令和4年10月12日
資料のダウンロードはこちらから。(PDFファイル1.3MB)
はじめに
例年、9月に花巻市で開催されている浅海増養殖技術検討会について、昨年に引き続き令和4年度についても新型コロナウィルス感染症の影響により開催が見送られたことから、水産技術センターで発表を予定していた浅海増養殖技術に係る資料をお知らせします。
資料目次(タイトルをクリックするとその項目に移動します。)
1 ワカメ・コンブ関係
10月下旬の沿岸域における表面水温は、17~20℃台となり、平年と比べて「平年並み~やや高い」見通しです。100m深水温は、7~10℃台と予測され、平年と比べて、「極めて低い」見通しです。
(2) 昨季の栄養塩濃度の動向と今季の栄養塩供給時期予測について(漁場保全部)
漁業指導調査船「岩手丸」の海洋観測で採水した海水の栄養塩濃度を測定し、栄養塩濃度の動向をモニタリングしているほか、海洋観測情報を用いて栄養塩供給時期予測を行っています。
予測結果は、当センターwebページで「ワカメ養殖情報」として9月から公開しています。
(3) スイクダムシ被害軽減に向けた取組について(増養殖部)
養殖ワカメのスイクダムシ被害については、早期に付着を確認し、蔓延する前に収穫することが唯一の対策となっていますが、付着数が少ないと顕微鏡による確認が難しい場合があります。
そこで、顕微鏡で確認するのではなく、スイクダムシのDNAを検出する技術を利用したモニタリング手法を開発しました。
(4) 湯通し塩蔵ワカメ加工に係る留意点について(利用加工部)
本県産ワカメの特長を活かした高品質な湯通し塩蔵ワカメの加工について、原藻pHの目安や湯通し・冷却・塩漬など各工程における留意点を記載しました。
2 ホタテガイ・カキ関係
(1)養殖漁場におけるホタテガイ稚貝の生育観察について(増養殖部)
水深3.5mに垂下したホタテ稚貝35枚を入れたパールネットの撮影(5時から17時30分の間、30秒ごとに1回撮影した)と振動数を調査しました。画像の解析により日照により稚貝の移動が見られることから稚貝のかみ合いを防ぐためにはパールネットに入れる稚貝数を少なくすることや、垂下水深を下げることが必要と考えられます。
(2)柱状採水法を用いた貝毒の監視強化について(漁場保全部)
漁場における貝毒プランクトン細胞密度の把握について、精度を向上するために柱状採水法を採用しました。そして、新たにこの採水法に対応した水温別の注意密度を設定しました。令和2~3年の検査結果を用いて検証したところ県下10海域中7海域において、基準値2MU/gを超える前の予測ができました。
3 アワビ・ウニ関係
平成28年に標識を付けたアワビ稚貝を2つの群に分け、船上から直接放流と容器に付着させた後容器ごと海底に設置する放流を実施しました。平成29~令和3年の通常開口時に再捕調査を行ったところ、累積の発見率は、容器放流0.906%、船上直接放流0.731%と容器放流が高くなりました。
(2)24時間電照によるウニの成熟抑制試験について(増養殖部)
過剰に生息するウニの利用を図るため、24時間電照下での飼育による成熟抑制試験を行ったところ、9~10月においても品質が維持できることが確認されました。
4 新規養殖対象種関係
新たな養殖対象として期待されるアサリ養殖の導入に向けて検討した結果、効率的な採卵作業手法を確立し生産現場での種苗生産が可能であることが確認されました。
1 ワカメ・コンブ関係
(1) 令和4年秋季の海況の見通しについて
ア 現在の海況について(9月上旬)
岩手県水産技術センターでは、漁業指導調査船「岩手丸」で定線海洋観測(1回/月)を実施しています。
本県沿岸10海里(約19km)以内の表面水温は21~22℃台(図1左)であり、平年※と比べて「平年並み」~「やや高い」と判断されました(図1右)。
また、10海里以内の100m深水温は7~15℃台(図2左)で、黒埼沖で「平年並み~やや高い」、トドヶ埼及び尾埼沖で「平年並み~やや低い」、椿島沖で「やや高い~やや低い」となりました。(図2右)。
※ 平年の値は、過去30年間(1991年~2020年)の平均。
イ 10月下旬までの本県沿岸域の水温の見通し
