2022年ケガニ漁況情報(漁況情報号外)

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令和4年12月26日

本県沿岸漁船漁業の主要対象魚種であるケガニについて、漁期前調査結果等を基に令和4年度の漁況を予測した結果をお知らせします。

1)期間:令和4年12月~令和5年4月

2)水準と動向:資源水準は低水準、資源動向は横ばい傾向

3)漁況・漁期:前年度並み。主漁期は令和5年2月以降

4)体サイズ:小型が主体だが、漁期後半は大型個体も混じる。

〈漁況予測に用いた主要データ〉

1.岩手県に生息するケガニの生態

本県海域に分布するケガニは、水深150~350mに生息しています。本海域では、6月を中心とする4~9月頃に交尾を行い、雌が卵を約1~2年半保育後、冬から春にプランクトン状の幼生を放出します。その後は脱皮ごとに成長し、繁殖に参加するまで3~4年(甲長約50mm)、漁獲対象となるまでに約7年(甲長80mm)かかります。なお、北海道と本県のケガニ個体群には遺伝的な差が認められておらず、同じ個体群である可能性が高いため、本県のケガニ資源の一部には、北海道から海流によって流されてきた幼生が着底・成長した個体も含まれると考えられます。脱皮時期は4~10月頃(6~8月がピーク)で、漁獲が開始される頃には甲羅が堅くなります。

2.岩手県におけるケガニ水揚量の推移

本県では、甲長80mm超(平成29年度までは甲長70mm超)の雄のみが漁獲対象となっており、漁法はカゴと固定式刺網が主体です。令和3年度漁期※1の水揚量は39トン(前年比130%、平均※2比148%)で、漁法別にみると、カゴが28トン(前年比155%、平均比133%)、固定式刺網が11トン(前年比141%、平均比126%)と両漁法で前年度を上回りました(図1)。
※1 令和3年12月~令和4年4月まで
※2 平成28~令和2年漁期の5ヶ年平均

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図1 岩手県におけるケガニの年度別・漁法別水揚量の推移

両漁法の延水揚隻数は、平成21年度以降段階的に減少しており、近年は概ね横ばい傾向で、令和3年度は955隻(前年918隻)となりました(図2)。
1隻1日あたりの平均漁獲量(以下、CPUE)はカゴ、固定式刺網ともに平成23年度以降減少傾向を示しており、令和3年度はカゴが46kg/隻・日(前年比150%、平均比142%)、固定式刺網が32kg/隻・日(前年比134%、平均比123%)と、両漁法で前年度を上回りました。

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図2 岩手県における年度別の延水揚隻数と固定式刺網、カゴCPUE(kg/隻・日)

3.漁期前調査の結果

調査船による漁期前調査結果より、現在のケガニの資源水準は低位水準、動向は横ばい傾向にあると考えられます。
1) ケガニ漁期前調査(漁業指導調査船「北上丸」による)
調査船による漁期前調査結果より、現在のケガニの資源水準は低位水準、動向は横ばい傾向にあると考えられます。
1) ケガニ漁期前調査(漁業指導調査船「北上丸」による)
釜石沖水深190m帯で、カゴを用いた漁期前調査を令和4年11月17日に実施しました。本調査で観測された160m深付近の水温は、14.21℃(前年同期差+3.60℃)でした。なお、漁期前調査における160m深付近の水温は、漁期中(12~4月)のカゴCPUEと負の相関関係にあり、水温が高いほど漁獲が少なくなる傾向を示しており(図3)、今後も高水温で推移すると今漁期のケガニの漁獲は少なくなる可能性があります。

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図3 12~4月のカゴCPUEと漁期前調査の160m深水温の関係 R2の値が1に近いほど寄与率が高いことを表す。黒丸は令和4年の水温及びCPUEを示す。

漁期前調査で採捕されたケガニは81尾(雄:54尾、雌:27尾)と、前年(計9尾の雄:5尾、雌:4尾)の採捕尾数を上回りました。
なお、採捕されたケガニの甲長の範囲は、雄が40~79mmと全て小型個体であり、甲長80mm以上の個体は採捕されませんでした。なお、雌は39~67mmと雄と同様に小型個体のみでした(図4)。

