2017年ケガニ漁況情報(漁況情報号外)

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平成29年12月13日

本県沿岸漁船漁業の主要対象魚種であるケガニについて、漁期前調査結果を基に平成29年度の漁況を予測した結果をお知らせします。

1)期間:平成29年12月~平成30年3月

2)水準と動向:資源水準は低水準、資源動向は減少傾向

3)漁況・漁期:低水準の前年度を上回る。主漁期は平成30年1月以降

4)漁獲サイズ:70mm台(体重200~250g前後)が主体

1.岩手県に生息するケガニの生態

岩手県沖合に分布するケガニは、水深150~350mに生息しています。本海域のケガニは、6~9月に交尾を行い、雌が卵を約2年半保育後、冬から春にプランクトン状の仔ガニを放出します。その後は脱皮ごとに成長し、繁殖に参加するまで3~4年(甲長約5cm)、漁獲対象となる甲長7cmに達するまで約5年かかります。脱皮時期は6~8月をピークとする4~10月で、漁獲が開始される頃には甲羅が堅くなります。

2.岩手県におけるケガニ水揚量の推移

岩手県における平成9年度以降の漁法別水揚量を図1に示します。ケガニは大部分が固定式刺網とカゴにより漁獲されています。平成28年度の水揚量は22トン(前年比51%、平均※比32%)で、平成9年度以降最低の水揚となりました。漁法別にみると、刺網が7トン(前年比56%、平均比39%)、カゴが15トン(前年比49%、平均比29%)でした。
※平成23~27年度の5ヶ年の平均値。

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図1 岩手県におけるケガニの年度別・漁法別水揚量の推移

刺網とカゴをあわせた延水揚隻数と漁法別の1隻・1日あたりの平均水揚量(以下、CPUE:kg/隻・日)の推移を図2に示します。延水揚隻数は、平成22年度以降1,400隻前後で推移してきましたが、平成28年度には1,044隻まで減少しました。
CPUEはカゴ、刺網ともに平成23年度以降減少傾向を示しています。平成28年度は、刺網では21kg/隻・日(前年比73%、平均比54%)、カゴでは22kg/隻・日(前年比66%、平均比39%)で、両漁法ともに平成9年度以降最低となりました。

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図2 岩手県における年度別の延水揚隻数と刺網、カゴCPUE(kg/隻・日)

3.漁期前調査の結果

水産技術センターでは、脱皮後から漁期直前の10~11月に、釜石沖合の水深190m付近においてカゴによる漁期前調査を実施しています。本年度は、10月と11月に調査を実施しました。本年度の調査で観測された180m深の水温は、10月27日が前年同期よりも6.98℃低い5.02℃、11月15日が前年より5.03℃低い8.58℃で、11月調査時の水温は過去5ヶ年で最も低くなりました(図3)。

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図3 調査地点における水温の鉛直分布

本年調査での採集尾数は190尾(雄:132尾、雌:58尾)で、前年の178尾(雄:85尾、雌:93尾)を上回りました。

採集されたケガニの雌雄別甲長組成を図4に示します。雄は甲長の範囲が48~83mmで、59mm並びに64mmを主体とする階級(3~4歳程度)が主体であり、甲長70mmを上回る個体は全体の12%と、平成24年度以降極めて少ない状況が継続しています。雌は甲長の範囲が51~74mmで、62mmを主体とする階級が主体となっていました。

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図4 漁期前調査で採集されたケガニの甲長組成

採集されたケガニのうち、漁獲対象となる雄について、4つの甲長階級(50mm台、60mm台、70mm台、80mm台)に分けて1カゴあたりの平均採集尾数(以下、CPUE:尾/カゴ)を比較しました(図5)。平成29年度は、漁獲対象サイズである甲長70、80mm台のCPUEが前年を上回りましたが、依然として低水準となっています。一方、甲長50、60mm台のCPUEは2年連続の増加となりました(平成29年度CPUE:甲長50mm台:0.31、60mm台:0.33、70mm台:0.08、80mm台:0.01 ; 平成28年度CPUE:甲長50mm台:0.31、60mm台:0.11、70mm台:0.03、80mm台:採集なし)。

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図5 漁期前調査で採集された雄ケガニの甲長階級別平均CPUE(尾/カゴ)

4.平成29年度漁況予測

漁期前調査で観測された11月の180m深水温は、本県のケガニ水揚量と負の相関が見られ、漁期入直前の水温が高い年は水揚量が減少する傾向が見られています(図6左)。この関係から平成29年度漁期のケガニ水揚量を予測すると、不漁年だった平成28年度を上回ると推定されました。
一方、漁期前調査における甲長70mm以上の雄ケガニCPUEは、本県のカゴにおける漁期中CPUEと正の相関関係があり(図6右)、漁期前調査におけるCPUEは前年度に続き極めて低くなっていることから(図5)、予測範囲の下限に近付く可能性も考えられます。
また、漁期前調査では甲長80mm以上の雄ケガニが極めて少なかったことから、前年に引き続き漁獲物の主体は甲長70mm台(体重200~250g)となることが見込まれます。また、直近の沿岸定線海洋観測結果(岩手丸)より、本県沿岸域の水深200m前後の水温は前年度よりも低めで推移していることから、水揚の本格化は1月以降となり、平成28年度よりも早くピークを迎えると見込まれます

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図6 漁期前調査における11月180m深水温と水揚量の関係(左図)
漁期前調査における甲長70mm以上の雄ケガニCPUEと漁期中カゴCPUEの関係(右図)
※黒丸は平成29年度漁期の予測値、点線は予測の上限値と下限値

5.資源評価

岩手県海域におけるケガニの水揚量及び年齢別水揚尾数を用いて、甲長70mm以上の雄ガニの資源尾数を推定した結果を図7に示します。資源尾数は平成22年度以降連続して減少しており、平成28年度は258千尾(前年比76%、平成22年~27年5ヶ年平均比38%)と推定されました。この結果から、現在の資源水準は低位水準、動向は減少傾向と評価しました。

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図7 コホート解析による甲長70mm以上の雄ガニの推定資源尾数の推移(左図)

6.その他

安定したケガニの漁獲を維持するため、小型個体の漁獲を確実に抑えることが大切です。なお、平成30年3月1日より、雄ガニの放流サイズが70mm以下から80mm以下に引き上げられます。