国立研究開発法人水産研究・教育機構の海況予測システム「FRA-ROMS」によると、10月下旬の本県沿岸域の表面水温は17~20℃台(図3左)と予測されており、平年と比べて「平年並み~やや高い」見通しです(図3右)。
また、100m深水温は7~10℃台(図4左)と予測されており、平年と比べて、「極めて低い」見通しです(図4右)。
表面水温 | 100m深水温 | ||
10海里内 | 10海里内 | ||
階級区分 | 極めて高い | +3.1℃〜 | +3.8℃〜 |
高い | +2〜+3℃ | +2.4〜+3.7℃ | |
やや高い | +0.8〜+1.9℃ | +1〜+2.3℃ | |
平年並 | +0.7〜-0.7℃ | +0.9〜-0.9℃ | |
やや低い | -0.8〜-1.9℃ | -1〜-2.3℃ | |
低い | -2〜-3℃ | -2.4〜-3.7℃ | |
極めて低い | -3.1℃〜 | -3.8℃〜 |
(2) 昨季の栄養塩濃度の動向と今季の栄養塩供給時期予測について
ア 昨季の栄養塩濃度の動向
岩手県水産技術センターでは、漁業指導調査船「岩手丸」で海洋観測(1回/月)を実施しています。観測で採水した海水の栄養塩濃度を測定し、栄養塩濃度の動向をモニタリングしています。
昨季の栄養塩濃度上昇期(令和3年10月~令和4年2月)における岩手県沿岸での栄養塩変動は概ね例年並みとなりました。黒埼定線、トドヶ埼定線及び尾埼定線の10マイルの表面では過去の結果と比較して年間の最大濃度がやや低くなりましたが、漁場には十分な栄養塩が供給されていたと考えられます。椿島定線の10マイルの表面では過去の結果と比較して年間の最大濃度が高くなりました。
栄養塩濃度下降期(令和4年2月~)の栄養塩濃度は、過去の結果では3月から低下していますが、トドヶ埼定線及び尾埼定線の10マイルの表面では3月でも上昇し、200µg/L近い値となりました。これは親潮の接岸によるものと考えられます。4月には全ての地点で栄養塩濃度が20µg/Lを下回りました。
イ 今季の栄養塩供給時期予測
岩手県水産技術センターでは、海洋観測で得られた情報を用いて栄養塩供給時期予測を行っています。この技術では、各定線の沖合10マイル定点での表面の栄養塩濃度が20µg/Lを超える確率を50日先まで予測できます。
予測結果は当センターwebページで「ワカメ養殖情報」として9月から公開しています。
「ワカメ養殖情報」
https://www2.suigi.pref.iwate.jp/research_log/undaria_farming
(3) スイクダムシ被害軽減に向けた取組について
ア 研究の背景
スイクダムシ(学名:エフェロータ・ギガンティア)が養殖ワカメに大量に付着すると、ワカメの光沢が失われるとともに異臭を放つことから、商品価値が大幅に低下することが知られています(図1)。本県沿岸では不定期に発生して養殖ワカメに大きな被害を与えています。
現在のところ発生や付着を防除する方法はなく、早期発見により付着が蔓延する前に収穫することが唯一の対策となっています。そこで、当センターでは岩手県生物工学研究所との共同研究により、スイクダムシのDNAを検出する技術を利用したモニタリング手法の開発に取り組んでいます。
イ スイクダムシのDNA検出に成功
これまでの研究により、PCR検査の手法を用いてスイクダムシのDNAを検出できるようになりました。また、実際にスイクダムシが発生しているワカメ養殖漁場でプランクトンネットを曳いて採集した海水サンプルからスイクダムシのDNAを検出することにも成功しました(図2)。
ウ 今後の取り組み
ワカメ養殖漁場でのモニタリング調査により実際にスイクダムシを早期発見できるか検証していきます。また、より簡便にモニタリングできるように、プランクトンネットで採集したサンプルではなく、少量の海水からDNAを検出する手法の開発についても研究を進めています。
(4) 湯通し塩蔵ワカメ加工に係る留意点について
本県特産の湯通し塩蔵ワカメは、鮮やかな緑色と肉厚で食感が良いことが特長です。特長を活かして高品質に加工するための留意点を記載しましたので、来季の参考としてください。