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図4 漁期前調査で採捕されたケガニの甲長組成

雄の甲長階級(50mm台、60mm台、70mm台、80mm台以上)別の100カゴあたりの平均採捕尾数は、全ての甲長階級で前年を上回りました(図5)。
(令和4年 CPUE 甲長50mm台:5.6、60mm台:38.9、70mm台:6.7、80mm台:0.0)
(令和3年 CPUE 甲長50mm台:1.1、60mm台:0.0、70mm台:0.0、80mm台:0.0)

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図5 雄の甲長階級別平均採捕尾数(尾/100カゴ)

2) 秋季着底トロール調査(漁業指導調査船「岩手丸」による)
11月に岩手県中南部海域の水深200m、250m、300m、350m帯で実施した秋季着底トロール調査では、雄279尾、雌60尾(前年:雄50尾、雌10尾)のケガニが採捕されました。掃海面積当たりの密度から算出された本県中南部海域におけるケガニの推定現存個体数は、平成25~27年は低水準で推移し、平成28年から徐々に増加傾向にあり、令和4年は平成24年以降で最も高い水準となりました(図6)。
秋季トロール調査で採捕されたケガニ雄の平均甲長を水深帯別で比較すると、200m帯では65mm(前年71mm)、250m帯では85mm(同81mm)、300m帯では91mm(同84mm)と、前年と同様に深所ほど大型の傾向が見られました(図7)。

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図6 岩手県中南部海域における秋季のケガニの推定現存個体数の推移
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図7 岩手県中南部海域における深度帯別のケガニ雄の平均甲長

4.令和4年度漁況予測

前年度は以下の予測式により、漁期中のCPUE(1日1隻あたりの漁獲量)を予測しました。
【R3予測式】
漁期中CPUE ~ 本県前年度漁期中カゴCPUE + 7年前の北海道カゴ漁業のTAC※1 + (7年前の北海道カゴ漁業のTAC × 7年前の親潮南限緯度※2) + 定数

【予測に用いた指標の説明】
※1 北海道釧路東部海域におけるカゴ漁業のTAC
(北海道中央水産試験場 2021年度資源評価報告書 ケガニ釧路東部海域 から算出)
※2 7年前の2月における親潮第一分枝の平均南限緯度

前年度と同様に、ケガニの※生態情報を考慮して、北海道海域のケガニ水揚情報と漁期前調査の結果を踏まえて、今年度は以下の予測式により漁況予測を行いました。
※ケガニの生態情報:
①ケガニの漁獲加入に7年程度かかる。
②本県と北海道のケガニ個体群に遺伝的な差がない。
③高水温時に漁獲量が低下する。

【R4予測式】
漁期中漁獲量 ~ 本県前年度の漁期中カゴ漁獲量 + 7年前の北海道カゴ漁業の漁獲量※1 + 漁期前調査の160m水温※2 + 定数

【予測に用いた指標の説明】
※1 北海道日高地域におけるカゴ漁業の漁獲量
(北海道中央水産試験場 2022年度資源評価報告書 ケガニ日高海域 から算出)
※2 11月に本県中南部海域で漁期前調査を実施した水深160mの水温

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図8 漁況予測モデルにより推定した漁期中漁獲量

実線が実績値、破線が予測値を表しており、令和4年度の予測式は丸、前年度の予測式は三角で示す。
令和4年度から平成22・23年・令和3年データを追加。令和3年度の予測モデルでは、予測CPUEに水揚隻数を乗じて漁獲量に変換。令和4年の予測値には、直近3年の平均隻数を使用。

この予測式により、今年度の本県の漁期中漁獲量は前年並みと予測されました(図8)。

5.まとめ

漁期前調査における漁獲対象サイズの雄ガニの採捕尾数(CPUE)は前年を上回りましたが、全て80mmm未満の小型個体でした。また、秋季着底トロール調査では雄ガニの現存個体数は前年を上回り、漁獲対象サイズ(80mm以上)の雄は主に250m以深に分布していました。
なお、直近の沿岸定線海洋観測(11月28日実施)における水深200m前後の水温は、県中・南部域を中心に前年並み又は平年よりも高めとなっています。
以上のことから、漁獲対象となる雄ガニは主に漁場水深より深所に分布しており、1月中の漁場水温は平年より高水温で推移するとみられることから、今年度の主漁期は漁期後半の2月以降、漁獲量は「前年並み」と考えられます。