは、出荷自主規制期間が長期化しているホタテガイ生産海域の養殖対象種転換へ向けた根拠としても重要である。

【方法】

毒量減衰時期予測試験は、県の調査定点の水深10m付近にエゾイシカゲガイ、マガキ、マボヤ、ムラサキイガイ及びホタテガイを垂下して実施した。本研究の目的が、介類による毒量減衰時期予測を検討することであることから、プランクトンが消滅した後に集中して介類を取り上げた。その後、北里大学海洋生命科学部の協力を得て機器分析法によって介類の可食部(中腸腺や肝膵臓を含む)当たりの麻痺性貝毒成分を分析した。解析に当たっては、過去の同様の調査データも活用し、統計解析した。

【成果の概要】

(1) 毒量減衰率と出荷自主規制解除までの日数の予測

麻痺性貝毒に係る介類の毒量減衰率(ホタテガイ:1.96%/日、マガキ:4.92%/日、マボヤ:4.52%/日、ムラサキイガイ3.11%/日、エゾイシカゲガイ6.81%/日)を算出し、出荷自主規制解除までの日数を予測した(図1)。毒量減衰率は1日に抜ける毒量の割合を示し、例えば、ホタテガイは含有する毒量の毎日1.96%ずつ毒が抜けることになる。

(2) 出荷自主規制解除までの週数早見表の作成

暫定版として、介類の毒量と出荷自主規制解除までの週数早見表を作成した(表1)。この早見表は、麻痺性貝毒原因プランクトンの消滅後に検査した介類の毒量に基づき、何週目に規制値を下回るかを示したものである。早見表にない毒量でも毒量減衰率から予測することができる。
得られた予測値と実測値※を比較したところ、予測値と実測値との差が1か月以上となる場合があることがわかった(表2)。このような差が生じる要因として、出荷再開時期を見越して間隔を空けて貝毒検査を実施した場合の影響が考えられた。また、長期間にわたり高毒化した場合には予測値を上回る日数がかかることもわかった。

※ 実測値:麻痺性貝毒原因プランクトン消滅後の最高毒量の年月日から規制解除年月日を差し引いた日数。

【早見表を利用する際の留意事項】
〇早見表の毒量は、プランクトン(旧)タマレンセがほぼ終息(100細胞/L未満)した後の最高毒量とする。
〇解析に用いたデータ数が少ないため、早見表(暫定版)は随時更新する予定である。
〇春から夏に毒化し、再び秋から冬にかけて再毒化する場合には、早見表を利用することができない。
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図1 麻痺性貝毒で毒化した介類の減衰時期を予測する式等の作成(100MU/gに毒化した場合)
表1 介類の毒量と自主規制解除までの週数早見表(令和3年9月暫定版)

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表2 ホタテガイ生産海域区分における麻痺性貝毒減衰時期予測の現場検証
自主規制対象種
(検査対象種等)
海 域 規制開始
年月日
規制解除
年月日
プランクトン消滅後の最高毒量 実測値※ (日) 予測値(日) 実測値との差              (予測値-実測値:日)
毒量 月日
ホタテガイ 中南部海域 R2.3.17 R2.9.15 22.0 R2.6.8 99 101 2
ホタテガイ 南部海域 R2.3.24 R2.10.27 59.0 R2.6.1 148 150 2
ホタテガイ 三陸町海域 R2.4.28 R2.9.29 70.0 R2.6.8 113 159 46
マボヤ 南部海域 R2.5.12 R2.7.28 35.0 R2.5.31 58 61 3
ホタテガイ 釜石湾海域 R2.5.19 R3.2.2 130.0 R2.6.22 225 190 -35
ホタテガイ 宮古湾海域 R2.5.26 R2.7.21 12.0 R2.6.1 50 70 20
ホタテガイ 中部海域 R2.5.26 R2.6.23 5.1 R2.6.1 22 27 5
ホタテガイ 大槌湾海域 R2.5.26 R2.9.1 34.0 R2.6.8 85 123 38
ホタテガイ 山田湾海域 R2.6.2 R2.7.28 19.0 R2.6.8 50 93 43
※ 実測値:麻痺性貝毒原因プランクトン消滅後の最高毒量の年月日から規制解除年月日を差し引いた日数。

