2021年ケガニ漁況情報(漁況情報号外)

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令和3年12月20日

本県沿岸漁船漁業の主要対象魚種であるケガニについて、漁期前調査結果等を基に令和3年度の漁況を予測した結果をお知らせします。

1)期間:令和3年12月~令和4年3月

2)水準と動向:資源水準は低水準、資源動向は横ばい傾向

3)漁況・漁期:前年度並又は下回る。主漁期は令和4年2月以降

4)漁獲サイズ:小型が主体、大型個体は少ない

〈漁況予測に用いた主要データ〉

1.岩手県に生息するケガニの生態

岩手県海域に分布するケガニは、水深150~350mに生息しています。本海域では、6月を中心とする4~9月頃に交尾を行い、雌が卵を約1~2年半保育後、冬から春にプランクトン状の幼生を放出します。その後は脱皮ごとに成長し、繁殖に参加するまで3~4年(甲長約50mm)、漁獲対象となるまでに約7年(甲長80mm)かかります。なお、北海道と本県のケガニ個体群には遺伝的な差が認められておらず、同じ個体群である可能性が高く、本県のケガニ資源の一部には、北海道から海流で本県海域まで流されてきた幼生が着底・成長した個体もいると考えられます。脱皮時期は4~10月頃(6~8月がピーク)で、漁獲が開始される頃には甲羅が堅くなります。

2.岩手県におけるケガニ水揚量の推移

岩手県におけるケガニの漁獲は甲長80mm超(平成29年度までは甲長70mm超)の雄が対象で、漁法はカゴと固定式刺網が主体です。令和2年度漁期※1の水揚量は26トン(前年比85%、平均※2比77%)で、漁法別にみると、カゴが18トン(前年比89%、平均比76%)、固定式刺網が8トン(前年比79%、平均比81%)と全漁法で前年度を下回りました(図1)。
※1 令和2年12月~令和3年4月まで
※2 平成27~令和元年漁期の5ヶ年平均

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図1 岩手県におけるケガニの年度別・漁法別水揚量の推移

カゴと固定式刺網をあわせた延べ水揚隻数は、平成21年度以降段階的に減少しており、平成30年度は微増したものの、再び減少し、令和2年度は918隻となりました(図2)。
1隻1日あたりの平均漁獲量(以下、CPUE)はカゴ、固定式刺網ともに平成23年度以降減少傾向を示しており、令和2年度はカゴが31kg/隻・日(前年比96%、平均比93%)、固定式刺網が23kg/隻・日(前年比83%、平均比89%)と、両漁法で前年度を下回りました。

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図2 岩手県における年度別の延水揚隻数と固定式刺網、カゴCPUE(kg/隻・日)

3.調査船調査結果

調査船による漁期前調査結果より、現在のケガニの資源水準は低位水準、動向は横ばい傾向にあると考えられます。
1) ケガニ漁期前調査(漁業指導調査船「北上丸」による)
釜石沖水深180m帯で、カゴを用いた漁期前調査を令和3年11月16日に計1回実施しました。本調査で観測された160m深付近の水温は、11月16日が10.61℃(前年同期差+1.50℃)でした。なお、漁期前調査における160m深付近の水温は、漁期中(12~4月)のカゴCPUEと負の相関関係にあり、水温が高いほど漁獲が少なくなる傾向を示します(図3)。ただし、前年度のように水温が低くてもカゴCPUEが低い年も見られます。

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図3 12~4月のカゴCPUEと漁期前調査の160m深水温の関係 R2の値が1に近いほど寄与率が高いことを表す。黒丸は令和3年、網掛けの丸は令和2年の水温及びCPUEを示す。

漁期前調査で採捕したケガニは5尾(雄:3尾、雌:2尾)で、過去最低だった前年の9尾(雄:5尾、雌:4尾)をさらに下回りました。
採捕されたケガニの甲長の範囲は、雄が43~53mmと小型個体のみで、甲長80mm以上の個体の採捕はありませんでした。雌は51mm及び65mmで、雄と同様に小型サイズのみでした(図4)。

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図4 漁期前調査で採捕されたケガニの甲長組成

雄の甲長階級(50mm台、60mm台、70mm台、80mm台以上)別の100カゴあたりの平均採捕尾数は、甲長60cm台の階級で前年を下回りました(図5)。
(令和3年 CPUE 甲長50mm台:1.1、60mm台:0.0、70mm台:0.0、80mm台:0.0)
(令和2年 CPUE 甲長50mm台:0.0、60mm台:1.7、70mm台:0.0、80mm台:0.0)