ア ワカメ原藻(生ワカメ)のpHの把握
収穫が遅くなるにつれてワカメの老化とともに酸性化が進み、緑色色素のクロロフィルが減少していきます。そのため、色調の良い湯通し塩蔵ワカメに加工するには、漁期中の原藻のpHを把握することが重要です。正確に加工適性を把握するには、原藻中央部の側葉中央部(図1)でpHを測定する必要があり、加工適性評価の目安は表1のようになります。
加工適性(目安) | 最良◎ | 良〇 | 要注意△ | 加工不適× |
pH | 6.2以上 | 5.9以上6.2未満 | 5.7以上5.9未満 | 5.7未満 |
イ 原藻のpH測定法
図1のpH測定部位から葉体約10グラムを採取し、9倍量の蒸留水又は精製水(水道水は使用不可)を加え、ミキサーで約30秒間粉砕した後、約2分間攪拌しながらpHメーターで値を測定します。3~5本の複数の原藻から葉体を採取して個別にpHを測定するのが最良ですが、どうしても個々に測定できない場合には、複数の原藻から葉体を採取・混合してpHを測定してください。
ウ 湯通し・冷却工程
収穫した原藻から元茎や末枯れ(先枯れ)を除去し、85~90℃の海水中で(80℃以下にならないよう)30~60秒間、湯通し加熱を行います。その後、直ちに10℃以下の冷海水に移し、3~5分間程度冷却します。湯通し加熱によって葉体に含まれる酵素の働きが抑制されるとともに、クロロフィルを分解する酸性成分は減少します。湯通し時間は原藻のサイズによって加減しますが、加熱が不足すると酵素活性が残るため、保管中に変色や軟化がみられる場合があります。一方、加熱のし過ぎや冷却が不足した場合には、クロロフィルの分解が進み、葉体は濃緑色とならず黄色味を帯びた緑色となります。なお、湯通しの際、原藻から溶出する酸性成分により使用する海水のpHが7.5~8.0程度から5.5程度に低下することから、足し水や新しい湯への交換を適宜行う必要があります。
エ 塩漬工程(従来式)
従来の塩漬法では、水切りをした湯通しワカメの重量に対して30~40%の食塩を加え、塩からめ機で2分間程度の塩もみを行い、重石をしながらタンク中で1~2昼夜(15時間以上)の塩漬を行いますが、塩漬後に、タンク中にしみ出た滲出液の濃度がほぼ飽和食塩水の濃度(25~26%)となっていることを確認してください。また、食塩添加量を規定よりも少なくして強く脱水しても保存性の指標である水分活性は変化しませんので注意が必要です。
オ 塩漬工程(攪拌式)
攪拌式塩漬法では、湯通しワカメを20~25kgずつ網袋に詰め、飽和食塩水を入れた高速攪拌塩漬装置(しおまる)に投入し、飽和濃度(約26%)を維持しつつ60~70分間攪拌して塩漬を行います。ワカメ500kgに対して食塩袋5袋(食塩125kg)を追加して繰り返し塩漬を行いますが、塩漬を始めてから約30分後を目安に食塩水の濃度を確認して食塩を適宜追加するなど、飽和濃度を維持することが重要です。また、ワカメ500kgに対して食塩袋5.5~6袋程度と最初から少し多めに追加することで飽和濃度を維持しやすくなりますが、6袋以上の食塩を追加すると網袋に食塩粒が入り込み、塩漬後の塩落とし作業が手間となるので注意が必要です。高速攪拌塩漬装置の推奨使用条件については当所のHPをご覧ください。
カ 湯通し塩蔵ワカメの適正な水分・塩分・水分活性(表2)
芯抜品の葉体で水分60%以下、塩分16%以上(付着塩を除く)かつ水分活性0.79未満が適正です。茎(中芯)では水分70%以下、塩分19%以上(付着塩を除く)かつ水分活性0.79未満が適正です。適正値を全て満たさない場合、好塩性細菌等の繁殖による変色や変質が生じやすくなります。塩分は付着している食塩粒を除去してから測定した値を示しています。
水分 | 塩分 | 水分活性 | |
葉(芯抜品) | 60%以下 | 16%以上 | 0.79未満 |
茎(中芯) | 70%以下 | 19%以上 | 0.79未満 |
キ 芯抜き・脱水・箱詰め工程
茎(中芯)に酵素活性や酸性成分が残っている場合があるので、できるだけ速やかに芯抜きを行ってください。芯抜き後は、葉体の水分量を60%以下とするよう適宜脱水してから箱詰めしてください。
