R5浅海増養殖技術に係る資料(ニュース特別号)

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令和5年10月23日
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はじめに

例年、9月に花巻市で開催されている浅海増養殖技術検討会について、一昨年、昨年に続き、令和5年度についても新型コロナウィルス感染症の影響により開催が見送られたことから、水産技術センターで発表を予定していた浅海増養殖技術に係る資料をお知らせします。

資料目次(タイトルをクリックするとその項目に移動します。)

1 ワカメ・コンブ関係

(1) 令和5年秋季の海況の見通しについて(漁業資源部)

10月下旬の本県沿岸域の10m深水温は19~21℃台、100m深水温は15~20℃台と予測されています。この水温は平年と比べ2~5℃高く、「高い」~「極めて高い」と判断されます。

(2) 昨季の栄養塩濃度の動向と今季の栄養塩供給時期予測について(漁場保全部)

漁業指導調査船「岩手丸」の海洋観測で採水した海水の栄養塩濃度を測定し、栄養塩濃度の動向をモニタリングしているほか、海洋観測情報を用いて栄養塩供給時期予測を行っています。

令和4年度は(令和4年10月~令和5年4月)、栄養塩の変動は概ね例年並みとなりました。

令和5年度においても、海洋観測情報を用いた栄養塩供給時期予測を実施する予定です。この技術では、各定線の沖合10マイル定点での表面の栄養塩濃度が20µg/Lを超える確率を50日先まで予測しております。

この予測結果につきましては、当センターwebページで「ワカメ養殖情報」として公開予定です。

(3) スイクダムシ被害軽減に向けた取組について(増養殖部)

養殖ワカメのスイクダムシ被害については、早期に付着を確認し、蔓延する前に収穫することが唯一の対策となっていますが、付着数が少ないと顕微鏡による確認が難しい場合があります。

そこで、顕微鏡で確認するのではなく、環境DNAの技術を用いてスイクダムシを検出する方法を開発しました。また、実際にワカメ養殖漁場で採水モニタリングをしたところ、スイクダムシが発生する2~3週間前の海水からスイクダムシのDNAを検出し、発生を予測することに成功しました。

(4) 湯通し塩蔵ワカメ加工に係る留意点について(利用加工部)

本県産ワカメの特長を活かした高品質な湯通し塩蔵ワカメの加工について、原藻pHの目安や湯通し・冷却・塩漬など各工程における留意点を記載しました。

(5) 成熟誘導技術を用いたコンブの早期養殖試験について(増養殖部)

近年、本県におけるコンブ生産量は、海水温上昇等の海洋環境の変化により減少傾向にあります。そこで、従来よりも早期に養殖を開始することができれば、収穫時期の拡大・収穫時期後半の末枯れ防止等により、生産量増加が期待されます。

そこで、コンブの早期養殖技術を開発するため、過去に当所で確立されたコンブ母藻の成熟誘導技術を用い、従来よりも早期に種苗生産から沖出しまでを実施する試験に取組んでいます。

2 ホタテガイ・カキ関係

麻痺性貝毒発生の広域化・長期化について(漁場保全部)

麻痺性貝毒の原因プランクトンは、シスト(種)を形成し、海底の泥中で休眠します。シストは、環境条件が整うと休眠から目覚め、発芽して海水中を遊泳し、増殖に適した環境になると大量に増えます。これまでは麻痺性貝毒による出荷自主規制が講じられるのは、一部の内湾漁場に限定されていました。しかし、近年は、プランクトンの発生海域は増え、ホタテガイの毒化が広域に亘り、さらに高毒化による出荷自主規制の長期化が起きています。

3 アワビ・ウニ関係

アワビの容器放流試験について(増養殖部)

平成28年に標識を付けたアワビ稚貝を2つの群に分け、船上から直接放流と容器に付着させた後容器ごと海底に設置する放流を実施しました。平成29~令和3年の通常開口時に再捕調査を行ったところ、累積の発見率は、容器放流0.906%、船上直接放流0.731%と容器放流が高くなりました。

1 ワカメ・コンブ関係

(1) 令和5年秋季の海況の見通しについて

ア 現在の海況について(9月上旬)

岩手県水産技術センターでは、漁業指導調査船「岩手丸」で定線海洋観測(1回/月)を実施しています。

本県沿岸10海里(約19km)以内の表面水温は23~26℃台でした(図1左)。平年※と比べて2~4℃程度高めであり、「高い」~「極めて高い」と判断されました(図1右)。