【今後の問題点】

ホタテガイに比べ毒が抜け易い新規養殖対象種(アサリ等)についても、本研究と同じ調査を今年度実施しました。その結果は、来年度公表予定である。

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(5)ニジマスのIHNウイルスフリー種苗生産試験

内水面水産技術センター 専門研究員 川島 拓也

【目的】

IHN(伝染性造血器壊死症)は、ニジマスやヤマメをはじめとするサケ科魚類にみられるウイルス性の疾病で、主に内水面で養殖されたニジマスで問題となっているが、県内の内水面養殖業者はIHNによる大量へい死を避けるために耐過魚を利用する傾向にある。近年では、ウイルスの多様化(大型魚の罹患、症状の変化等)や海面養殖における大量へい死等が発生している。
一方、県内でサケマス類の海面養殖が始まっており、その際には内水面で養殖された種苗が用いられるが、現在、本県で海面養殖用ニジマスの種卵を生産している業者は1業者しかおらず、かつ、IHNウイルス(以下、IHNV)フリーで出荷されており、今後、海面養殖が拡大していく中で、種苗の不足が懸念されることから、海面養殖向けにIHNVフリー種苗を生産するための技術開発が求められている。
そこで、当センターでは海面養殖用のニジマス種苗供給体制の強化を目的に、IHNVフリー種苗生産の可能性を検討した。

【方法】
供試サンプル:岩手県内水面養殖漁業協同組合で生産したニジマスの異節卵(夏卵)
ふ化した稚魚はIHN耐過魚と隔離するために、岩手県内水面養殖漁業協同組合が使用している施設とは別の施設で飼育した。

試験区:吸水前イソジン消毒(50ppm、15分)区、吸水前イソジン未消毒区(対照区)
※冷水病等の疾病を予防するため、両試験区で等張液洗卵を実施

検査時期:①ふ化後、②餌付け終了後、③出荷サイズ
各時期30尾程度を検査に用いた(5尾/検体として検査を実施)。

検査方法:①各時期の仔稚魚全体、もしくは脾臓を磨砕してウイルスを抽出し、培養細胞に接種した。②CPE(細胞変性効果)が確認された場合、上清の逆転写PCRを行い、IHNVかどうかを確認した。1週間経過してもCPEが確認されなかった場合、新たに用意した培養細胞に上清を接種した。継代した細胞にCPEが確認された場合、上清の逆転写PCRを行い、IHNVかどうかを確認した。

【成果の概要】

培養細胞を用いてIHNに感染しているか確認したところ、いずれの検査時期においてもIHNの感染は確認されなかった。このことから、等張液による洗卵・消毒や耐過魚からの隔離等の防疫対策を講じた場合、当センターでもIHNVフリー種苗が生産可能であることが示された。

【今後の問題点】

今後、当センターでIHNVフリー種苗の生産をしていく場合、より大きいサイズでのIHNの感染確認や当センター内のIHN耐過魚とのゾーニング等を行っていく必要がある。
また、当センターでは海面に投入するサイズ(400g程度)を大量に飼育することは困難であり、種卵・稚魚の段階で出荷する必要があるが、県内の内水面養殖業者のほとんどはIHN耐過魚を保有しているため、新たに養殖場を開設する場合以外では、海面養殖用種苗を生産するにあたり、耐過魚とのゾーニングを徹底したうえで、生産された種苗がIHNVフリーとなっているか、注意深く確認していく必要がある。

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お問い合わせ

漁業資源部: 0193-26-7915
利用加工部:0193-26-7916
増養殖部: 0193-26-7917
漁場保全部: 0193-26-7919
内水面水産技術センター:0195-78-2047

代表メールアドレス: CE0012@pref.iwate.jp