ク 冷水の長期接岸時における湯通し塩蔵ワカメの加工上の留意点
冷水の長期接岸の影響を受けた原藻では、生育不良が発生して原藻pHの酸性化が例年よりも早くなる可能性が高いため、湯通し温度や時間を例年以上にこまめに確認してください。特に、収穫期前半の身入りが悪い原藻に対して高温(92℃以上)かつ長い時間(60秒間程度)の湯通し加熱を行うと、鮮やかな緑色にはならず、黄色味を帯びた弱い緑色になるため注意が必要です。また、煮すぎによる色調劣化を防ぐため、湯通し後の冷却は冷海水と同じ温度になるまで例年以上に丁寧に行う必要があります。冷水の長期接岸の影響を受けた原藻で加工された湯通し塩蔵ワカメのクロロフィル含量は例年よりも少なく保存性が低下する可能性があり、芯抜きを速やかに行う、芯端を多く残さない、製造作業中の常温保管を短くする、早めに消費する、早めにカットワカメに加工する等の対策が有効です。
H26年とH27に本県沿岸域で5℃以下の水温が2週間以上継続する異常冷水現象が発生しましたが、ワカメの品質に対する影響は大きく異なり、H27は湯通し塩蔵ワカメの変色が多く発生しました。この時の水温と生ワカメ原藻のpH、水温、栄養塩濃度を図2~4(水温と栄養塩濃度は原藻pH測定2地区の内の1地区に該当、漁場保全部測定データより)に示しました。両年とも冷水接岸時の水温は5℃以下(1~3℃台)の状態が約1.5ヶ月間継続し、栄養塩濃度は高い傾向を示しましたが、原藻pHの変動は異なっていました。
その一因と考えられるのはH26とH27では冷水の接岸時期が異なる点です。冷水の接岸期間はH26では3月上旬から4月中旬、H27では2月中旬から3月下旬までであり、原藻のpHはH26では3月上旬から4月中旬までは6以上でしたが、H27は3月中旬から6未満と急激に低下し、4月以降も6未満の状態が継続しました。
県内の養殖ワカメの収穫期は、早いところでは2月末頃から、遅いところでは3月中旬頃からと差がありますが、これは養殖ワカメの種苗、巻き込み時期、沖出し時期、生育環境(水温、栄養塩濃度、内湾・外湾)等の違いで生長に差が生じるものです。
H26の冷水接岸は3月上旬以降であるため、ワカメはある程度生長していて身入りが良い状態であり、2月中旬頃の原藻と比べて冷水に対する耐性が強く、生育不良や原藻pHの低下が抑制されたと推察されます。一方、H27は生長途上で身入りの不完全な原藻が多い2月中旬から冷水が接岸したため、生育不良や原藻pHの極度な低下が多く発生して湯通し塩蔵ワカメの変色が多く発生したと推察されます。その他、H27の冷水接岸時の水温は8.2℃から1.7℃へと急激に低下したのに対し、H26では5.9℃から2.9℃へとH27と比べて穏やかに水温が低下しました。これらの水温変化の相違がワカメの生育不良や原藻pHの推移に影響したとも考えられます。冷水の長期接岸によるワカメ加工品の品質への影響は知見が少なく未解明の部分が多いので、今後もデータ収集に努めていきたいと考えています。
2 ホタテガイ・カキ関係
(1) 養殖漁場におけるホタテガイ稚貝の生育観察について
ア 方法
令和2年10月29日から11月10日まで、唐丹湾央南側で漁業者が養成中のホタテガイ稚貝垂下連の養殖カゴ(パールネット)上部に小型タイムラプスカメラ(㈱エコニクス製)、自動記録式温度ロガー(HOBO社製、ティドビットV2)、加速度計(HOBO社製、ペンダントGロガーUA-004-64)を設置し、ホタテガイ稚貝の様子を観察しました。
パールネットには、殻長30~50mmほどのホタテガイ稚貝を1カゴあたり35個収容し、小型タイムラプスカメラや計測機器はホタテガイ稚貝垂下連(パールネット10段)の最上段(水深3.5m)に設置しました。また、タイムラプスカメラによる撮影は、5時から17時30分の30秒毎に1回の設定としました。
イ 結果と考察
測定期間中は、加速度差は0.5G以下であり、大きな振動はありませんでした。