また、10海里以内の100m深水温は10~15℃台でした(図2左)。黒埼沖で4~5℃程度、トドヶ埼沖で1~4℃程度、尾埼及び椿島沖で1℃程度高めであり、黒埼沖は「極めて高い」、トドヶ埼沖は「やや高い」~「極めて高い」、尾埼及び椿島沖は「平年並」~「やや高い」と判断されました(図2右)。

※ 平年の値は、過去30年間(1991年~2020年)の平均。

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図1 9月上旬の、本県沖50海里までの表面水温図(左)と平年偏差図(右)
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図2 9月上旬の、本県沖50海里までの100m深水温図(左)と平年偏差図(右)

イ 10月下旬までの本県沿岸域の水温の見通し

国立研究開発法人水産研究・教育機構の海況予測システム「FRA-ROMSⅡ」によると、10月下旬の本県沿岸域の10m深水温※は19~21℃台、100m深水温は15~20℃台と予測されています。この水温は平年と比べ2~5℃高く、「高い」~「極めて高い」と判断されます。
※ 表面水温は気温の影響を受けやすく長期的な予測は難しいことから、本資料では表面水温より気温の影響が小さい10m深水温を用いています。

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図3 10月下旬に予測される表面水温(左)と平年偏差図(右)
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図4 10月下旬に予測される100m深水温図(左)と平年偏差図(右)
  平年値との差
10m深 100m深
距離10海里内 距離10海里内
極めて高い +3.1℃〜 +3.8℃〜
高い +2〜+3℃ +2.4〜+3.7℃
やや高い +0.8〜+1.9℃ +1〜+2.3℃
平年並 +0.7〜-0.7℃ +0.9〜-0.9℃
やや低い -0.8〜-1.9℃ -1〜-2.3℃
低い -2〜-3℃ -2.4〜-3.7℃
極めて低い -3.1℃〜 -3.8℃〜
【参考】 本県10海里以内の10m深水温及び100m深水温の階級表

(2) 昨季の栄養塩濃度の動向と今季の栄養塩供給時期予測について

ア 昨季の栄養塩濃度の動向

岩手県水産技術センターでは、漁業指導調査船「岩手丸」で海洋観測(1回/月)を実施しています。観測で採水した海水を測定し、栄養塩濃度の動向をモニタリングしています。

昨季の岩手県沿岸での栄養塩濃度の推移を下図に示しました(令和4年10月~令和5年4月)。令和4年11月及び令和5年1月は荒天等の理由により欠測となりましたが、栄養塩の変動は概ね例年並みとなりました。尾埼定線の10マイルの表面では過去の結果と比較して年間の最大濃度がやや低くなりましたが、漁場にはワカメの生育に十分な栄養塩が供給されていたと考えられます。

過去の結果では2月をピークに栄養塩濃度が低下しており、令和5年もトドヶ埼、尾埼、椿島では同様に推移していましたが、黒埼定線の10マイルの表面では3月に急低下し、20µg/Lを下回りました。親潮の接岸状況によっては3月でも栄養塩濃度が上昇する場合がありますので、海況を把握することも重要です。

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イ 今季の栄養塩供給時期予測

岩手県水産技術センターでは、海洋観測で得られた情報を用いて栄養塩供給時期予測を行っています。この技術では、各定線の沖合10マイル定点での表面の栄養塩濃度が20µg/Lを超える確率を50日先まで予測できます。

予測結果は当センターwebページで「ワカメ養殖情報」として公開予定です。

「ワカメ養殖情報」
https://www2.suigi.pref.iwate.jp/research_log/undaria_farming
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(3) スイクダムシ被害軽減に向けた取組について

ア 研究の背景

スイクダムシ(学名:エフェロータ・ギガンティア)が養殖ワカメに大量に付着すると、ワカメの光沢が失われるとともに異臭を放つことから、商品価値が大幅に低下することが知られています。本県沿岸では不定期に発生して養殖ワカメに大きな被害を与えています。

現在のところ発生や付着を防除する方法はなく、早期発見により付着が蔓延する前に収穫することが唯一の対策となっています。そこで、当センターでは岩手県生物工学研究所との共同研究により、スイクダムシのDNAを検出する技術を利用したモニタリング手法の開発に取り組んでいます。

イ 環境DNAの技術を用いて、スイクダムシの発生予測に成功

これまでの研究により、環境DNAの技術を用いてスイクダムシのDNAを検出できるようになりました。また、実際にワカメ養殖漁場でモニタリングをしたところ、スイクダムシが発生する2~3週間前に海水からスイクダムシのDNAが検出され(図1)、発生を予測することに成功しました。

