2016年ケガニ漁況情報(漁況情報号外)

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平成28年12月7日

本県沿岸漁船漁業の主要対象魚種であるケガニについて、漁期前調査結果を基に平成28年度の漁況を予測した結果をお知らせします。

1)期間:平成28年12月~平成29年3月

2)水準と動向:資源水準は低水準、資源動向は減少傾向

3)漁況・漁期:低水準の前年度並~上回る。主漁期は平成29年1月以降

4)漁獲サイズ:7cm台(体重200~250g前後)が主体

1.岩手県に生息するケガニの生態

岩手県沖合に分布するケガニは、水深150~350mに生息しています。本海域のケガニは、6~9月に交尾を行い、雌が卵を約2年半保育後、冬から春にプランクトン状の仔ガニを放出します。その後は脱皮ごとに成長し、繁殖に参加するまで3~4年(甲長約5cm)、漁獲対象となる甲長7cmに達するまで約5年かかります。脱皮時期は6~8月をピークとする4~10月で、漁獲が開始される頃には甲羅が堅くなります。

2.岩手県におけるケガニ水揚量の推移

岩手県における平成9年度以降の漁法別水揚量を図1に示します。ケガニは大部分が固定式刺網とカゴにより漁獲されています。平成27年度の水揚量は、前年比87%、過去5年(平成22~26年度)平均比55%の44トンで、平成23年度以降減少傾向を示しています。漁法別にみると、刺網が前年比87%、平均比53%の12トン、カゴが前年比87%、平均比55%の32トンでした。

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図1 岩手県におけるケガニの年度別・漁法別水揚量の推移

刺網とカゴをあわせた延水揚隻数と漁法別の1隻・1日あたりの平均水揚量(以下CPUE:kg/隻・日)の推移を図2に示します。延水揚隻数は、東日本大震災の影響によって平成22年度に減少し、その後1,400隻前後で推移しています。
CPUEは、特にカゴにおいて平成19年度から増加傾向を示しており、平成23年度には両漁法ともに平成9年度以降最大となりましたが、近年減少傾向を示しています。平成27年度は、刺網では28kg/隻・日(前年比94%、平均比63%)、カゴでは33kg/隻・日(前年比81%、平均比53%)で、両漁法ともに平成19年度以降最低となりました。

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図2 岩手県における年度別の延水揚隻数と刺網、カゴCPUE(kg/隻・日)

3.漁期前調査の結果

水産技術センターでは、例年、脱皮後から漁期直前の9~11月に、漁業指導調査船「北上丸」によるカゴでの漁期前調査を、釜石沖合の水深150~200m付近で実施しています。本年度は、10月と11月に水深195mで調査を実施しました。本年度の調査で観測された180m深の水温は、10月31日が前年同期よりも0.90℃高い12.00℃、11月21日が前年より0.53℃高い13.61℃で、11月調査時の水温を比較すると、最も高かった平成26年に次いで高くなっていました(図3)。

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図3 釜石沖200m等線付近における水温分布と11月調査時水温の経年変化

本年調査での採集尾数は178尾(雄:85尾、雌:93尾)で、雌雄ともに前年の90尾(雄:38尾、雌:52尾)を大きく上回りました。

採集されたケガニの甲長組成を図4に示します。雄は甲長の範囲が43~78mmで、52mmを主体とする階級(2歳)が主体であり、甲長70mmを上回る漁獲対象サイズは全体の6%と極めて少なくなっています。雌は甲長の範囲が40~75mmで、52mmを主体とする階級が主体となっていました。

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図4 漁期前調査で採集されたケガニの甲長組成

採集されたケガニのうち、漁獲対象となる雄について、4つの甲長階級(50mm台、60mm台、70mm台、80mm台)に分けて1カゴあたりの平均採集尾数(以下CPUE:尾/カゴ)を比較しました(図5)。平成28年度は、漁獲対象サイズである甲長70、80mm台のCPUEが前年を下回り、極めて低い水準となっています。一方、甲長50、60mm台のCPUEは前年を上回っており、50mm台については近年では比較的高い水準となっています(平成28年度CPUE:甲長50mm台:0.31、60mm台:0.11、70mm台:0.03、80mm台:採集なし;平成27年CPUE:甲長50mm台:0.19、60mm台:0.10、70mm台:0.04、80mm台:0.03)。

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図5 漁期前調査で採集された雄ケガニの甲長階級別平均CPUE(尾/カゴ)

4.その他の調査結果

水産技術センターでは、カゴ調査の他、11月に漁業指導調査船「岩手丸」を用いて本県沖水深200~350mで着底トロール調査を行っています。平成28年11月14~24日の調査で、全15地点中3地点(いずれも県北部沖300m以深)で、合計25尾の雄ケガニが採集されました。このうち、漁獲対象となる甲長70mmを超えるサイズは13尾(70mm台:12尾、80mm台:1尾)で、前年(7尾)を上回りましたが、依然として少ない状況が継続しています(平成23年:115尾、平成24年:35尾、平成25年:64尾、平成26年:欠測)。

5.資源評価

漁期前調査における甲長70mm以上の雄ケガニCPUEは、本県におけるケガニの漁期中カゴCPUEと正の相関が見られ、概ね資源水準を反映していると考えられています(図6左)。平成28年度は、カゴによる漁期前調査及び着底トロール調査の両者における甲長70mm以上の雄ケガニCPUEが極めて低くなっており、直近年度の漁期中CPUEも平成23年度以降5年連続で減少しています。
以上の結果から、現在の資源水準は低水準、動向は減少傾向と判断されました。
一方、今年度漁期前調査では、甲長70mm未満の雄ケガニCPUEが前年を上回りました。甲長70mm未満の雄ケガニCPUEが高いと、翌年の漁期中CPUEが高くなる傾向が見られることから(図6右)、安定した漁獲を維持するため、小型個体の漁獲を確実に抑えることが大切です。

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図6 漁期前調査による甲長70mm以上の雄ケガニCPUE(尾/カゴ)と漁期中カゴCPUE(kg/隻・日)の関係(左図)、前年の漁期前調査による甲長70mm未満の雄ケガニCPUEと漁期中CPUE(全漁法込)の関係(右図)

6.平成28年度漁況予測

漁期前調査で観測された11月の180m深水温は、漁期中CPUEと負の相関が見られ、漁期入直前の水温が高い年は水揚量が減少する傾向が見られています(図7)。
この結果と資源評価結果に基づいて平成28年度漁期の水揚量を予測すると、不漁年であった平成26、27年度と同程度~やや上回る45~50トン程度(全漁法込)と推定されました。漁獲物の主体は甲長70mm台(体重200~250g)とみられますが、前年度に引き続き低い水準になることが予想されます。また、直近の水温動向から判断すると、漁期入は遅れ1月以降となることが見込まれます。

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図7 漁期前調査における11月180m深水温と水揚量の関係