ホタテガイ稚貝は、パールネット内での移動が多い日と、ほとんど移動しない日がみられ、稚貝の移動が多い日時のうち、わずかですが稚貝同士の噛合いが確認されました(写真2、YouTube動画あり)。稚貝の移動が特に多かった時間帯は朝方と10時から13時頃であり、いずれでも大きな振動は確認されませんでした。一方で、タイムラプスカメラによる映像からは光の差し込みによってカゴ内が明るくなる場面が確認されました。観察期間中の釜石市の気象データ(気象庁)を見ると、稚貝が活発に移動していたのは1時間当たりの日照時間が0分より多い場合でした(日の光が差し込んだり、遮られたりしていたと考えられます)。撮影は水深3.5mで行われていたため、差し込んだ太陽の光が刺激となり、稚貝が移動していた可能性が考えられます。
今回の観察では、大きな振動や水温の急激な変化がなかったことに加え、パールネット1カゴ当たりの収容枚数が35枚と適正な密度であったにも関わらず、稚貝同士がわずかに噛合う場面が見られました。このため、時化による振動や、パールネット内の稚貝の過密が生じた場合は、稚貝の噛合いが増加することが懸念されます。
稚貝の噛合い等による外傷を負うことで、その後の変形貝の発生やへい死のリスクが大きくなります。稚貝分散時はパールネットに稚貝を入れすぎないことや、幹綱を中層以深に下げ、時化等による振動を出来るだけ軽減するようにしましょう。
「パールネット内のホタテガイ稚貝の様子」
(2) 柱状採水法を用いた貝毒の監視強化について
県では、ホタテガイ生産海域における貝毒プランクトン検査について、警戒密度を定め、関係者に情報提供してきました。警戒密度とは、水深10mから採水した海水中の貝毒プランクトン検査結果に基づき、これを食べた介類に蓄積される毒量が国の規制値4MU/gを超える可能性のある細胞密度のことです。令和元年度には、調査精度を向上させるため、10~10mへの柱状採水による方法へ見直しました(図1)。これに伴い、従来の警戒密度が使用できなくなりました。そこで、当所では柱状採水法に対応した水温別注意密度を設定しました(表1)。従来の警戒密度(国の規制値4MU/gを超える可能性のある細胞密度)から注意密度(国の基準値2MU/gを超える可能性のある細胞密度)に変更し、より確実な中毒の未然防止を図ります。具体例として、水温別注意密度を用いた監視のイメージを示します(表2)。1月から実施している旧タマレンセの合計数を用いて注意密度に照らして行います。注意密度を超えた時は、翌週から「注意期間」となり、ホタテガイが毒量の基準値(2MU/g)を超える可能性があるということです。また、水温別注意密度が現場で使えるか令和2~3年度の検査結果を用いて検証しました。その結果、10海域中7海域において、基準値2MU/gを超える前の予測が可能でした。本研究の結果は、ホタテガイの計画的な生産・出荷に役立てていただければ幸いです。
※使用方法の注意事項
ア 水温別注意密度は、1月から実施している旧タマレンセの合計を表1に照らして設定ください。
イ 水温別注意密度の使用開始時は、前回のホタテ毒値を含め、ND(検出下限未満)であることを確認ください。
ウ 水温は、岩手県水産技術センターホームページの定地水温を使用ください。
エ 水温別注意密度を超えた場合は、2MU/gを超えるまで「注意期間」としてください。
オ 秋から冬にかけて毒化する原因プランクトンには、使用しないでください。
カ 1月以降の貝毒プランクトン検査は、可能な範囲で毎週実施ください。
細胞密度(水温別注意密度)
3 アワビ・ウニ関係
(1) アワビの容器放流試験について
ア 背景
容器放流は、アワビ種苗を放流容器に収容し容器ごと放流する手法であり、放流後のアワビ種苗の活力維持が期待される方法です。放流方法の比較については、放流後、短期間の生残率を調査した事例(遠藤ら、2003)はある一方、回収率や投資効果など漁獲時までを対象とした知見はありませんでした。このことから、県南部A地区において容器放流と船上ばらまき放流で種苗放流を行い、回収状況の比較を行い、容器放流の放流効果について検証しました。
イ 方法
平成28年10月12日に県南部A地区において、船上からのばらまき放流(4,789個)及び容器放流(4,679個)で、標識を装着したアワビ種苗を放流し、放流から2時間後に容器を回収しました。その後、平成29年から令和3年の11、12月に漁獲された標識アワビを確認し、ばらまき放流と容器放流の回収率や投資効果を比較しました。