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図1 海水中のスイクダムシの平均DNA濃度とスイクダムシの平均付着数の推移

ウ 今後の取り組み

開発した技術を用いて、県内のワカメ養殖漁場をモニタリングする体制を構築し、スイクダムシの寄生による被害軽減につなげたいと考えています。

(4) 湯通し塩蔵ワカメ加工に係る留意点について

本県特産の湯通し塩蔵ワカメは、鮮やかな緑色と肉厚で食感が良いことが特長です。特長を活かして高品質に加工するための留意点を記載しましたので、今後の参考としてください。

ア ワカメ原藻(生ワカメ)のpHの把握

収穫が遅くなるにつれてワカメの老化とともに酸性化が進み、緑色色素のクロロフィルが減少していきます。そのため、色調の良い湯通し塩蔵ワカメに加工するには、漁期中の原藻のpHを把握することが重要です。正確に加工適性を把握するには、原藻中央部の側葉中央部(図1)でpHを測定する必要があり、加工適性評価の目安は表1のようになります。

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図1 ワカメ原藻のpH測定部位
表1 ワカメ原藻pHの加工適性評価(目安)
加工適性(目安) 最良◎ 良〇 要注意△ 加工不適×
pH 6.2以上 5.9以上6.2未満 5.7以上5.9未満 5.7未満
※原藻のpH、原藻の状態(外観)、湯通し後の色調等から加工適性を総合的に判断すること。

イ ワカメ原藻のpH測定法

図1のpH測定部位から葉体約10グラムを採取し、9倍量の蒸留水又は精製水(水道水は使用不可)を加え、ミキサーで約30秒間粉砕した後、約2分間攪拌しながらpHメーターで値を測定します。3~5本の複数の原藻から葉体を採取して個別にpHを測定するのが最良ですが、どうしても個々に測定できない場合には、複数の原藻から葉体を採取・混合してpHを測定してください。

ウ 湯通し・冷却工程

収穫した原藻から元茎や末枯れ(先枯れ)を除去し、85~90℃の海水中で(80℃以下にならないよう)30~60秒間、湯通し加熱を行います。その後、直ちに10℃以下の冷海水に移し、3~5分間程度冷却します。湯通し加熱によって葉体に含まれる酵素の働きが抑制されるとともに、クロロフィルを分解する酸性成分は減少します。湯通し時間は原藻のサイズによって加減しますが、加熱が不足すると酵素活性が残るため、保管中に変色や軟化がみられる場合があります。一方、加熱のし過ぎや冷却が不足した場合には、クロロフィルの分解が進み、葉体は濃緑色とならず黄色味を帯びた緑色となります。なお、湯通しの際、原藻から溶出する酸性成分により使用する海水のpHが7.5~8.0程度から5.5程度に低下することから、足し水や新しい湯への交換を適宜行う必要があります。

エ 塩漬工程(従来式)

従来の塩漬法では、水切りをした湯通しワカメの重量に対して30~40%の食塩を加え、塩からめ機で2分間程度の塩もみを行い、重石をしながらタンク中で1~2昼夜(15時間以上)の塩漬を行いますが、塩漬後に、タンク中にしみ出た滲出液の濃度がほぼ飽和食塩水の濃度(25~26%)となっていることを確認してください。また、食塩添加量を規定よりも少なくして強く脱水しても保存性の指標である水分活性は変化しませんので注意が必要です。

オ 塩漬工程(攪拌式)

攪拌式塩漬法では、湯通しワカメを20~25kgずつ網袋に詰め、飽和食塩水を入れた高速攪拌塩漬装置(しおまる)に投入し、飽和濃度(約26%)を維持しつつ60~70分間攪拌して塩漬を行います。ワカメ500kgに対して食塩袋5袋(食塩125kg)を追加して繰り返し塩漬を行いますが、塩漬を始めてから約30分後を目安に食塩水の濃度を確認して食塩を適宜追加するなど、飽和濃度を維持することが重要です。また、ワカメ500kgに対して食塩袋5.5~6袋程度と最初から少し多めに追加することで飽和濃度を維持しやすくなりますが、6袋以上の食塩を追加すると網袋に食塩粒が入り込み、塩漬後の塩落とし作業が手間となるので注意が必要です。高速攪拌塩漬装置の推奨使用条件については当所のHPをご覧ください。

カ 湯通し塩蔵ワカメの適正な水分・塩分・水分活性(表2)

