令和7年12月4日
本県沿岸漁船漁業の主要対象魚種であるケガニについて、令和7年度の漁況を予測した結果をお知らせします。
1)期間:令和7年12月から令和8年4月
2)水準と動向:資源水準は中位水準、資源動向は増加傾向
3)漁況・漁期:前年並み~前年を下回る。主漁期は令和8年2月から3月
4)体サイズ:前年より小型の個体が多い。
1.岩手県海域に生息するケガニの生態
本県海域に分布するケガニは、主に水深150~350mに生息しており、水温が低下する冬から春にかけて200m以浅に移動します。県南部ではカゴ、県北部では固定式刺網で主に漁獲されています。本海域では、6月を中心とする4~9月頃に交尾を行い、雌が卵を約1~2年半保育した後、冬から春にプランクトン状の幼生を放出します。その後は脱皮ごとに成長し、繁殖に参加するまで3~4年(甲長約50mm)、漁獲対象となるまでに約7年(甲長80mm)かかります。脱皮時期は4~10月頃(6~8月がピーク)で、漁獲が開始される頃には甲羅が堅くなります。なお、北海道と本県のケガニは遺伝的に同じ個体群の可能性が高いため、北海道から海流によって流されてきた幼生が着底・成長した個体群も、本県の資源に含まれると考えられます。
2.岩手県におけるケガニ水揚量の推移
本県では、甲長80mm以上(平成29年度までは甲長70mm以上)の雄のみが漁獲対象となっており、漁法はカゴと固定式刺網が主体です。令和6年度漁期※1の水揚量は74トン(前年比109%、平年比※2170%)で、漁法別にみると、カゴが32トン(前年比91%、平年比121%)、固定式刺網が42トン(前年比127%、平年比247%)と、固定式刺網が漁獲の主体となりました(図1)。
※1 令和6年12月~令和7年4月
※2 令和元~5年度漁期の漁獲量5ヶ年平均との比

1隻1日あたりの平均漁獲量(以下、CPUE)はカゴ、固定式刺網ともに平成23年度から29年度にかけて低下、その後令和2年度から上昇し、令和6年度はカゴが58kg/隻・日(前年比77%、平年比122%)、固定式刺網が92kg/隻・日(前年比102%、平年比199%)となりました(図2)

3.資源水準と動向
調査船による漁期前調査結果より、現在のケガニの資源水準は中位水準、動向は増加傾向にあると考えられます。
1) ケガニ漁期前調査(漁業指導調査船「北上丸」による)
釜石沖水深190m帯で、カゴを用いた漁期前調査を令和7年10月29日~11月13日に2回実施しました。調査で採捕されたケガニは189尾(雄:121尾、雌:68尾)と、1回の調査に留まった前年度の採捕尾数(117尾(雄:78尾、雌:39尾))を上回りました。
採捕されたケガニの甲長の範囲は、雄が36~87mm、雌が35~72mmであり(図4)、前年度と比較して小型の個体が多い結果となりました(図3)。

雄の甲長階級(50mm台、60mm台、70mm台、80mm以上)別のカゴ100個あたりの平均採捕尾数は、50~70mm台の各階級で前年度を下回り、80mm以上では前年度を上回りました(図4)。

2) 秋季着底トロール調査(漁業指導調査船「岩手丸」による)
10~11月に岩手県中南部海域の水深200m、250m、300m、350m帯で実施した秋季着底トロール調査では、雄154尾、雌120尾(前年:雄79尾、雌61尾)のケガニが採捕されました。掃海面積当たりの密度から算出した本県中南部海域におけるケガニの推定現存個体数は、平成25~28年度は低水準で推移していましたが、平成29年度から増加傾向に転じ、令和7年度は令和4、5年度並みの高い水準となりました(図5)。

秋季トロール調査で採捕されたケガニ雄の採捕尾数を水深帯別で比較すると、200m帯で16尾(前年17尾)、250m帯で81尾(同54尾)、300m帯で55尾(同8尾)、350m帯で2尾(前年実施せず)と、250m以深における採捕尾数が前年度を上回りました。
平均甲長を比較すると、200m帯で74mm(前年77mm)、250m帯では81mm(同85mm)、300m帯では89mm(同98mm)、350m帯では102mm(前年実施せず)と、前年度と同様に深所ほど大型の傾向が見られましたが、350m帯を除く全ての各水深帯で前年度を下回りました(図6)。

横軸下部に各水深帯の採捕尾数を示す
4.令和7年度漁況予測
前年度と同様に以下の予測式により、カゴ(県中~南部)と固定式刺網(県北部)の漁期中の漁獲量を予測しました。
【R7予測式】
漁期中漁獲量 ~ 本県前年度の漁期中カゴ又は固定式刺網漁獲量
+7年前の北海道日高地域のカゴ漁業の漁獲量又は漁獲可能量※3
+漁期前調査の水深160m又は170m水温
+定数
※3 北海道中央水産試験場 2025年度資源評価報告書 ケガニ日高海域 から算出

県南部における主要漁法であるカゴ(上)と、県北部における主要漁法である固定式刺網(下)の漁獲量予測結果。
実線が実績値、破線が予測値を表しており、令和7年度の予測式は〇、前年度の予測式は△で示す。
今年度の漁期中漁獲量は、前年度並~前年度を下回ると予測されました(図7)。
5.まとめ
漁期前カゴ調査における漁獲対象サイズの雄ガニの採捕尾数は前年度を上回りましたが、甲長50mm以下の小型個体が多く採捕されました。秋季着底トロール調査では雄ガニの現存個体数は前年度を上回り、漁獲対象サイズ(80mm以上)の雄は主に250~350m以深に分布していましたが、平均甲長は前年度を下回りました。
以上のことから、漁獲対象となる雄ガニは主に漁場水深より深所に分布しており、加えて、水産研究・教育機構のFRA-ROMSⅡによる予測では、1月中の漁場水温は前年度を下回るものの、平年並~平年を上回って推移すると見られていることから、主漁期は漁期後半の2月~3月となり、漁獲量は「前年並~下回る」予測となります。ただし、水温がこのまま高めで推移した場合は主漁期に遅れが生じ、漁獲量が低調に推移する可能性があります。
担当:漁業資源部
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