ウ 結果と考察
平成29年から令和3年の漁獲時(11、12月)に発見された標識アワビの累積発見率は、容器放流で0.906%、船上ばらまき放流で0.731%でした。つまり、容器放流の方が、船上ばらまき放流に比べて1.24倍高い回収率であるという結果が得られました。
この結果を踏まえると、ばらまき放流の回収率を5.0%と仮定した場合、容器放流の回収率は6.2%となります。この条件で20万個の種苗放流をする場合、最終的な漁獲量は、ばらまき放流では1,280kg、容器放流では1,587kgとなり、容器放流の方が307kg(2,400個)多く漁獲されることになります。さらに放流経費を考慮して試算したところ、容器放流を5か年継続する場合の投資効果は、ばらまき放流を継続する場合の2.3倍となりました。このように、容器放流は資源添加を高め、漁獲量や投資効果の面でも船上ばらまき放流に比べ優位であり、放流効果を高める放流方法であるということがわかりました。
(2) 24時間電照によるウニの成熟抑制試験について
本県磯根漁場では、過剰に生息するウニの食害により餌料海藻不足となっており、ウニ密度の低減と「短期養殖」などのウニ資源の有効活用が求められています。しかし、天然ウニが市場に出回る時期には養殖ウニは高価格で売れず、採算性の悪さが普及を阻んでいます。それに対し、ウニを24時間電照した環境で飼育すると成熟が遅れ、産卵期(9~10月)まで品質を維持できることが明らかになり、開発された技術を用いた養殖の機運が高まっています。
以上のことから、本技術を開発した水研機構の学会発表データを参考とし、24時間電照によりウニの成熟を抑制して出荷期間を延長させる新たな養殖技術(図1)を、本県に適した方法に改良し普及するため、令和3年5月から11月まで試験を実施しました。
自然日長で飼育したウニは産卵期に成熟と身溶けが進んでいましたが(図3)、電照して飼育したウニは成熟と身溶けが抑制されていることが確認できました(図4)。
以上のことから、本県においても24時間電照によりウニの成熟が抑制され、産卵期(9~10月)まで品質を維持できることが確認されました。また、電照による身入り向上の効果も確認されたことから、電照等を用いたウニ養殖のさらなる展望が期待されます。
4 新規養殖対象種関係
アサリ養殖について
水産技術センターでは、新規養殖対象として期待されるアサリ養殖の導入に向けて、既存の人工種苗生産技術を活用し、効率的な養殖方法を検討しています。
ア 人工採苗について
県内4地区において、生産者が主体となり生産現場(漁港の作業施設等)でアサリの人工採苗を実施したところ、ほぼ全ての地区で成功し、種苗の沖出しまで行うことができました。
人工採苗に係る採卵作業は、アサリの状態により誘発が効きにくいことがありましたが、複数の誘発方法を組み合わせることで採卵確率が上がることが確認されました。誘発方法として、昇温法(図1)や高濃度餌料浸漬法(図2)、精子液添加法(図3)などがあります。これらの誘発方法を組み合わせることで、より効率的に採卵作業を行うことができ、生産現場でも容易に種苗生産に取り組むことができるようになりました。
イ 垂下養殖について
県内2地区において、当センターにて種苗生産したアサリ稚貝(平均殻長:A地区11.8mm、B地区13.5mm)を収容した丸カゴ式容器(図4)を養殖筏へ垂下し、令和元年7月3日から令和3年1月27日までの間、垂下養殖試験を行いました。
その結果、A地区は約1年1か月で、B地区は約1年5カ月で出荷目安のサイズである殻長30mmを超え(図5)、本県でも垂下養殖によるアサリの生産が可能であることが確認されました。
今後、より効率的な養殖方法やより好適な養殖場所を検討する予定です。
お問い合わせ
漁業資源部: 0193-26-7915
利用加工部: 0193-26-7916
増養殖部: 0193-26-7917
漁場保全部: 0193-26-7919
代表メールアドレス: CE0012@pref.iwate.jp