芯抜品の葉で水分60%以下、塩分16%以上(付着塩を除く)かつ水分活性0.79未満が適正です。茎(中芯)では水分70%以下、塩分19%以上(付着塩を除く)かつ水分活性0.79未満が適正です。芯付品の水分は65%以下(葉と茎の平均値)が適正となり、塩分と水分活性は葉や茎と同じになります。全ての条件を満たさない場合、好塩性細菌等の繁殖による変色や変質が生じやすくなります。なお、塩分は付着している食塩粒を除去してから測定した値を示しています。

表2 湯通し塩蔵ワカメの水分・塩分・水分活性の適正値
  水分 塩分 水分活性
葉(芯抜品) 60%以下 16%以上 0.79未満
葉(芯付品) 65%以下※ 16%以上 0.79未満
茎(芯付品) 19%以上 0.79未満
茎(中芯) 70%以下 19%以上 0.79未満
※芯付品の水分は葉と茎の平均値を意味する。

キ 芯抜き・脱水・箱詰め工程

茎(中芯)に酵素活性や酸性成分が残っている場合があるので、できるだけ速やかに芯抜きを行ってください。芯抜き後は、葉体の水分量を60%以下とするよう適宜脱水してから箱詰めしてください。

ク 冷水の長期接岸時における湯通し塩蔵ワカメの加工上の留意点

冷水の長期接岸の影響を受けた原藻では、生育不良が発生して原藻pHの酸性化が例年よりも早くなる可能性が高いため、湯通し温度や時間を例年以上にこまめに確認してください。特に、収穫期前半の身入りが悪い原藻に対して高温(92℃以上)かつ長い時間(60秒間程度)の湯通し加熱を行うと、鮮やかな緑色にはならず、黄色味を帯びた弱い緑色になるため注意が必要です。また、煮すぎによる色調劣化を防ぐため、湯通し後の冷却は冷海水と同じ温度になるまで例年以上に丁寧に行う必要があります。冷水の長期接岸の影響を受けた原藻で加工された湯通し塩蔵ワカメのクロロフィル含量は例年よりも少なく保存性が低下する可能性があり、芯抜きを速やかに行う、芯端を多く残さない、製造作業中の常温保管を短くする、早めに消費する、早めにカットワカメに加工する等の対策が有効です。

ケ 令和4年春の冷水の長期接岸時におけるワカメ原藻のpHの変動

令和4年春に本県沿岸域で2月中旬から5℃以下の水温が2週間以上継続する異常冷水現象が発生しました。岩手県沿岸のA、B両地区とも2月上旬までのワカメ原藻のpHは6.4以上を示していましたが、2月下旬には6.0~6.1へと急激に低下し、3月上旬には6未満となりました(図2)。3月下旬から4月上旬にかけてpHは5.7~5.8と最も低くなり、当所で定めるワカメ原藻の加工適性の判断基準(表1、令和2年度年報P149~150参照)の要注意△(pH5.7以上5.9未満)に該当していました。4月上旬以降は海水温が5℃以上になり、原藻pHは4月下旬のA地区で6.0まで上昇しました。

コ 令和4年春の海水温と栄養塩濃度の変動

令和4年春の海水温(A、B地区の一方)は2月中旬から3月下旬まで3~4℃台となり、海水温が5℃以下の状態を継続する冷水の長期接岸が確認されました(図3)。冷水の接岸以降、原藻pHは急激に低下して3月上旬から4月上旬のA、B両地区の原藻pHは6未満の状態が継続しました。2月中旬から3月上旬までの栄養塩濃度は100µg/L以上(A、B地区の一方)であることから、原藻pHの急激な低下は、冷水接岸によるワカメの生理活性の低下などが原因であると推察されました。

サ 平成26年春および平成27年春の冷水の長期接岸時におけるワカメ原藻pHの変動

令和4年春と同様に2月から冷水が接岸した平成27年は、2月中旬から3月下旬まで冷水が接岸し、両地区の原藻pHは2月下旬(B地区)と3月中旬(A地区)から4月中旬まで6未満を示した(図6~7)。一方、3月中旬から4月中旬まで冷水が長期接岸した平成26年は、A、B両地区の原藻pHは6以上を維持していました(図4~5)。

以上のことから、2月中~下旬のワカメ原藻の生育途上の葉体が薄く身入りの悪い段階から冷水が接岸すると、栄養塩濃度は高いにも関わらず、水温低下の影響を受けて原藻pHの急激な酸性化(6未満)が発生しやすく、湯通し塩蔵カメの変色の発生が多くなると考えられました。

