2018年ケガニ漁況情報(漁況情報号外)

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平成30年12月17日

本県沿岸漁船漁業の主要対象魚種であるケガニについて、漁期前調査結果等を基に平成30年度の漁況を予測した結果をお知らせします。

1)期間:平成30年12月~平成31年3月

2)水準と動向:資源水準は低水準、資源動向は横ばい傾向

3)漁況・漁期:低水準の前年度を下回り、主漁期は平成31年2月以降

4)漁獲サイズ:80mm台(体重290g前後)が主体、大型個体は極めて少ない

〈漁況予測に用いた主要データ〉

1.岩手県に生息するケガニの生態

岩手県海域に分布するケガニは、水深150~350mに生息しています。本海域のケガニは、6月を中心とする4~9月頃に交尾を行い、雌が卵を約2年半保育後、冬から春にプランクトン状の幼生を放出します。その後は脱皮ごとに成長し、繁殖に参加するまで3~4年(甲長約5cm)、漁獲対象となる甲長8cmに達するまで約7年かかります。脱皮時期は6~8月をピークとする4~10月頃で、漁獲が開始される頃には甲羅が堅くなります。

2.岩手県におけるケガニ水揚量の推移

岩手県におけるケガニの水揚は甲長80mm超(平成29年度までは甲長70mm超)の雄が対象で、漁法はカゴと固定式刺網が主体となっています。平成29年度漁期※1の水揚量は31トン(前年比139%、平均※2比59%)で、平成9年度以降最低値となった前年を上回りました(図1)。漁法別にみると、カゴが22トン(前年比144%、平均比56%)、固定式刺網が9トン(前年比128%、平均比69%)でした。
※1 平成29年12月~平成30年4月まで ※2 平成24~28年度の5ヶ年平均

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図1 岩手県におけるケガニの年度別・漁法別水揚量の推移

カゴと固定式刺網をあわせた延水揚隻数は、平成22年度以降段階的に減少し、平成29年度には947隻まで減少しました(図2)。
CPUE(1隻1日あたりの平均漁獲量)はカゴ、固定式刺網ともに平成23年度以降減少傾向を示しています。平成29年度は、カゴが36kg/隻・日(前年比164%、平均比84%)、固定式刺網が27kg/隻・日(前年比133%、平均比92%)で、両漁法ともに平成9年度以降最低値となった前年を上回りました。

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図2 岩手県における年度別の延水揚隻数と刺網、カゴCPUE(kg/隻・日)

3.調査船調査結果

1)ケガニ漁期前調査(漁業指導調査船「北上丸」による)
漁期直前の10~11月に釜石沖水深190m付近において実施している、カゴを用いた漁期前調査の結果を示します。本年度は、10月22日~11月12日に計3回調査を実施しました。本年度の調査で観測された180m深の水温は、10月22日が10.99℃(前年差+5.97℃)、11月12日が10.60℃(前年差+2.02℃)でした。なお、漁期前調査における180m深水温は、漁期前半(12~1月)のカゴCPUEと負の相関関係にあり、水温が高いほど漁獲が少なくなる傾向を示します(図3)。本年度の水温は、平成22年度以降では平成27、28年度に次いで3番目に高くなっていたことから、漁期前半の漁獲は少なくなることが見込まれます。

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図3 12~1月のカゴCPUEと漁期前調査の180m深水温の関係
R2の値が1に近いほど相関が強いことを示す

ケガニの採集尾数は22尾(雄:16尾、雌:6尾)で、前年の190尾(雄:132尾、雌:58尾)を下回り、平成6年度の調査開始以降最低となりました。
採集されたケガニの甲長は、雄では範囲が49~87mmで、漁獲対象サイズである甲長80mm以上の個体は全体の6%と極めて少なくなっていました。雌では範囲が37~61mmで、前年よりも小型サイズが主体となっていました(図4)。

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図4 漁期前調査で採集されたケガニの甲長組成

雄の甲長階級(50mm台、60mm台、70mm台、80mm台以上)別の1カゴあたりの平均採集尾数は、全ての甲長階級で前年を下回り、平成6年度の調査開始以降で最低となりました(図5)。
(平成30年度CPUE:甲長50mm台:0.02、60mm台:0.02、70mm台:0.01、80mm台:0.00 ;平成29年度CPUE:甲長50mm台:0.31、60mm台:0.33、70mm台:0.08、80mm台:0.01)

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図5 雄の甲長階級別平均採集尾数(尾/カゴ)

2)秋季トロール調査(漁業指導調査船「岩手丸」による)
11月に岩手県中南部海域の水深200~350m台で実施している着底トロール調査の結果から求めたケガニの推定現存個体数は、平成25年以降低い水準で推移しており、平成28~29年に増加したものの今年度は再び減少に転じました(図6)。このことから、現在のケガニの資源水準は低位水準、動向は横ばい傾向にあると考えられます。

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図6 岩手県中南部海域におけるケガニの推定現存個体数の推移

4.平成30年度漁況予測

本県におけるケガニの漁況を予測するため、以下に示す予測モデル(一般化線形モデル)により漁期中の1日1隻あたりの平均漁獲量(以下、CPUE)を推定しました(図7)。
漁期中CPUE ~ 漁期前調査での採集尾数**※1 + 沖合域での分布量***※2 + 定数
(**:p<0.01、**:p<0.001)
【予測に用いた指標の説明】
※1 漁期前調査における漁獲対象サイズの雄の100カゴあたり平均採集尾数(平成29年度までは甲長70mm超、平成30年度は甲長80mm超)
※2 11月に本県中南部海域の水深200~350m台で実施している着底トロール調査で採集された雄の重量を水深別に引延し、合計した値

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図7 漁況予測モデルにより推定した漁期中CPUE
実線が予測値(平成30年度予測値のマーカーを拡大表示)、破線が実測値を示す

今年度の漁期中CPUEは、漁期前調査における漁獲対象サイズの雄の採集が極めて少なかったことに加え、沖合域における分布量も前年を下回ったことから、低水準であった平成29年度を下回ると推定されました。
また、漁期前調査における水温が高めであったことに加え、直近の沿岸定線海洋観測(11月26日~12月3日実施)における水深200m前後の水温は、尾崎定線以北では前年よりも低めとなっています。一方、椿島定線では高めとなっていたことから、特に県南部海域においては12月~翌1月までの漁獲が極めて少なくなる可能性があります。