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図5 雄の甲長階級別平均採捕尾数(尾/100カゴ)

2) 秋季着底トロール調査(漁業指導調査船「岩手丸」による)
11月に岩手県中南部海域の水深200m、250m、300m、350m帯で実施した秋季着底トロール調査では、雄50尾、雌10尾(前年:雄20尾、雌4尾)のケガニが採捕されました。掃海面積当たりの密度から算出された本県中南部海域におけるケガニの推定現存個体数は、平成25~27年は低い水準で推移し、平成28年から徐々に増加傾向にあります。令和元年に最も高い値となり、令和3年は比較的高い水準でした(図6)。
秋季トロール調査で採捕されたケガニ雄の水深帯別平均甲長を比較すると、200m帯では71mm、250m帯では81mm、300m帯では84mmとなり、前年と同様に大型個体は水深250~300mの深所に多い傾向が見られました(図7)。

4.令和3年度漁況予測

前年度までは以下の予測式により、漁況予測を行ってきました。
【R2年予測式】
漁期中CPUE ~ 漁期前調査での採捕尾数※1 + 160m水温※2 + 前年度漁期中CPUE + 定数
【予測に用いた指標の説明】
※1 漁期前調査における漁獲対象雄の100カゴあたり平均採捕尾数(平成29年までは甲長70mm超、平成30年以降は甲長80mm超)
※2 11月に本県中南部海域で漁期前調査を実施した水深160mの水温

しかし、近年は漁期前調査の採捕尾数が激減しており、また、水温による予測精度も低下してきています(図3、図5)。
そこで今年度は、ケガニの生態を考慮しながら新たな予測指標の探索を行いました。本県のケガニ個体群の一部に寄与していると考えられる北海道海域のケガニ水揚情報を用いました。北海道のケガニは春先に浮遊幼生として北海道沿岸を漂い、親潮に乗って本県に来遊し、その後、漁獲甲長に達するまでに7年程度かかると考えられます。
これらのケガニの生態を考慮し、指標値を探索した結果、北海道釧路東部海域のTAC(許容漁獲量)と親潮第一分枝南限緯度(冷水接岸の指標)と本県の漁期中CPUEで相関関係が見られました(図8)。

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図8 岩手県漁期中CPUEとa:7年前の釧路東部海域の許容漁獲量(TAC)、b:7年前の2月における親潮第一分枝南限緯度との関係

そのため、今年度は以下の予測式により漁況予測を行いました。

【R3予測式】
漁期中CPUE ~ 本県前年度漁期中カゴCPUE + 7年前の北海道カゴ漁業のTAC※1 +
(7年前の北海道カゴ漁業のTAC × 7年前の親潮南限緯度※2) + 定数

【予測に用いた指標の説明】
※1 北海道釧路東部海域におけるカゴ漁業のTAC
(北海道中央水産試験場 2020年度資源評価報告書 ケガニ釧路東部海域 から算出)
※2 7年前の2月における親潮第一分枝の平均南限緯度

新たな漁況式の予測では、令和3年度の本県における漁期中CPUEは前年度を下回る結果となりました(図9)。

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図9 漁況予測モデルにより推定した漁期中CPUE
実線が実測値、破線が予測値を表しており、令和3年度の予測式は丸、前年度の予測式は三角で示す。

5.まとめ

漁期前調査における漁獲対象サイズの雄ガニの採捕尾数(CPUE)は前年を下回りました。直近の沿岸定線海洋観測(11月26日~12月5日実施)における水深200m前後の水温は、県北部・中部域で前年よりも高め、県南部では前年並みとなっています。
秋季着底トロール調査では雄ガニの現存個体数は前年を上回り、資源は横ばい傾向にあると考えられますが、漁獲対象サイズの80mm以上を超える雄は250m以深で採捕されました。
以上のことから、漁獲対象となる雄ガニは前年同様に分布がカゴ漁場水深より深所に集中しており、予測モデルの結果からも今漁期の漁獲は前年並又は前年を下回る可能性があります。また、水温が高く、ケガニが漁場水深まで移動するのに時間がかかると予想されるため、漁の主体は漁期後半になると考えられます。