(5) 成熟誘導技術を用いたコンブの早期養殖試験について

近年、本県におけるコンブ生産量は減少傾向にあります。生産量減少の一因としては、海水温上昇等の海洋環境の変化が挙げられ、従来よりも早期に養殖することができれば、収穫時期の拡大・収穫時期後半の末枯れ防止等により、生産量増加が期待されます。

そこで、コンブの早期養殖技術を開発するため、過去に当所で確立されたコンブ母藻の成熟誘導技術を用い、従来よりも早期に種苗生産から沖出しまでを実施する試験に取組んでいます(図1、図2)。

水温15℃、日長10L:14D、照度約2,000luxで成熟誘導を開始したところ、最短約2週間で成熟(子嚢斑が形成)されたことが確認できました。さらに成熟誘導を続けたところ、1か月間でほぼ全ての母藻の成熟を確認できました(図3)。

成熟されたコンブ母藻を用いて、採苗を実施した結果、早期にコンブ種苗を得ることができました(図4)。得られたコンブ種苗は、室内培養・アルテミアふ化槽での流水攪拌培養の後、漁場へ沖出しし、その後の生長を確認する予定です。

2 ホタテガイ・カキ関係

麻痺性貝毒発生の広域化・長期化について

麻痺性貝毒によるホタテガイ等の出荷自主規制は、毒を持つプランクトンが増殖し、それをホタテガイが取り込むことが原因です。

麻痺性貝毒の原因プランクトン(以下、プランクトンと略す)は、アレキサンドリウム属(図1)のプランクトンで、シスト(種)(図2)を形成し、海底の泥中で休眠します。シストは、環境条件が整うと休眠から目覚め、発芽して海水中を遊泳し、増殖に適した環境になると大量に増えます。原因プランクトンはシストが溜まりやすい内湾で増殖しやすいため、これまでは麻痺性貝毒の発生による出荷自主規制が講じられるのは一部の内湾漁場に限定されていました。しかし、近年は、プランクトンの発生によるホタテガイの毒化が広域に亘り、さらに高毒化による出荷自主規制の長期化が起きています(表1)。

表1 最近の麻痺性貝毒による出荷自主規制海域
生産海域 H30 H31(R1) R2 R3 R4 R5
2018 2019 2020 2021 2022 2023
北部          
中北部          
宮古湾        
山田湾      
中部        
大槌湾  
釜石湾
中南部
三陸町    
大船渡湾東部
大船渡湾西部
南部

3 アワビ・ウニ関係

アワビの容器放流試験について

ア 背景

容器放流は、アワビ種苗を放流容器に収容し容器ごと放流する手法であり、放流後のアワビ種苗の活力維持が期待される方法です。放流方法の比較については、放流後、短期間の生残率を調査した事例(遠藤ら、2003)はある一方、回収率や投資効果など漁獲時までを対象とした知見はありませんでした。このことから、県南部A地区において容器放流と船上ばらまき放流で種苗放流を行い、回収状況の比較を行い、容器放流の放流効果について検証しました。

イ 方法

平成28年10月12日に県南部A地区において、船上からのばらまき放流(4,789個)及び容器放流(4,679個)で、標識を装着したアワビ種苗を放流し、放流から2時間後に容器を回収しました。その後、平成29年から令和3年の11、12月に漁獲された標識アワビを確認し、ばらまき放流と容器放流の回収率や投資効果を比較しました。

ウ 結果と考察

平成29年から令和3年の漁獲時(11、12月)に発見された標識アワビの累積発見率は、容器放流で0.906%、船上ばらまき放流で0.731%でした。つまり、容器放流の方が、船上ばらまき放流に比べて1.24倍高い回収率であるという結果が得られました。

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図1 容器放流とばらまき放流における累積発見率

この結果を踏まえると、ばらまき放流の回収率を5.0%と仮定した場合、容器放流の回収率は6.2%となります。この条件で20万個の種苗放流をする場合、最終的な漁獲量は、ばらまき放流では1,280kg、容器放流では1,587kgとなり、容器放流の方が307kg(2,400個)多く漁獲されることになります。さらに放流経費を考慮して試算したところ、容器放流を5か年継続する場合の投資効果は、ばらまき放流を継続する場合の2.3倍となりました。このように、容器放流は資源添加を高め、漁獲量や投資効果の面でも船上ばらまき放流に比べ優位であり、放流効果を高める放流方法であるということがわかりました。

お問い合わせ

漁業資源部: 0193-26-7915

利用加工部: 0193-26-7916

増養殖部: 0193-26-7917

漁場保全部: 0193-26-7919

代表メールアドレス: CE0012@pref.iwate.jp